【D2Cとは】D2Cのマーケティング手法と具体例、メリットとデメリット

【D2Cとは】D2Cのマーケティング手法と具体例、メリットとデメリット

マーケティング用語で「B2C」、あるいは「B2B」という言葉を知っていて意味も分かる、という方は多いと思いますが、では「D2C」とはどういう意味か、知らない方もいらっしゃるかと思います。今回は、「D2C」の意味、D2Cのマーケティング手法と具体例、注目される背景やメリットとデメリットをご紹介します。

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1.D2Cとは

D2CとはDirect to Consumerの略で、簡単に言えばメーカー直販のことです。

商品の企画、生産を行い、SNSでプロモーションを行い、直販ECで販売をするというのが基本です。

アパレルや美容化粧品の分野で盛んに採用されている手法ですが、近年では他の一般小売にも使われるようになっています。

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2.D2Cのメリット

D2Cが注目されているのにはさまざまな理由があります。

(1)スモールスタートがしやすい

新たなアパレルブランドを立ち上げるとき、従来であれば、店舗を開く必要があり、本格的に小売り展開をするには、卸流通や小売店にも営業活動をしなければなりませんでした。これには、多くのコスト、人手、時間がかかります。

しかし、インターネットやSNSの普及により、極端に言えば、デザイナーが企画と生産を行い、ECで直販をすれば、数人のスタートアップ企業でもブランドを立ち上げることができます。

(2)消費者と直接つながれる

D2Cに注目をしているのは、このようなスタートアップブランドだけではありません。大手企業でもD2Cの手法を取り入れることが盛んになっています。その理由は、消費者と直接つながれるという大きなメリットがあるからです。

卸流通や既存小売店を通じての販売手法は、B2C(Business to Comsumer)と呼ばれますが、正確にはB2B2Cという形になっています。メーカーは消費者に直接商品を販売するのではなく、小売店に対して販売(納入)をし、それを小売店が消費者に販売をします。

この方式では、メーカーは消費者が望む商品ではなく、小売店が望む商品を作るようになっていくケースが出てくる可能性もあります。例えば、売れ行きはよくはないけど利益率の高い商品、メーカーによるキックバックなどの優待策が充実している商品などです。メーカーとしては直接の販売先である卸流通や小売店の反応を見て、次の商品を企画するために、次第に消費者の真のニーズから離れていってしまうことがあります。

一方、D2Cは直接消費者に販売する手法なので、売れ行きを見ることで消費者のニーズがわかります。また、SNSなどによって、消費者の声も届きやすく、消費者が望む商品に改善をしていくPDCA(Plan、Do、Check、Acttion)を高速で回していくことができるようになります。

(3)利益率が高くなる

直接消費者に販売する手法なので、卸や小売店の中間マージンが不要となります。そのため、同じ価格の商品であれば既存流通よりも利益幅が大きくなります。また、お買い得の価格に設定することも可能です。メーカーも消費者も得をすることになる販売手法になる可能性があります。

(4)販売方法の自由度が高くなる

メーカーと消費者だけの販売手法なので、販売方法はメーカーが完全にコントロールできます。セールの企画もメーカーが適切と考えた時に行うことができ、シーズンごとだけではなく、タイムセールやサプライズセールを企画することも可能です。

従来の販売方法では、卸流通や多数の小売店が販売に参画をしているため、メーカーの都合だけで販売方法を変更することができません。それがD2Cであれば、メーカーの望む方法で適切な販売方法を自由に変化させていくことができるようになります。

(5)消費者のデータを収集できる

消費者は、直販ECで商品を購入することになります。それには会員登録をしてもらうことが必要となり、名前や住所などの商品送付に必要な情報だけでなく、年齢や趣味などの情報をアンケートなどで取得することが可能になります。また、購入履歴などを分析し、優良顧客には特典を積み増すなど、データ分析に基づいたマーケティングが行えるようになります。

卸、小売経由で販売をする従来の手法では、消費者は基本的に匿名で商品を購入します。小売店は顧客データを把握しても、それをメーカーには教えてくれない場合もあります。D2Cでは、消費者のデータを自社で保有することができるようになります。

