「人手不足」の問題点は!? どうすればいい?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(18)

連載・インタビュー

経済キャスターの鈴木ともみです。

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

(※もしかしたら仕事頑張りすぎ!? ... そんな方におすすめ『仕事どうする!? 診断』)

【関連記事】「今の高3生以上は"金融スキマ世代"!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(1)」

1.中小企業の約70%が"人手不足"、「長期休暇がとりにくい」との声も

大学などの教育現場では夏休みに入りました。今年も猛暑の夏となっていますので、若手社会人の皆さんも学生時代のような長期の夏休み休暇を取りたいなぁ...と考えている人も多いことでしょう。

ただ、今は人手不足と言われる時代。特に若手の人材が不足している中で、長期休暇を取ることは厳しいとの声も聞かれます。日本の企業社会において99.7%を占めているのは中小企業であり、従業員数で見ると約7割の人たちが中小企業で働いています。

日本商工会議所が2023年に実施したアンケート調査((「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」の集計結果について ~中小企業の7割近くが人手不足、8割強が仕事と育児の両立推進が必要と感じていると回答~) 【出典】日本商工会議所)によれば、中小企業の約70%が「人手不足」と回答し、そのうち約60%以上は事業に影響する状況であるとしています。

少子高齢化が進む日本では、人手不足が深刻化しており、大きな課題となっているのです。

そこで今回は、以下の記事を取り上げます。

『「空港の人手不足」解決の切り札に! 日本初の"無人自動運転" ANAが実証実験』(出典:TBS))

キーワードは『人手不足』です。

(今回のキーワード)

『人手不足』

この記事にもある通り、インバウンド需要が日本経済の重要なカギとなる中、空港の現場でも人手不足が深刻化しています。問題を解決するために、航空会社もあの手この手の取り組みを進めているとのことです。

そもそも、このニュースに出てくるキーワード「人手不足」とは、いったいどういう状態を指すのでしょうか?

「人手不足」とは、企業が活動する上で必要な働き手の数が確保できず、順調に企業活動ができなくなることを言います。

例えばレストランの現場において、調理とホールの接客及びレジなどの一連の業務を一人で行わなくてはならない状態は、マンパワーが足りていない「人手不足」の典型的な代表例です。

post1372_img1.jpg

【関連記事】「インフレとは? インフレーションの意味や種類を簡単に紹介--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(2)」

【関連記事】「なぜ円安? いつまで続く!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(3)」

【関連記事】「補正予算とは? 2023年度の注目点は!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(4)」

今の仕事、会社がつらい...無料で相談できる転職エージェント「マイナビエージェント」に相談してみる。

2.「人手不足」は、「人材不足」よりも深刻な課題

この「人手不足」と混同されがちなのが「人材不足」です。

「人材」とはスキルや技術のある人、つまり企業活動に貢献する人という意味を持っていますから、「人材不足」は企業が求めるスキルを持つ人が足りてない状態を指しており、企業活動に貢献してくれるような働き手が足りてないものの、マンパワー自体は足りているということになります。

そう考えると、働き手の人数が確保できず、マンパワーそのものが足りてない「人手不足」は、「人材不足」よりも深刻な課題であることがわかります。

ですので、各企業はこの「人手不足」の課題を克服すべく、働き手を代替するための自動化を進めているのです。

post1372_img2.jpg

【関連記事】「長期金利が上がるとどうなる!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(5)」

【関連記事】「原油価格はどう決まる? 原油先物から詳しく解説--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(6)」

【関連記事】「金価格はなぜ上昇? 金相場の指標とは!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(7)」

【求人をお探しの方はこちら】

3.物流・運送業界における「2024年問題」とは?

記事に戻りますと、空港の現場でANAと豊田自動織機が公開したのは、貨物を運ぶコンテナの完全無人運転の試験運用です。この無人運転によりドライバー不在でも貨物を運ぶことができるようになります。

貨物などを運ぶトーイングトラクターに複数のセンサーが完備され、障害物や位置情報などを把握し、交通量が多い中でも、トラクター自体が「自分で考えて」ブレーキやアクセル、ハンドル制御を行うという国内初の取り組みです。

ANAは「人手不足で本来であればもっとたくさんの便を扱いたいが、そういったものを受け入れることができないのが現状」であるため、その課題を克服するためにコストがかさんでも導入を決めたとのことです。

このモノを運ぶという物流の人手不足は、日本社会全体で特に深刻化しています。

読者の皆様も物流・運送業界における「2024年問題」というワードを耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この問題は働き方改革法案によりドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題の総称であり、具体的には、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されるため、一人のドライバーが長距離でモノが運べなくなってしまうことから生じる問題のことを指します。

2024年問題には、(1)「ドライバーの賃金減少」、(2)「ドライバーの離職」、(3)「運送会社の利益減少」、(4)「荷主の運賃上昇による商品への価格転嫁」など、さらに人手不足が進んでしまいそうな問題が含まれているのです。

post1372_img3.jpg

【関連記事】「中国経済の現状と最新情報、今後の見通しは?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(8)」

