Special Content Vol.01
ITコンサルティング業界 × マイナビエージェント
“複線人生”でもいい、
それがコンサルティング業界
世界最大規模の総合コンサルティングファーム「アクセンチュア」。その日本法人代表取締役社長に約10年在任し、日本のコンサルティング業界にも大きな貢献を果たしてきたのが程近智氏だ。2017年12月からはマイナビの社外取締役に就任し、人材ビジネス業界でもコンサルタント経験で得た知見を活かして貢献されている程氏に、コンサルティング業界について語っていただいた。
2018/05/11 更新
マイナビとは社長時代からお付き合いもあり、またアクセンチュアと同じように成長が著しい会社ということもあり注目していました。人材ビジネスを手がけるマイナビとは、人材を「人財」と考えている点でもアクセンチュアと通じるものを感じました。
マイナビは日本の人材市場において、新卒採用や中途採用のプラットフォームとして、適材適所に人材を配置させていくという非常に大事な役割を担っている会社です。
アクセンチュアもまた、自らを「人材輩出企業」と捉えており、当社で鍛えられた人材が卒業し、自らがやりたいことを実現するために他で活躍することも多いです。そういう意味でアクセンチュアは人材を育てているという自負があり、人材ビジネスとも共通点があると考えています。
私自身は大学を卒業後、アクセンチュアで36年間、コンサルタントという仕事を通じていろいろな会社に勤めた気になるぐらいの経験や知識を培い、産官学さまざまな分野に関わってきました。
社長・会長を退任後今は相談役となり第一線を退いたことで、多くの社外業務に携わることができるようになりました。今後はコンサルティング業界で磨いた経験とスキルを活かし、社会に貢献していきたいと考えています。例えば、教育、ソーシャルセクター、ベンチャー育成など、他の業界の変革をお手伝いができればいいですね。
コンサルティング業界では、一つひとつの点であった経験をつないで線を描いていく。今はそんなかたちで世の中の役に立てると考えています。マイナビの社外取締役としても、その付加価値を活かせるのではないでしょうか。
コンサルティング業界を分類すると、専門性の高いプロフェッショナルな分野にあてはまります。資格こそありませんが、医師、弁護士、会計士などと同じく、知識に立脚して存在する専門職です。コンサルティング業界でいう知識は、簡単に言うとさまざまな業界における経営や業務、それらを支えるテクノロジーに関するものです。
労働集約型から知識集約型へと社会が成熟していくなかで、コンサルティング業界は現在、データ・情報から得られる知見を具現化、実践することで企業の経営課題を解決し、経営上の成果を出すビジネスモデルとなっています。
アクセンチュアは、時代の要請に合わせてサービスを拡充させ、自らも変化してきました。大手企業はもちろん、国や公共機関、教育機関などのプロジェクトに関わり、まだ誰も携わったことがない最先端の課題と向き合うことも多いので、その課題を解決する事は大変難しいものです。求められれば求められるほど、提供する価値もますます高まっていくため、長く勤めていても同じ仕事がなく、飽きることがないどころか、私自身、今でも毎日新たな発見があるほどです。
ええ、ただそれだけではありません。私は、「アクセンチュアは自己実現のプラットフォーム」であると考えています。
私はアメリカの大学を卒業し、アクセンチュアに入って最初に従事したのはプログラミングの仕事でした。コーディングを担当しながらクライアントのビジネスに関わっていくうちに、経営戦略の仕事がしたいなどの意識が高まり、そのうち、「金融機関向けのサービスを手がけましょう」と先輩と一緒に新たに金融部門を作ったり、「これからはインターネットの時代だ」と、インターネットが持つパワーをビジネスにつなぐ部門 - 今でいう投資ファンドを持つアクセラレーターでしょうか - のリーダーを務めたりしたものです。
やってみたい仕事が目の前になければ、自分で開拓・提案して作ればいい。自分で仕事の幅を広げることができるのです。コンサルティング業界というのは、会社の方向性とマッチすれば、自分のやりたいことに挑戦し、「1+1」を2じゃなく3や10、100くらいの面白さにすることだってできる世界です。
そんな経験を繰り返してきたから、私は36年間もアクセンチュアと付き合ってきたのだと思います。アクセンチュアは「出る杭は伸ばす」。このカルチャーも大好きですね。