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3.D2Cの課題

もちろん、D2Cにはメリットばかりでなく課題もあります。

(1)ブランド力、商品力が問われる

原則、消費者はECの情報を頼りに購入することになるので、それでも買ってもらうためには、よほどブランドに対する信頼があるか、商品が他にはない優れたものであることが必要です。

小売店の店頭では、売れない商品であっても、価格を下げることである程度売ることはできますが、D2Cでは価格を下げると、「何かネガティブな要因がある」とみなされる可能性もあり、さらに売れなくなるケースもあります。販売リスクの高い手法であることは認識しておく必要があります。

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(2)ブランドの発信力が問われる

何かを売るということが現代において従来と最も大きく異なる点は、モノ消費ではなくコト消費になっていることです。コト消費とは、商品から得られる体験価値に着目をして購入することです。

例えば、自動車であれば、最高時速や燃費という商品特性で売るのではなく、家族でドライブを楽しむという体験価値を設定して、それに基づいた商品設計をして販売します。ファミリーバンあるいはハイブリッドカーなどは、商品そのもの価値というよりも、その商品を所有する体験価値(家族で休日をすごす幸福感、地球環境に貢献をしている満足感)が重要になっています。

D2Cブランドは、この商品を取り巻く世界観を消費者に伝えなければなりません。SNS、オウンドメディア、ウェブなどを駆使して、商品の世界観を伝えることで、商品が売れるようになっていきます。

しかし、この世界観を伝えることは簡単ではありません。そもそもの世界観の設定がありきたりのものであれば埋もれてしまいますし、伝えるためには地道なコミュニケーションの積み重ねが必要となります。

(3)顧客の開拓コストがかかる

従来手法の小売店の最大のメリットは、顧客の流量が多い場所に出店をしていることです。道を歩いている人が小売店に入ってきて、商品に気づき、購入してくれ、そのブランドのファンになってくれます。

しかし、D2Cには小売店がない場合が多いです(成長後に小売店を出店する例は増えています)。そのため、お客さんが通りすがりにブランドにアクセスしてくれることは期待できません。注目をしてもらうためには、広告を含めた情報発信を積極的に行い、1人1人お客さんを獲得する必要があります。これにはプロモーションコンテンツの制作費や広告出稿費用がかかります。

店舗を出店しないことが多いため、店舗の運営コストは不要となりますが、その代わりに新規顧客の開拓コストがかかります。自然発生の口コミが拡散するようになり、ブランドが軌道に乗るまでは地道な努力を続ける必要があります。

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4.D2Cのマーケティング手法

多くのD2Cは、次のような要素を駆使して、マーケティング活動をしています。

(1)SNS

D2CブランドのほとんどがSNSを駆使することを基本としています。告知を配信することができるだけでなく、消費者からの声も直接フィードバックされます。事務連絡だけに使うのではプロモーションになりませんし、不適切な使い方をすると炎上リスクもあり、うまく活用するには経験が必要です。

(2)オウンドメディア

ブランドの世界観を伝えるには、オウンドメディアを活用します。例えば、「美味しいものを食べつつダイエットをしたい」という人向けのオーガニック食品を販売するブランドであれば、自社の新製品ニュースだけでなく、その世界観に関連するニュース記事の転載や、内部、外部ライターによる記事を掲載します。

自社の世界観に興味を持っている人が必要としている情報提供をすることで、自然にブランドの世界観を理解してもらうツールになります。

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(3)ポップアップストア

ブランドが軌道に乗った時点で、期間限定の直営小売店を開くケースも増えています。期間限定店舗であれば運営コストも抑えられ、顧客にリアルな体験を提供することができるからです。また、それまでとは違った層の新規顧客を獲得できる可能性もあります。

ネットだけで完結せず、定期的なさまざまな場所でポップアップストアを運営するというのがD2Cブランドのひとつの定番手法になっています。

(4)ライフタイムバリュー

ライフタイムバリューとは簡単に言えば、顧客1人あたりの生涯購入額です。1回の購入額である客単価、年間購入額をいかにあげるのかと考えるのではなく、生涯購入額をいかに高めるのかという発想をします。つまり、お客様と長いお付き合いをするということです。

