更新日:2021/12/28
育児休業(以下育休)は現職への復帰を前提に取得できる制度です。しかし、産休前に「マタハラ」に悩まされたり、時短ハラスメントを受けたりすることなどにより、復帰後に退職や転職を余儀なくなくされるケースもあります。
この記事では、育休後に退職はできるのか、また退職の際の注意点や両立支援制度について解説します。
目次
育休後の転職自体は法に抵触するものではありませんので問題はありません。
しかし、想定していなかったトラブルに巻き込まれるようなことのないよう、以下のような注意点を事前に把握しておくことをおすすめします。
育児と並行しての仕事に対しては、「残業がないこと」「通勤時間が短いこと」「時短勤務が可能なこと」など、さまざまな条件や希望を求めてしまいがちです。しかし、時短勤務や残業しないことが条件となると、どうしてもフルタイムの求職者よりは戦力になりにくいことも事実です。
まずは転職先を見つけることを大前提に、最低限譲れない条件に絞って転職先企業を探しましょう。
転職後すぐに有給休暇などの休暇が取りにくいことにも注意が必要です。有休は 勤続6ヵ月以上の従業員に対して付与することが労働基準法第39条によって定められています。また、勤務時間を短縮できる「時短勤務制度」についても、入社後1年以上経過しないと制度利用できない企業が多くあります。
仕事と育児の両立のために転職したのに転職前の会社のほうが福利厚生や子育て制度は充実していた...といったことにならないよう、転職先の制度は事前に確認が必要です。
育休後に転職すること自体が転職先企業から歓迎されないことも想定されます。転職せざるを得ない理由がある場合は、きちんと事情と転職理由を説明しましょう。
「仕事と育児の両立が難しかった」というだけでは採用企業には残念ながら伝わりません。たとえば「前職での就業時間が変則的で子どもの預け先と就業時間が合わなかった」など、しかるべき理由があれば先方の納得を得られやすくなります。そのうえで、新たな職務に自分の長所・強み・経験をどのように活かすのか、どのように貢献したいかなど、転職先での職務に前向きな意欲を伝えることが重要です。
また、勤務条件の話をする場合、「残業はできない」など自身の主張ばかりをするのではなく、採用企業とすり合わせ妥協点を見つけていきましょう。
そのためには、育児と仕事を両立させるために自分が求める条件と譲歩可能な条件をあらかじめ分けておきます。そうすることでスムーズに交渉できますし、あなたの就業したい意欲を採用担当者も感じてくれるはずです。
会社は育休後にあなたが職場復帰することを見込み、あなたの籍を確保したうえで人員配置をおこなっています。復帰を待ってくれていた会社に感謝するとともに、会社にかかる迷惑やトラブルを最小限に抑え、可能な限り円満に退職しなければいけません。
慎重に退職の意思を伝えましょう。
退職の意思を伝える場合、通常は退社1ヵ月から1ヵ月半前にはその意思を伝えるのが一般的です。しかし、育休中に退職を決めた場合は可能な限り早く伝えましょう。遅くとも2ヵ月前には相談すべきです。
通常の退職よりも早めに相談する理由は、会社側も復帰を前提に人員配置をおこなっているからです。後任の採用など、会社への影響や負担は大きくなります。待ってくれていた会社に対して配慮し、早めに伝えるよう心がけましょう。
育児と就業の両立が難しい場合など、復職してから退職を検討することもあるかもしれません。しかし、昨今は女性の社会進出における制度が拡充していますし、ハラスメントなどの労働問題から労働者を守るための法律も整備されています。
いきなり転職や退職を検討するのではなく、まずは両立できる可能性がないか模索してみましょう。
「育児休業給付金」とは、育児休業取得者が受け取ることができる一定金額の給付金のことです。復職前提で取得できるのが育児休業ですので、復職する予定がない場合には育児休業給付金は支給されません。
しかし、復帰困難な理由がありやむを得ず復帰せずに退職する場合は、すでに給付を受けた育児休業給付金を返還する必要はありません。
育児休業が明けて仕事に復帰したものの子育てとの両立に難しさを感じる方が多いのは事実ですが、両立支援制度も拡充し始めています。
ここでは、退職せずに仕事と育児を両立するための支援制度を紹介します。
まず育児休業は、1歳未満の子ども一人につき原則として一回取得できる休業期間です。1歳未満の子を養育する労働者が対象ですが、保育所に入所できないなどの事情があれば2歳になるまで延長することができます。
パパ休暇とは、子どもが生まれてから8週間以内に夫が育児休業を取得し復帰した場合、特別な事情がなくても1歳までの間に2回目の育児休暇を取得することができる制度です。出生後8週間以内に育児休業を取得した場合に適用されます。
子どもは体調を崩しやすく、想定外のことが起きることもあります。母親の職場復帰をサポートしつつ夫も積極的に子育てに関わり、仕事と子育てを両立する環境を夫婦で整えることがパパ休暇の目的です。
