経済キャスターの鈴木ともみです。
この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.春闘とは?
早いもので、まもなく3月。日本の企業社会においては年度末を迎える時期となりました。
この時期に毎年話題に上がるのが「春闘」です。
「春闘」の正式名称は「春季生活闘争」となります。
「春闘」では、新年度となる4月に向けて、各企業の労働組合が労働条件について要求し、経営者側と交渉した上で決定します。
2月になると大手企業を中心に、労働組合が企業に要求を提出し、春を迎える3月頃に企業からの回答が出始めることから「春闘」と呼ばれています。
春闘で要求・交渉・決定する内容は、月給やボーナスなどの賃金・一時金が中心となりますが、最近ではワーク・ライフ・バランスを考えた労働時間の短縮や、育児・介護がある中でも働きやすい制度や仕組みづくりなども重要なテーマとなってきています。
また、正社員だけでなく、派遣社員、契約社員、パートタイマーとして働く人たちの労働条件や労働環境の改善など、「春闘」における交渉内容は年々複雑化してきています。
そうした中、今年の「春闘」における一番の注目テーマは、やはり『賃上げ』ということになるでしょう。
今回は以下について解説します。
『"春闘"が事実上スタート 中小企業での賃上げが焦点』(出典:ANNnewsCH)
(今回のキーワード)
『賃上げ』
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2.「物価高」の流れはできたが、所得が増えてこそ景気は良くなる
物価高がとめどなくなる中、賃上げを巡り経営側と組合側が方針を示す経団連の労使フォーラムが開かれ、今年の春闘が事実上スタートしました。
ここでまず整理しておきたいのが、今は「物価高」であるということです。
本連載第2回の「インフレとは? インフレーションの意味や種類を簡単に紹介」でも解説しました通り、そもそもモノの値段=物価は「需要」と「供給」のバランスで決まります。
需要が供給を上回れば物価は上昇し、逆に供給より需要が小さいと物価は下落します。
インフレは、インフレーション(Inflation)の略語で、私たちが購入するモノやサービスの価格=物価が上昇する、つまり「物価高」の状態のことを指します。
さらに、このインフレには種類があり、「良いインフレ」と「悪いインフレ」があります。
良いインフレは、社会の景気が好調な中、需要・消費が増加し、モノが売れるなかで企業の売上も増え、販売価格も上昇し、従業員のお給料が増えることから、さらに消費者はモノを買うようになり、商品がたくさん売れて企業の売上が増える...というような好循環の中で起こります。
良いインフレは「景気拡大の中で起こるインフレ」です。
一方、悪いインフレは、原材料や資源価格が上昇する中、商品の仕入れ価格の上昇ほど商品価格に転嫁することができず、企業の業績が悪化し、賃金も増えない中でモノ・商品が値上がりしてしまい、家計を圧迫する...という悪循環をもたらすインフレです。
上記のようにインフレには種類があり、良いインフレを「ディマンド・プル・インフレ」と言い、多くの国々が好景気によりモノが多く売れることで需要(ディマンド)が供給を超え、モノの値段・物価が上昇する需要サイドの要因によって生じるインフレを目指しています。
今はインフレの傾向にある日本ですが、平成の時代は、ずっとインフレとは逆のデフレ下にありました。
そこで、政府と日銀はデフレと不景気の悪循環を抜け出すために、緩やかな「ディマンド・プル・インフレ」を目指し、その目的のために実行されたのが、大胆な金融緩和政策でした。
世の中にお金を供給することで、消費者の需要を喚起し、モノが売れるなかで企業の売上も増え、物価も上昇する「良いインフレ」社会を目指したのです。
そうした政策を続けた中、やっと「物価高」の流れが出てきましたが、モノが売れるためには、私たち消費者の所得が増え、買いたいものが買えるようになる必要があります。
所得が増え、モノが売れやすくなる中での「物価高」こそが、企業の売上向上にも繋がり、景気が上向く流れに結びつくのです。
つまり、所得が増加する中で起こる良いインフレは好景気に繋がります。
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3. 政府も物価高を上回る所得の増加に向け、"政策を総動員"
