なぜ円安? いつまで続く!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(3)

連載・インタビュー

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1. 様々なメディアで「円安の流れが止まらない」との報道

早速ですが今回はBloombergの以下の記事を解説していきます。

『ゴールドマン、1ドル155円まで円安進むと予想-日銀ハト派堅持なら』(出典:Bloomberg)

この記事の通り、ゴールドマン・サックス・グループは円の対ドル相場について、日銀(日本銀行)がハト派的な姿勢を堅持すれば30年余り前の水準まで円安が進む可能性があるとの見方を示しました。カマクシャ・トリベディ氏ら同行ストラテジストは、円は今後6カ月で1ドル=155円を付けると予想。これは1990年6月以来の円安水準となります。

様々なメディアで「円安の流れが止まらない」と報道されています。

1973年以降、変動為替相場制となった為替相場において、過去最高の円高は2011年10月31日の1ドル=75円32銭ですから、そこから通貨の価値はおよそ半分に目減りしたことになるのです。

この記事を読み解くキーワードはやはり『円安』です。

(今回のキーワード)

『円安』

1.1.日本で最も注目されるのがドル円相場

そもそも1ドル=〇〇円という為替レートは、ある国の通貨を他国の通貨に交換するときの取引価格(交換比率)を示しています。

為替レートは、各国の経済情勢の変化や個別のニュースなどに反応して常に変動し、国際的な取引決済に重要視されているのが米ドルとの為替レートであり、多くの国が米ドルを基準とし、日本で最も注目されるのがドル円相場です。

変動相場制において為替相場は、市場における需要と供給のバランスによって決まり、モノやサービスの価格が決まるのと同じ原理です。

1.2.各国の通貨を交換(売買)する市場が「外国為替市場」

また、外国為替市場とは海外から輸入したり、海外に行く場合や、国内の投資家が外貨建て金融資産を売買する際に円と外貨を交換したりするなど、様々なニーズを満たすために各国の通貨を交換(売買)する市場です。

外国為替取引は24時間に渡り、世界のどこかで行われており、ニューヨーク、ロンドン、東京は世界三大市場とされています。

各々証券取引所のように取引所が設置されているわけではなく、その国で取引される主要な時間帯が外国為替市場が開いている時間となっています。

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2.為替レートの決定要因として重視される「金融政策によって生じる金利差」

そして、『金融論』の分野でも学ぶ「為替レートの決定要因」として重要視されているのが「為替レートを司る金融政策によって生じる金利差」です。

2.1.かつては貿易収支の影響大、現在は国境を越えたお金の貸し借りや投資の影響が増大

かつて、為替レートは経常収支によって決まるとされていて、経常収支が赤字になると、その支払いのためにドルが必要になり、円を売ってドルを調達しなければならず、円安になるという流れがありました。貿易という実需によって換算レートが決まる考え方です。

ですが、現在は、輸出や輸入などモノの売買動向よりも、国境を越えたお金の貸し借りや投資の動きの方が規模が大きいため、それらの動きが為替相場を左右しやすく、資金移動は貿易という実需よりも大きな規模で外貨交換が行われるようになっており、各国の金利差が為替レートの主な決定要因になってきています。

2.2.資産運用する場合に金利が高い通貨の需要が高まる

もちろん、国と国の間を行き交うお金の動きは大変複雑で、為替レート(為替相場)も複雑に変動していますが、ここでは、「為替レートは主に金利差によって決まる」という点に着眼し、シンプルに説明したいと思います。

例えば、日本よりも米国の金利が高ければ資産運用する場合にも米国で運用した方が収益的にも有利になり、ドルの需要が高まります。そのため、円を売ってドルを買う動きが強まるわけです。すると、結果、円安・ドル高になります。

よく金融市場では、「マネー(お金)は金利の低い方から高い方へ流れる」と言われますが、このフレーズを覚えておくと、頭の中を整理しやすいかもしれません。

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3. 各国の金利は「中央銀行」が決める

では、為替レートの主な決定要因とされる各国の金利は誰が決めているのでしょうか?

それは各国の中央銀行ということになります。

3.1.米国ではFRB、EU・欧州ではECBが政策金利を決定

米国では、FRB(Federal Reserve Boardの略・連邦準備制度理事会)FOMC(連邦公開市場委員会)を開き、金融政策や金利誘導目標について議論した上で政策金利を決定します。

EU・欧州ではECB(European Central Bankの略・欧州中央銀行)理事会を開き、政策金利を決定します。

3.2.日本では日銀(日本銀行)が政策金利を決める

そして日本では、日銀(日本銀行)金融政策決定会合を開いて金融政策運営の基本方針を決定し、公開市場操作などを通じて金融市場調節を行います。

かつては支払準備率操作や公定歩合(現在の基準割引率および基準貸付利率)の調整が金融政策の手段となっていましたが、現在は、公開市場操作を中心とした金融政策と金融市場調節が行われています。

代表的な例として、2013年に市場に供給される資金(マネー)の量を増やす「量的緩和」長期国債の買い入れなどを拡大する「質的緩和」を組み合わせた「量的・質的金融緩和」が開始され、2016年には「量的・質的金融緩和」を発展させた「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入されました。

3.3.マイナス金利とは?

