経済キャスターの鈴木ともみです。
この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.日銀は7月31日の金融政策決定会合で追加利上げを決定
7月下旬から8月にかけて、国内外で数々のニュースが報道され、金融・経済の分野においても、大きな変化が起きています。
そのうち、国内だけでなく海外からも注目を集めたのが「日銀 追加利上げ決定」のニュースです。
日銀は7月31日の金融政策決定会合で追加利上げを決定しました。
0〜0.1%としていた政策金利(無担保コール翌日物レート)を8月1日から0.25%に引き上げ、国債買い入れ額を月6兆円程度から2026年1〜3月に同3兆円に減らす方針も決めました。
日銀の植田和男総裁は記者会見で、景気の現状について「ゆるやかに回復している」との認識を示した上で、「物価が上振れるリスクに注意する必要があり、2%の物価目標の持続的・安定的な実現のために利上げの実施が適切だと判断した」と述べました。
そこで今回は、以下の記事を取り上げます。
『日銀 追加利上げ決定 政策金利0.25%程度に』(出典:NHK)
キーワードは『利上げ』です。
(今回のキーワード)
『利上げ』
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2.植田和男総裁は「強いブレーキが景気などにかかるとは考えていない」
記事にもある通り、今後の金融政策運営について植田総裁は「先行きの経済・物価・金融情勢次第だが、現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、今回の「展望レポート」で示した経済物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と述べています。
また、利上げによる景気への影響については「中長期的な意味で持続的・安定的な2%の物価目標を実現するという観点からは、少し早めに調整をしておいたほうがいいというのが1つ大きな理由となった。一方で利上げによって景気の腰折れリスクを高めてしまうという指摘に対しては、25ベーシスに上がったといっても非常に低い水準で実質金利で考えれば非常に深いマイナスだ。強いブレーキが景気などにかかるとは考えていない」との見解を示しました。
つまり日銀は、利上げ後も実質金利は大幅なマイナスが続くので、緩和的な金融環境は維持されるというメッセージを伝えているのです。
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3.本質的な経済の好循環を実現するには賃金や所得が増加することが重要
ただ、金融市場や社会全体の受け止め方としては、3月19日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の流れの中にあった「マイナス金利政策」を変更し、2016年1月の導入以来、柱となってきた「マイナス金利」を解除した時点から、日銀は利上げモードに入ったという印象を持っています。
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2007年2月以来、約17年ぶりの利上げという歴史的転換期を迎えた中での今回の追加利上げですから、当然、金融市場を始め、私たち一人ひとりの生活や家計への影響が気になります。
この連載においても何度か取り上げていますが、本質的な経済の好循環とは、消費者の需要が高まり、企業の売上が増え、販売価格も上昇し、従業員のお給料が増えることから賃金や所得が上昇し、さらに消費者はモノを買うようになり、商品がたくさん売れて企業の売上が増える...というような循環を指します。つまり、賃金や所得が増加することが重要となってくるのです。
この点について植田総裁は「5月の毎月勤労統計では一般労働者の所定内給与が伸び率を高めたほか、日銀が中堅・中小企業に実施したヒアリングでも幅広い地域、業種、企業規模で賃上げの動きが広がっていることが確認できる。先行きもこうした動きが一段と進むことが見込まれ、賃金と所得の増加が個人消費を支えていくと判断している」と述べ、今後も賃金の上昇と個人消費の増加を見込んでいるとしています。
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4.変動金利型住宅ローンの利用者にとっては、利上げによる金利上昇は大きな不安材料
ただ、利上げ転換の中では、債務を抱える政府や政策金利に敏感に連動する借入金利上昇の影響を受ける企業の資金調達面では逆風となります。
そして、私たち個人にとって最も関心が高いのは住宅ローン金利への影響でしょう。
この住宅ローン金利についても植田総裁は賃金の上昇との関連で次のように分析しています。
