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キャリア生相談 エンジニア編 -後編-
キャリア生相談 エンジニア編 -後編-

エンジニアのキャリア戦略。言語・環境選びのベストルートは?

「今すぐ転職したいわけではないけれど、将来のために動くべきか、とどまるべきか」。そんな悩みを抱える20代ビジネスパーソンが、マイナビエージェントが誇るキャリアアドバイザーに本気で相談。第4回は、売り手市場が続くエンジニア転職の最新事情を踏まえながら、キャリアのベストルートを探ります。進行役はPIVOTの国山ハセン。

相談者プロフィール
相談者
Bさん(27歳・ソフトウェアエンジニア)

大学時代のインターンシップ経験がきっかけとなり、エンジニアキャリアを選択。大学院修了後に入社した現在の会社に勤めて3年目。サービスを立ち上げ、要件定義から実装、リリースまで一通りのことを経験した後の次のステージを思案中。

私がじっくり聞きます!
大原直人
マイナビエージェント キャリアアドバイザー
大原直人

大学を卒業後、日本最大手メーカー系SIerにてアプリエンジニアとして従事し、外資コンサルと連携しながらの要件定義から導入まで幅広く経験する。マイナビに転職した後は、関西IT領域専門のキャリアアドバイザーとして活躍。アプリ・インフラだけでなくコンサルや社内SEの提案も強みとし、20代前半から40代後半まで、年齢を問わず内定実績を挙げている。面談する相談者の9割がエンジニア。

IT業界の求人は5年前の1.5倍に

ハセン

「おもいっきりキャリア生相談」の第4回目は「エンジニア編」の後編です。引き続き、キャリアアドバイザーの大原直人さん、そして相談者のBさん、よろしくお願いいたします。今回はエンジニア転職のリアルなお話や、「これからエンジニアを目指したい」という方にも参考になる情報を交えてお伝えします。
まず、現在のIT業界の求人掲載数のデータをご覧ください。2018年の平均値と比べると、2022年は150%前後も増加していますね。さらに転職者数も増えている。大原さん、これはなぜでしょうか?

大原

大きく二つの背景があります。一つめはITを使ったサービスを提供する事業会社が増えていること。二つめは、コロナ禍の「従業員が出社できなくなり、会社の業務が滞ってしまった」という経験から、積極的にDXを進める企業が増えたことです。DXにはエンジニアの力が必要になるため、求人数が増加しているのです。

ハセン

今、特にエンジニアを求めている業種はありますか?

大原

どの業種でもエンジニアは引っ張りだこですが、特にメーカーの求人が多いですね。コロナ禍を経てDX推進の気運が高まったこともありますし、これまでIT部門を外部のシステム会社に依頼していた企業が、自社でシステムを内製化したいケースが非常に増えているのです。

ハセン

エンジニア人材のニーズが高い理由が分かりました。自分のスキルが見合えば、非常に転職しやすい状況と言えますね。Bさんのようにプロジェクトを一通り回した経験でスキルを身につけた方は、とても有利な状況にあるではないですか?

大原

おっしゃるとおりですね。この先のキャリアを考えると、今動かないのはもったいないなと感じます。

ハセン

前編でBさんとお話ししたように、エンジニアの多くは、ご自身のスキルや強みを客観的に可視化できていないのかもしれません。キャリアアドバイザーと一緒に言語化することで、キャリアアップの可能性に気づけるではないでしょうか。

相談者B

やはり、ずっとモヤモヤと抱えてきた悩みに対して、自分一人で整理するのは難しい面がありました。自分の強みやスキルを言語化していただけて、とてもありがたかったです。

大原

私は今まで1,300人以上のエンジニアの転職を支援して参りましたが、特に多いご相談が三つあります。一つめは「スキルチェンジしたい」というものです。二つめは「働き方を変えたい」、そして三つめは「ゼネラリストか、スペシャリストか」というご相談です。

ハセン

一つずつ具体的に聞かせてください。エンジニアのスキルチェンジとは、何を意味するのでしょうか?

大原

開発環境を変えることですね。例えば、使用言語を変えることや、アプリ開発からインフラ構築の開発にシフトするのもスキルチェンジになります。また、「Web系のプロダクト経験から、ロボット系の組み込みプログラムに携わってみたい」というのもスキルチェンジの相談になります。

ハセン

スキルチェンジに伴って、報酬や待遇も変わってきますよね?