パパ・ママ育休プラスは、両親がともに育児休業を取得する場合、子どもが1歳2ヵ月に達する日までの間で休業可能になる制度です。母親もしくは父親のどちらかが育児休暇を取得する場合、育児休業期間は1年間ですが、両親ともに取得する場合は2ヵ月間延長することができます。
対象者は以下のように定義されています 。
両親ともに育児休業をする場合(パパ・ママ育休プラス)の特例 - 厚生労働省
父親が育休を取得する風土はまだまだ根付いてはいませんが、パパ・ママ育休プラスによって育休を取得する男性社員は増えています。
子の看護休暇とは、子どもが1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで時間単位で取得ができる休暇制度です。小学校入学前の子どもがいる労働者が対象となります。子どもが病気やけがをした時に休暇を取得しやすくした制度で、予防接種や健康診断を受けさせることも子の看護休暇の対象になります。
以前は日単位でしか取得することができませんでしたが、子育てをしながら働き続けることを目的に時間単位で取得できるよう2021年より改正されました。
「短時間勤務制度」(通称「時短勤務制度」)とは、所定労働時間を原則1日6時間に短縮することができる制度です。保育所に長時間預けられない場合などに活用できます。
時短勤務は、制限開始予定日の1ヵ月前までに労働者が請求します。1回につき1ヵ月以上1年以内の期間で時短勤務を請求することができますが、請求回数には上限がありません。対象となる3歳未満の子どもを育てる従業員が希望すると利用できる制度ですが、すべての労働者が対象ではなく、雇用期間が1年未満の労働者や日雇い労働者は時短勤務の対象外となることがあります。
就業規則で定められた労働時間を超過して働く時間を「所定外労働時間」といいます。
3歳未満の子どもを養育する従業員が時短勤務を請求する場合、事業主は所定外労働時間の勤務を要請することができません。
時間外労働とは、いわゆる「残業」のことです。
労働者から請求があった場合、事業主は月24時間、年間150時間を超える時間外労働をさせることはできません。対象者は未就学の子を養育する従業員だけでなく、要介護状態の家族を介護する従業員も含まれます。ただし、事業の正常な運営に支障のある場合を除きます。
労働者から請求があった場合、事業主は午後10時から午前5時までの深夜時間に労働をさせることはできません。対象者は未就学の子を養育する従業員だけでなく、要介護状態の家族を介護する従業員も含まれます。
ただし、時間外労働の制限同様、事業の正常な運営に支障のある場合を除きます。
育休が明けて復職したものの不当な扱いを受けてしまった場合の育休取得者を守る法律を紹介します。
「男女雇用機会均等法」では、女性労働者の妊娠・出産、産休・育休取得等を理由とする解雇やその他不当な扱いを禁止しています。仮に不当な扱いを受けた場合、妊娠・出産・育児休業等の事由と「因果関係」がある場合には雇用機会均等法違反となります。
「育児・介護休業法」は、育児や介護をしなければならない労働者が仕事と育児や介護を両立するために事業者が支援するよう配慮を促すための法律です。
出産のための産前産後休業や育児休業、子の看護休暇などの休業や時短勤務制度、所定外・時間外労働・深夜労働の制限などがこの法に内包されています。これらの制度利用を理由に解雇や降格などの不当な取扱いをすることは「育児・介護休業法」に違反することになります。
万が一、復職・転職した勤務先で解雇、雇止め、配置転換などの不当な扱いを受けたりハラスメントに悩まされたりしたら、都道府県労働局に相談しましょう。
都道府県労働局ではあらゆる分野の労働問題を対象にしており、労働者でも相談が可能です。専門の相談員に面談もしくは電話で相談できます。労働局は予約不要かつ無料で利用でき、相談者のプライバシー保護に配慮した対応をしてもらえるので、安心して相談することができます。万が一、労働基準などの労働に関する法律に違反の疑いがある場合、行政指導などの権限を持つ担当部署に取り次いでもらうことができます。
育休後に退職や転職することは可能ですが、育休明けの転職はハードルが高いのも事実です。転職の道を選ぶのであれば、転職の目的を明確にし、復帰を待っていてくれた現職にも転職先にも「しこり」が残らないよう、真摯な対応を心がけましょう。
子育てと就業を両立させるための制度は年々拡充しています。いきなり転職を検討するのではなく、制度を活用することで両立できないか模索することもおすすめです。もし現職での両立が難しい場合は、一度現職に復帰してから転職活動をするほうがより理想的な選択ができる場合もあります。
ここで紹介した制度や方法を参考にしながら、子育てしながらでも活躍できる充実した労働環境をぜひ手に入れてください。
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