この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.宇宙関連ビジネスが世界で急拡大
2023年もまもなく幕を閉じようとしています。
読者の皆様にとりまして、今年はどのような一年だったでしょうか?
今年は国内外の往来も再開し、コロナ禍の3年間は控えていた海外出張や海外旅行も復活した年となりました。あらためて世界を身近に感じ、広い視点を取り戻した方々もいらっしゃるのではないでしょうか?
さらに視野を広げてみると、今年は「宇宙開発」や「宇宙ビジネス」といった地球を超えた宇宙空間を舞台とするビジネスに、世界各国が本腰を入れ始めた年でもありました。
例えば、米電気自動車(EV)大手企業「テスラ」の最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏が率いる宇宙企業「スペースX」は、史上最大となるロケットと宇宙船「スターシップ」を打ち上げ、世界で大きなニュースとなりました。
また、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏が創設した宇宙開発企業「ブルーオリジン」は、月面着陸機を製造する契約先として米航空宇宙局(NASA)から選出されました。
人類の月面再着陸を目指すNASAは、現在、「アルテミス計画」を進めています。
NASAは2021年の段階で、月面着陸機「スターシップ」の製造に関し、「スペースX」と30億ドルで契約していましたが、今年に入り、米ロッキード・マーチンやボーイング、ソフトウエア会社ドレーパー、宇宙企業アストロボティックと協力し、月面着陸機「ブルームーン」を製造する計画を進めている「ブルーオリジン」とも34億ドルで契約を締結しました。
こうした動きからも、宇宙開発や宇宙ビジネスのトップランナーが米国であることを印象付けられた一年でしたが、ここ数年は他の先進国や新興国も宇宙分野に注力し始め、宇宙ビジネスが急拡大してきています。
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2.日本政府が「宇宙戦略基金」をJAXAに新たに設置
こうした流れを受け、以下の記事のように、日本政府も動きました。
『政府 JAXAに10年で1兆円規模の「宇宙戦略基金」設置へ』(出典:NHK)
今回のキーワードは『宇宙開発』です。
(今回のキーワード)
『宇宙開発』
記事にもある通り、宇宙開発競争が国際的に激化するなか、政府はJAXA(宇宙航空研究開発機構)に10年で1兆円規模の「宇宙戦略基金」を設置し、民間企業や大学などに対して宇宙開発のための資金支援を行い、国内の宇宙ビジネスの活性化を目指すことを決定しました。
米国のような変革を目指すために、国内の宇宙関連市場を2030年代の早い時期に4兆円から8兆円へ倍増させることを目標に掲げています。
米国では先述の通り、イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏らビリオネア(億万長者)が率いる民間企業が、ロケットなどを製造し、市場に価格破壊を仕掛け、宇宙ビジネス業界全体を変革しています。
資金が豊富な異分野の経営者が市場を牽引し、ロケットの打ち上げコストを低減化させるなど、宇宙産業に変革をもたらしているのです。
そうした中、世界における宇宙産業はスタートアップなどの参入により、「官主導」ではなく「民主導」で開発が進むようになりました。米モルガン・スタンレーの予測によると、宇宙産業の世界市場規模は2040年に1兆ドル超と現在の3倍に増える見通しとなっています。
このような世界の潮流において、「米国からは20年遅れている」と言われる日本も、遅ればせながら政府が「宇宙戦略基金」を設置、10年で1兆円規模を目指し、複数の年度にまたがって支出できることから大規模で長期的な支援を行い、商業化や他分野からの参入促進を目指します。
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3.「宇宙技術戦略」の柱となる3分野とは?
また政府は、これからの日本の宇宙開発に必要な技術を検討する「宇宙技術戦略」を新たに策定することも決め、年度内にまとめる方針です。
宇宙技術戦略は「衛星」と「宇宙科学・探査」、ロケットなどの「輸送」の3分野について具体的に検討し、開発のタイムラインを示すロードマップを策定します。
基金による支援は、「宇宙技術戦略」に沿って実施されることになり、スタートアップの技術をどこまで活かせるかが、今後の日本の宇宙開発を左右するカギになると言えそうです。
この「宇宙技術戦略」の柱となる3分野は、どれもこれからの時代における宇宙開発の注力分野に必要なテーマです。
3.1.「衛星」分野
一つ目の「衛星」分野における技術は、複数の小型衛星を一体で運用する「衛星コンステレーション」が重要視されています。
小型衛星によって、地上の状況を即時に把握することができ、高速通信を活用すれば北朝鮮による弾道ミサイルの迎撃といった安全保障にも繋がります。
実際に、2022年に経済産業大臣賞を受賞した宇宙スタートアップ企業「アクセルスペース」は、北極海航路の安全な航行を支援するために、世界初の商用超小型気象衛星「WNISAT-1」を開発し、北極海の氷の状況を観測し、安全な航路を支援する方法を提供しています。
他にも衛星データを用いれば、港の物流の状況から景気動向を推測したり、世界的に関心が高まっている環境問題を予測したり、農業の分野では大規模農場における農作物の生育状態を判別したりと、世界の経済活動に必要な情報を収集することができるのです。
併せて、宇宙空間の安全な活用を確保するスペースデブリ(宇宙ごみ)を除去する技術なども対象となる見込みです。
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3.2.「宇宙科学・探査」分野
また、「宇宙科学・探査」の分野では、大気圏突入や月の表面探査など化学探査も重要なテーマとなります。
3.3.「輸送」分野
そして、「輸送」の分野では、読者の皆さんも関心が高いであろう宇宙旅行や宇宙港が含まれます。
この分野においてNASAは宇宙飛行士や貨物の輸送が欠かせないISS(国際宇宙ステーション)や月の有人開発を目指す「アルテミス計画」など巨大プロジェクトを主導することで、民間企業にビジネスチャンスを提供してきました。
一方、JAXAの場合には、新たな市場を提供できるプロジェクトを進めるほどの予算はないものの、防衛省や国土交通省などと連携しながら、宇宙スタートアップなど民間企業が活躍できる市場を提供する仕組みを構築していくことが重要になってきます。
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4. 日本から世界的な宇宙ビジネスを発信するには、長期的な視野に立った政策が必要
欧州なども戦略的な資金供給機能を使った長期的な宇宙産業育成に注力しているほか、月着陸に成功したインドを始め、新たな国々の挑戦も目立ってきました。
「宇宙戦略基金」の設立を機に、日本から世界的な宇宙ビジネスを発信していくためには、様々な知見を活かしながら長期的な視野に立った政策が必要になります。
2024年は1月20日に日本初の月面着陸を目指す探査機「SLIM」(JAXA)が月面に着陸する予定となっており、目標地点に対する誤差を他国の探査機に比べて10分の1以上縮めた100メートル以内の「ピンポイント着陸」を実証することに成功すれば世界初、着陸に成功すればソ連(成功当時)、アメリカ、中国、インドに続いて5か国目となります。
きっと年明け早々に話題になることでしょう。
2024年は、世界で裾野が広がる宇宙産業を投資テーマとする宇宙関連企業の株価の動きにも関心が高まりそうです。
長期的な観点からも「宇宙開発」「宇宙ビジネス」に関する動向は注視しておきたいものです。
ロマンあふれる宇宙空間に思いを馳せつつ、どうぞ皆様よいお年をお迎え下さいませ。
来年も旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参る所存です。
引き続き、どうぞよろしく願いいたします。
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