経済キャスターの鈴木ともみです。
この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.日銀短観とは?
企業やビジネスパーソンの皆さんが最も注目するニュースの一つが、「日銀短観」に関するものです。「日銀短観」の正式名称は「企業短期経済観測調査」と言います。
ただ、名称は聞いたことがあるものの、どういう調査結果なのかということまでは詳しく知らないという若手社会人の方々も多いことでしょう。
直近では、以下のニュースが注目されました。
『日銀短観 大企業製造業の景気判断 4期ぶり悪化』(出典:NHK)
今回のキーワードは『日銀短観』です。
(今回のキーワード)
『日銀短観』
記事にもある通り、日銀は4月1日、短観=企業短期経済観測調査(日銀短観)を発表しました。
大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の2023年12月調査(+13)から2ポイント悪化して+11となりました。4期ぶりの悪化です。品質不正問題による自動車生産の減少により、関連産業の業況感が悪化しました。
一方、大企業非製造業のDIは+34と、2023年12月調査から2ポイント改善し、8期連続の改善となり1991年8月以来の高い水準となりました。
この業況判断指数(DI)は景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値です。
今回の3月調査の回答期間は2月27日~3月29日。回答率は99.0%でした。
そもそも日銀短観とは、統計法に基づいて日銀が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としています。
全国約1万社の企業を対象に、四半期ごとに年4回(3、6、9、12月)、景気の現状と先行きについて日銀が企業に直接アンケート調査し、その集計結果や分析結果をもとに日本の経済を観測するものです。
調査では全国の大手企業と中小企業、製造業と非製造業などを分けて、業績や状況、設備投資の状況、雇用などについて実績と今後の見通しを聞く形式です。
企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどう見ているのか、といった項目に加え、売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値など、企業活動全般にわたる項目について調査されますが、今回の回答率が99.0%であったことからもわかる通り、日銀短観は回収率が高く、景気の動向を占う上で重要な経済指標と位置づけられています。
日銀短観は海外でも注目されており、「TANKAN」の名称で広く知られています。
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2.日銀短観で最も注目される「業況判断指数」(DI)とは?
日銀短観で最も注目されるのは「業況判断指数」(DI)です。
DI(ディー・アイ)とは、「Diffusion Index」(ディフュージョン・インデックス)の略で、企業の業況感などの各種判断を指数化したものです。
DIは企業の収益を中心とした業況について全般的な判断を問う質問に対し、(1)良い、(2)さほど良くない、(3)悪い、の3つの選択肢があり、その回答を数値化して公表します。
このDIは、業況判断の他、製商品・サービス需給や在庫、価格、設備、雇用人員、資金繰り等の判断項目についても作成されています。
DIがプラスであれば景気は良い、マイナスであれば景気は悪いと判断され、前回の調査結果と比較すれば、企業の経営者の景況感がどのように変化しているのかがわかります。
また、DIには「現状」と「先行き(今後3ヶ月の見通し)」の2つがあり、この2つを比べることによって、企業の先行きに対する見通しが的確であったのかどうかも判断することができます。
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3.DIはデータの分類で考えると「ソフトデータ」
日銀短観の中の調査項目には、(1)「判断項目」、(2)「年度計画」、(3)「四半期項目」、(4)「新卒者採用状況」(6、12月調査のみ)、の4種類があり、DIはこの4種類のうちの①「判断項目」に該当します。
この判断項目はアンケート調査により行われますから、データの分類で考えるとソフトデータという括り(くくり)に入ります。
ではソフトデータとは何でしょうか。
経済の調査・分析に使用される経済統計などの様々なデータは、その性質によって「ハードデータ」と「ソフトデータ」に分けることができるのです。
ハードデータとは、小売売上高や鉱工業生産指数、消費者物価指数など、実際の経済活動の結果を集計して公表されるデータです。
客観的な過去の実績値であり、経済の現状を把握するために非常に重要ですが、データの集計・加工に時間がかかるため、速報性が低いというデメリットがあります。
一方、ソフトデータは、アンケート調査の結果に基づき、景況感などの経済の方向感を示したデータです。
アンケート調査の回答なので、主観的な要素が含まれるというデメリットはありますが、速報性が高いという利点があります。日銀短観におけるDIは(1)「判断項目」、ですからアンケート調査するソフトデータであり、
一方、(2)「年度計画」、(3)「四半期項目」、(4)「新卒者採用状況」、は、計数を調査する計数項目ですのでハードデータになります。
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4.公表される統計やデータの性質を理解しておくと理解が深まる
つまり、日銀短観はソフトデータである判断項目とハードデータである計数項目の集計結果を業種別・規模別に公表しており、総合的に企業や景気の動向を見通す上で重要な経済統計であると言えるのです。
このように日銀短観に限らず、公表される統計やデータの性質を理解しておくと、景気の動向を見通す上での理解が深まります。
まずは、速報性の高いソフトデータ(アンケート調査)で足元の景気の動向を掴んでおき、ソフトデータよりも遅行性があるものの客観的な裏付けのあるハードデータで景気動向の再確認をすることが可能となります。
様々な経済統計やデータはインターネットですぐに調べることができますので、ハードデータなのかソフトデータなのか、それぞれの特徴を知った上で日々の数値を追っていくことをおススメします。
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5.日銀短観の結果は就職や転職においても重要
尚、今年4月発表の日銀短観では深刻な人手不足が改めて浮き彫りになりました。
全規模全産業の雇用人員判断指数(DI)は-36と、1991年11月調査以来約33年ぶりの低水準となっています。
前回(-35)から悪化し、先行きもさらなる悪化が見込まれており、非製造業を中心に企業収益の下押し要因になるとの見方が強まってきています。
雇用判断DIは雇用人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」の割合を引いた値です。
マイナスの値が大きいほど人手不足感が強いことを示しており、特に非製造業で人手不足感が強い中で賃金上昇圧力が強まっています。
これは企業収益の下押し要因になる一方で、日銀が目指す「賃金と物価の好循環」に向けては好材料にもなります。
このように日銀短観で公表される結果は、就職市場や転職市場においても自分ごとになりますので、ぜひとも公表される度にチェックする習慣を身に付けていただければと思います。
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