そうした経済の好循環を目指しているからこそ、記事にもある通り、経団連は「物価上昇に負けない賃金引き上げを目指すことが社会的責務」として、昨年を上回る賃上げ4%以上を念頭に置くとの方針を発表しました。
また、以下の通り、政府も物価高を上回る所得の増加に向け、政策を総動員するとしています。
『物価高を上回る所得増へ』(出典:(首相官邸)
この中で、政府は、物価高を上回る所得の増加に向けて「賃上げ」を実現させるために次の9つの方策を掲げています。
3.中小企業の「稼ぐ力」を高めるための投資を支援し、賃上げを後押し
7.発注者・受注者の共存共栄 ~パートナーシップ構築宣言の実効性向上~
8.医療・介護・障害福祉分野などの公的価格の引き上げによる賃上げ
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4.「賃上げ」の課題は常に「中小企業で賃上げが広がるかどうか」
このように政府が積極的な政策を掲げ、経団連も前向きな姿勢を見せる「賃上げ」において、常に課題となってくるのが、雇用者の7割を占める中小企業でも賃上げが広がるかどうかということです。
これまでも、中小企業においては、大企業と同レベルの「賃上げ」は、なかなか浸透してきませんでした。
そうした中、政府は中小企業の賃上げに向けて労務費などの価格転嫁を応援するとしています。
昨年11月には、公正取引委員会等が「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定しました。指針に定めた「12の行動指針」に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害する恐れがある場合には、公正取引委員会において、独占禁止法及び下請代金法に基づき、厳正に対処していくという、これまでに例のない労務費転嫁対策をとることとしています。
指針に定めた「12の行動指針」に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害する恐れがある場合には、公正取引委員会において、独占禁止法及び下請代金法に基づき、厳正に対処していくという、これまでに例のない労務費転嫁対策をとることとしています。
ここで言う「価格転嫁」とは発注企業と受注企業の関係において、例えば発注している大企業が受注している中小企業に対し、安価な仕入れ値を提示するのではなく、受注側の中小企業も賃上げしやすいように、賃上げする分を取引価格に上乗せする、という意味です。
円滑な価格転嫁を実現し、中小企業が賃上げに動きやすい環境を整えることが目的です。
一方、受注する中小企業側にも生産性向上による賃上げ原資の確保や、新たな価値創出により価格交渉力を高める必要性が出てきます。
実際、日本商工会議所が3000社の中小企業を対象に行った調査で、今年に賃上げを予定している中小企業は61.3%と、昨年よりも増えていることがわかりました。
昨年よりも3.1ポイント増加し、そのうち、利益が十分でなくても人材確保のために防衛的賃上げを行う企業が60.3%と、業績好調のため賃上げする企業の39.7%を上回っています。
中小企業にも「賃上げ」の傾向が生じ始めているのは確かなようです。
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5.中小企業で「賃上げ」が広がらなければ景気悪化に繋がる可能性も
日本社会の全従業員数の7割を占める中小企業において「賃上げ」の波が上手く広がらなければ、物価高が進むにつれ、家計がさらに厳しくなり、景気悪化に繋がります。
そうなると、経済政策における最大の課題であったデフレ脱却の道筋が後戻りしてしまいます。
ですので、中小企業の動向が2024年の春闘を大きく左右し、日本経済の行方を占うことにもなります。
政府が昨年の春闘以上の賃上げを実現して経済の好循環を促したい意向を示し、経団連も価格転嫁の重要性を共有している中、大企業も中小企業も物価高に見合うだけの「賃上げ」を着実に実行できるのかどうか...
今年の「春闘」の結果に注目が集まっています。読者の皆様にも、ぜひとも自分ごととして、「春闘」「賃上げ」に関するニュースを継続的にチェックして頂けたらと思います。
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