アクセンチュアが日本に進出して56年になりますが、私が就職した1980年代から90年代は、コンサルティング会社への理解や信頼度が今と比べると低く、「虚業」だの、大量の資料とプレゼンテーションで勝負をする業界などと言われていました。
その当時、クライアントから「上場もしていない会社のコンサルタントに話を聞いても、教科書的でピンとこない。我々は3カ月に1回、厳しい市場の評価を受けなければいけないし、理屈を言っても株主は納得しない。結果が全てなんだよ」と言われ、非常に悔しい思いもしました。
2001年にニューヨーク証券取引所に上場して以来、ストイックに企業として業績を出し、株主だけでなく、社員や社会に対しても認めてもらおうという意識がより高まりました。そして、ビジネスパートナーとしてお客様の変革に貢献し、一緒に価値を生み出していくことを積み重ねてきました。それがアクセンチュアの大きな評価と成長にも繋がったと感じていますね。
コンサルタントとは、お客様である企業や公的機関の課題を見つけ出し、解決するための戦略を立て、それを具現化しお客様とともに実現することで、実際に成果を出していく、その一連のプロセスを担う仕事です。
どのようなビジネスにおいても、まず全体像を理解し、どういう戦略だったら競合に勝てるのかを考え、それを実践するためには、経営者のみならずそこで働く人々のモチベーションも上げていかなければなりません。
そして、ビジネスにおける成功、つまり利益を上げたり、目標値を達成したりするなどの、結果を出すことが求められます。
アクセンチュアの場合、コンサルタントは目指す姿を描き戦略を立案するところから業務変革、ビジネスを支えるシステムの導入、運用まで行います。近年では成果報酬型が増え、非常に「実業」に近いことが大きな特徴です。加えて上場企業ですので、お客様の成果実現だけではなく、株主にも納得してもらえる利益を出さなければなりません。
アクセンチュアの場合、多種多様な経験・スキルを持った人材が働いており、転職者のキャリアは百人百様です。必ずしもコンサルティング業界経験者というわけではありません。ほぼ全部の業界を網羅したサービスを提供しており、中途採用で入社した多くの方がさまざまなフィールドで活躍しています。
またアクセンチュアの特徴として、チームでパフォーマンスを出す、ということがあげられます。私たちはその時々でのニーズに応じて、サービス領域を広げてきました。幅広い領域においてより複雑化しているお客様の課題に向き合うには、一人ひとり違う専門性や考え方を持ったプロフェッショナルがチームで協働することが不可欠です。今のアクセンチュアではそういった意味で従来型のコンサルタントだけでなく、さまざまな強みを持つ多様な社員が活躍しています。
先ほど申し上げたように、本当に様々な人材がおり、文系、理系もいます。ですから、画一化された資質や適性というものはありません。
アクセンチュアで活躍する人の共通点としては、「もっと背伸びできるチャレンジがしたい」「もっと早くいろんな経験をしたい」「もっと新しい課題を解決したい」という、旺盛な向上心と成長意欲が挙げられます。当社にはそういう人材が集まっており、学生アンケートでも当社を選ぶ理由として「早く成長できそうだから」「面白い仕事ができそうだから」が上位に来ています。
その分、マネジメント層には、いかに社員の意欲を高める仕事をとってくるかという重い責任もあります。社内に魅力的な仕事がなければ、優秀な社員は社外にそれを求めて「卒業」してしまいます。常に時代の最先端を担い、課題解決の結果を出し続ける面白い仕事を獲得すること。それは当社にとって、社内外を含めたライフラインでもあるわけです。
確かに、コンサルティング業界はハードワークというイメージが強いかもしれませんね。
私が新卒で入社したころは「ワークハード、プレイハード」でした。ですから、長時間働くこともよくありました。また、ろくに休みもとらずハードなプロジェクトを終えたら、3週間の休暇を取って海外旅行へ行ってしまうというようなこともありました。
そもそも、コンサルティングという仕事は「課題解決をしながら、お客様を変革に導く」ことが使命。知識集約型産業というのは、ずっと考え続けてしまうため、24時間、頭が稼働してしまうのを断ち切ることは難しいものです。さらに日本人は真面目で、「お客様は神様」という意識が強く、職業柄、どうしてもそういう風土があったわけです。