大原

それは企業の評価制度によります。スキルチェンジは、常に新しい技術に関わりたい志向を持つ方にはメリットがあります。報酬だけでなく、新たなやりがいを求める方もいます。例えば、ロボット系の組み込みエンジニアの仕事は、「自分が作ったものが実用化され、目の前で動く様子がみられること」にやりがいを求める方にとっては満足度が高くなるでしょう。

ハセン

「スキルチェンジをしたい」と希望する人には、どんな理由があるのでしょうか。

大原

常に新しい開発環境に身を置きたい方もいれば、「現職の開発環境が古いので、危機感を感じている」という方もいます。例えば、自治体のシステムに使われているCOBOLという言語があります。これは銀行の基幹システムにも使われている歴史の長い言語なのですが、将来的にはCOBOLから異なる言語にシステムが刷新されるため、「自分の市場価値はどうなるのだろう、歳をとればキャリアチェンジも難しくなる」と不安に思われる方は多いですよ。

ハセン

なるほど、そういった背景から「新しい環境に行きたい」という方が多いのですね。Bさんの場合は、スキルチェンジは必要ないのですか。

大原

はい、むしろしないほうがいいでしょう。企業側の採用目線でいえば、自社の開発環境を長く経験している人材の方が評価は高くなる傾向がありますから。スキルチェンジのデメリットとして、今までの経験への評価が低くなってしまう点が挙げられます。

キャリアアップにつながる言語習得のコツとは

ハセン

では、スキルチェンジ人材でも評価を高くするためには、どういった方法がありますか?

大原

言語を習得するのがベストですね。例えば、開発言語をJavaからC言語にチェンジしたい人の場合、企業は「どれくらいC言語の勉強をしているか」という点と、現職において「どれだけ開発環境や技術選定のことを知っているか」という点から判断するでしょう。つまり、使用言語の特性をどれだけ把握しているかと、ご自身の経験をどれだけ説明できるかが重要になります。

ハセン

経験している言語が異なると、採用のハードルは高くなりますか?

大原

これも言語によって違います。例えば先ほどの“JavaからC言語”のパターンはあまり評価につながりませんが、“JavaScriptからPHP”であれば、比較的類似性の高い言語なので、企業との面接に至るケースも少なくありません。

相談者B

僕は今SwiftというiOS専用のプログラミング言語を勉強しています。Web系のアプリ開発から、モバイル系のアプリ開発にスキルチェンジすると、採用面で難しくなりますか?

大原

チャレンジできる企業はありますが、Web開発の経験者であってもモバイルアプリ開発は未経験ですので、年収が下がってしまう可能性はあります。

ハセン

モバイルアプリは、iPhoneとAndroidとで開発言語が違うんですよね。どちらかを選ばなくてはいけないのですか。

大原

両方の開発環境を持った企業もありますよ。そのような企業はエンジニアに非常に人気があるので、競争率も高くなります。Bさんが将来的にサービス企画を目指すのであれば、モバイルアプリ開発も経験された方がよいでしょう。今はiOSのみ対応というアプリは少なくて、Web、iOS、Androidのどれでも利用できるサービスが主流ですから、Swiftだけでなく色々な言語に触れた方が良いと個人的には思います。

相談者B

やるべきことが見えてきました。ありがとうございます!

コロナ禍で新たに浮上した「働き方」の条件

ハセン

二つめの「働き方を変えたい」という相談には、どういった理由が多いのですか?

大原

IT業界はもともと「残業が当たり前」という働き方がスタンダードになっていましたが、コロナ禍においてリモートワークを経験したことにより、「働き方を変えたい、もっと自分や家族のための時間を確保したい」という相談が増えました。リモートワークやフレックス制の働き方によって、自宅で集中して作業がはかどる、育児と仕事を両立しやすいといったメリットを感じる人が多いようです。

ハセン

リモートワークのほうが、ちゃんと自分や家族の時間が確保できて、なおかつ仕事のパフォーマンスも上がるということですか?

