更新日:2022/04/13
この記事のまとめ
保険業界の発展に欠かせないといわれるインシュアテックとは、どのようなものなのでしょうか。具体的に説明できる方は、まだ多くありません。
そこで今回は、インシュアテックについて、その概要から採用例までご紹介します。また、メリットや導入課題もまとめているので、インシュアテックの基礎知識を押さえたい方はぜひご一読ください。
目次
インシュアテックについて知るためには、インシュアテックが何を指すのかだけでなく、どのような過程で注目されるようになったのかまで理解することが必要です。また、国内における現状までチェックしておくとよいでしょう。
ここでは、インシュアテックの概要を解説します。
インシュアテックとは、「Insurance(保険)」と「Technology(科学技術)」を合わせた造語です。つまりインシュアテックとは、保険会社の業務にテクノロジーを取り入れること、ひいてはそれによってさまざまな革新をビジネスにもたらすことを指します。
現代では多くの業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要とされていますが、保険業界もそれは変わりません。往来のビジネスモデルに縛られずインシュアテックしなければ、生き残っていくことは難しいといわれています。
今や世界的に注目されているインシュアテックですが、日本国内で日の目を見始めたのは2015年前後のことです。特に2017年5月、「FinTechビジョン」という形で経済産業省から、「ビッグデータや人工知能といったテクノロジーを用いた金融サービス(=フィンテック)」に関する提言があったことは、大きなきっかけとなったでしょう。
FinTechビジョンでは、「フィンテック」の重要性を説くとともに、国内における課題が示されていました。こうして国から具体的な方向性が提示されたことで、保険業界ではインシュアテックへの注目が一気に高まったのです。
インシュアテックの現状を理解するには、「フィンテック」について知る必要があります。フィンテックとは、「Finance(金融)」と「Technology(科学技術)」を合わせた造語です。つまり、フィンテックを細かく分類したうちのひとつがインシュアテックです。
フィンテックを導入すれば、これまで人の手でしていた顧客管理やマーケティングといった非常に多くの業務を自動化できます。そうすることで起こるのは、経済活動の大きな変革で、人の考え方や行動理念すらも変えてしまうといわれています。そのような変革が、現在進行形で世界的に進んでいるのです。
しかし、日本企業はこれまでもテクノロジーの導入が遅れる傾向にありました。このままではフィンテックにおいても世界に後れを取り、日本経済全体が大打撃を受ける恐れもあります。そのため、日本では国を挙げてフィンテックの重要性の高まりを提示しているというのが現状です。
インシュアテックの市場規模は、以下のように拡大が見込まれるといいます。
ここ数年の保険業界では、商品開発や営業業務において、インシュアテックを積極的に活用する企業が増えてきました。そのような背景から、今後もインシュアテックの市場規模は増加傾向にあると予想されます。
参考: 生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2021年)|矢野経済研究所
科学技術やビッグデータを業務に活用といっても、あまり想像がつかないかもしれません。そこで、ここではインシュアテックを活用することで生まれた新しい保険について、いくつかをご紹介します。
実用事例を知れば、ITに詳しくない方でも、具体的な活用方法がイメージしやすくなるでしょう。
「P2P(ピアツーピア)保険」とは、友人や知人など複数人のグループで加入する保険商品です。グループで加入することで保険料を割安にできます。
このようなP2P保険を商品として成り立たせているのは、インシュアテックの活用により構築された「複数人分の手続きや管理がインターネット上で簡単かつ安全にできるシステム」です。
また、P2P保険は加入が簡単かつ手ごろであることから、オンライン上での新規顧客の獲得率が非常に高いといわれます。インシュアテックの活用により、営業の効率化と売上アップを両立した例といえるでしょう。
「オンデマンド保険」とは、スマートフォンだけで保険への加入ができ、保険料の支払いまで完結する保険商品です。
オンデマンド保険は、「友人の車を借りるので1日だけ自動車保険をかけたい」など、ごく短期間を補償する商品が多い傾向にあります。
また保険によっては、保険をかけたい製品の写真や動画をスマートフォンのアプリからアップロードし、状態が確認できればすぐに契約することも可能です。
このようなインシュアテックの活用は、「保険にお金をかけられない」「忙しい」といった人が増えた今の時代に適した変革を起こした例だといえるでしょう。
インシュアテックを活用した自動車保険の一例が、「テレマティクス保険」です。ドライブレコーダーや、専用アプリを搭載したスマートフォンを用い、リアルタイムで運転情報を計測。運転によるリスクが低いと判断されればされるほど、保険料が安くなります。