アクセンチュアが「働き方改革」を実行できたのは、時代が変わり、社会も変わり始め、会社内部からも求められるようになってきたからという背景があります。繰り返しになりますが、アクセンチュアはその時々のニーズに合わせて新たなサービスを展開してきたこともあり、今は多様な人材が集まる組織となりました。例えば、10年前にはいなかったデジタルクリエイターなどのプロフェッショナルが参画し、また女性や外国籍の方も増えています。これらの多種多様な人々が自分らしく活躍するためには、長時間働くことがある意味当たり前となってしまっていた状況を大きく変える必要がありました。
「ワークハード」から「ワークスマート」への改革を目指し、アクセンチュアで働くすべての人々がプロフェッショナルとしてのあり方に自信と誇りをもてる全社員イノベーション活動として2015年に開始した組織風土改革『Project PRIDE』。ここで目指したのは単なる早帰り活動ではなく、長時間労働から脱却し限られた時間の中で成果を出すべく生産性を向上させること、そして自己成長や大切な人・ことのために過ごす時間を持つ、ことです。
この改革を現社長自らが旗を振り、アクセンチュアがお客様の組織変革支援を行うときのフレームワークを活用して強力に推進した結果、全社的な意識改革が進み、大きな変化も現れてきました。平均残業時間は1日1時間に減少、離職率は実施前の約半分となり、有休取得率は75%から85%にアップ。改革によって生産性が向上した結果、右肩上がりに業績も伸びているのが現状です。もちろんこれで終わりではなく、まだ道半ばですのでこれからも継続して取り組んでいきます。
結局、知識集約型産業は24時間プロジェクトのことが頭にまとわりつくわりに、時間をかけたからといってアウトプットが良いとも限らないわけです。疲れてしまえばモチベーションも下がるし結果も酷いものになります。もともと日本人だけではない多様な人材が活躍するダイバーシティの土台があっての取り組みだったため、日本法人始まって以来の大改革だったにもかかわらず、むしろ当たり前のように受け入れられ浸透していきました。
ただ、大きな課題として残ったのは、残業が減った分、収入が減ってしまうという点です。
現在、生産性の高い社員により報いるための給与制度の改定をはじめ、長期休暇、教育プログラムなどの福利厚生で還元するよう、その還元方法も柔軟に検討しています。
これからは、理不尽な働き方を強要する会社からは人材がいなくなり、淘汰される時代に向かっていくことになるのでしょう。
当社が標榜する「人材輩出企業」はコンサルティング業界の中でも、人材が適材適所に配置され社会に還元されていくロールモデルだと自負しています。コンサルタントは様々な業界に関わることで、ほかの業界で使える知識やスキルも磨かれるため、アクセンチュアで築いた価値をアクセンチュアの次世代に手渡して自らは卒業し、それを別の業界で活かすこともできます。そのため、卒業していく社員もいますが、再度入社する社員も毎年一定数存在します。ときには3回目の入社という社員も。社外に出て、「やはりアクセンチュアの方が面白い」と戻ってもらうことも歓迎しているからです。
この先、優秀な人材は部門、企業をまたいでモビリティを高めていく世界になっていくはずです。そういう意味では、マイナビのような人材ビジネス企業の存在価値がさらに高まっていくのだと思います。
コンサルティング業界を転職先に考える人はまだそう多くないかもしれません。コンサルティング会社にもよりますが、例えばアクセンチュアでは幅広い業界、業務領域でサービスを提供しているため、さまざまな仕事を経験することができます。自分自身の可能性ややりたいこと、極めたい専門性を見つけ、検証するためにコンサルティング業界に入るという選択肢も私はあると思っています。
それによって、「本当にやりたいこと」「自分にマッチする業界や仕事」を見つけ力をつけていく、自己成長のためのプラットフォームとして使うことができます。
私も若い頃は、自分が何をしたいのか、何ができるかもわからずアクセンチュアに入社し、またMBA取得のために留学したときはインベストメントバンカーへの転身を考えたこともありました。成功するパターンに主流や亜流があるわけではありません。むしろ、行ったり来たりができる“複線人生”であっていいのだと思っています。
コンサルタントを経験してみて、「天職だ」と感じる人もいるでしょうし、他にやりたいことがでてきたら卒業して転職や起業をしてもいいのです。
最初にお話したように、コンサルティング業界とは時代の最先端の課題と向き合う仕事です。常に課題は変化し、サービス内容も変わっていきます。同時にそれ以上のスピートで進化したい人にとって、この業界は自己実現と自己理解につながる理想郷だと思います。