近年、ニュースなどでしばしば見聞きするようになった言葉の1つに「ベーシックインカム」があります。あなたはどのような意味かご存じでしょうか。
ベーシックインカムは世界的に導入が議論されている社会保障制度の一つで、国民一人ひとりに対して生活する上で必要な現金を支給するものです。今回は、そんなベーシックインカムについて、必要とされる背景や仕組みなどを解説していきます。
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1.ベーシックインカムとは?その仕組みについて
ベーシックインカムとは、性別や年齢、所得水準などによって制限されることなく、すべての人が国から一定額の金額を定期的かつ継続的に受け取れる社会保障制度のことです。簡単に説明すると、「国から国民一人ひとりに対して月々○○円支給される」といったイメージです。
ベーシックには「基本」、インカムには「所得」という意味があり、日本語では「基礎的所得」や「基本所得」などと呼ばれています。日本にこれまでなかった新たな制度として、近年導入の是非が議論されています。
1.1.公的扶助(生活保護)との違いはどこにある?
現在の日本においても社会保障制度は数多く整備されています。例えば、経済的に困窮する人々の最低限の生活を保障するための生活保護制度はよく知られている社会保障制度の一つです。
生活保護とベーシックインカムの違いは、お金を受け取る条件の有無です。
生活保護を受給するためには収入面などいくつもの条件を満たさなければなりませんが、ベーシックインカムは収入や財産などにかかわらず、すべての国民に無条件で現金が支給されます。
1.2.ベーシックインカム導入国はある?
海外を見てみると、ベーシックインカムを本格導入している国はまだ数えるほどしかありません。アメリカやドイツ、スペイン、フィンランドなどで一部実験的に導入されている状況です。
しかも、いずれの国でも支給には何らかの条件が設けられていることから、完全なベーシックインカムとは言い難いものです。
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2.ベーシックインカムが注目されるようになった背景
ベーシックインカムの起源は16世紀のイギリスに遡ります。以後、形を変えつつ幾度となく議論されてきた仕組みですが、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により再び大きな注目を浴びることになりました。
コロナ禍では多くの人の移動や労働が制限され、経済は大きな打撃を受けました。個人の力ではどうすることもできないこうした有事の際、ベーシックインカムのような制度が整備されていれば、多くの国民の生活を守り、命を救うことが期待できます。
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3.コロナ禍が知らしめたベーシックインカムの重要性
コロナ禍では、雇用自体が失われたケースのほか、労働時間が制限されたことによる収入減が大きな問題となりました。しかし、現在の社会保障制度は、生活保護や年金、失業保険が軸となっており、いずれも労働が困難、もしくは労働意欲があっても適職が見つからない国民に対する保障です。
職はあっても収入減に陥っている国民は、労働はしているため適用できる救済措置がほとんどありませんでした。そうした状況が、ベーシックインカムの重要性、必要性を訴える声を大きくしました。
コロナ禍のようにこれまで誰も経験したことのない事態にも備えられるような救済の仕組みの1つとして、ベーシックインカムが大きな注目を集めるようになったのです。
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4.ベーシックインカムのメリット
ベーシックインカムが導入されれば、私たち国民の生活は今よりゆとりのあるものに改善されると考えられます。
具体的なメリットとして挙げられるのは以下の4点です。
4.1.貧困や少子化の対策・解消
ベーシックインカムが導入され、支給されるようになると、多くの国民は最低限の生活を維持できるようになります。お金の不安から解放され、学びや趣味など自己投資の時間を持つことも実現します。
このことは、国際目標として掲げられている「SDGs」の目標1、「貧困をなくそう」の実現にもつながります。また、金銭面の不安を理由に子供を持てなかった人にとっても追い風となり、少子化の解消も期待できるでしょう。
【出典】外務省「SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform 」
4.2.生活保護の不正受給問題の解決
ベーシックインカムを導入すると、生活保護の不正受給問題の解決も見込めます。最低限の生活を維持するための一定の金額が得られることで、不正をする心を抑制する効果が期待できるためです。
4.3.長時間労働の削減・労働環境の改善
ベーシックインカムにより無条件に収入が得られれば、生活のための労働に縛られる状況が緩和されるでしょう。それにより、国民はより安全・安心な働き方が可能な企業を選択できるようになります。
