この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。
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1.日経平均株価が8月に歴史的な急落と急騰
今夏の金融・経済ニュースにおけるトピックの一つに「日経平均株価の歴史的な急落と急騰」がありました。読者の皆さんも高い関心を持ったことでしょう。
8月5日、日経平均株価は急落し、過去最大の下落幅(4,451円28銭)を記録したものの、翌日の8月6日には急反発し、過去最大の上昇幅(3217円04銭)を記録しました。
この激しい乱高下には、市場参加者だけでなく、多くの人たちが翻弄されました。
果たして、8月の株式相場の乱高下の背景には、何があったのでしょうか?
それは金利政策に関して、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げをするのかどうか、その予想に株式市場が翻弄されたからです。
そこで今回は以下の記事でも触れられている、FRBの金利政策と日本への影響についてみていきたいと思います。
『株価 過去最大の値下がり ブラックマンデー超え"4つの要因"』(出典:NHK)
キーワードは『アメリカ(米国)の利下げ』です。
(今回のキーワード)
『アメリカ(米国)の利下げ』
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2.日経平均株価が8月5日に暴落した原因(1)
多くの皆さんが注目したことだと思いますので、まずは、8月5日の日経平均株価の暴落について紐解いていきましょう。
この暴落の原因は主に2つあります。
日経平均株価が暴落した8月5日は週明けの月曜日でしたが、前週末の8月2日金曜日に米国で発表された「米雇用統計」が、暴落のきっかけとなりました。
この「米雇用統計」の項目の一つである失業率が、2021年9月以来約3年ぶりの高水準に上昇したことから、労働市場の悪化や景気後退への懸念が高まったのです。
こうなると、景気後退から米国株は下落基調に入るという見方が強まります。
米国株が大きく下落すると、その流れを受けて日本の株価も下落することが多いです。
米国株安が日本株にも波及したのが8月5日でした。
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3.日経平均株価が8月5日に暴落した原因(2)
そして、もう一つの原因は、米国の失業率が約3年ぶりに悪化したことを受け、FRB(米連邦準備理事会)が9月の会合で0.50%ポイントの利下げを決定するとの観測が台頭したことです。
米国の金利政策を決めるのは、中央銀行であるFRBです。
日銀が利上げモードに入っている一方で、FRBが利下げするということになれば、お金は金利の低い方から高い方へ流れる法則から、(金利自体は米国の方が高金利であっても)方向性としては、米国の金利は低くなっていき、日本の金利は高くなっていくことから、お金はドルから円に流れやすくなります。つまり、ドル安・円高になりやすいのです。
株式市場では、円高は日本の輸出企業にとってマイナスの影響があるため、企業の株価も下がりやすくなるという見方が通例です。外国為替市場で、ドル安・円高が進むと、日本株は売られ、日経平均株価も下落やすくなります。
もちろん、株価の暴落の背景には、様々な市場参加者の思惑や取引によって「売りが売りを呼ぶ」現象が起こりますから、原因を絞ることはできません。
ですが、米雇用統計をきっかけに景気.8月6日の後退懸念が強まり、利下げ観測が高まるなかで、8月5日の日経平均株価の暴落は起こりました。
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4.日経平均株価の8月6日の急騰は何がきっかけ?
では、翌日8月6日の日経平均株価の急騰は何がきっかけだったのでしょうか?
それを紐解くと、前日8月5日に米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した7月の非製造業景況感指数が改善し、急速に広がっていた米国の景気後退への過度な不安が一旦、和らいだことが理由として挙げられます。
米国の景気後退懸念が一旦、和らいだことにより、FRBが急なぺースで大幅な利下げを実行することはないだろうという見方が出てきたため、利下げ期待が弱まったのです。為替もドル安・円高の流れが止まり、日本株にも見直し買いが入りました。
もちろん、株価の急反発の背景には、様々な市場参加者の思惑や取引が影響しますから、原因を絞ることはできません。この時も投機筋を中心とした海外勢の先物買いなどが影響しました。
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5.「投機」と「投資」は別物
ここで、整理しておきたいのは、「投機と投資は別物である」ということです。
投資を基本に考える新NISAなどでの資産形成は、長期で取組む投資です。
景気は良い時も悪い時もあります。
株式相場は、景気や金利政策などの影響を受けて循環するので、暴落した時に焦って売るのではなく、株式市場が好調になるまで耐えて長期のスタンスで構える姿勢が大切なのです。
この長期投資の意味を知らずにブームだからという理由だけで株式投資を始めた人は、株価が乱高下する度に狼狽(ろうばい)売りしたり、焦りからNISAの口座を解約したり、積立をストップしたりと衝動的な行動をとってしまうことでしょう。
今回も、8月5日の段階で、暴落に翻弄されて損を出してしまった人もいたようです。
ですが、日経平均株価は24時間後の8月6日にはほぼ戻っており、一週間後には暴落前の水準以上まで回復しているのです。
長期投資の姿勢で臨んでいれば、特に損失を出すことはありませんでした。
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6.FRBの9月18日に利下げで米国株が上昇し日本株にも影響
その後9月18日、FRBは0.5%の利下げを決定しました。
利下げ幅は通常の2倍、大幅な利下げに踏み切りました。
4年半ぶりの利下げとなり、FRBの金利(金融)政策は大きな転換点を迎えました。
この大幅な利下げを背景に、FRBの利下げ決定の翌日である9月19日の東京市場から株高の流れが始まりました。利下げが米国景気を支えるとの見方から、9月19日のNYダウ(米ダウ工業株30種平均株価)は史上最高値を更新し、初の4万2000ドル台をつけました。
翌日9月20日の東京市場でも日経平均株価は続伸の展開となりました。
このように米国株が上昇すると、日本株にも影響します。
米国の株式市場は世界各国の株式市場への影響力が大きいからです。
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7.米国の利下げで過度な円安が和らぐことで物価上昇が落ち着きやすくなる効果も
もちろん、先述した通り、米国の利下げによりドル安・円高となれば日本の輸出企業の株価は下がりやすくなりますが、一方で、円高が進むと輸入コストの負担が少なくなるため、日本の輸入企業にとってはプラスの影響が出てきます。
また、食料や資源・エネルギーを輸入に頼る日本においては、過度な円安が和らぐことで、国内の物価上昇が落ち着きやすくなる効果も出てきます。
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物価高については、この連載でも取り上げてきていますが、私たちの生活や暮らしに大きな影響を及ぼしてきました。
今の悪いインフレであるコスト・プッシュ・インフレは、輸入する食料や原材料、資源価格の上昇が最終的な商品価格にも転嫁され、物価が上昇し、家計を圧迫します。
この物価高が続くと、私たちの生活は苦しくなってしまいます。
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次にFRBが金利政策を発表するのは11月6日~7日です。
FRBが金利政策を決定する米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれ、ここでも0.50%の利下げが再び決定された場合、金融市場を始め世界全体への影響は大きくなることでしょう。
米国の利上げ・利下げによる為替(円安・円高)の動きは、世界経済や日本経済に大きな影響をもたらすだけでなく、私たちの生活に重要な物価の動きにも影響します。
FRBの金利政策とFOMCの結果は、もはや自分ごととしてチェックしておくと良いでしょう。
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