経済キャスターの鈴木ともみです。
この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.そもそも「金利」って何?
今回はNHKの以下の記事を解説していきます。
『長期金利 一時0.775%まで上昇 約10年ぶりの高水準』(出典:NHK)
この記事を読み解くキーワードは『長期金利』です。
(今回のキーワード)
『長期金利』
この記事の通り、長期金利はおよそ10年ぶりの高い水準となっています。
金融市場において国債が売られると、債券の価格は下がり、金利が上昇します。
では、この「金利が上昇する」というのはどういうことで、金利が上昇するといったいどうなるのでしょうか?
その点を紐解く前に、まずは金利そのものについて、イメージを掴んでもらえたらと思います。
そもそも金利は、お金の貸し借りをする際に発生する手数料であり、貸し借りするお金に対する利子の割合のことです。金利は常に一定ではありません。
物の値段と同じように、マネー・お金の需要と供給のバランスによって変動します。
金利はマネー・お金の取引をする「金融市場」で決定されます。
例えば、お金を借りたい人が多く、お金を貸す人が少ない場合には、借りたい人は多くの手数料(利子の割合)を支払わなければ貸してもらえません。ですので、景気が良い時は一般的に支払う利子の割合、つまり金利は高くなります。
逆にお金を借りたい人が少なく、お金を貸したい人が多い場合には、借りたい人の支払う利子の割合、つまり金利は低くなります。ですので、景気が悪い時は一般的に支払う利子の割合、つまり金利は低くなります。
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2.金利には短期金利と長期金利がある
そして、その金利には短期金利と長期金利が存在します。
短期金利とは、1年未満の金融資産の金利のことを言い、代表例的なものが政策金利です。
一方、長期金利とは、1年以上の金融資産の金利のことを言い、代表的なものは10年物国債です。
短期金利と長期金利の最大の違いは期間ということになります。
ではまず、短期金利について詳しく整理しておきましょう。
短期金利の代表例である政策金利は、中央銀行が金融政策として操作・誘導する金利として、常に注目されています。
短期金利が上昇すると長期金利も上昇し、企業の借入金利や住宅ローンの金利にも影響が出てくるため、様々な金利の「基点」とされています。
短期金利は、多くの人がマネー・お金を必要とすれば上昇します。短期金利の上昇が行き過ぎた場合には、中央銀行が市場にマネー・お金を供給して金利上昇を抑えます。
一般的に、世界で最も注目されている短期金利は米国のFF(フェデラルファンド)金利です。
米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備理事会)がこのFF金利の誘導目標を変更し、利上げや利下げをすることで金融引締めや金融緩和を行います。
日本のFF金利にあたる金利は、無担保コール翌日物金利と呼ばれ、短期の資金を貸し合う「コール市場」における調達金利となります。
この他にも短期金融市場では、一時的な資金不足を補うために政府が発行する満期が数カ月の短期国債や企業が1年未満の資金調達をするCP(コマーシャルペーパー)も取引されています。
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3.長期金利は「経済の体温計」
このように短期金利は中央銀行の金融政策によってコントロールされているのに対し、一方の長期金利は、景気の変動や、需給バランス、短期金利の推移、物価の変動など様々な要因で上下するのが特徴です。
そうした特徴から、長期金利は「経済の体温計」とも言われています。メディアで報道される長期金利は、10年物国債の利回りを指します。
複雑な要因で上下する特徴を持つ長期金利ですが、様々な金利の「基点」となる短期金利の変動と連動して動くということが基本的な前提となります。
さらに長期金利は、将来の景気予測などによって実態を先取りすると捉えられており、短期金利より先に変動する傾向もあります。
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4. 長期金利と最も関係が深いのが景気動向
その上で、長期金利が変動する主な要因として挙げられるポイントを絞って、わかりやすく解説したいと思います。
長期金利と最も関係が深いのが景気動向です。