マイナス金利とは、金融機関が日銀(中央銀行)に預ける預金の金利をマイナスにすることです。

マイナス金利政策のもとでは、金融機関は日銀に資金を預けておくと金利を支払わなければならないため、日銀に資金を預けるよりも企業への貸し出しや投資に資金(マネー)を回すようになり、経済の活性化に繋がります。

その後も量的・質的金融緩和を強化する形で導入された「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」や、2020年に新型コロナウイルス感染症への対策として決定された「金融緩和の強化」など、日銀は長年にわたり金融緩和政策を続けてきました。

3.4.『マネー(お金)は金利の低い方から高い方へ流れる』

この金融政策を日米で比較すると、米国は記録的なインフレを抑え込むために急速な利上げを続けるなか高金利となっている一方、日本は金融緩和政策を続けるなかマイナス金利となっています。

つまり、米国と日本との間で金利差が生じているため『マネー(お金)は金利の低い方から高い方へ流れる』という基本のもとに、円を売ってドルを買う動きから、円安・ドル高になっているのです。

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4.「金融緩和を好み、利上げには消極的」とされるのが『ハト派』

また、最初のニュースに戻りますと、ニュースタイトルに『日銀ハト派堅持なら』とありますが、この『ハト派』という表現についても理解しておいて下さい。

4.1.ハト派はもともと政治用語、平和的な「鳩」をイメージ

ハト派とは、もともとは政治用語で、攻撃的な「鷹」に対し平和的な「鳩」をイメージする中で用いられるようになった用語です。

鷹をイメージするタカ派は物価の安定を重視し、金融引き締めに積極的で利上げを好む傾向がある一方、鳩をイメージするハト派は、経済の活性化と雇用の安定を重視する立場から金融緩和を好み、利上げには消極的であるとされています。

4.2.ハト派はインフレ抑制よりも経済活発化と雇用の確保を優先

つまり、タカ派は物価の安定を優先するために利上げによって、インフレを抑えようとする立場であり、ハト派はインフレ抑制よりも経済を活発化させ、雇用を確保することを優先するために、利下げによって世の中にマネーを供給し、景気浮揚を目指す立場です。

ニュースタイトルにある『日銀ハト派堅持』とは、金融緩和政策を続けてきている日銀の方針や姿勢をハト派であると定義し、日銀がこの立場を変えずに堅持するならば、日米の金利差は縮小することなく、高金利であるドル需要は強いまま、円を売ってドルを買う流れは続き、円安・ドル高の流れもさらに続いていく、ということを意味しています。

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5.日銀がいつ金融緩和姿勢を変え、金融正常化に向かうのかに関心

ただし、今、市場参加者の間では、FRBがいつ利上げを打ち止めし、さらには利下げに転じるのか、一方の日銀がいつ金融緩和姿勢を変え、金融正常化に向かうのかに関心が集まっています。

5.1.FRBによる利上げ打ち止めへの期待高まる

実際、アメリカのインフレ動向を見るとCPI(消費者物価指数)は鈍化してきており、FRBによる利上げ打ち止めへの期待は高まっています。

5.2.日銀の植田総裁の発言で早期のマイナス金利解除への思惑が強まる

一方、日本はイールドカーブ・コントロール(YCC、長期金利操作)の修正がなされ、金融正常化に向かうのではないかとの見方が出てきていることに加え、日銀の植田総裁がマイナス金利の解除について「物価上昇に確信が持てれば選択肢になる」とコメントしていることから、早期のマイナス金利解除への思惑が強まってきています。

日米の金利政策が方向転換するということは、日米の金利差も縮小することになり、高金利のドルに向かっていたマネーの流れにも変化が生じることも考えられます。そうなると、円安ドル高の流れも止まる可能性が出てくるのです。

従って、市場参加者は、そのタイミングがいつになるのか、FRBや日銀、そしてECBなどの中央銀行による金利政策の決定を常に注視しているわけです。

各国中央銀行の金融政策は私たちの経済社会に大きな影響を与えると共に、為替相場の動向を大きく左右します。為替レートの変動と各国中央銀行の金利政策については常にセットで理解し、注視しておきたいものです。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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