インバウンドとは? インバウンド需要の現状と日本経済への影響--

インバウンドとは? インバウンド需要の現状と日本経済への影響--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(9)

経済キャスターの鈴木ともみです。

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1.2023年の「売れたものランキング」から見えてくるものは?

いよいよ12月になりました。年末を迎えるにつれ、一年を総括する様々なランキングが発表されます。調査会社「インテージ」は12月6日、全国の小売店販売データを基に推定販売金額の伸びをまとめた2023年の「売れたものランキング」を発表しました。

そこで今回は、同ランキングを紹介した以下の記事から見えてくるものについて考えてみたいと思います。

『2023年売れたものランキング、トップは外国人に人気のあの薬(出典:毎日新聞)

この記事を読み解くキーワードは『インバウンド』です。

(今回のキーワード)

『インバウンド』

この記事によると、「2023年売れたものランキング」の1位は強心剤(医薬品)、2位が口紅(化粧品)、3位が検査薬(医薬品)となりました。

このランキングは、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストアなど約6000店舗の小売店の販売データ(今年1~10月)を基に集計した結果です。

1位の強心剤(前年比約1・8倍)は、動悸、息切れなどへの効果をうたう医薬品です。日本の医薬品は中国などアジアの訪日外国人旅行者に人気があり、新型コロナウイルス禍が落ち着き、観光客が戻ってきたことで、売り上げが急回復したことが理由にあるという内容でした。

いわゆる「インバウンド」需要です。

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2.非製造業の景況感が1991年以来の高水準、背景に「インバウンド」需要

インバウンドに関しては、日銀が10月2日に発表した9月の『企業短期経済観測調査(短観)』(※)の結果においても、非製造業の景況感が1991年以来の高水準となりました。

(※ 景気の現状と先行きについて企業に直接アンケート調査をし、その集計結果や分析結果をもとに日本の経済を観測するデータ)

その背景には、新型コロナウイルス禍から回復するインバウンド需要がサービス業に寄与したことが理由として挙げられていました。

この結果からもインバウンド消費は一時的なムーブメントではなく、日本の経済成長においても重要な位置を占めるようになってきていることがわかります。

そもそもインバウンド(inbound)とは、「in=入ってくる、内向きの」という意味の英語で、観光関連業界などでは「訪日外国人旅行者」と解釈されています。インバウンドの対義語は、アウトバウンド(outbound)であり、「中から外へ」という意味を持っています。

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3.インバウンドという頻繁に言葉が使われるようになったのはいつ頃?

このインバウンドという言葉が頻繁に使われるようになったのは、官民が一体となって観光事業に取組み始めた頃からです。

2007年、日本を観光立国にしていこうという施策の下に「観光立国推進基本法」が施行され、国際競争力が強く、魅力に満ちた観光地の形成観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成国際観光の振興観光旅行の促進のための環境の整備などに必要な施策を講じ、総合的かつ計画的な推進を図るために「観光立国推進基本計画」が定められました。

翌2008年には観光庁が設置され、官民一体での観光振興策が進められる中、訪日外国人旅行者数は2013年以降急増します。

JTB総合研究所によれば、2005年に670万人だった訪日外国人旅行者数は、2015年には1,973万人となり、1970年以来45年ぶりに訪日外国人旅行者数が日本人海外旅行者数を上回り、「インバウンド」が『ユーキャン新語・流行語大賞』にノミネートされるまでに、社会に浸透するワードとなりました。

そうした勢いのもと、2019年には『ラグビー・ワールドカップ2019日本大会』が開催され、欧米豪からの訪外国人旅行者数が増え、順調な伸びを記録していきます。その流れの中で、『東京2020大会』開催も2020年に予定されていた状況下、さらなる伸びが期待されました。

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4.コロナ禍で需要低迷するも、2022年から回復基調

しかし残念ながら、新型コロナウイルス感染症の拡大で2020年3月以降は減少が続き、最終的に2020年の訪日外国人旅行者数は411万6000人と、1998年の水準に戻ってしまいました。コロナ禍が続く中、2021年は24万5900人と低迷。

ただ、2022年になると局面が変わり、6月に団体旅行、10月に個人旅行が解禁されたこともあり、終盤にかけてインバウンド客が戻ったことで、訪日外国人旅行者数は383万1900人まで回復しました。

そして今年、2023年は1月~9月の累計ですでに1,737万4,290人に達しています。

JNTO(日本政府観光局)が10月分の訪日外国人旅客数を発表していますが、それによると251万6500人となっており、その分を加えた1月~10月の累計では、約1989万人となり、年間2,000万人超達成も具体化してきました。

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5.政府がインバウンド拡大に向けた行動計画、日本経済の行方を占う上でも重要に

今年5月、政府は訪日外国人旅行者数を2025年までに3200万人に拡大することを目指す方針を観光立国推進閣僚会議で示しています。

この会議では、インバウンド拡大に向けた行動計画をまとめ、2025年までにビジネス目的の訪日外国人旅行者の旅行消費額を新型コロナウイルス禍前の2019年と比べて2割増の8600億円に拡大させ、インバウンドの早期回復へ道筋をつけるとしました。

行動計画は、(1)ビジネス(2)教育・研究(3)文化芸術・スポーツ・自然、の3分野を中心に具体策を盛り込み、ビジネス目的の訪日外国人旅行者数の2割増の他、スポーツ目的の訪日外国人旅行者数も2019年の229万人から2025年までに2割増やすという目標を掲げています。

このように国をあげての方針や計画が公表される中、日本経済全体にインバウンド効果の波及が表れ始めています。

財務省が12月8日に発表した10月の国際収支統計(速報)によると、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支は2兆5,828億円と9カ月連続の黒字となり、そのうちインバウンドの増加と共に、旅行収支の黒字が最大となりました。

経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支、旅行収支を含むサービス収支、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支などで構成されています。

経常収支の黒字幅は、比較可能な1985年以降で10月としては最大となりましたが、そのうち、訪日外国人旅行者数の回復が寄与し、旅行収支の黒字が経常収支全体の黒字を支えました。旅行収支は3207億円の黒字となり、比較可能な1996年以降、最大を記録しています。

このようにインバウンドは日に日に勢いを増しています。

ただ、この勢いと流れがどこまで続くのか...。

日本経済の行方を占う上でもインバウンドの動向は常に注視しておきたいものです。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ
経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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