インフレとは? インフレーションの意味や種類を簡単に紹介--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(2)

連載・インタビュー

経済キャスターの鈴木ともみです。

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」で解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1.食料品の度重なる値上げが国民の生活を直撃

早速ですが今回は、「東京商工リサーチ」の以下の記事を解説していきます。

『「飲食料品値上げ」 上半期の最多は「加工食品」 対象品目は約3万品、秋には値上げ第3波も ~主要飲食料品メーカー200社の「価格改定・値上げ」調査~』(出典:東京商工リサーチ)

この記事の通り、2023年上半期(1-6月)の飲食料品の値上げは、主要メーカー200社の出荷分だけで約2万品(1万9903品)にのぼっています。

上半期の値上げの特徴は、練り物や缶詰、ハム・ソーセージなどの加工食品やしょうゆ、たれ類など、日々に食卓に欠かせない商品が中心。円安やエネルギー価格の上昇で、原材料や輸送などのコスト高を背景に、メーカー各社は値上げや内容量の削減を実施しました。

最近では、9月1日にも調味料や菓子など2067品目が値上げされ、みそやしょうゆなどの調味料や、冷凍食品などの加工食品、菓子、アイスなど多岐に渡り、値上げラッシュが続いています。

10月もすでに3000品超の値上げが予定されるなか、今秋以降も値上げの波が押し寄せ、値上げ=物価上昇=インフレの状況はまだまだ続きそうです。

この記事を読み解くキーワードは『インフレ』です。

(今回のキーワード)

『インフレ』

様々なメディアで「値上げ」や「インフレ」というワードが飛び交っている昨今ですから、若手社会人の皆さんもニュースワードとしてはもちろん、ご自身の生活実感としても「値上げ」「インフレ」の影響を感じているのではないでしょうか?

そもそもモノの値段=物価は「需要」と「供給」のバランスで決まります。需要が供給を上回れば物価は上昇し、逆に供給より需要が小さいと物価は下落します。

そして、物価が上昇するインフレとは、インフレーション(Inflation)の略語で、私たちが購入するモノやサービスの価格=物価が上昇することです。

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2.インフレにも種類がある!?

さらに、このインフレにも種類があるというのはご存知でしょうか?

例えば「良いインフレ」「悪いインフレ」という表現は聞いたことがあるかもしれません。

良いインフレは、社会の景気が好調な中、需要・消費が増加し、モノが売れるなかで企業の売上も増え、販売価格も上昇し、従業員のお給料が増えることから、さらに消費者はモノを買うようになり、商品がたくさん売れて企業の売上が増える...というような好循環の中で起こります。

つまり、良いインフレは「景気拡大の中で起こるインフレ」です。

一方、悪いインフレは、原材料や資源価格が上昇する中、商品の仕入れ価格の上昇ほど商品価格に転嫁することができず、企業の業績が悪化し、賃金も増えない中でモノ・商品が値上がりしてしまい、家計を圧迫する...という悪循環をもたらすインフレです。

さらに悪いインフレは、景気が停滞や悪化しているにもかかわらず、物価が上昇し続ける状態を生み出します。これを「スタグフレーション」と言います。

通常、景気が停滞したり悪化したりすると、需要が落ち込み、物価が下落していくデフレの状態になります。ですが、不景気の中で原材料価格などが上昇すると、お給料は増えないにもかかわらず、物価の上昇が続く現象が起こるのです。

つまり「景気後退とインフレが同時に起こる現象」、これがスタグフレーションです。金融経済ニュースでは、この「スタグフレーション」というワードもよく出てきますので、ぜひとも覚えておいてください。

さて、上記のようにインフレには種類があり、良いインフレである「ディマンド・プル・インフレ」悪いインフレの一つである「コスト・プッシュ・インフレ」などは、各々に区別して理解する必要があります。

ですので、ここでインフレの種類を整理しておきましょう。

(1)「ディマンド・プル・インフレ」

好景気によりモノが多く売れることで需要(ディマンド)が供給を超え、モノの値段・物価が上昇する需要サイドの要因によって生じるインフレ。

(2)「コスト・プッシュ・インフレ」

生産コストとなる原材料や資源価格(コスト)の上昇による資源インフレ、賃金(コスト)の高騰による賃金インフレなどがあり、生産コストの上昇分をモノやサービス価格に転嫁することでモノの値段・物価が上昇する供給サイドの要因によって生じるインフレ。

(3)「クリーピング・インフレ」

creep とは「這って進む」という意味。「忍び寄るインフレーション」と日本語で訳され、年率で2~3%程度のゆるやかな物価上昇を続けるインフレ。

(4)「ギャロッピング・インフレ」

gallop とは「疾走する」という意味。「駆け足のインフレ」と日本語で訳され、年率10%超の物価上昇を続けるインフレ。

(5)「ハイパー・インフレ」

短期間に物価が爆発的に急上昇するインフレ。年率20%以上、ときには100%を超える猛烈なスピードで物価が上昇する。

今から100年前の1923年、世界の経済史上に残る第一次世界大戦後のドイツのハイパー・インフレは代表例とされ、最終的にドイツの物価は384億倍に高騰したと言われている。

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3. インフレは貨幣の価値の低下を意味、貯金しているとその貯金額が目減り

実は、「インフレ」とは、貨幣の価値の低下を意味します。インフレ前に1万円で買えたモノがインフレ後は1万円では買えなくなるということは、1万円そのものの価値が下がったことになるわけです。同じ1万円を持っていても、1万円の価値のあったモノ・商品の値段が上がると1万円札では買えなくなる...