「(利上げに伴い、変動型の住宅ローン金利が上昇した場合の家計への影響については)、いわゆる5年ルールのようなものがあって、金利自体は上がっても利払い額は5年間据え置かれるというものが多いと認識している。5年間で賃金が先に上がっていて、そのあと、利払い額が上がるということになるので、その負担がかなり大きく軽減されると認識している」
と述べました。
とは言え、変動金利型住宅ローンの利用者にとっては、賃上げが今後も継続していくのかわからない状況において、利上げによる金利上昇は大きな不安材料となってきます。
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5.短期金利は様々な金利の「基点」、長期金利は「経済の体温計」
第5回で「長期金利」を取り上げた際にも解説しましたが、金利には短期金利と長期金利が存在します。
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一方、長期金利とは、1年以上の金融資産の金利のことを言い、代表的なものは10年物国債です。
短期金利と長期金利の最大の違いは期間ということになります。
短期金利が上昇すると長期金利も上昇し、企業の借入金利や住宅ローンの金利にも影響が出てくるため、短期金利は様々な金利の「基点」とされています。
一方、長期金利は景気の変動や、需給バランス、短期金利の推移、物価の変動など様々な要因で上下するのが特徴です。そうした特徴から、長期金利は「経済の体温計」とも言われています。
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6.変動金利型の住宅ローン金利は、短期金利の影響を受けやすい
そして、この短期金利や長期金利の影響を受けるのが住宅ローンの金利です。
住宅ローン金利は低いほうが、総返済額を低く抑えられます。特に固定金利の場合、借りた時点での金利によって総返済額が大きく変わってきます。
住宅ローンの金利には変動金利と固定金利があり、借入時には大きく変動金利型、固定金利選択型、全期間固定金利型の3つの金利タイプから選択できます。
異なる金利タイプを組み合わせて利用することも可能です。
変動金利型...半年ごとに金利が変化するが、返済額は5年ごとに見直す。
固定金利期間選択型...当初一定期間の金利を固定。固定期間は2年、3年、5年、10年、15年など。
全期間固定金利型...借入の金利が返済終了まで全期間にわたり一定。借入期間中の返済額が確定。
一般的に、変動金利型の住宅ローン金利は短期金利の影響を受けやすく、全期間固定金利型や固定金利期間選択型の住宅ローン金利は長期金利の影響を受けやすいとされています。
従って、住宅ローンにおいて変動金利型を選択した場合には、金融政策の影響を直接的に受けやすくなります。
また、都市銀行や地方銀行の住宅ローンは、短期プライムレートを基準金利として参照している場合が多くなっています。
短期プライムレートとは銀行などが信用力のある企業に対して適用する期間1年未満の短期貸し出しの最優遇貸出金利のことを言います。
大手銀行などでは、この短期プライムレートを変動金利型の住宅ローン金利の指標として採用しているのです。
変動金利型の住宅ローンの適用金利は多くの場合、短期プライムレートに一定幅を上乗せした基準金利から他行との競争や顧客の信用度なども考慮して設定される「優遇幅」を差し引くことで決定されています。
つまり、短期プライムレートが上昇すれば変動金利型の住宅ローンの返済額も増加することになります。
7. 返済額が増えても無理なく返済を続けられるかどうか確認
そうした中、三菱UFJ銀行やりそな銀行は9月以降、短期プライムレートを0.15%引き上げる予定で、他行も追随すると見られていますから、変動金利型で借りている人は適用金利が上昇することになりますので、返済条件を改めて把握し、返済額が増えても無理なく返済を続けられるかどうかを確認しておく必要があるでしょう。
固定金利期間選択型でも、固定金利期間終了時点の金利水準でその後の金利を決定するため、今後の日銀の金利政策の影響を受けることになります。
一方、固定金利型の住宅ローン金利は、代表的な長期金利である「新発10年物国債の利回り」を基準に決まってきます。既に住宅ローン契約をしている人の場合、全期間固定金利型ならば影響は少ないでしょう。
利上げがもたらす今後への影響は、全て私たちの自分ごとになりますので、継続的にニュースを追っていく姿勢が大切です。このコラムにおいても継続的に取り上げていきたいと思います。
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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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