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キャッシュレスでもペーパレスにならない?「レシートいらない」問題

決済・送金(キャッシュレス)
最終更新日:2019/01/21

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スマホや交通カードでの決済は便利、問題は「レシートを渡されること」

地域によっても異なるだろうが、コンビニやスーパー、駅ビル商店街などでは、わずか半年ほどでキャッシュレス決済がずいぶんに進んだように感じられる。特にコンビニなどの少額決済中心のシーンでは、Suicaなどの交通カード(IC乗車券)やNFC、QRコードを利用したスマートフォン決済を使う人が急速に増えた実感がある。

キャッシュレス決済というと、クレジットカードやデビットカード、電子マネーカードなどもあるが、交通カードとスマホ決済は、人の習慣をわずかながら変える点が特徴的だ。なぜなら、クレジット、デビット、電子マネーは決済専用ツールなので、多くの人が財布の中に入れる。しかし、スマホと交通カードは決済以外の機能もあるので財布の中には入れない。しかも、財布よりも頻繁に使うので、服やカバンのポケットでも、最も取り出しやすい場所に入れるのではないだろうか。

いちばんアクセスのしやすいポケットにスマホを入れ、次にアクセスをしやすいポケットに交通カードを入れ、財布は取り出す頻度が激減したために、カバンの奥にしまい込むという人が多ように見える。もちろん、どこに何を入れるかは人それぞれだが、スマホ、交通カードにより、決済機能が財布の外に飛び出したということが大きい。

実際、スマホや交通カードでの決済は便利だ。買い物をして、アクセスしやすいポケットからスマホや交通カードを取り出して、かざすだけ。財布を取り出して、小銭を取り出して、お釣りを受け取り、財布をしまうという、つい最近まで当たり前のようにしていた動作が、ものすごく煩わしく感じるようになってしまう。

ところが、問題は、レシートを渡されることだ。キャッシュ時代であれば、お釣りと一緒に財布にしまったことだろう。しかし、スマホや交通カードにはレシートをしまっておくようなポケットはついていない。せっかく、財布を取り出さずにキャッシュレス決済をしたのに、レシートをしまうためだけに財布を取り出し、レシートをしまわなければならない。

もちろん、そんな面倒は誰もがしたくないので、「レシートはいりません」と断ってしまうか、レシートを受け取ってもレジ横に用意してあるレシート専用のゴミ箱に捨ててしまう人も多いはずだ。

経産省が目指すキャッシュレス決済比率40%、裏を返せば現金決済60%

レシートを電子化する「スマートレシート」を開発、提供している東芝テックのスペシャルサイト(https://www.smartreceipt.jp/special.html)によると、全国で1年間に消費されるレシート用紙は5.4万トン。A4用紙に換算して135億枚分になるという。1人あたり年間100枚以上のA4用紙をレシートとして消費している計算になる。この多くを捨ててしまうことになる。森林をどれほど伐採していることになるのだろうか。無駄であるばかりでなく、環境に対する負荷も決して小さくない。

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(東芝テックが開発提供する電子レシート「スマートレシート」のスペシャルサイトには、紙のレシートの問題点がわかりやすくまとめられている。レシート用紙の販売額は、年間960億円にもなるそうだ。紙資源の消費量も5.4万トンになる。)

経済産業省は、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%に高めたいとしているが、キャッシュレス決済40%ということは、裏を返せば現金決済60%ということであり、商店はキャッシュレスと現金の両方に対応しなければならず、効率が極めて悪い状態になる。

例えば、レシートでは、現金決済をした人は、いくら払ったかの控えとしてレシートを発行してほしいと思うだろう。しかし、キャッシュレス決済をした人は、手元に決済履歴が残るのでレシートは不要だと考えるだろう。

結局、商店は「レシートは御入り用ですか?」といちいち尋ねなければならず、レジオペレーションに余計なステップがひとつ加わることになる。

レシートは必ず手渡すことに統一し、カウンターに不要レシート入れを用意し、「不要な人は自分で捨ててください」という方式にするのが合理的だが、そうなると「不要なレシートをなぜ渡すのか」「紙資源の無駄ではないか」という声が上がることになる。レシートの発行をやめて、必要だと言われた時だけボタンを押してレシートを発行するようにすると、今度は「言われないとレシートを渡さないのか」と文句を言われることになる。

