経済キャスターの鈴木ともみです。
この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.米中首脳会談の実現の背景には中国側の変化!?
2023年11月中旬、世界が注目するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催された中、米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席が11月15日午前(日本時間16日未明)、米西部カリフォルニア州サンフランシスコ近郊で会談し、日本でも大きく報道されました。
両首脳は途絶えている米中両軍高官の対話再開で合意した他、AIに関する政府間対話を立ち上げることを確認しました。
この首脳会談が実現した背景には、中国側の変化があるとされています。
中国では足元の不動産不況など、経済の低迷が指摘されており、海外からの投資を呼び込むために主要国との関係改善を模索し始めたとの見方が強まっているのです。
実際に中国経済は、どのような現状なのでしょうか?
今回は、以下の記事を取り上げつつ、中国経済を見るポイントについて考えてみたいと思います。
『改革開放を重視 実権失った経済通―李克強前首相』(出典:東京新聞)
この記事を読み解くキーワードは『中国経済』です。
(今回のキーワード)
『中国経済』
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2.故・李克強前首相の名を冠した「李克強指数」とは!?
記事では、「経済通」の指導者として知られた故・李克強前首相の経済政策について解説しています。
李克強前首相は経済の構造改革を推し進め、外資誘致に向け投資環境の整備を加速させてきました。ただ、習近平国家主席と考え方の違いがあり、徐々に経済政策の実権を失っていったというのが大方の見方です。
その李克強前首相が推し進めた政策や経済の構造改革について理解するためには、「李克強指数」について知ることが大切です。
「李克強指数」とは、中国の第7代首相となった李克強氏が総理就任前の2007年に国内総生産(GDP)よりも信頼できる数値として挙げた「銀行融資残高・電力消費量・鉄道貨物輸送量」の3つをもとに作られた指数のことを言います (首相として就任した後の2015年に、新たに重視している数値として「雇用の安定、所得水準、環境」を挙げたことから、これら3つを「新・李克強指数」と呼ぶこともある)。
中国経済の実体を把握するための指標のひとつとされ、統計操作がしづらく、信頼性の高い3指標を用いて算出されることから、英エコノミスト誌も参照するなど、世界のエコノミストたちも注目する指標となっていました。
ただ、サービス産業の動向が反映されにくい側面もあり、中国の実体経済を判断できないとの声も一部聞かれていました。
取り上げた記事にもある通り、李克強氏が首相に就任した2013年以降は、政策の透明性確保などにも尽力し、その経済政策は一時、「リコノミクス」と呼ばれ、国内外でもてはやされました。
退任を1年後に控えた2022年3月の記者会見で「中国は40年以上に渡り、改革開放の中で発展した」と訴えるなど、改革開放を重視し続けてきましたが、任期途中から習氏への権力集中が加速する中、次第に李氏の影響力は弱まっていき、2018年以降は習氏側近の劉鶴副首相(当時)が実質的に経済の司令塔を務めるようになったとされ、李氏が首相を退任した今春以降は、中国政府が鉱物資源の輸出管理規制を強めるなど、国家統制を一段と強化する流れとなっています。
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3.中国経済を低迷させている要因として挙げられるのが不動産不況
冒頭で触れた中国経済の低迷ですが、特に中国経済を低迷させている要因として挙げられるのが不動産不況です。
直近では中国の住宅価格の下落が目立ちます。
中国国家統計局が11月16日に発表した10月の新築住宅価格指数によると、主要70都市のうち地方都市を中心に56都市が前月比で下落しており、下落した都市数は前月から2都市増え、全体の80%に相当しています。
また、中古住宅の価格においても、下落率が2014年10月以来、9年ぶりの大きさとなっており、不動産不況の根深さが窺えます。
と言うのも、中国では新築住宅の売買に関しては、地方政府が「値下げ制限令」を導入し、価格の下落を抑制する例も出てきていますが、中古住宅の取引については、自由な市場での取引が中心であるため、実際の需給が反映されやすく、実体が数字に表れやすいとされているのです。