このような仕組みを活用することによって、運転する人一人ひとりにマッチした保険料設定が容易になるでしょう。また、保険加入者は安全運転に対する意識が向上し、事故率や渋滞率の減少といった社会全体への好影響も見込まれます。
そのほか、商品によっては事故発生時に自動的に状況を記録したり、サポートセンターに連絡したりといったサービスが付随します。インシュアテックの活用により、顧客の利便性や安全性が大幅に上がった一例といえるでしょう。
「マイクロ保険」とは、補償対象が限定的である代わりに保険料を安く済ませられる商品です。こちらは日本国内の顧客に向けてというよりも、新興国の顧客に向けて開発している企業が多い傾向にあります。
新興国では保険をかける余裕がない人の割合が多いのに対し、怪我や病気を引き起こしやすい環境にいることから、マイクロ保険のニーズにマッチしているのです。
局所的なユーザーニーズに見事合致すれば、一気に市場拡大が望めることから、マイクロ保険の開発に注力している企業も少なくないでしょう。
インシュアテックのメリットは大きく、かつ保険者側にも契約者側にも及びます。ここではその両面からメリットを確認しましょう。
インシュアテックを推し進めるうえで必要性を社内で共有したいという方も、ぜひご参考ください。
インシュアテックによって得られる保険者側のメリットは、多くの業務が自動化されることによる「業務の効率化」が挙げられます。
特に多くの人手がかかっていた、データの集積や分析、営業といった業務が自動化による恩恵は大きいもの。その恩恵は、「間接費の削減」にも及びます。また、インシュアテックを最大限活用すればこれまでにはない「画期的な商品の新開発」にもつながるでしょう。
局所的な効果が高いIT化に比べ、インシュアテックはビジネスモデル自体を変革します。IT化とインシュアテックが大きく異なる点は、業務の効率化にだけにとどまらないことといえるでしょう。
インシュアテックによって得られる契約者側のメリットは、「自分にベストマッチした保険を気軽に選びやすくなる」ことです。
近年では、ビッグデータを活用したシステムにより、AIが自動的にぴったりの保険を判断してくれるといったシステムがすでに生まれています。今後インシュアテックがさらに進めば、より精度の高いシステムが生まれるでしょう。
インターネット上で契約できる保険が増えている点から、契約や管理の利便性がさらに高まっていくことも想像できます。
インシュアテックは大きなメリットがある一方で、無視できないデメリットや課題も抱えています。今後はこれらのデメリットも理解したうえで、どのようにインシュアテックと向き合い、いかに未来を見据えた活用をしていくかが求められるでしょう。
インシュアテックにより生まれた新サービスや商品であっても、すべての契約者が得をするとは限りません。ビッグデータを活用したシステムが定めた契約内容は、あくまで統計学が最優先されます。
そのため、既往症を持つ方や、運動習慣がない方、食生活に乱れがあるといった方では、往来の保険よりも料金が割高になる恐れがあります。
顧客との対話を介し、人の手によって下す繊細な判断との差を理解しておく必要があるでしょう。
インシュアテックによるシステムの正確性を高めるためには、多くの情報が必要です。保険会社であれば、スマホアプリを顧客に使ってもらうことで歩数計データや食事データなどを取得できれば、適切なサービスの提供に役立つでしょう。
しかし、このような方法でのデータ取得が保険会社の業務として法的に認められるかが、現時点でははっきりと定められていません。インシュアテックを活用する企業は慎重に検討する必要があります。
保険会社が業務にAIを導入すること自体は、法律で禁止されていません。しかし、AIそのものの取り扱いや管理方法については、法整備がまだ進んでいないため、課題があります。
特にAIの開発や運用を外部に依頼する場合には、委託先の体制によっては保険業法(53条の11)に抵触する恐れがあるでしょう。より高度なプログラムを有するAIであればあるほど、取り扱いは難しくなります。委託先の選択には、十分に配慮する必要があるでしょう。
インシュアテックとは、ただ業務を効率化するだけでなく、ビジネスの在り方や人々の考え方にまで影響をもたらします。そして、世界の先進国がこぞってビジネスに取り入れ始めている以上、インシュアテックを導入しない企業はいずれ淘汰される恐れすらあるでしょう。
現在の職場があまりに時代に取り残されているように感じるのであれば、自身のキャリアパスを今一度、考え直すときかもしれません。未来を見据えた企業への転職を考え動くときには、ぜひマイナビ金融エージェントまでご相談ください。
金融業界
フィンテック業界で役立つ資格5選!資格勉強や選び方のポイントも解説
金融業界
フィンテック業界は未経験でも転職可能?求められるスキルと転職のコツを紹介
金融業界
銀行業界に将来性はある?銀行員として働くメリット・デメリットも解説