2025年春闘、物価高に対応できる"賃上げの波"を中小企業に広げられるか? --"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(27)

連載・インタビュー

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1. 2025年は「辰巳天井」の巳年、堅調な相場の流れになる?

2025年(令和7年)は巳年です。日本の株式市場では干支と相場を結びつける相場格言があり、今年は「辰巳天井」の巳年とされています。

その名のとおり、辰年と巳年は株価が天井をつけやすいことを意味しています。

実際、2024年の辰年は、日経平均株価が史上最高値を更新し、米国のNYダウやS&P500種株価指数も最高値を更新しました。2025年もその流れを引き継いで、企業業績が底堅い中、堅調な相場の流れになるのでしょうか。企業業績が好調であれば、私たちの賃金も上昇しやすくなり、生活にも良い影響が出てきます。

今回取り上げる記事は以下となります。

「日本企業トップが賃上げ定着に意欲、大企業は昨年並み5%」(出典:ロイター)

キーワードは『賃上げ 2025』です。

(今回のキーワード)

『賃上げ 2025』

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2.「賃上げ」を考える上でまず整理しておきたい「物価高」

賃金の動向を占う上で注目すべき毎年の恒例行事が今年も開催されました。経済3団体が1月7日に開催した新年祝賀会です。

この新年祝賀会では、企業のトップから賃金引き上げに意欲的な発言が相次ぎました。

多くの企業が昨年と同水準の5%程度を今年の「賃上げ」目標に掲げ、物価上昇を上回る「賃上げ」の定着に前向きな姿勢を示しました。

「賃上げ」を考える上でまず整理しておきたいのが、生活必需品を含めたモノの値段が上昇している「物価高」についてです。

本連載第2回でも解説しましたが、そもそもモノの値段=物価は「需要」と「供給」のバランスで決まります。需要が供給を上回れば物価は上昇し、逆に供給より需要が少ないと物価は下落します。

インフレとは、インフレーション(Inflation)の略語で、私たちが購入するモノやサービスの価格=物価が上昇する、つまり「物価高」の状態のことを指します。

さらに、このインフレには種類があり、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があります。

良いインフレは、企業業績が好調で景気も良い中、需要・消費が増加し、モノが売れるなかで企業の売上もさらに増え、販売価格も上昇し、従業員のお給料が増えることから、消費者が継続してモノを買うようになり、商品がたくさん売れて企業の売上増が続く...というような好循環の中で生まれます。良いインフレは「景気拡大の中で起こるインフレ」です。

一方、悪いインフレは、原材料や資源価格が上昇する中、仕入れ価格の上昇分を仕方なく商品価格に転嫁した結果のインフレであり、こうしたインフレのもとでは、企業の業績も回復せず、賃金も増えない状態となります。

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3.賃金が上昇しない中での物価高は家計を圧迫

賃金が上昇しない中での物価高は家計を圧迫します。

本来、モノが売れるためには、私たち消費者の所得が増え、買いたいものが買えるようになる必要があります。所得が増え、モノが売れやすくなる中での「物価高」こそが、企業の売上向上に繋がり、景気が上向く流れに結びつくのです。

つまり、所得が増加する中で起こる良いインフレは好景気の中で生まれます。

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4.中小企業の賃上げ、賃上げ「未定」の約3割の企業が「春闘の様子見る」

そうした経済の好循環を目指しているからこそ、企業のトップらは、昨年と同水準の5%程度を今年の「賃上げ」目標に掲げ、物価上昇を上回る賃上げの定着に前向きな姿勢を示したのです。

また、記事にもある通り、経済同友会の新浪剛史代表幹事(サントリーホールディングス社長)は祝賀会の冒頭、「何といっても消費者物価指数を上回る賃上げをしっかりと定着させることが不可欠」と述べ、特に雇用の7割を支える「中小企業の賃上げが鍵」として一層の賃上げを呼び掛けました。

これまで中小企業においては、大企業と同レベルの「賃上げ」は、なかなか浸透してきませんでした。

日本社会の全従業員数の7割を占める中小企業において"賃上げの波"が上手く広がらなければ、物価高が進むにつれ、家計がさらに厳しくなり、景気悪化に繋がります。

その「中小企業の賃上げ」については日本商工会議所の小林健会頭が、最新の調査で賃上げを「未定」としている約3割の企業が「春闘の様子をみながら賃上げする方向に動けば、昨年より若干、賃金を引き上げる企業が増えていく」と指摘しており、今後の動向が注目されます。

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5.春闘で電機連合が過去最高の要求額、中堅・中小企業にも大幅賃上げを促す方針

こうした企業の「賃上げ」の結果が示されるのが、読者の皆さんもよく知る「春闘」です。

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「春闘」とは「春季生活闘争」が正式名称であり、新年度となる4月に向けて、各企業の労働組合が労働条件について要求し、経営者側と交渉した上で決定します。2月になると大手企業を中心に、労働組合が企業に要求を提出し、春を迎える3月頃に企業からの回答が出始めることから「春闘」と呼ばれています。

春闘で要求・交渉・決定する内容は、月給やボーナスなどの賃金・一時金が中心となり、加えて最近ではワーク・ライフ・バランスを考えた労働時間の短縮や、育児・介護がある中でも働きやすい制度や仕組みづくりなども重要なテーマとなってきています。

また、正社員だけでなく、派遣社員、契約社員、パートタイマーとして働く人たちの労働条件や労働環境の改善など、「春闘」における交渉内容は年々、複雑化してきています。

大企業も中小企業も物価高に見合うだけの「賃上げ」を着実に実行し、経済の好循環を生み出せるかどうかが、今年も「春闘」の注目点となります。

ここ数年の春闘では「高水準の賃上げ」を実現してきましたが、物価変動を考慮した賃金である「実質賃金」は物価高を背景に低迷が続いています。そのため、民間大手の産業別労働組合組織である電機連合は、過去最高の要求額を掲げることで、大手だけでなく、中堅・中小企業にも大幅賃上げの流れが波及するよう促す方針です。

「賃上げ」は読者の皆さんにとって、まさに自分ごとです。「春闘」に関するニュースとセットで継続的にチェックして頂けたらと思います。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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