この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.歴史的な円安基調の中、政府が「為替介入」
早速ですが今回は、
『【独自】政府・日銀、2回の為替介入実施が判明』(出典:Yahoo!ニュース/テレ東BIZ)
の記事を解説していきます。
この記事によると、今年4月末から5月にかけて、政府と日本銀行が2回にわたって為替介入を行ったことが政府関係者への取材でわかったということです。
歴史的な円安基調の中、外国為替市場では、4月29日に34年ぶりとなる1ドル=160円台になったあと、一転して円高方向に変動したほか、5月2日の早朝にも円が急騰しました。
これを受け、市場関係者の間では、政府・日銀が合わせて8兆円規模の為替介入を実施したとの観測が広がっていたわけですが、政府関係者はメディアの取材に対し、政府と日銀が4月29日と5月2日の2回に渡って、為替介入を行ったことを認めたということです。
そしてその後、財務省は5月31日に4月26日から5月29日の為替介入実績について、介入総額が9兆7885億円であったことを公表しました。これにより、4月29日と5月2日に実施したとみられる為替介入は、直近で円買い介入した2022年10月の規模を上回っています。
この記事を読み解くキーワードは『為替介入』です。
(今回のキーワード)
『為替介入』
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2.最も注目される為替相場(為替レート) がドル円相場
今回は政府・日銀が歴史的な円安がさらに進まないようにするために円買いという為替介入を行ったわけですが、為替介入の解説に入る前に、為替相場(為替レート)がどのように決まるのかについて、(「本連載第3回」の振り返りを兼ねて)今一度、整理しておきたいと思います。
そもそも1ドル=〇〇円という為替レートは、ある国の通貨を他国の通貨に交換するときの取引価格(交換比率)を示しています。
為替レートは、各国の経済情勢の変化や個別のニュースなどに反応して常に変動し、国際的な取引決済に重要視されているのが米ドルとの為替レートであり、多くの国が米ドルを基準とし、日本で最も注目されるのもドル円相場です。
変動相場制において為替相場は、市場における需要と供給のバランスによって決まり、モノやサービスの価格が決まるのと同じ原理です。
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3.為替レート決定の最大の要因は「金融政策によって生じる金利差」
そして、『金融論』の分野でも学ぶ「為替レートの決定要因」として重要視されているのが「為替レートを司る金融政策によって生じる金利差」です。
かつて、為替レートは経常収支によって決まるとされていて、経常収支が赤字になると、その支払いのためにドルが必要になり、円を売ってドルを調達しなければならず、円安になるという流れがありました。貿易という実需によって換算レートが決まる考え方です。
ですが、現在は、輸出や輸入などモノの売買動向よりも国境を越えたお金の貸し借りや投資の動きの方が規模が大きいため、それらの動きが為替相場を左右しやすく、資金移動は貿易という実需よりも大きな規模で外貨交換が行われるようになっており、各国の金利差が為替レートの主な決定要因になってきています。
もちろん、国と国の間を行き交うお金の動きは大変複雑で、為替レートも複雑な要因により変動していますが、最近の為替相場においては、「為替レートは主に金利差によって決まる」状況が続き円安・ドル高基調が続いています。
金融市場では、「マネー(お金)は金利の低い方から高い方へ流れる」と言われますが、このフレーズを覚えておくと、頭の中を整理しやすくなります。
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4.日米の金利差から円安・ドル高基調が続いた結果の為替介入
この為替レートの主な決定要因とされる各国の金利を決めているのが各国の中央銀行です。
米国では、FRB(Federal Reserve Boardの略・連邦準備制度理事会)がFOMC(連邦公開市場委員会)を開き、金融政策や金利誘導目標について議論した上で政策金利を決定します。
EU・欧州ではECB(European Central Bankの略・欧州中央銀行)が理事会を開き、政策金利を決定します。
そして日本では、日銀(日本銀行)が金融政策決定会合を開いて金融政策運営の基本方針を決定し、公開市場操作などを通じて金融市場調節を行います。
