経済キャスターの鈴木ともみです。
この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.岸田文雄首相が10月中をめどとした経済対策の取りまとめを表明
早速ですが今回はロイターの以下の記事を解説していきます。
『来月中に経済対策取りまとめ、補正予算は内容踏まえ=岸田首相』(出典:ロイター)
この記事の通り、岸田文雄首相は9月13日、内閣改造後に記者会見し、今月中に閣僚へ経済対策の柱建てを指示し、10月中をめどに取りまとめる方針を示しました。
補正予算の編成は、対策を取りまとめ後に「その内容を踏まえてしかるべきに指示する」とし、経済対策の内容は、物価高から国民生活を守るための対策、物価高に負けない構造的賃上げと投資拡大の流れを強化する取り組み、人口減を乗り越えるための社会変革などになると説明しています。
また、新しい資本主義に向けた取り組みを加速し「物価上昇率プラス数パーセント」の賃上げを継続的に実現するための政策や将来の成長基盤の整備を進め、デフレからの脱却を確実にすると抱負を語りました。
すでに政府・自民党は、内閣改造・党役員人事を終え、経済対策の具体的な検討に入っています。野党が持続的な賃上げやガソリン税の減税を訴えている中、ガソリンは年末まで、電気とガスは当面の間、必要な経費をすでに用意してある補正予算から拠出することになっており、それ以降の補助をまかなうためには、首相が新たな補正予算も指示する方針です。
経済対策は10月をめどにとりまとめられ、その上で2023年度補正予算も成立させたい考えです。
そうしたなか、この記事を読み解くキーワードは『補正予算』です。
(今回のキーワード)
『補正予算』
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2.そもそも補正予算とは?
そもそも補正予算とは、どのような予算なのでしょうか。
2.1.補正予算とは、本予算の成立後に新しく組まれる予算
調べてみると、補正予算とは、本予算の成立後に新しく組まれる予算であるとされています。
国または地方公共団体の予算として、経費不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき、追加や変更を行うために作成され、4月から翌年3月までの1年間を規定する本予算に途中で変更(補正)を加えた予算です。
これまでの国の補正予算を紐解くと、経済対策や災害対応を理由にしたケースが多く、最近では、2020年~2021年に新型コロナウィルスの影響で3回の補正予算が組まれたことも話題になりました。
2.2.国の予算は大きく分けて「一般会計予算」と「特別会計予算」
国の予算には、大きく分けて「一般会計予算」と「特別会計予算」があります。
一般会計予算は、国の基本的な収入と経費を盛り込んだ予算であり、租税などの一般的収入の見積りを基礎に、「国家の行政」「防衛」「文教・科学振興」「産業関係」「社会保障」などの政策的な経費の支出を見積もったものです。
これに対して、特別会計予算は、国や地方公共団体が一般会計予算と区別して法律に基づき設置するもので、特定事業や特定の資金用途、その他特定歳入で特定歳出にあて、一般の収入や支出と区分する必要がある時に限り、認められる予算です。
2.3.「本予算」「補正予算」「暫定予算」の 違い
そして予算は、さらに「本予算」「補正予算」「暫定予算」の 3 つに分けられ、国の予算は、4月から翌年3月までの1会計年度の収入と支出の見積りで決まります。
国の予算では、収入を歳入(さいにゅう)と言い、支出を歳出(さいしゅつ)と言います。
私たちにとって身近な家計資産の管理や企業会計と同じように、国の予算も国を運用するために必要な1年間の収入と支出のお金の見積りを立てる必要があるのです。
国であっても、地方公共団体であっても、財政活動を行う際には、収入の見込みと使い途の予算を立てなくてはなりません。
そうした中、国が予算を立てる場合は、毎年1月に召集される通常国会で「来年度予算案」として審議され、4月1日時点の国会で、本予算(4月1日から翌年3月31日までの会計年度の当初に成立する予算)を成立させます。
本予算を成立させられずに、必要経費を計上しなくてはならない場合には、本予算が成立するまでの間、暫定予算が組まれることになります。
また、予算が成立した後に追加費用を計上しなくてはならない場合には、本予算とは別にさらなる予算が組まれます。これが補正予算です。
その補正予算が国会で成立すると、本予算と一体となります。
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3.本予算(当初予算)からの増額分が出てくるため注目度が高い
2023年度予算においては、一般会計歳出が114兆3812億円と過去最大となり、2022年度には2度の補正予算が組まれているため、これらを含む補正後予算ベースでみると、一般会計歳出は139兆2196億円となっています。
補正予算は、年度の途中で組み直した予算ですが、本予算と同様に国会での審議を経て成立し、不足分を補うことから本予算(当初予算)よりも増額分が出てくるため、経済対策としての補正予算が「どのくらいの規模で成立するのか」に注目が集まるのです。
補正予算により、公共事業や中小企業・小規模事業者向けの補助金事業が活発に行われれば、景気は刺激され、個人消費の増加や雇用創出や創業促進などに繋がります。
なお、補正予算は11月から12月の間に予算編成が行われ、翌年の1月頃の国会審議を経て成立し、4月以降に執行されます。
政府はすでに、ガソリンや電気、都市ガスへの補助について、2022年度第2次補正予算の残りを使って賄うことで9月末の期限を延長すると決めており、新たな補正予算はそれ以降の補助をするために必要な財源にするとしています。
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4.補正予算の成立がずれ込めば経済対策の効果が出るまでに時間がかかる可能性も
最初のニュースに戻りますと、補正予算編成にも繋がる経済対策の内容について岸田首相は、
「物価高から国民生活を守るための対策、物価高に負けない構造的賃上げと投資拡大の流れを強化する取り組み、人口減を乗り越えるための社会変革などになる」
と説明。
「新しい資本主義に向けた取り組みを加速し「物価上昇率プラス数パーセント」の賃上げを継続的に実現するための政策や将来の成長基盤の整備を進め、デフレからの脱却を確実にする」
と述べています。
ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー高を始め、円安の進行などによる物価高に賃金上昇が追いつかず、私たちの生活経済に影響が及び始めていることから、政府としては9月中に経済対策の柱立てを閣僚に指示し、10月にもとりまとめたい方針であるということです。
そうしたなかで、必要な経済対策の裏付けとなるのが2023年度補正予算になるわけです。ですので、補正予算の増額分と合わせて、その財源や使い途に注目が集まります。
財源については、国債などに頼れば、結果的に将来の国民負担が増えることにも繋がるとの懸念があるため、今後も審議が進まず、補正予算の成立がずれ込めば、経済対策の効果が出るまでに時間を要することになります。
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5.国の予算について知ることは他人事ではない
今の日本には、一般会計歳出を使って取組むべき課題は、経済対策を始め他にも数多くあります。
安全保障面で防衛関係費、将来を見据えた子ども予算、高齢化に伴う社会保障費等...。
それらを補う歳入の半分以上は、当然のことながら所得税、法人税、消費税など、私たち一人ひとりが納めている税金となるわけです。
ですので、国の予算につい知ることは、決して他人事ではありません。
今後も補正予算に関するニュースが報道されると思いますが、その増額分と使い途を理解し、経済対策や社会課題の解決に繋がる取組みであるのかどうかを、しっかり注視しておきたいものです。
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