つまり1万円札の価値はモノ・商品と交換できないレベルに下がってしまったということです。

そのため、インフレ下では、貯金しているとその貯金額が目減りしていくことになり、貯蓄よりも消費や投資を促す流れに繋がります。したがって緩やかなインフレ傾向は、景気刺激策となり得る、というのが「インフレターゲット」を推進する考え方の基本です。

なお、デフレはその逆で、物価下がるのと同時に貨幣そのものの価値が上がることを意味していますから、デフレ下では現金(キャッシュ)や預貯金のままでお金を持っていても、お金が増えていくという現象が生じます。

何もしなくてもお金の価値が上がってくれるのですから、消費や投資にお金が流れにくくなります。そうした状況では、なかなかデフレ社会を抜け出すことはできません。平成の時代の日本は、ずっとこのデフレ下にありました。若手社会人の皆さんも記憶にあると思いますが、「アベノミクス」と呼ばれた経済政策は、この「デフレ脱却」を目標に掲げ、不景気の悪循環を抜け出すために緩やかな「ディマンド・プル・インフレ」を目指しました。

そして、デフレからディマンド・プル・インフレへと変化させるために実行されたのが、日銀による大胆な金融緩和政策でした。世の中にお金を供給することで、消費者の需要を喚起し、モノが売れるなかで企業の売上も増え、物価も上昇する「良いインフレ」社会を目指したのです。

この分野の研究に関しましては、私の著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)でもまとめていますので、ご参考までにご一読いただけましたらば幸いです。

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4. 植田日銀総裁は「インフレの状況にはない」という見解

さて、コロナ後のアメリカでは、供給制約による原材料や資源などの上昇から「コスト・プッシュ・インフレ」が起こり、それに加え、今は賃金上昇と需要増加から「ディマンド・プル・インフレ」の要因も加わった複合的なインフレが続いています。アメリカの中央銀行であるFRBは、このインフレを抑えるために利上げする金融政策を続けています。

一方、日本の場合は、8月に開催されたジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)でのパネル討論会にて植田日銀総裁が述べた通り「基調的インフレは依然として目標の2%を若干下回っている」としており、インフレの状況にはないという見解が示されています。7月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年同月比3.1%上昇となっていますが、植田総裁は「年末にかけて鈍化する見込みだ」との見通しを立てています。

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5.現在の日本の生活実感は1?

ただ、ここで最初のニュースに戻りますと、多数の食料品の値上げを含めて様々なモノの値段が上がっており、今の日本はインフレなのでは...?という疑問がわいてきます。

日本は多くのモノを輸入して自国の経済を成立させており、原材料や石油などのエネルギー資源も輸入に頼っているため、原材料価格や資源価格が値上がりし、モノを運ぶための輸送コストも高騰すると、コスト全体が上昇します。

ただ、これまでデフレ社会にあった日本では、そのコスト上昇分を最終的な製品や商品の価格に転嫁できずにいました。物価を上げてしまうと、モノが売れなくなってしまうデフレマインドが根付いていたため、企業は利益が減るのがわかっていても値上げできないまま商品を販売していたのです。

ところが、昨年あたりから企業がコスト上昇分をしっかり価格転嫁する流れが出てきました。そのため、コスト・プッシュ・インフレの性質を持つ値上げが起きるようになったのです。

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6.世界各国と比較してみると...

とは言え、各国のインフレと日本の傾向を比較してみると、コスト・プッシュ・インフレが起こっていた昨年のアメリカやユーロ圏のインフレ率は、日本よりもかなり高い水準にありました。

アメリカでは昨年6月に9.1%、ユーロ圏では昨年10月に10.6%と、高インフレであったのに対して、日本のピークは今年1月の4.1%(生鮮食品を除くコアCPI)水準に留まっています。

直近では、ユーロ圏が5%台、アメリカも日本と同じ3%台となってきており、各国のインフレ(インフレ率)の差はなくなってきていますが、どの国も目標水準を2%程度に設定していますので、アメリカは2%水準に達するまで利上げによるインフレ抑制を続けるとしています。

つまり、世界全体を見渡すと、ここ数年の主要各国のインフレ(インフレ率)は二桁前後の上昇率を経験しているわけですから、その状態と比べると、日本はインフレ傾向にあるものの、経済全体に大きな影響を及ぼすほどのインフレが起こっているわけではないという見方もできます。

とは言え、生活実感としては賃金が上がらない中での値上げラッシュにより家計も逼迫し、高い物価上昇が続くようであれば、インフレが日本経済に及ぼす影響も出てきます。

私たちの経済社会に大きな影響を与える金融政策の行方を占う意味でも、インフレの動向については、常に注視しておきたいものです。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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