金価格はなぜ上昇? 金相場の指標とは!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(7)

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経済キャスターの鈴木ともみです。

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1.「金価格」を考える際は、「国内価格」「国際価格」のどちらであるかが重要

早速ですが今回解説する記事は、NHKの以下の記事です。

『「金」国内の小売価格 最高値更新 1グラムあたり1万569円に』(出典:NHK)

この記事では、イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫化する中、比較的安全な資産として金を買う動きが広がり、国内の金の小売価格は10月26日に1グラムあたり1万569円をつけ、最高値を更新した(※上記記事掲載時点)ことが取り上げられています。同様に、様々なメディアで「金価格上昇!」と報道されています。

この記事を読み解くキーワードは『金価格』です。

(今回のキーワード)

『金価格』

金価格について整理する際には、この記事にある国内の金価格のことなのか、それとも金の国際価格であるニューヨーク金先物価格のことなのかを区別しておく必要があります。

この記事で取り上げている金価格は、国内の金価格についてであり、日本の地金商最大手である「田中貴金属工業」が発表した店頭小売価格となります。

田中貴金属工業の店頭小売価格のような国内の金価格は、ドル建ての国際的な金価格を基準とし、為替の動向も加味して決定されます。

記事の中に「円安が進んでいることも国内での金の価格を押し上げる要因」とある通り、国際的な金価格の上昇に加え、為替相場が円安・ドル高基調で推移してきたことも、国内の金価格を押し上げる要因となりました。

国際市場では、ドル建ての金取引が基本となりますが、日本国内での金の売買はドルを円に換えて取引することになります。そのため、為替も国内の金価格の変動に関係してきます。

例えば国際市場の金価格が下落していても、円安で国内の金価格が上昇する場面があるのは、ドルを円に換えて取引するという日本の特殊な形態も起因しているのです。

つまり、円安が進めば日本での金価格が上昇することになります。

また、金は投資家の代替通貨や代替資産としての性質もあり、通貨価値の低下により金への投資が増加するため、金価格が上昇しやすくなるのです。

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2.国際的な金相場の指標「NY金」とは?

では、為替動向と金価格の関係を整理したところで、国内の金価格の基準となり、国際的な金相場の指標となるNY金について説明します。

NY金とは、ニューヨーク金先物のことを指します。

米国のニューヨークにあるCMEグループ(※1)のNYMEX(ニューヨーク・マーカンタイル取引所)という商品先物取引所の一部門であるCOMEX(※2)で取引されているのがニューヨーク金先物」です。

(※1 世界屈指のデリバティブ取引所の運営会社)

(※2 Commodity Exchangeの略、日本語ではニューヨーク商品取引所と呼ばれる)

その金先物の価格が国際的な金相場=金価格の指標となっています。

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3.金は他の金融資産との比較で価格が決まる傾向

直近では、このNY金の価格が上昇基調にあります。

そもそも金は、それ自体に価値がある実物資産です。

また、金は他の金融資産との比較により、代替資産としての需要で価格が決まる側面があります。

最近の金価格の高騰も、これらの特徴から説明できます。

世界で地政学リスク(※3)が高まると、国際金融市場では株式などのリスク商品へ投資する市場から資金を引き揚げ、安全資産である金に資金・マネーを移す動きが出てきます。

(※3 地理的な位置関係が地域にもたらす政治的、社会的、軍事的な緊張から生じるリスク)

こうしたことを金融市場では「有事の金買い」と表現します。有事とは、戦争や大規模災害などを含めた非常事態のことです。

「有事の金」という言葉は、1970年代に生まれたとされていますが、これまでの歴史において、有事の際には資産の逃避先として金(実物資産)を買う動きが強まる傾向が見られたことから「有事の金」という言葉が定着するようになりました。

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4.NY金の価格は「インフレヘッジの金買い」によって上昇する側面も

冒頭のニュースに戻りますと、「イスラエル・パレスチナ情勢が緊迫化する中、比較的安全な資産として金を買う動きが広がり」とありますが、この流れはまさに安全資産としての「有事の金買い」によるものなのです。

さらに、NY金の価格は「インフレヘッジの金買い」によって上昇する側面もあります。

では、この「インフレヘッジ」とはどういうことなのでしょうか?

第2回のこのコラムで取り上げた通り、インフレとは、インフレーション(Inflation)の略語で、私たちが購入するモノやサービスの価格=物価が上昇することを指します。

モノの価格が上昇しますので、モノに対するお金の価値は低下します。

そうした中で、インフレヘッジとは、お金・現金に近い資産からインフレによって価格が上昇しそうな資産に乗り換えることを意味します。

インフレになった時に価値が目減りする(価格が下落する)代表的な資産には、現金や国債などがあり、逆にインフレになると価格が上昇する資産の代表格として挙げられるのがなのです。

ですので、長期的視点で見ると、NY金の価格はドルの価値を表すドル指数と逆相関の関係になります。

金は基軸通貨であるドルを代替できるため、ドル安になると金の需要が高まり、金の価格が高くなりやすくなるのです。

そしてもちろん、国際的な指標でもあるNY金の価格動向は、国際情勢の影響を受けます。

さらに、金融市場において他の資産の代替資産になることから、金利の動向や、原油価格、世界の株価、為替相場との相対比較で取引されることで、金の価格は決まります。

ある意味、NY金の価格動向を追っていれば、国際金融市場全体の資金・マネーの流れや国際情勢が見えてくるわけです。

日本国内にいると、国内の店頭小売金価格の報道が中心となり、一般的にはNY金の価格動向について触れる機会は少ないですが、世界的視野を身に付けるという意味でもNY金の価格動向については、常に注視しておきたいものです。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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