一般的に、景気が良くなれば金利は高くなり、景気が悪くなれば金利は低くなります。
好景気の時は個人消費も増加するので、企業は供給を増やすために設備投資や生産体制の増強を行おうと金融機関からマネー・お金の借り入れをします。
その結果、借り手が多くなり、金利が上昇するという仕組みです。
逆に景気が悪化すれば、資金需要が減少し、金利が低下します。
次に、金利は物価との関係からも変動します。
金利はマネー・お金の価値のバランスを取っており、物価が上がるとお金の価値が下がるため、物価上昇時には金利が上昇します。
一方、物価が下がるとお金の価値が上がるため、物価下落時には金利が低下します。
5. 金利が上昇すると企業が設備投資や生産体制の増強に消極的に
そして、日本の長期金利に着眼すれば、米国の長期金利の動きに連動しやすい特性もあります。
米国金利が上昇すると、日本の投資家は米国の債券を購入します。すると日本の債券の買い手が減ることから、国内の金利も上昇します。
さらに、長期金利と株価の関係を整理すると、長期金利が下落する時には株価が上昇するのが一般的です。
金利が低下すると、債券を購入するよりも株式を購入したほうが有利だと考える市場参加者が増え、逆に金利が上昇すると、株式を購入するよりも債券を買う人が有利だと考える市場参加者が増え、株価は下がりやすくなります。
また、金利が上昇するとマネー・お金を借りにくくなるため、企業が設備投資や生産体制の増強に消極的になります。
その結果、企業の売上げや利益が減少し、業績悪化から株価が下落する流れになります。
逆に、金利が低下すれば、お金を借りやすくなり、企業は設備投資や生産体制の増強を積極的に行い、事業を拡大します。
すると、売上げや利益が増え、業績の好調さを背景に株価が上昇しやすくなります。
6. 長期金利が上下すると個人の生活にはどのような影響がある?
続いて、長期金利が上下することが私たち個人にどのように影響するのかを整理しておきましょう。
長期金利の変動は、住宅ローンの固定金利に大きな影響を及ぼします。
今後、住宅を購入したいと考えている人は、景気動向とともに長期金利の変動をチェックしておく必要があるでしょう。
住宅ローンの金利は、低いほうが、総返済額を低く抑えられます。特に固定金利の場合、借りた時点での金利によって総返済額が大きく変わってきます。
住宅ローンの金利には固定金利と変動金利があり、借入時には大きく変動金利型、固定金利選択型、全期間固定金利型の3つの金利タイプから選択できます。
異なる金利タイプを組み合わせて利用することも可能です。
変動金利型
半年ごとに金利が変化するが、返済額は5年ごとに見直す。
固定金利期間選択型
当初一定期間の金利を固定。固定期間は2年、3年、5年、10年、15年など。
全期間固定金利型
借入の金利が返済終了まで全期間にわたり一定。借入期間中の返済額が確定。
一般的に、変動金利型の住宅ローン金利は、短期金利の影響を受けやすく、全期間固定金利型や固定金利期間選択型の住宅ローン金利は、長期金利の影響を受けやすいとされています。
従って、住宅ローンにおいて変動金利型を選択した場合には、金融政策の影響を直接的に受けやすくなります。
一方、住宅ローンの固定金利は、代表的な長期金利である「新発10年物国債の利回り」を基準に決まってきます。
2022年12月に日銀が長期金利の上限を引き上げたことを受け、2023年1月、大手都市銀行は10年固定型の住宅ローン金利を引き上げました。
今後日銀が短期金利を引き上げれば、住宅ローンの金利も上昇しやすくなります。
住宅ローンの金利が上昇すると、トータルの返済額が増加します。
既に住宅ローン契約をしている人の場合、全期間固定金利型なら影響は少ないですが、変動金利型は、返済額がそのまま増えるため、返済計画の見直しが必要になるでしょう。
固定金利期間選択型でも、固定金利期間終了時点の金利水準でその後の金利を決定するため、日銀の金利政策に影響を受けることになります。
変動金利型や固定金利期間選択型の住宅ローンの場合には、常に日銀の金利政策の動向と短期金利、長期金利の変動をチェックし、金利上昇への備えをしておく必要が出てきます。
前述したように金利が上昇すると、企業社会全体への影響はもちろんのこと、個人ベースでも住宅ローンの返済総額が増えるなど、生活経済そのものに影響が及びます。
特に最近は、日米の金利上昇が注目のトピックになっています。
金利が上昇するとどうなるか?を理解し、常にその動向を注視しておきたいものです。
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