現在の手取り減少と将来の年金増...「106万円の壁」撤廃後の影響とは!?--"金融スキマ世代"に送る『鈴木ともみのわかりやすい経済ニュース解説』(24)

連載・インタビュー

この連載では、私が経済キャスターとして培ってきた経済や金融の知識をもとに、旬の経済ニュースを「キーワード」を軸にわかりやすく解説していき、若手社会人の方の「経済や金融の話はちょっと...」といった苦手意識を取り除くとともに、激動の時代を乗り超えるための一助となるようなコラムを綴って参ります。

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1.「103万円の壁」に続き、「106万円の壁」も政策テーマとして浮上

2024年もまもなく幕を閉じようとしていますが、今年後半の大きな話題の一つは「年収の壁」問題になるのではないでしょうか。

「年収の壁」とは、それを超えると、税金や社会保険料の負担が生じる一定の年収額の境目のことを言います。

103万円・106万円・130万円とさまざまな「年収の壁」があり、パートやアルバイトとして働いている人は、それらの年収の水準を超えると、手取りが減少したり、扶養者(配偶者・親)の税負担が増えたりしてしまうケースがでてきます。

第2次石破政権における経済政策では「年収の壁」問題について、まずは「103万円の壁」対策に着手しました。そして、それにひき続き注目されているのが「106万円の壁」です。

厚生労働省が「106万円の壁」を撤廃する方針とのニュースが出たことにより、にわかに注目が集まりました。

そこで、今回は以下の記事を取り上げます。

「"106万円の壁" 厚生年金の賃金要件 撤廃案まとまる 厚労省」(出典:NHK)

キーワードは『106万円の壁』です。

(今回のキーワード)

『106万円の壁』

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2.「106万円の壁」とは?

この記事にもある通り、厚生労働省は「年収106万円の壁」と呼ばれる厚生年金に加入できる賃金の要件について、最低賃金の引き上げに伴い、必要性が薄れているとして撤廃する案をまとめました

そもそも「106万円の壁」とは、従業員51人以上の企業などで働く人が対象であり、年収が106万円を超え(月額賃金8万8000円)週の労働時間が20時間以上などの壁を超えると、配偶者の扶養から外れ、厚生年金や健康保険の保険料の支払いが発生する壁のことを言います。

このように、「103万円」「106万円」と様々な数字がニュースで飛び交っていますが、いずれもパートやアルバイトで働く人たちが、手取り収入が減ることを懸念して、働く時間を抑制してしまう「年収の壁」となっているのです。

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3.もともと撤廃予定だった企業規模要件に加え、年収基準も撤廃される見通し

「106万円の壁」について厚生労働省は、短時間で働く人も、将来、受け取る年金を増やす必要性があるとして、企業規模の要件を撤廃するなどの案を示し、了承されました。

もともと、「106万円の壁」については、来春の法改正で51人以上という企業規模要件は撤廃される見通しでした。

それに加えて106万円の年収基準も撤廃される見通しが強くなったのです。

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4.約200万人が新たに厚生年金に加入し、社会保険料を支払うことに

これらの撤廃により、まず、企業規模要件の撤廃などで90万人、年収「106万円の壁」の撤廃で約110万人、併せて約200万人が新たに厚生年金に加入し、社会保険料を支払うことになります。

来春の法改正で「106万円の壁」の撤廃を決めたとしても、社会に浸透させ、様々な整備をするためには、施行は早くても2年以上後になる見通しです。

施行がまだ先であるにも関わらず、厚生労働省が現段階で「106万円の壁」を撤廃する方針を打ち出している背景には、言葉そのものに影響されて働き控えする人が出続けることを、今のうちに撤廃しておきたいという意図もあるようです。

この「106万円の壁」の撤廃により、パートやアルバイトとして基本的に週20時間以上の勤務であれば、厚生年金に加入し、健康保険の保険料の支払いが発生するという形になります。

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5.将来に受け取る年金額が増える一方、現在の手取りが減る...

厚生年金に加入することで、社会保険の保険料の支払いが発生してしまいますが、将来について考えると、いずれ受給できる厚生年金の額を増やすことにつながります。

将来に受け取る年金額が増える一方、現在の手取りが減る...。

この2つのバランスをどのように考えるかは、個々人が置かれている状況や、将来に向けたライフプランによっても変わってくることでしょう。

そうした中、厚生労働省は106万円の枠を撤廃するとともに、年収156万円未満に限り、企業側が保険料の負担を増やせる案を示しました。

この案では、労働者と企業側(事業主)とで折半している保険料の負担の割合について、年収156万円未満の場合は、変更できるとしています。

労働者と事業主の合意をもとに、事業主の負担を増やすなど割合を変えられるとしていますが、労働者の負担をゼロにすることは認めず、また、期間は限定するとしています。

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6.新たに「20時間の壁」が生まれる可能性も

こうした中、従業員50人以下の中小企業にとっては、企業負担の社会保険料や事務負担が重くなることも課題となってきています。

週20時間以上は働かせてくれない企業が出てくる可能性もあり、そうなると新たに「20時間の壁」が生まれるかもしれません

そのため、厚生労働省は事業主の保険料負担軽減についても、今後検討するとしています。

前回取り上げた所得税に関わる「103万円の壁」も税負担の面で確認しておきたいキーワードですが、配偶者の扶養から外れ、厚生年金や健康保険の保険料の支払いが発生する「106万円の壁」は、将来に向けたライフプラン、年金額にも影響するキーワードですので、ぜひとも自分ごととして関心を持ちつつチェックしておくと良いでしょう。

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鈴木ともみがキャスターを務める『WORLD MARKETZ』(東京MXテレビ・ストックボイスTV)は平日夜22:00~23:00生放送(鈴木ともみは月曜日担当)。最新のグローバルな金融経済ニュースをリアルタイムでお伝えする国際金融報道番組。
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著者:鈴木ともみ

経済キャスター、国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、ファイナンシャル・プランナー。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』『WORLD MARKETZ』、『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等ラジオ番組にも出演。NIKKEI STYLE、マイナビ、FinTech Journal、日経QUICK等にてコラムを連載。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)『資産寿命を延ばす逆算力』(シャスタインターナショナル刊)。

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