大原

おっしゃるとおりです。コロナの影響が落ち着いてきて、出社頻度を元に戻す企業も出てきましたが、「在宅で働くほうがパフォーマンスが良かったので、出社を強いられるなら転職したい」という人も多いようです。

ハセン

リモートワークを推奨する企業も増えていますよね。

大原

はい。働き方に対する柔軟性を高めて、従業員がのびのびと就業できるような制度を設けているケースも多くあります。一方で、一般的にIT業界はセキュリティが非常に厳しく、オフィスでもシステム開発の部屋だけは入退室に鍵が必要だったり、社外に情報を持ち出せないルールを課したりする会社も少なくありません。そのような環境であれば、リモートワークを希望する方へのアサインは難しくなりますね。

ハセン

Bさんは、現職では出社して働いているのですか?

相談者B

はい、出社しています。求職者のニーズの割合としては、リモートワーク推進の企業と、出社してチームで進める企業のどちらが多いのですか?

大原

職種によりますね。例えば、技術を持つスペシャリストで「開発をどんどんやっていきたい」という方は、フルリモートで集中して働きたいという傾向がありますし、一方で、若手のエンジニアには「皆で集まってコミュニケーションを取りながら仕事をしたい」という方も多いです。結論としては、“週2で出社・週3で在宅”のようなハイブリッド型を希望するケースが一番多いかなと。

ハセン

Bさんは今後の働き方を変えたいと思いますか?

相談者B

ハイブリッド型の働き方はとても魅力的ですね。コミュニケーションが取りやすいうえに、フレキシブルな働き方ができるという点に、バランスの良さを感じます。

大原

もしそれが転職希望の一番の理由であれば、「今すぐ転職しましょう」とお伝えしますね。現職であればその働き方は叶いませんから。

ハセン

つまり、理想の働き方のイメージが明確にある人は、その環境を目指すことが転職理由になってもいいんですね。

大原

おっしゃるとおりです。

スペシャリストとしてキャリアを築ける環境が整ってきた

ハセン

最後の三つめは、「ゼネラリストか、スペシャリストか」ですね。技術の専門性を高めるのか、マネジメントにも関わるのか、エンジニアの誰もが最終的に問われるテーマではないでしょうか。

大原

キャリアにおいて、ゼネラリスト側かスペシャリスト側か、「どちらに進むとどうなるのか、将来像がつかめない」という相談はとても多いですね。

ハセン

前提として、「ゼネラリスト」とはどういう人材を指すのでしょうか。

大原

ゼネラリストは幅広い知見を持っている人を指します。例えば、開発環境でいえばアプリ側とインフラ側の両方の知識があり、サーバーやネットワークのこともある程度理解している。加えて、プロジェクトの予算配分や人材要件を決めたり、メンバーのパフォーマンスを見ながらマネジメントをしたりと、多岐にわたる能力を持っている人材がゼネラリストと呼ばれています。

ハセン

できることの幅が広いのですね。やはり、さまざまな環境でキャリアを積んでゼネラリストになるのですか?

大原

基本的には、メンバーからプロジェクトリーダー、プロジェクトマネジャーとキャリアを積み、最終的にプロダクトマネジャーとして、チームを率いてサービス全体の管理を行うルートが多数派だと思います。

ハセン

なるほど、よく分かりました。では、「スペシャリスト」とはどういった人材のことでしょうか?

大原

スペシャリストは、例えばアプリ開発であれば「この環境での開発に特化しています」という人や、「サーバー構築なら自分に任せて」という人など、何らかの業務に特化して高い技術を持っている人材をスペシャリストと呼んでいます。

ハセン

開発チームには、スペシャリストが多いのですか?

大原

ゼネラリストの方が多いと思います。というのも、もともと日本のエンジニアには、スペシャリストとしてキャリアを積めるルートがありませんでした。今のベテラン層には、ゼネラリストの道しかなかったのです。ここ10年ほどで、「やはり技術に特化した人材も大事だ」と、スペシャリスト向けの評価制度を整える企業が増えています。

ハセン

これは一般企業でも同じですね。特定の技能に習熟した人でも、年功序列でマネジメント側に回らざるを得なかったケースは多々あります。近年は、スペシャリストとしてキャリアを築ける評価軸が整ってきたということですね。

大原

元々はジョブローテーションで人材を育成してきた企業が、(業務範囲を特定する)ジョブ型の人材育成にシフトしてきているので、今後はスペシャリストの転職もしやすくなると予想されます。

ハセン

そうなのですね。さて、こちらの図は、IT業界のキャリアパスを示したものです。この中でいうと、Bさんはどの位置にいるのでしょうか。

大原

「アプリケーションスペシャリスト」に近いですね。この先のキャリアとして、プロジェクトマネジャーやコンサルタントなどの選択肢が考えられます。会社の意向次第の部分も大きいので、評価制度とキャリアプランについて、上長とのすり合わせが必要になるでしょう。

相談者B

将来的なキャリアとして、プロジェクトの管理側にも興味があります。ゼネラリストとスペシャリストで、年収の上がりやすさに違いはありますか?

