最低賃金とは? 引き上げるとどんな効果・影響がある!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(22)

連載・インタビュー

経済キャスターの鈴木ともみです。

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1.石破茂新政権の看板政策「最低賃金」、"1,500円への引き上げ前倒し"

10月の金融・経済ニュースにおける話題の中心は、10月15日公示、27日投開票の衆議院選挙です。石破新政権誕生からわずか1週間余りの超早期解散となる中、今回の衆議院選挙では多様な争点があります。

「改正政治資金規正法」「政策活動費」「物価高の現状」「金融政策」「少子化対策」「防衛力強化・防衛増税」「憲法改正」「緊急事態条項」「女性・女系天皇」「選択的夫婦別姓」などです。

経済政策を始め、私たちの生活に直結する課題は山積しており、読者の皆さんも高い関心を持っていることでしょう。

そうした中、石破茂新政権が看板政策の一つとして掲げているのが、最低賃金を全国加重平均で1,500円に引き上げるという政府目標の達成時期を、従来の「2030年代半ば」から「2020年代」へと前倒しする方針です。

そこで、今回は以下の記事を取り上げます。

『日商会頭 "最低賃金引き上げ 地方企業が支払えるか見極めを"』(出典:NHK)

キーワードは『最低賃金』です。

(今回のキーワード)

『最低賃金』

この記事にもある通り、石破首相が「最低賃金」を2020年代に全国平均で1,500円まで引き上げることを目指していることについて、日本商工会議所の小林会頭は10月3日の記者会見で、一定の評価を示しました。

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2.そもそも「最低賃金」とは?

そもそも、石破首相が言及した「最低賃金」とは、最低賃金法に基づき、雇用主が労働者に支払う賃金の最低額として、国が定めたものです。

最低賃金は、時間によって定められており、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の二種類があります。

最低賃金については、毎年審議が行われており、その都度、改定されます。

最低賃金法のもとで、雇用主は最低賃金の適用を受ける労働者に対して、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。

また、雇用主は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲と、これらの労働者に関係する最低賃金額、算入しない賃金、さらには効力が発生する年月日を、常に作業場の見やすい場所に掲示するなどの方法により、広く知らせなければならないとされています。

最低賃金の対象となるのは、労働者に支払われる賃金のうち、毎月支払われる基本的な賃金です。

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3.「地域別最低賃金」は2024年10月以降、全国加重平均で1,055円(時間額)

おそらく、読者の皆さんが「最低賃金」と聞いてイメージするのは、「地域別最低賃金」でしょう。

「地域別最低賃金」は、2024年10月以降、全国加重平均で1,055円(時間額)となっています。

この「地域別最低賃金」は、都道府県ごとに定められており、その都道府県で働く全ての労働者に適用されます。

正規雇用を始め、パートやアルバイト、臨時・嘱託といった雇用形態や、呼称、外国人労働者も含め国籍や年齢、性別などに関係なく、全ての労働者に適用されます。

なお、雇用主が「地域別最低賃金」を下回る賃金しか支払わなかった場合、雇用主には上限50万円の罰金が課されます。

取り上げたニュースの中で小林会頭は、石破首相が地方創生を重視する姿勢を示していることについて、地方の中小・零細企業が最低賃金を支払えるかどうか見極めながら進めていくよう求めました。

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4.中小・零細企業には最低賃金を支払う能力を持ち合わせていない企業も

この背景には、地方の中小・零細企業の中には最低賃金を支払うだけの能力を持ち合わせていない企業が多いことがあります。

小林会頭は、最低賃金を大幅に引き上げるには、企業側の支払い能力が課題になると指摘した上で、「支払い能力以上の最低賃金が設定された場合、中には支払えなくて人を手放し、事業が続けられずに倒産する事態が起きかねない。支払い能力を増やすためには生産性の向上や、地方交付金をはじめとした政治の支援が必要だ。政府、地方行政、地元の商工会議所が連帯して話し合いながら進めていく必要がある」と述べ、地方の中小・零細企業を社会全体で支えていく必要性についても訴えました。

賃金が上昇するということは、私たち消費者の所得が増えるということです。

所得が増える中でモノが売れる「物価高」は、企業の売上げ向上にも繋がり、景気が上向く流れに結びつきます。つまり、所得が増加する中で起こるインフレは経済の好循環に繋がり、良いインフレになるのです。

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5.経済の好循環を目指しながら中小・零細企業の経営状況も考慮した経済の舵取りが必要

そうした経済の好循環を生み出したいからこそ、石破首相も企業社会全体も、最低賃金の引き上げを目指しているのです。

ただし、小林会頭が述べている通り、日本社会の全従業員数の7割を占める中小企業のうち、特に地方の中小・零細企業では、最低賃金を引き上げる支払い能力を持ち合わせていない企業も多々存在します。

賃金が支払えず、人手不足となり事業を継続できずに倒産する事例が多発してしまったら、経済の好循環や地方創生を実現することができなくなってしまいます。

一方で、賃金の引き上げが広がらなければ、物価高が進む中で家計はどんどん厳しくなり、景気の悪化に繋がります。

つまり、大企業だけでなく、地方の中小・零細企業も物価高に見合うだけの最低賃金を支払えるかどうかを見極めながら、日本経済の再生を図っていく必要があるのです。

「最低賃金の引き上げ」は私たちにとって自分ごとです。自分ごととして関心を持ちつつも、地方の状況を含め、経済の好循環を生む流れになっているのかどうかについても考慮し、広い視野でチェックしておくと良いでしょう。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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