そうなれば労働環境が整備されていない企業は淘汰されることになり、生き残りをかけて労働環境の改善を図らざるを得なくなるでしょう。
4.4.多様な働き方が可能になる
ベーシックインカムは、国民の多様な働き方を後押しします。
毎月一定額の現金が得られれば、フルタイムの仕事に縛られることなくパートタイムや副業など働き方の選択肢が増え、家庭環境や健康状態などに何らかの事情を抱えていても余裕を持って働くことができるようになります。
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5.ベーシックインカムのデメリット
一方、ベーシックインカムには懸念されるデメリットもあります。これらのデメリットの具体的な解決策が見いだせなければ、ベーシックインカムの導入は現実化しにくいといえるでしょう。
5.1.「財源の確保が難しいのではないか」と指摘されている
ベーシックインカムの実現には莫大な財源を確保しなければならない、とされています。
例えば国民1人につき月7万円を支給する場合、年間約100兆円分の財源確保が必要です。この金額は現在の年間の国家予算と同規模となり、ベーシックインカムを実現するうえで最も大きなハードルとなるとされています。
財源をどこから拠出するのか、という議論がまとまらない限り、ベーシックインカムの実現は難しいのが現実です。
5.2.他の制度を見直す必要がでてくる
上記の財源確保の手段として、他の社会保障制度などの見直しが発生することが予測されます。
現状では、年金や医療など既存の社会保障からの流用や増税などの案などが出されている状況です。しかしいずれのケースも、採用すれば特定の属性に該当する国民に対して不公平感を与えることにもなります。
5.3.労働意欲や競争意欲の低下に繋がる可能性がある
ベーシックインカムが導入されることで、労働意欲や他者との競争意欲が低下する可能性が指摘されています。
「何もせずに現金が手に入るのならわざわざ働かなくていいだろう」「最低限の収入が得られるなら努力して人より優位なポジションを目指す必要はない」という感情を国民に芽生えさせるのではないか、という見方もあります。
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6.各国のベーシックインカム導入状況
前述の通り、ベーシックインカムを本格導入している国はまだ少なく、一部で実験的に導入されている程度です。では、実際にベーシックインカムを導入した国の導入内容や現状はどのようになっているのでしょうか?
2024年までに実施された各国での施策を見てみましょう。
6.1.アメリカ
2019年、カリフォルニア州ストックトン市で、18歳以上で世帯収入が4万6033ドル以下の市民125名を対象に、毎月500ドルを1年間支給する実験が行われました。
その後、転職活動中の資金面での不安が解消されたことなどから、パートタイムからフルタイムの仕事へ転職する人が増えて、受給者におけるフルタイム労働者の割合が大幅に増加したという結果が出ています。
また、2022年には同じカリフォルニア州ロサンゼルス市でいくつかの条件を満たす約3,200世帯を対象に、毎月1,000ドルを1年間支給する導入実験を行いました。
ロサンゼルス市のエリック・ガルセッティ市長は実験した結果として、「困難な状況にある家族にリソースを提供することで、私たちの多くが幸運にも当たり前のように享受している目標を実現する余裕を与えることができる」と述べています。
6.2.ドイツ
ドイツでは、2014年からNPOが抽選で選ばれた人を対象に1年間ベーシックインカムを支給する実験を行なって行ってきました。さらに、この団体は新しいプロジェクトとして、2021年から3年間にわたって120人を対象に毎月1200ユーロを支給する実験を行っています。
主催者はこのプロジェクトの意義について、「経済の不安が取り除かれることで、人生における判断や選択の基準は大きく変わる」としていますが、120人という人数では実験結果の信憑性が低いとする慎重な見方もあります。
6.3.フィンランド
フィンランドでは、2017年~2018年の2年間にわたり条件付きでベーシックインカムを導入しました。失業者の中から無作為に2,000人を抽出し、失業手当と同等の毎月560ユーロ(日本円で約73,000円)を支給しました。
その結果、受給者のストレスが軽減され幸福度が向上したとの結果が出ています。
しかし、労働意欲や雇用の促進に大きな効果が表れていないことから、国をあげて本格導入するには、まだ十分な結果が得られていない、というのが実情です。
6.4.スペイン
スペインでは、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて2020年に低所得者層向けのベーシックインカムの導入が決定されました。あらかじめ定められた世帯月収の目安に収まるよう、収入と扶養家族の人数に応じて支給金額が決定される仕組みです。
さらに2021年には、カタルーニャ州で所得を問わず2年間にわたってベーシックインカムを支給するプログラムが始まると発表されました。月800ユーロが5000人に支給されるもので、2022年から開始されており、2025年には当プログラムの評価が行われる予定です。
6.5.ブラジル