【関連記事】「インバウンドとは? インバウンド需要の現状と日本経済への影響--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(9)」

【関連記事】「激化する宇宙開発競争、日本政府の宇宙技術戦略は?- --"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(10)」

4.注目される「外国人人材の登用」

野村総合研究所によれば、現状のまま人手不足が続くと、2030年には2015年と比べて全国の約35%の荷物が運べなくなる可能性があるとの予測(※1)も出ています。

(※1 【出典】トラックドライバー不足の地域別将来推計と地域でまとめる輸配送 | NRIメディアフォーラム | 野村総合研究所(NRI) )

前述の空港内における貨物であれば、出発地点と到着地点に担当者がいればドライバー不在でも完全無人運転も可能となりますが、商品が消費者のもとに届けられる物流全般においては、ただ商品を運搬するだけでは業務は成立しません。

物流の過程には、荷物の保管の他、商品の包装などを含め、企業が消費者の信用を得るための働き手が必要となってきます。そして、企業が消費者の信用を得るためには人間の働き手が必要であり、それは物流業界に限ったことではなく、産業界全体に言えることなのです。

そこで、ここ数年で注目され始めているのが外国人人材の登用です。

総務省が7月24日に発表した2024年1月の人口では住民の「10人に1人」が外国人である市区町村が前年の2倍近くに拡大しました(※2)。都市から地方まで幅広い地域で外国人が産業を支えている実態が見えてきます。

(※2 【出典】総務省|報道資料|住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和6年1月1日現在))

政府は2019年に在留資格制度「特定技能」を創設するなど外国人の受け入れを進めてきました。そうした流れの中で、経済活動の多くを担う生産年齢人口で見ると、外国人の割合は3.8%まで高まっており、人材としての重要性が増してきています。

また、厚生労働省がまとめた外国人労働者数は、2018年10月時点の146万人から2023年10月には205万人に拡大しました。

post1372_img4.jpg

【関連記事】「日経平均株価とは? 最近の株価上昇の理由は!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(11)」

【関連記事】「"春闘"とは? 「中小企業」で賃上げが広がるかが焦点--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(12)」

【関連記事】「「TOPIX(東証株価指数)」とは? インデックス投資って何?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(13)」

5.「人手不足」は生活維持サービスの運営に大きな影響

それでも人手不足は解消されず、リクルートワークス研究所は2040年に約1100万人の労働力が不足すると予測しています(※3)。

(※3 【出典】リクルートワークス研究所が「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」を発表(リクルートホールディングス))

これは好景気のために人手が足りないといった一時的な人材不足とは違い、社会を維持するための生活維持サービスの運営に大きな影響を及ぼしかねない構造的・慢性的な労働供給不足です。

私たちの生活に欠かせない7つの職種(輸送、建設、生産工程、商品販売、介護サービス、接客給仕・飲食物調理、保険医療専門職)に加え、(事務・技術職・専門職)を加えた8つの職種別のシミュレーション結果も示されています。

例えば、ドライバー不足により注文した物が配送されなかったり、建設業界での人手不足により道路のメンテンナンスや災害後の復旧の目途が立たず、危険と隣り合わせで生活したりすることも考えられるということです。

また、介護・医療サービス職種での人材不足からデイサービスに通えなくなり、家庭で介護せざるを得なくなったり、病院では医師不足により診察を受けられず、介護・医療崩壊が起こったりする可能性も指摘されています。

日本と比べ新興国の経済成長率は高く、日本との所得格差が縮まっていく中、有能な外国人人材を日本国内で確保するための施策が必要な時代になってきました。

【関連記事】「金融緩和とは? マイナス金利政策とは何だった?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(14)」

【関連記事】「日銀短観とは? 景気動向のバロメータのいろいろ----"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(15)」

【関連記事】「為替介入とは? 介入の目的と影響は!?----"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(16)」

【関連記事】「実質賃金とは? なぜマイナスが続いている!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(17)」

6.女性の人材確保も「人材不足」と「人手不足」を克服するために必要

一方、国内の人材に目を向けると、女性の人材確保も「人材不足」と「人手不足」を克服するための一つの方法であると言えます。

政府は企業の女性管理職比率を30%にする目標を掲げていますが、女性管理職が多く女性が働きやすい職場は、男性を含め多くの従業員が働きやすい現場であるとも言えるのです。

「人手不足」は、物流、介護・医療など私たちが生活を維持していけるかどうかを考える上で重要な問題です。

読者の皆様にも、ぜひ自分ごととして「人手不足」に関するニュースを継続的にチェックし、確認して頂けたらと思います。

【関連記事】「【例文アドバイス】面接日程メールの書き方や返信方法は?調整する際のマナー」

【関連記事】「【例文あり】面接結果の合否連絡が遅い・来ない場合の対処法を解説」

「一人で転職活動をするのは不安...」という方は、無料で相談できる転職エージェント『マイナビエージェント』にご相談ください。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

この記事をシェア

  • facebook
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • X(旧Twitter)

同じカテゴリから
記事を探す

連載・インタビュー

同じキーワードから
記事を探す

求人情報

TOPへ