更新日:2022/04/12
この記事のまとめ
人口減少や消費行動の変容に伴い、新規顧客の獲得にはますますコストがかかる時代に変化しています。効率的に売り上げを拡大するには、顧客単価を引き上げることがポイントです。
この記事では、顧客単価の引き上げを実現する営業施策として導入が進んでいる「アップセル」「クロスセル」について解説します。両者の違いを説明したうえで、アップセルの具体的なメリットや実践方法を紹介します。
目次
アップセルとクロスセルは、どちらも顧客単価を引き上げるための営業施策ですが、顧客に対するアプローチの仕方に違いがあります。アップセルがひとつの商品を軸にタテの展開で購入単価の引き上げを図るのに対して、クロスセルはヨコに展開する施策です。ここでは、それぞれの違いについて詳しく解説します。
アップセルは既存顧客や購入を検討している顧客の購入単価を上げるための営業施策で、顧客がより高額な上位モデルを購入したり同一商品を複数買ったりすることを目指します。
たとえば、年会費無料のクレジットカードを所有している人が年会費有料の上位カードに変更することや、4万円のスマートフォンを検討していた人がより高機能な8万円のものを購入することがアップセルに該当します。
クロスセルも顧客の購入単価を上げるための営業施策ですが、アップセルとは違い、購入を検討している顧客に関連する別の商品も併せて買ってもらうことを目指します。
たとえば、パソコンを販売する際にUSBメモリーや外付けハードディスクの購入を提案したり、複数の商品を組み合わせてセット販売したりするのがクロスセルです。飲食店でサイドメニューやドリンクを勧めることも該当します。
アップセルやクロスセルの目的は、効率的に売り上げを拡大することです。どちらも顧客1人当たりの売上単価や生涯顧客単価を上げる営業施策で、成功すれば顧客数を増やすことなく全体の売り上げを増やせるため、営業効率もアップします。
アップセルが注目される理由は、高額で利益率の高い商品を売ることで、収益性が向上するという点です。ただし、高額商品や同一商品の複数購入を勧めることに偏ると、顧客が敬遠して販売機会を逸するリスクがあります。リスクを回避するには、クロスセルのようなほかの営業施策と組み合わせることが重要です。
アップセルは、顧客単価の引き上げに効果的な営業施策ですが、どのようなときでも有効というわけではありません。タイミングややり方を間違えると、販売機会の損失だけでは済まない恐れがあります。ここでは、アップセルのメリットとデメリットを分かりやすく解説します。
アップセルのメリットは、ほかの営業施策より効率的に売り上げを拡大できることです。マーケティングの世界には「1:5の法則」という言葉があり、新規顧客の獲得コストは既存顧客を維持するコストの5倍かかるとされています。新規顧客の獲得コストを抑えて、既存顧客の購入単価を上げるメリットは大きいといえるでしょう
また、相手が既存顧客でも、新商品や過去に購入したことのないジャンルの商品を売り込むには、別途コストがかかったりリードタイムが必要だったりします。既存商品を活用して成果を上げられる点もアップセルのメリットです。
アップセルは顧客の属性や特徴を把握したうえで試みないと、販売機会を逸する恐れがあります。たとえば、パソコンに詳しくない人に高機能の機種を勧めたり単身者に洗剤のまとめ買いを提案したりするのは、逆効果となる場合が多いでしょう。
さらに、同じことを繰り返すと、「むやみに高額な商品を提案する」「いつも余分なものまで勧められている気がする」といった感情が顧客に生まれ、会社に対するロイヤルティが低下する危険性もあります。
アップセルは、顧客が購入を決断する直前が有効なタイミングです。購入の意思が固まりかけていると、顧客は提案に対してポジティブな反応をする可能性が高くなるためです。このときに「こっちのほうが得だ」と顧客にイメージしてもらえれば、スムーズにアップセルを促せるでしょう。
一方、クロスセルは、顧客が購入を決断した直後が効果的です。購入を決めたタイミングで関連商品をアピールすると、「これも必要だ」といった反応を引き出しやすいためです。
アップセルは、経験や勘に頼ったやり方ではなかなか成功しません。商品設計やターゲット選定といった事前準備には、顧客データを活用します。準備を万全にしたうえで、実施する際には現場に方針を浸透させ、アップセルに必要な営業力を高める努力を怠らないようにしましょう。
顧客がアップセルに応じるのは、プラスアルファの価値を感じるときです。「値段の差を考えれば上位機種を買ったほうが得だ」「どうせ使うのだから割引になるまとめ買いをしよう」など、プラスアルファの価値を感じる理由は異なるため、購入履歴といった顧客分析に基づいて一人ひとりに合った商品設計をする必要があります。
また、コールセンターのようなチャネル(流入経路)を活用するのも有効です。実施するタイミングに合わせて顧客分析から仮説を立て、客観的に検証可能な形で準備しておくのがポイントです。
アップセルではターゲット選定も重要で、成功率が高いのはロイヤルティの高い既存顧客です。顧客データから購入頻度や購入単価が高い人を選んでターゲットにすれば、成功しやすいでしょう。
また、すでにロイヤルティが高い顧客を対象にするだけでなく、リードナーチャリング(見込み顧客育成)でアップセルが可能な顧客を作ることも大切です。