ブラジルのマリカ市では、カードやスマートフォンへチャージする形でベーシックインカムが導入されています。こちらも貧困層を対象とした条件付きではありますが、市内の加盟店で使える現地通貨が支給されます。
この方法では、チャージ式を採用することで消費動向データを収集・分析できることや、地域限定の通貨を支給することで地域経済の活性化が期待できるというメリットもあります。
また、ブラジルでは2024年に「市民ベーシックインカム法」が成立しており、第一段階として最貧困層を対象とした給付金政策「ボルサ・ファミリア」が始まりました。今後も対象者層などが広がっていく見込みです。
7.本格導入は難しいのが現状だが、各国で前向きな姿勢が見られる
以上のように世界各国でベーシックインカムの導入実験が行われ、導入に向けて前向きな姿勢が見られる一方、現時点では明らかな成功事例が確認できていないのが実状です。良い結果は少なからず出ているのですが、人数や対象者が限定的であるために、十分な根拠になっていないのです。
加えて、デメリットとして述べた「財源の確保」も問題です。実際、2016年にスイスで発議された1人あたり月2500スイスフラン(日本円で30万円相当)を支給するベーシックインカム支給プランは、財源案に説得力がないなどを理由に国民投票で否決されています。
しかし、懸念されている「労働意欲の低下」などが今のところ見られないことは、ポジティブに捉えるべきでしょう。上記以外にカナダなどでもベーシックインカムの実験が行われていますが、心身の健康状態へのポジティブな影響が見られた、という結果が出ています。
本格導入するには課題が多いですが、これからも導入に向けた前向きな姿勢は世界的に続いていくと考えられます。
8.日本におけるベーシックインカム導入の可能性
ここまで、ベーシックインカムのメリットやデメリット、各国の導入状況を解説してきました。完全なる無条件で行われるベーシックインカムを継続的に成功させた国はいまだありません。
では、「実際日本では導入される可能性はあるのか?」「導入されるとしたらいつから始まるのか?」と疑問を持つ方もいるでしょう。そこで、日本でのベーシックインカムに関する動向についても解説していきます。
8.1.ベーシックインカム導入を掲げている政党もある
日本でもベーシックインカムの導入に関して継続的な議論が行われており、国民民主党や日本維新の会が導入に意欲的です。2024年の衆議院選挙においても、ベーシックインカム導入を含めたマニフェストが発表されました。
例えば日本維新の会は、誰もが自立する個人として公平にチャレンジできる環境を整備するための最低所得保障制度として、負の所得税、そして給付付き税額控除またはベーシックインカムの導入を政策として掲げています。
また、国民民主党は、税金を一定額減税する「給付付き税額控除」と要請を受ける前に支援を行う「プッシュ型支援」を組み合わせた「日本型ベーシックインカム」という仕組みを提案しています。
【出典】日本維新の会「衆院選2024マニフェスト 2.社会制度改革」
【出典】国民民主党「政策各論インデックス|国民民主党 第50回衆議院議員総選挙 特設サイト」
8.2.AIの台頭もベーシックインカム議論に影響している
コロナ禍に入ってからベーシックインカムへの関心が一層高まったと解説しましたが、関心を高めている社会背景はそれだけではありません。近年、生成AIの登場に代表されるようにAI(人工知能)がさまざまな分野で台頭し始めています。
AIの台頭は雇用の在り方にも大きな影響を与えるとされており、AIに仕事を奪われてしまうのではないかという不安は日本でも高まっています。
今までにないかたちで雇用が不安定になることが予想される中で、生活を保障するための制度においても新しい仕組みが必要だとの見方が強まっており、有効な策の1つとしてベーシックインカムが注目されています。
8.3.財源の確保や他制度の調整が大きなハードルになる
日本でもベーシックインカム導入に向けた議論は行われているものの、正式な制度として確立するにはまだ相応の時間を要すると考えられます。大きな理由の1つは、やはり財源の確保や他制度の調整が難しいことです。
ベーシックインカムの導入によって国家財政が厳しくなることや、今までの制度が変わることで不利を被る人が出てくることが予想されれば、国民の支持を得るのは難しいでしょう。
物価や最低賃金の地域間格差や世代間格差なども考慮しなければならないため、実現可能な案がまとまるまでには少なくとも10年~20年程度かかるとする見方もあります。
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9.まとめ
ベーシックインカムの導入が実現されれば、私たち国民の暮らしはより安全、安心なものになると期待できます。しかし、莫大な財源が必要とされており、そのことによって他の社会保障制度などに悪影響が及ぶ、と指摘する人もいます。
とはいえ、世界各国において日々議論が交わされていることも事実であり、導入に向けて前向きの動きが加速することも考えられます。今後の動向をしっかりと注視しておくべきでしょう。
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