大原

年収においては、スペシャリストのほうが以前は高かったのですが、今は若干ゼネラリストのほうが年収も求人数も多いという印象です。AIの出現によって「人の仕事がAIに置き換わるリスク」が指摘されていますが、AIを使いこなすにはやはり人によるマネジメントが必要です。プロジェクト全体を見て「この部分はAIに任せよう、この部分には人力が必要だ」と柔軟な判断ができるのはゼネラリストですね。

ハセン

なるほど。中長期的に見ると、ゼネラリストのほうが年収は上がりやすそうですね。

相談者B

キャリアの将来性についてはどうでしょうか。

大原

現状の市場のニーズとしては、スペシャリストのほうが将来性は高いでしょう。なぜならスペシャリストには「この仕事を任せたい」というニーズが多く、転職が容易だからです。他方、ゼネラリストの場合は、同じ「マネジャー」でも業界によって経験できる内容が異なります。例えば、コンシューマー向け製品の業界でマネジメント経験があっても、応募先の企業が法人向けのサービスであれば、それだけで不適合となってしまうのです。

未経験からのエンジニア転職にもチャンスあり

相談者B

もう一つ、Web業界とSIer業界の転職に共通する部分、異なる部分を教えてください。

大原

共通する部分としては、下流工程・基本設計・詳細設計・プログラミングの経験はかなり重要視されています。事業会社のシステム開発を請け負うSIerでも、下請けに任せていた下流工程を「やはり自分たちで全部やらなくては」と巻き取る動きがあるのです。異なる部分として、SIerでは顧客との折衝や提案といったコミュニケーションスキルが多く求められます。一方、Webエンジニアは、開発にあたって注意していた点や独自の工夫などを問われることが多いですね。

ハセン

本当に細かく傾向を教えていただけるのですね。今からエンジニアを目指したいという人に向けて、未経験者が目指しやすい分野はありますか?

大原

結論から申し上げますと、今はアプリエンジニア、インフラエンジニアのどちらも目指しやすいと思います。ただし、未経験者が最初から専門的な業務を担当することは難しいので、例えばアプリエンジニアであれば、動作テストやデバッグ業務から始めるといいですね。インフラエンジニアであれば、ネットワークやサーバーの監視など、少し難易度の低い業務から始めることが多いでしょう。

ハセン

ありがとうございます。番組の最後に、Bさんは転職すべきか、現職に留まるべきかを、大原さんにジャッジしていただこうと思っていたのですが……実はBさんはもう心を決めているようです(笑)。

相談者B

はい。大原さんのアドバイスがあまりに的確だったので、「転職する」と決めました!

ハセン

笑顔で宣言が出ましたね。決め手はなんでしたか?

相談者B

やっぱり、今の自分がどういう立ち位置にいるのかが明確になり、自分が目指すべきエンジニア像の解像度が上がったという点が大きいですね。年収を上げるためのキャリアの積み方についてのアドバイスもいただけたのも参考になりました。

ハセン

当初は「今すぐの転職意向はない」ということでしたが、悩みを言語化して解像度が上がったことで、「転職しよう」という結論に行き着いたのですね。ぜひ、これからの転職活動を頑張ってください。

相談者B

はい、頑張ります。ありがとうございました!

ハセン

大原さん、最後に転職に悩んでいるエンジニアの皆さんにメッセージをお願いします。

大原

エンジニアと言っても、経験や強みは十人十色。人それぞれいろんな悩みを抱えていると思います。今回のように、悩みを言語化して、それをどのように解決できるのか、私たちと一緒に考えてみませんか。もし少しでもお悩みがあれば、ぜひ弊社にご相談ください。一緒に頑張りましょう。