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4.中古住宅価格が特に中小都市で下落、地方経済を一段と悪化させる恐れ
そうした中、2014年10月以来、9年ぶりの大きさとなっている中古住宅価格の下落率の拡大は、注視しておくべき現象です。
同時に、中国の住宅価格が都市の規模に応じて二極化している点も気になります。
大都市と比べ、特に中小都市で下落が続いています。地方都市には不動産以外に目立った産業がない地域も多く、不動産の長期低迷は地方経済を一段と悪化させる恐れがあります。
また、政府による不動産刺激策などの政策の効果は、大都市のみに集中しており、地域間格差を広げています。
中国の不動産不況は2年以上続いていますので、地方では財政面で見ても、地方政府が開発企業に国有地の使用権を売ることで得られる土地収入が減少し続けています。中小都市の経済低迷は根深く、地方財政は厳しさを増す一方です。
5.不動産大手の経営悪化も拡大
中国当局は8月末に不動産市場の刺激策を打ち出しましたが、その効果は出ておらず、中国恒大集団や碧桂園など、不動産大手の経営悪化も広がっています。
中国国家統計局が11月15日に発表した不動産開発投資は1~10月の累計で前年同期比9.3%減と悪化傾向が続いており、不動産は中国のGDPの3割程度を占めるとされる中、不動産不況が中国経済の低迷に影響を与えている状態が続いています。
一部、生産が持ち直すなど底打ちの兆しはあるものの、深刻な不動産不況を起点とする需要不足が続く中、不動産や地方債務の問題は解決の糸口が見えないまま、中国経済の先行き不透明感は拭えていません。
実際、中国国家統計局が発表した2023年7~9月のGDPは伸び率が前年同期比で4.9%の増加を示し、中国国内では「景気は6月末で底入れした」との見方があるものの、若年層の失業率が20%に達するなど、景気減速懸念は根強いのが現状です。
国際通貨基金(IMF)は2024年の中国の実質成長率が4.6%増に鈍化すると予測し、今後については不動産市場の不況が続き外需が低迷する中、人口の高齢化という逆風と共にGDPは徐々に鈍化していき、2028年には3.5%程度になると、一段の低下を見込んでいます。
6.習近平国家主席は景気の現状に強い危機感!?--市場経済の力が重要
国内経済の見通しが不透明となる中、習近平国家主席はAPECの関連会合にメッセージを寄せました。
中国経済について「長期的かつ安定した発展を達成できる自信と能力がある」と述べ、健全性を強調(中国国営中央テレビ(CCTV)が「習氏の演説内容」として報道)しました。
こうしたメッセージの背景には、先述した不動産不況に加え消費も伸びない中、中国経済の先行き懸念や不安を払拭し、中国を魅力的な投資先として売り込む狙いがあったものと見られています。
習氏は「中国経済は今年に入って回復と改善を続け、質の高い発展が進んでいる」と説明し、「長期的ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は変わっておらず今後も変わらない。中国の新たな発展が世界に新たな推進力をもたらす」と主張した上で、海外からの投資呼び込みに意欲を示し「ハイレベルな対外開放を断固推進する」と表明しました。
確かに中国経済は、一部、生産などに持ち直しの兆しが見られます。とは言え、深刻な不動産不況を起点とする需要不足が続く中、不動産や地方債務の問題は解決の糸口が見えないままであり、中国経済の先行き不透明感が払拭される状況には至っていません。
習氏の海外に向けたアピールや、年度の途中で大幅な予算の修正をするような追加の財政出動を打ち出したことこそが、景気の現状に強い危機感を抱いている表れであるとも言えます。
李克強前首相による「リコノミクス」は、市場経済化の徹底で民間の活力を引き出す政策の実現を目指していました。
不動産不況や需要不足など、中国経済の低迷から成長軌道に乗せるためには、やはり市場経済の力が重要となってきます。
世界第2位の経済規模を持つ中国の動向は、国際経済はもちろんのこと日本経済にも影響が及びますので、常に注視しておきたいものです。
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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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