営業の現場にアップセルに関する方針を浸透させるため、留意したいポイントを3つ紹介します。
アップセルの効果を得るには、対面でのコミュニケーションからきめ細かいニーズをくみ取る営業力が重要です。組織の営業力を高めるには、アップセルのナレッジを共有するといった手段があります。新しい販売施策を身につけたいのであれば、ロールプレイも有効です。
また、ノウハウや成功事例を紹介するセミナーへの参加は、自社の強みと弱みを客観的に判断し、独自のやり方を身につけるのに役立ちます。
アップセルを実施する際、経験や勘だけに頼るのは危険ですが、早期に成果を上げて自社にノウハウを蓄積するコツはあります。ここでは、ターゲットの選定や企画の立案など、アップセルの活用に役立つポイントを5つ紹介します。
製品・サービスや会社(ブランド)に対するロイヤルティが高い顧客ほど、アップセルの成功率は高いとされています。顧客のロイヤルティを見極めるには、NPS®(ネットプロモータースコア)という指標の活用が有効です。
対象の推奨度を0点~10点で評価してもらい、「批判者(0点~6点)」「中立者(7点~8点)」「推奨者(9点~10点)」に分類して計測します。推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値がNPS®です。つまり、推奨者が多いほどNPS®は高くなります。
推奨者はアップセルの有力なターゲットになるほか、数値の高低により商品・サービスがアップセルに適しているかを判断できるのもNPS®を利用するメリットです
アップセルを企画するときのポイントは、顧客の視点に立って購入するメリットを考えることです。割安感があるだけでは、通常のセール商品と差別化できません。特に在庫処分をイメージさせるような提案は、顧客のロイヤルティ低下を招く危険性があります。
購入時のお得感や利用シーンにおけるプラスアルファの価値を、顧客が具体的にイメージできるような企画を考えましょう。たとえば、「上位機種が備えている便利な機能」「定期購入の利便性」など、顧客がアップセルで得られるメリットを明確にすることが大切です。
アップセルにはさまざまな手段があります。初めて取り組む際は、実績のある手段から商品や事業の特性に合った手段を取り入れると、効果測定や検証がしやすいでしょう。具体的な手段は以下のとおりです。
顧客にメリットがあっても、アップセルだけでは顧客単価の引き上げには限度があります。また、顧客が飽きてしまい、反応が低下することも考えられるでしょう。アップセルの効果を高めるにはクロスセルの併用がおすすめです。
クロスセルにより関連商品を紹介することは、新たな需要開拓にもつながります。関連商品でもアップセルが可能になれば、相乗効果による顧客単価の大幅アップも期待できるでしょう。
アップセルでは、過去の顧客データや販売データに基づき仮説を立てて、結果について検証することが大切です。仮説(計画)・実施・検証・改善のPDCAを回すことを前提に取り組めば、うまくいかなかった場合でも容易に軌道修正できるでしょう。
さらに、検証結果を蓄積することがアップセルを成功させる独自ノウハウにつながり、ほかの商品・分野で実施する際にも役立ちます。
アップセルを成功させるうえで大切なのは、価格のお得感や価格以上のメリットといったプラスアルファの価値を顧客に納得してもらうことです。したがって、現場の営業力が重要といえるでしょう。ここでは、アップセルにおける営業方法のポイントを3つ紹介します。
アップセルの営業では、顧客に割安感が明確に伝わると、安定的・定期的な購入(契約)に結びつきやすくなります。たとえば、インターネット回線契約や動画配信のようなサブスクリプション型サービスは、契約期間が長いほど月額料金が安くなる価格設定をすることで長期契約者を増やせます。
また、初回購入価格を安くしたり初回分を増量したりすることで、長期契約を獲得するのも有効な方法です。
特に上位グレードの機種・サービスへのアップセルでは、顧客が得られるメリットを明確に伝えることが重要です。
「下位機種にはない便利な機能」「無料保証・サポートの提供」「有料サービスに付帯する特典」といったメリットを顧客目線で分かりやすく説明することが、グレードを上げたり長期契約したりすることにつながります。
商品やサービスを提供する企業の都合で強引な営業をすると、顧客が「押し売りされている」と感じる恐れがあります。たとえば、顧客のニーズとかけ離れた最上位機種を勧めたり、使いきれないほど大量なまとめ買いを提案したりといった営業です。
押し売りの印象を与えないためには、顧客目線でニーズを読み取り、提案する内容がニーズに応えたものか十分に検討することが重要です。顧客が感じるお得感やメリットのイメージから逸脱しないように心掛けましょう。
アップセルとは、売り上げを拡大するために顧客単価を引き上げる営業施策で、購入を検討している顧客に上位機種を勧めるといった手法を指します。デメリットを抑えて成功率を高めるには、理論的な背景をきちんと理解し、顧客データの活用や仮説検証をすることが大切です。論理的で再現性の高い営業方法を身につけることは、転職でも強みとなるでしょう。
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