仕事中に新型コロナウイルスに感染した場合の労災補償について、条件やもらえる給付金について解説します。「労災とは?」「労災で補償されることって?」「傷病手当との違いとは?」など、気になる疑問を解消します。
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1.そもそも労災って何?
労災とは労働災害のことで、仕事中や通勤中などに生じた怪我や病気、障害などのことです。「労働者災害補償保険法」により、労災が発生すると給付金などを受けることができます。労災には主に2種類があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
●業務災害
保険の対象となる業務災害とは、業務が原因となって発生した怪我や病気、障害などです。一般的に、下記2つの条件を満たしていると判断されれば、業務災害と認められます。
(1)業務遂行性
実際に作業をしているとき以外も含めて、労働者が事業主の支配下にある状態を示します。業務中であっても、私的な行為が原因となった災害は認められません。逆に、休憩中であっても職場で怪我をした場合などであれば認められます。
(2)業務起因性
原則としては、「労働の場に有害因子が存在していること」「健康障害を起こしうるほどの有害因子にさらされたこと」「発生の経過および病態が医学的にみて妥当であること」の3つの条件を満たす場合は認められます。例えば、職場で階段から落ちて怪我をした場合はもちろん、長時間労働を長く続けたのちにストレスによる病気を発症した場合も、業務が原因であることが認められれば労災になりえます。
●通勤災害
通勤災害は、通勤によって生じた怪我や病気のことです。
注意すべき点は、ここでの通勤はあくまで、業務に従事するために、職場と家の間(ある職場から別の職場や単身赴任先の家から帰省先の家の間も含む)を、合理的な経路・方法で移動することを指しています。業務以外の用事のために別の経路を使ったり、職場と家の間であっても買い物など業務と関係ないことをしていたりする間は、通勤に該当しません。ただし、保育園への子どもの送り迎えやスーパーでの夕食の食材の調達などは、日常生活のために必要な活動として通勤の範囲内と認められることもあります。
コロナウイルスに感染した場合も 、業務災害か通勤災害のどちらかとして認められれば、労災保険の補償を受けることができます。とはいえ、感染症の場合、感染経路が曖昧になりがちです。そこで、概ね次のような場合は補償の対象とされています。
- コロナウイルスへの感染経路が業務によることが明らかな場合
- コロナウイルスへの感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合
2つめに該当する業務は、例えば複数感染者の確認された職場での業務や、顧客などとの接触や接近が多い接客業などです。医師・看護師や介護関連については、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として対象になります。
また、補足として、業務災害と通勤災害以外にも、複数業務要因災害として認められた場合も労災になります。
2.仕事でコロナにかかってしまった! 労災保険で何が補償されるの?
まず、労災保険の対象は労働者全員で、アルバイトや時短勤務など働き方は関係ありません。
労災保険で受けられる補償として、大きく次のような給付金があります。
●療養補償給付
労災の場合、薬代を含む治療費や入院費、移送料などが怪我や病気が治癒するまで全額補償されます。
労災指定医療機関を受診すれば、原則として一切治療に際してお金を払う必要はありません。近くにない場合など、労災指定医療機関以外で治療を受けた場合は、一度治療費を自分で負担し、後で労災請求をすることで、負担した費用の全額が支給されます。
●休業補償給付
労災が原因で業務ができず、報酬がもらえないという場合、休業4日目から報酬の一部が給付されます。一般的には給付基礎日額の60%相当額が補償されますが、コロナウイルス感染の場合は更に20%相当額が上乗せされ、合計で給付基礎日額の80%相当額をもらうことができます。
●傷病補償給付
労災により療養を開始して1年6か月目とそれ以降に、怪我や病気が治っておらず、傷病等級に該当する場合、傷病(補償)等年金や傷病特別年金、傷病特別支給金がもらえます。傷病等級は3つに分かれており、傷病(補償)等年金や傷病特別年金は給付基礎日額に対して傷病等級に応じた日数分、傷病特別支給金は100万~114万です。
●障害補償給付
労災によって障害等級に該当する障害が残った場合は、障害の程度によって補償を受けることができます。例えば障害等級第1級~第7級に該当する障害の場合、障害補償等年金・特別年金として給付基礎日額や算定基礎日額に対して障害等級に応じた日数分の年金がもらえます。加えて、障害特別支給金が159万~342万円一時金として受け取れます。障害等級第8級~14級の場合、年金はありませんが、給付基礎日額や算定基礎日額に対して障害等級に応じた日数分の障害補償等一時金・障害特別一時金と、障害特別支給金として8万~65万円の一時金をもらうことができます。
●介護補償給付
傷病補償等年金や障害補償等年金の受給者のうち、一定の傷病・障害で介護を受けている場合、その状況に応じて給付金を受け取ることができます。
●遺族補償給付
万が一労災で亡くなってしまった場合、遺族は遺族補償給付として遺族補償年金や遺族補償一時金などを受けることができます。葬祭料も補償され、31.5万円+給付基礎日額の30日分と、給付基礎日額の60日分のいずれかから高い額が支給されます。
3.傷病手当金と何が違うの? 両方もらえる?
コロナにかかったけれど、労災として認められるかわからない場合はどうしたらいいのでしょうか。その場合は、労働災害として申請すると同時に、健康保険への傷病手当金の申請を進めることをオススメします。労災と認められなかった場合も傷病手当金は受け取ることができるため、生活費を確保して治療に専念するためにも、同時並行で申請するのがよいでしょう。
傷病手当金は、健康保険の被保険者が怪我や病気のために会社を休み、報酬がもらえない場合に支給されます。金額は支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3です。支給開始日以前の期間が12か月に満たない場合は、支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均値と30万円のいずれかから低い額になります。
労災と認められた場合は対象外となるため、傷病手当金は返還しないといけない点は注意しておきましょう。その他、給与の支払いがあった場合や障害厚生年金または障害手当金を受けている場合などは、傷病手当金の受給額が調整されます。
4.まとめ
仕事でコロナウイルスに感染してから補償を調べるのは大変です。事前にどのような補償を受けられるのか・感染がわかったらまず何をすべきかなどを確認しておき、万が一の事態に備えておけば安心です。