ニュースなどで「ベースアップ」や「定期昇給」といった用語を聞いたことがある方も多いと思いますが、その正確な意味を把握している人は意外に少ないのではないでしょうか。
この記事では、ベースアップの意味を中心に、関連する用語である定期昇給や賞与との違いなどについてわかりやすく解説します。この機会に、ぜひベースアップや定期昇給について理解していただければと思います。
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1.ベースアップ(ベア)とは?
ベースアップとは、「base up」という英語から作られた和製英語です。欧米のように職務給が採用されている地域では聞かない日本独特の名称といえます。
ベースアップとは「全社員の給料水準を一律で引き上げること」で、ベースである基本給に対する昇給額や昇給率を意味することが多いです。
会社の業績が良い場合などにベースアップの割合が上昇して、勤続年数や役職に関係なく全社員一律で給与額などがアップします。
「ベースアップ3%」であれば、全社員が基本給から3%、給与がアップするといった仕組みです。
それでは、よく聞く「定期昇給」や「賞与」との違いは何なのでしょうか。
1.1.定期昇給との違い
ベースアップと類似した用語に「定期昇給」がありますが、定期昇給とは、一般的には社員の年齢や勤続年数にあわせて昇給することです。また、定期昇給は一般的には個人のスキルや能力、実績ではなく会社に在籍する期間が長いほど給与がアップすることが多いです。
また、定期昇給は毎年1~2回、決まった月に設定することが多いです。ただし、定期昇給は会社の業績により昇給の機会があることを意味しており、毎年必ず昇給するわけではありません。
1.2.賞与との違い
賞与とは一般的に"ボーナス"と呼ばれるものです。毎月の固定給とは別に支払われる特別な給与を意味します。日本の企業では一般的に、夏と冬に賞与を支給します。基本給(定期給与)は、毎月1回以上、決められた期日に支給することが労働基準法により決められています。
ただし、賞与については支払の有無や支払時期をいつにするかは決められていません。賞与を年に3回支給する企業もあれば、支給しない企業があるなどさまざまです。一般的には企業の業績により賞与を支給することが多いため、必ず支給されるものではありません。
1.3.ベースアップ評価料との違い
ベースアップの関連用語として、「ベースアップ評価料」という言葉もあります。わかりやすく言うと、医療関係職種のベースアップのために初・再診料や入院料等に評価(点数)を上乗せする仕組みです。
ベースアップ評価料には、以下4つの種類があります。
- 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)
- 歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)
- 訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)
- 入院ベースアップ評価料
ベースアップの対象者は、看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種(40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者を除く)です。
1.4.ベースアップの種類と計算方法
ベースアップの方法は大きく分けて2種類あります。
1つ目は「一律3,000円」など、一定の金額を基本給に上乗せする方法です。この方法では、基本給が低い人ほど昇給率が高くなります。
2つ目は「昇給率3%」など、一定の昇給率を基本給に掛けて計算する方法です。この方法では、基本給が高い人ほど昇給額が高くなります。具体的な計算方法は以下の通りです。
・ベースアップ額=基本給×昇給率
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2.ベースアップの役割と定期昇給の役割
前述の通りベースアップは、全社員の給料水準を一律で引き上げることを意味し、多くの場合、基本給に対しての昇給額や昇給率を意味します。これに対し、定期昇給は経験や勤続年数などをもとに定期的な昇給があることです。それでは、それぞれの制度の役割は何なのでしょうか。
以下でベースアップや定期昇給の役割をご説明します。それぞれの役割を理解して、現職での取り組み方や転職時の企業選びに役立ててください。
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2.1.ベースアップの役割
ベースアップの役割には以下の2点があります。
- 評価指標
- 名目賃金調整
企業の収益が向上したり生産力が上昇したりした企業では、ベースアップが従業員に対する評価指数となります。基本給が上がれば、従業員のモチベーションも高まるため、企業としては継続的な利益増加を期待してのものだといえるでしょう。