かつては支払準備率操作や公定歩合(現在の基準割引率および基準貸付利率)の調整が金融政策の手段となっていましたが、現在は、公開市場操作を中心とした金融政策と金融市場調節が行われています。
日銀は長年に渡り、金融緩和政策を続けてきましたが、今年3月19日、「マイナス金利政策」を解除しました。
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具体的には、2016年1月の導入以来、柱となってきたマイナス金利を解除し、マイナス0.1%としていた政策金利を0~0.1%程度(無担保コール翌日物レート)に引き上げ、長期金利を低く抑え込むための長短金利操作(イールドカーブ・コントロール・YCC)や上場投資信託(ETF)などリスク資産の買い入れの終了も決めました。日銀による利上げは2007年2月以来、約17年ぶりのことでした。
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とは言え、記録的なインフレを抑え込むために急速な利上げを続けてきた米国の高金利と、3月にマイナス金利を解除したばかりの日本との間には、まだまだ金利差が生じています。
そのため、『マネー(お金)は金利の低い方から高い方へ流れる』という基本のもとに、円を売ってドルを買う動きから、円安・ドル高基調が続いてきたわけです。
そして、34年ぶりとなる歴史的な円安水準をつけた4月29日の1ドル=160円台になった後に一転して円高方向に変動し、その後、5月2日の早朝にも円が急騰しました。そして、政府関係者が4月29日と5月2日の2回に渡り、「政府と日銀が8兆円規模の為替介入を行った」と認めたわけです(※)。
(※前述した通り、この後、財務省は5月31日に4月26日から5月29日の為替介入実績について、介入総額が9兆7885億円であったことを公表しました。これにより、4月29日と5月2日に実施したとみられる為替介入は、直近で円買い介入した2022年10月の規模を上回っています)
この為替介入とは円買い介入のことであり、今回はこのまま円安が進むのを避けるためにドルを売って円を買ったということになります。先述した通り、為替相場をコントロールしたい場合には、為替の決定要因である政策金利の上げ下げや公開市場操作などで金融調節を行う方法を取ります。ですが、今回は円を買うという直接的な為替介入という手段に出ました。
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5.為替介入はどのように行う?
では、為替介入とはどのようなことをするのでしょうか?
そもそも為替介入の決定権は外国為替及び外国貿易法(外為法)上は財務相にあり、実務は日銀が代行します。今回は「円買い介入」であり、財務省側の指示を受けた日銀が、外国為替資金特別会計に貯めてあるドルを民間銀行に売って円を買う取引が行われました。
今回のようにGW中のような休日や祝日、夜間などに実施されることもあります。
そして、為替介入は大きく分けて「単独介入」と「協調介入」の2種類がありますが、今回は2回とも単独介入でした。つまり、日本の当局が単独で行った単独介入だったわけです。
これが複数の通貨当局間で協議し、各当局の資金を使って同時または連続的に協調介入を行う場合には、投入できる資金の規模も大きくなり、相場を動かす力も大きくなります。
今回の単独の円買いによる為替介入について、その詳細はすぐには公表されませんでした。
とは言え、通貨当局はいつまでも隠し続けるわけではなく、財務省が毎月末に直近1カ月の実績を公表し、日次のデータは四半期ごとに公表することになっていますから、為替介入の事実や規模については、少しタイムラグを経た上で把握することができます。
今回の単独の円買いによる為替介入は、為替相場の大きな流れを変えるほどの影響力はありませんでしたが、日銀がこれ以上の円安は阻止したい、1ドル=160円前後の防衛ラインの少し手前に円安阻止の第一段階の防波堤があることを、市場関係者にメッセージとして伝えたかったということは想像できます。
いずれにしましても、為替レートの決定要因として重要視されているのは、「為替レートを司る金融政策によって生じる金利差」であることに変わりはありませんが、為替介入が行われた直後には為替相場が大きく変動し、協調介入の場合には相場の流れや基調が変わるきっかけにもなり得るため、私たちの経済社会にも影響が出てきます。
ですので、各国中央銀行の金利政策と共に為替介入のニュースもセットで理解し、注視しておきたいところです。
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