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「ブロックチェーンを味方にできる企業」とは!?--『MFクラウドExpo 2018』

暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン
最終更新日:2019/01/10

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[マネーフォワード辻庸介CEO「第4次産業革命で新しい大きな市場が生まれる」]

2018年10月5日、東京都港区ANAインターコンチネンタルホテルにて、マネーフォワード主催の「MFクラウドExpo 2018」が開催された。テーマは「ビジネスを加速させるイノベーション」。生産性向上を考えるすべての企業人に向けたイベントだ。午前中に基調講演、午後には27ものセミナーが開催され、夕方には特別講演、カクテルパーティー形式の懇親会も開かれた。

初めにマネーフォワード辻庸介CEOの基調講演があった。辻CEOは、「ビジネスを加速させるイノベーション」というイベントテーマを、より大局的に俯瞰した。それは、人類は産業革命を何度も繰り返して進歩してきたというものだ。第1次産業革命は18世紀から19世紀にかけての蒸気機関の発明によるもの。第2次産業革命は、第1次世界大戦前に鉄、石油、電力が普及したことで大量生産が可能になったこと。第3次産業革命が1980年頃から今ままで、パーソナルコンピューターが登場し、情報通信革命が起きたこと。

そして、今起きているのが第4次産業革命だ。あらゆる業種がデジタル化をしていく時代になる。IoT、ロボット、人工知能、生体チップなどで、ITの世界だけでなく、リアルな世界までもがデジタル化をしていく。しかも、変革のスピードがどんどん上がっている。

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(マネーフォワード辻庸介CEO。第1次産業革命以降の歴史を俯瞰し、現在は第4次産業革命の時代だという。この激しい変化の中でも、次の変化を先回りする経営が求められると力説した)

激変するIT状況の中で、既存業界にとっては大きなピンチでもあるが、同時に大きなチャンスでもある。新しい大きな市場が生まれる瞬間に私たちは立ち会っている。企業経営者は、そのような変化を先取りしていく姿勢が重要になるという内容の基調講演だった。

[ブロックチェーンとは何か?]

続いて、オープニングセッションが行われた。テーマは「ブロックチェーンを味方にできる企業」というもので、スピーカーはTRENDEの妹尾賢俊社長、マネーフォワードフィナンシャルの神田潤一社長のお二人。進行は、マネーフォワードFintech研究所の瀧俊雄所長が務めた。

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(オープンニングセッションで提示された図。ブロックチェーンの応用分野を2軸で整理したもの。ブロックチェーンは仮想通貨だけでなく、さまざまな分野での応用が始まっている)

TRENDは電力小売りのベンチャー。「あしたでんき」というシンプルな料金体系で格安の電力小売りサービスを開始していて、将来的にはブロックチェーンによる管理を行うとしている。マネーフォワードフィナンシャルは、現在ブロックチェーン仮想通貨の交換所を中心にしてビジネス展開をする準備をしている。

最初に瀧氏から「ブロックチェーンとは何か」という解説があった。なぜなら、ブロックチェーンという名前は知っていても、どのようなものであるかを理解している人はそうは多くないからだ。

瀧氏は、『徹底理解ブロックチェーン』(インプレス刊)から引用した定義を紹介した。「複数の台帳からなる純粋な分散型のP2Pシステムである。このシステムは、完全性を達成して維持するために、アルゴリズムに暗号化とセキュリティの技術を組み合わせたものを利用する。このアルゴリズムは、順番に連結されたデータブロックの情報内容を協議・決定する」というものだ。

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(オープニングセッションの進行役、マネーフォワードFintech研究所の瀧俊雄所長。ブロックチェーンのポイントは、中央管理型から分散管理型になることではないかと提起をした)

瀧氏は、これは正しい定義で、真面目な定義であるとした上で、「でも、門外漢には理解しづらい」という。瀧氏がブロックチェーン技術で最も重要なのは、従来型の台帳は中央に管理者がいて管理を一元的に行っていたが、ブロックチェーンでは参加者全員の合意で管理されることだという。ブロックチェーンとは「中央の権威を必要とせず」「相互の通信を通じて」「信用が必要な仕組みと同様の完全性を提供」するものだと理解すればいいのではないかと解説した。

[ブロックチェーンを活用するのに適したものは?]