一方で企業収益や生産性が減少すれば、ベースアップをしないことが正当化されます。このように生産性とベースアップの関係性は強いことがわかります。
また、ベースアップをすることで賃金の目減りを調整することができます。名目賃金の調整としてベースアップが役立つということです。とはいえ、21世紀に入ってからはベースアップを見送る企業が増えています。
企業としてはデフレ下でベースアップをしてしまうと、基本給を簡単に下げることできません。
これは企業にとってデメリットであり、容易にベースアップを実施できない理由でもあります。
2.2.定期昇給の役割
定期昇給は企業側からすると、全社員を対象とするベースアップよりも負担が少ないです。勤続年数や年齢に応じて昇給することが多いため、昇給率の高い社員が退職してそれを補填する新入社員が入社するというサイクルの中で、企業側の負担を軽減する役割があります。
社員は勤続年数により給与がアップするため、ローンを組むなどの将来設計が立てやすい面があるでしょう。ただし、企業の業績により昇給を見送るケースがあるため、入社から退職まで何回昇給があるかはわかりません。
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3.ベースアップでよく聞く「春闘(春季闘争)」とは
ベースアップに関して、毎年2月になると「春闘(春季闘争)」という言葉がメディアを賑わします。正式名称は「春季生活闘争」ですが、この春闘は、多くの企業が新年度とする4月に向けて労働組合が労働条件について経営者に要求することです。
春闘は大手企業を中心にして労働組合が経営陣に要求する時期が2月、経営陣が回答する時期が3月であることから春闘と呼ばれています。また、春闘で労働組合が要求するのは、月々の給与や賞与などの金銭的な条件だけではありません。
ワークライフバランスの実現など、働き方についても交渉がなされます。春闘が終了すると、厚生労働省が「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」を発表して春闘の内容を公開します。
例年、春闘は3月に山場をむかえますが、準備はかなり前から始まっています。日本労働組合総連合会(連合)は、8月ごろから検討を始めて、12月上旬には春闘の方針を発表して春闘に臨みます。
【出典】連合「労働・賃金・雇用 春季生活闘争 2024年春闘」
特に中小企業は大手企業よりも賃金水準が低い現状があるものの、それぞれの産業のなかでふさわしい賃金水準に到達するために要求を検討することが多いようです。
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4.ベースアップを行う企業は増加している?
高度経済成長期においては日本全体が好景気であったため、多くの企業が毎年2%~5%程度のベースアップを実施していました。しかし、1990年代初頭にバブルが崩壊して以後は景気が低迷したため、多くの企業が春闘におけるベースアップの要求を拒否するケースが増えてきました。
その後、なかなかベースアップが進まない時代が続いたものの、近年は再び増加傾向にあります。
実際にベースアップを行っている企業はどれくらいあるのでしょうか。
また、増加傾向にある理由は何なのでしょうか。
【出典】第一生命経済研究所「2024年・春闘賃上げ率の見通し」
4.1.2023年はベースアップ実施企業が半数近くまで増加
一般職におけるベースアップ実施企業は、2021年で12.1%、2022年で29.9%、2023年は49.5%、と大きく増加しています。
2021年は新型コロナウイルス感染症の影響により見送る企業が多かったものの、2022年は大幅にアップ。
さらに、2023年は半数近くの企業でベースアップが実施されました。
【出典】厚生労働省「令和5年「賃金引上げ等の実態に関する調査:結果の概要」
4.2.増加の理由は「人手不足」と「物価上昇」
近年ベースアップを行う企業が増えている理由としては、慢性的な人手不足と急激な物価上昇が挙げられます。
特に、中小企業では人員を確保するため、ベースアップに踏み切るところが増えています。
また、物価上昇による社員の生活水準を守るために、ベースアップを実施する企業もあります。
しかし、一方では定期昇給とベースアップの区別を設けない企業もあり、ベースアップに積極的ではない企業が存在することがわかります。
また、年功序列や終身雇用ではなく成果主義を採用している企業では、ベースアップを行わないこともあります。
【出典】厚生労働省「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査概況」
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5.ベースアップの昇給額・昇給率の平均は?