実は法律の規定にも適っている「客の方から言わないとレシートを発行しない」

しかし、この「客の方から言わないとレシートを発行しない」というのは法律の規定にも適っている。

そもそも、このレシートというのはどういう存在なのか。根拠は民法486条の「弁済した者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる」にある。レシートはこの受取証書に当たる。注意したいのは「商店が必ず発行しなければならない」ではなく「お金を払った消費者が請求できる」になっていることだ。つまり、請求しなくてもかまわない。受領証書の目的は、支払った証拠を残すということで、キャッシュレス決済の場合は、手元に履歴が残るのだから、そもそも必要ないのだ。

商品に問題があって返品をする場合、レシートが「その店で確かに購入した」という証明になる。しかし、これも明文規定があるわけではなく、商店側が「確かにウチで買ったお客様だ」と判断する状況証拠のひとつにすぎない。不用意に断言はできないが、常識で考えて、レシートの代わりにキャッシュレス決済の履歴を見せても、商店側のデータと突き合わせれば合致をするのだから、多くの商店では返品に応じてくれるのではないだろうか。

意味がなくなりつつある、会社の経費を使った場合の手書き領収書

会社の経費を使った場合は、手書き領収書を発行してもらうことが多いが、これもキャッシュレス決済により意味がなくなりつつある。会社が手書きの領収書にこだわるのは、わざわざ手書きの領収書を偽造してまで経費を多く請求しようと考える人はそうはいないということがある。一方、紙のレシートだと、私用で使ったものや他人が使ったものが紛れ込んで、うっかり会社に誤請求をしてしまうことがある。そのため、経理や監査部門は、手書き領収書にこだわるのだ。

法人税法では、領収書やレシートは帳簿書類に分類され、保存義務が課せられている。また消費税法で、領収書には「書類の作成者」「年月日」「商品やサービスの内容」「金額」「宛名」の5つが必要とされているが、一方で、小売店や飲食店のような不特定多数を相手にする商店では、宛名を省略してもいいことになっている。つまり、レシートには5要件のうち、宛名だけがないが、これでも立派に帳簿書類として通用することになる(もちろん、会社の経理や監査の考え方による)。

これがさらにキャッシュレス決済の履歴データになると、5要件がしっかりと明記されている。単純なプレーンデータでは偽造のリスクがあるが、クラウド管理をするなどすれば防止する方法はいくらでもある。

そうなると、経費専用の決済アプリなどをインストールし、会社に経費請求する決済はそちらでするようにすれば、社員は何もしなくても、自動的に経理処理ができるようになっていく。レシートは不要だし、領収書を書いてもらうことも必要がなくなる。社名が特殊で、宛名を書いてもらうのに、いちいち名刺を見せないとならない人にとっては、早くそうなってほしいことだろう。

「現金60、キャッシュレス40」という両建てでは、すべてが二重投資に


「2025年にキャッシュレス比率40%」という経済産業省の目標は、それが現実に達成可能ということもあるとは思うが、「現金決済が60%」ということであり、キャッシュレス決済を不安視する人たちに余計な心配を与えないという狙いもあるのかもしれない。現実の政策は、そうやって多くの人の同意を得ながら進めていくものなので、経済産業省の担当者のご苦労は大変なものがあるのだろうなと推測するが、「現金60、キャッシュレス40」という両建てでは、すべてが二重投資になってしまって、効率化が進まない。下手をすると、「現金決済の時より不便になった」と感じる商店も出てきかねない。

レシート問題はまさにこの狭間にある。キャッシュレス決済を推進するなら、レシートの電子化も推進していき、キャッシュレス決済の履歴データをレシートや領収書と同じように使えるようにしなければならない。

そうしないと、商店のレジオペレーションは「商品のスキャン」「決済方法の確認」「有料レジ袋の有無」「袋詰め」「レシート発行の有無」だけでも大変なのに、さらに「消費税還元ポイントの処理」「スピードくじ当選商品の用意」などなど、やることがどんどん増えていくばかりだ。

キャッシュレス決済は、消費者側からだけ見たらこんな便利なものはない。しかし、店舗側から見たらどうなのだろうか。特に、現金、キャッシュレス混在の場合にどうなのだろうか。そろそろキャッシュレス決済の社会的意義を議論し、環境を整えていかなければならない時期にきている。みなさんはどうお感じになっているだろうか。

著者プロフィール

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牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。