では、どんなものがブロックチェーンに向いているのか。それは「信用コスト」「調整のコスト」が高いものだという。中央管理のコストが高ければ信用を得るためのコストが高くつく。例えば、決済、チケット転売対策、選挙などだ。また、参加者が多かったり、国をまたいで管理する必要があり、調整コストが高いものにも使われる。著作権管理、貿易関連の手続きなどだ。

TRENDEは電力の小売りベンチャーだが、再生可能エネルギーの比率を上げるために、個人間での電力売買を活発化させようという目標を掲げている。例えば、自宅の屋根に太陽電池パネルを設置して、自宅の電力は自分で賄う。余ったものに関してはオークションにかけて、販売してしまう。この取引にブロックチェーンを活用しようとしている。

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(オープニングセッションのスピーカー、TRENDEの妹尾賢俊社長。発電を個人が行い、電力を融通しあう分散型電力社会を目指している)

瀧氏は、ここでパブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンという考え方を提出した。パブリックとは仮想通貨のように、誰でも参加できるブロックチェーン。プライベートとは、TRENDEの電力取引記録のように参加者が限定されているものだ。これはどのような違いがあるのだろうか。

神田氏は、そのような区別があるが、あまり意識をしなくてもいいのではないかという。例えば、ドル、円などの通貨、金という資産がある。これは仮想通貨で言えばパブリックにあたる。一方で、地域通貨やコンビニの電子マネーのようなプラベートな通貨もある。私たちは、通常はパブリックな通貨を使いつつ、コンビニに行けば、そちらの方が便利だからプライベートな通貨を使う。ブロックチェーン、特に仮想通貨は、ビットコインのようにどの国でも使えるパブリックなものを使いつつ、そのコミュニティ、コミュニティで便利なプライベート仮想通貨を使う。それが今後起きてくる世界なのではないかという。

[ブロックチェーンを活用したビジネスは進化中]

すでにブロックチェーンを活用したビジネスも進んでいる。TRENDEの妹尾氏は、そもそも仮想通貨ビジネスの世界にいたが、昨年2月にウィーンで開かれたエネルギー関係のベンチャー企業が集まるイベントで、ブロックチェーンを利用して個人間の電力取引を可能にするソフトウェアの出品を見て、衝撃を受けて、電力の世界に飛び込んだのだ。さらに欧州の自動車メーカーも積極的で、EV(電気自動車)を媒介にして電力の融通をさせる仕組みにブロックチェーンを活用することも模索されている。

神田氏は元日本銀行の職員だった。円通貨の発行主体の中にいた人だ。ところが通貨の発行主体が存在しない仮想通貨というものの出現に衝撃を受けて、現在、マネーフォワードフィナンシャルで仮想通貨の交換所を設立する仕事に就くことになった。仮想通貨は、原則的に誰でも発行主体になることができる。岡山県の西粟倉村は、人口1470人の過疎村だが、村の森を守るための資金調達をするため、仮想通貨「Nishi Awakura Coin=NAC」を発行すると発表して話題になっている。神田氏は、これは素晴らしい挑戦だという。西粟倉村の自然保護活動を支援しようという人がNACを購入し、西粟倉村はNACを円に替えて、森を守る活動を行う。そのような活動を通じて西粟倉村そのものの魅力が高くなれば、NACの相場価格も上昇することになる。すると、NACを購入した人にも含み益が出るという仕組みだ。

また、音楽の著作権管理などにもブロックチェーンが向いている。作曲家、作詞家だけでなく、ドラムやベースという演奏家情報も記録ができる。すると、誰かがスマホで音楽を再生し、それが10円の権利使用料を生み出したとしたら、そのまま作曲家だけでなく、その曲の演奏家にまで、利益が自動的に配分されていく仕組みが作れる。そういう世界がもうすぐ実現する。

世の中は、分散型社会に向かっている。電気は中央の発電所で作られ、それを各家庭に分配していた。しかし、TRENDEが目指しているのは、各家庭で発電をして融通しあう分散型電力社会だ。

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(オープニングセッションのスピーカー、マネーフォワードフィナンシャルの神田潤一社長。今までは権利がどこかに偏っていた社会。それがブロックチェーンで、本来あるべき場所に取り戻される世の中になる。個人が主体になる社会が実現できると主張した)

神田氏は、中央集権型と分散型というよりも、今までは権利の偏りがあったのではないかという。音楽の著作権で言えば、本来それを持っている作曲家や演奏家ではなく、それを管理する管理会社、管理機構に権利が過度に集中してしまう。ブロックチェーンが登場して、その偏っていた権利が、本来あるべきところに戻ってくると見るべきではないか。個人が主体になって活動できる世の中がやってくるという。ブロックチェーンは仮想通貨だけではない。むしろ、仮想通貨以外への応用が世の中のあり方を大きく変える可能性がある。それは、神田氏が指摘するように、個人が主体になる世の中だ。ブロックチェーンは、人類が19世紀以来追い求めてきた民主主義の最後の1ピースなのかもしれない。