2023年の春季労使交渉の結果によると、大手企業ではベースアップの平均が昇給額1万3362円、昇給率が3.99%でした。昇給率が3%台後半を記録するのは、1993年以来30年ぶりで、対前年比でもそれぞれ5800円増、1.72ポイント増となっており、現行の集計方法が始まった1976年以降、額・率ともに最も高い数値を記録しています。
また、中小企業では昇給額が8012円、昇給率が3.00%で、引き上げ額が8000円を超えるのは1993年以来、アップ率が3%台を記録するのは94年以来と、こちらも約30年ぶりの高い水準となりました。前年との比較では、昇給額が2976円増、昇給率が1.08ポイント増で、1976年以降、額・率ともに最大の伸びとなっています。
ベースアップを行う企業が増えているとともに、ベースアップの額や率も上がる傾向が見られます。
【出典】日本経済団体連合会「2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(加重平均)」
【出典】日本経済団体連合会 「2023年春季労使交渉・中小企業業種別妥結結果(加重平均)」
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6.ベースアップを行う企業が気になるなら転職
今現在働いている会社の条件が自分に合わないと感じる場合は、思い切って転職を視野に入れてみましょう。
どのような企業制度にも長所と短所がありますが、もしも自分の勤める企業の給与制度に不満や不安がある場合は、転職をすることで自分が思う理想の企業に出会えるかもしれません。
6.1.転職した方が良い理由
現在の環境でベースアップを期待しても、望みが叶う可能性は低いかもしれません。
転職をすることで、自分に向いている仕事や条件と合う企業に出会える可能性があります。
また、ベースアップの他に仕事内容や人間関係などに悩まされている場合も、仕事環境をリセットすることでこれまでの悩みから解放されることもあります。
仕事内容や条件が自分に合っていると仕事に対してのやりがいを感じるようになり、その結果スキルアップに繋がって高い評価を得ることも期待できるでしょう。
6.2.自分に合う転職先の見つけ方
転職をする際は、仕事を長く続けるためにも仕事内容や社風などの条件が自分に合う仕事を見つけたいはずです。
自分に合う仕事を見つけるには「自己分析」を行うことがポイントになります。
過去に経験した仕事や自分の得意不得意を振り返ることで、自分の強みや弱みが見えてきます。
自己分析を行えば自分自身をより知ることができるため、仕事探しをする際に役立ってくるでしょう。
6.3.身近な人に相談してみる
「仕事探しに悩んでいる」「次の職場でうまくやっていけるか不安」と初めは転職に対して悩みを持つ人も多いはずです。
そのような場合は、悩みを溜め込まずに身近にいる人に相談してみましょう。
自分自身をよく分かってくれている家族や友人であれば、親身になって話を聞いてくれたり、自分では気がつかなかった点を具体的にアドバイスしてくれたりするかもしれません。
また、気軽に話し合えるという面でストレスが軽減されるでしょう。
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7.転職エージェントの利用もおすすめ
ベースアップを行っている企業への転職でつまづいたり、うまくいかなかったりする場合は、転職のプロである転職エージェントを活用してみましょう。
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8.まとめ
この記事では、ベースアップの意味や役割や定期昇給、賞与との違い、春闘などについて解説しました。ベースアップは、基本給に対する昇給額や昇給率を意味することが多く、春闘により経営陣と交渉が可能です。
また、大企業や中小企業ともに産業ごとにふさわしい賃金に達するような要求がなされています。
賃上げに関する一つの方法としてのベースアップも頭に入れておくと、転職活動などに役立つかもしれません。
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