D2Cブランドの最大の課題は、新規顧客の獲得です。難易度が高く、コストもかかります。そのため、いかに会員数が大きくなり、売上が上がっていても、大量の新規顧客が流入し、大量の有料顧客が離脱をしている新陳代謝が過剰な状態では利益率は低いままになってしまいます。D2Cの理想は、少数であってもコアなファンがいて、それが少しずつ積み上がって成長していくシナリオです。

そのために目の前の売上ではなく、顧客一人のライフタイムバリューに注目をし、長いおつきあいになるほど特典の厚みを増やすなどして、生涯購入額を増やす視点の施策を行なっていきます。

(5)KOL(Key Opinion Leader)

KOLとはキーになる意見を言うリーダーのことで、影響力のある消費者のことです。その商品が好きになり、他の消費者によさを伝え、薦めてくれる消費者のことです。エバンジェリストという言葉が使われることもあります。

KOLの出現にアンテナを貼り、KOLに対して積極的に情報を提供することで、顧客コミュニティの成長を促すことができます。D2Cブランドにとって、KOLが登場するあたりから事業が軌道に乗り、成長が加速することになります。

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5.一般企業が取り入れるD2C手法

D2Cブランドは、アパレルや化粧品、健康食品などの分野では、すでに新しい手法ではなく、定番の手法といってもいいほどになっています。さらには、一般のメーカー、小売業がD2C的な手法を取り入れるようになっています。多くの電子機器、家電製品などでネットの公式ストアを開設しているところが少なくありません。

量販店、一般ECと比べてポイント還元などの割引系優待は小さめですが、公式ストア限定モデルの優先販売や記念モデルの限定販売など、そのブランドのファンにとってはうれしくなる特典をつける例が増えています。

(1)ネスレコーヒーマシン

ネスレでは、世帯人数が小さくなる時代の変化の中で、コーヒーは自宅ではなくカフェで飲むものになっていくことに危機感を感じ、2007年からカプセル投入をするだけでコーヒーが淹れられる「ドルチェグスト」「バリスタ」などのコーヒーマシンの直販を始めています。同時に「ネスレアミューズ」などのオウンドメディアの運営をはじめ、会員登録により直接顧客とつながるようになりました。

職場などにコーヒーマシンを導入するときは、管理をする人にネスカフェアンバサダーになってもらいます。アンバサダーがマシンの管理やコーヒー代金の徴収などを行うとともに、商品に詳しいKOLとして商品を薦め、家庭でもコーヒーマシンを使う人が増えるという成長軌道に乗ることができました。

(2)アップルストア

アップルはかなり早い段階から、今日D2Cと呼ばれる手法を先駆けて挑戦をしてきました。公式サイト内にコミュニティスペースを設け、ユーザー同士が質問をしあったり、議論ができるようにしたりし、米国ではそこにアップルのエンジニアが直接応答することもしばしばありました。

また、販売も公式サイトの直販オンラインストア、店舗のアップルストアを中心にし、大手量販店で販売する場合もアップルショップとして、アップルストアに準じたサービスを提供するようにしています。これにより、アップルの世界観を直接消費者に届けることを可能にしています。

そのため、アップルのユーザーは時に「信者」と言われるほど、ほぼ全員がエバンジェリストになっています。これがアップルのブランドの強さの源泉になっています。

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6.まとめ

D2CとはDirect to Consumerの略で、デジタルメディアを活用したメーカー直販のことです。スモールスタートがしやすいため、アパレルや化粧品、健康食品などの分野で盛んに使われている販売手法です。

しかし、今注目されているのは、一般の小売ブランドでも、D2C手法を取り入れる企業が増えていることです。

ECで販売できる商品であれば、ほぼすべてがD2Cの手法を取り入れることが可能です。生鮮食料品や自動車でもECで販売されるこの時代、すべての商品でD2C手法を取り入れることが可能になっていると言っても過言ではありません。D2C手法でコアなファンをつかみ、同時に小売店経由で広く販売することで、事業の持続可能性を高めていく。そのような視点から、D2Cに大きな注目が集まっています。

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原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)
テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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