マーケティングで「キャズム」という用語が使われることがありますが、内容を知らない方もいらっしゃるかと思います。
今回は、マーケティングの世界での「キャズム」理論におけるキャズムが生まれる理由やキャズム超えをするための戦略、キャズム超えをする上での注意点などについて説明します。
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1.キャズムとは
キャズム(Chasm)とは、地表にできた深い裂け目、溝のことです。
米国のグランドキャニオン国立公園で有名な景観です。
マーケティングでは、消費者をイノベーター理論で分類した時に、性格が異なる集団が存在をし、そこを乗り超えることが商品やサービスの普及にとって重要になるという文脈で使われます。
この断絶を超えた商品やサービスを指して、俗に「キャズム超え」などと言うこともあります。
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2.イノベーター理論とは
イノベーター理論とは、消費者を5つのグループに分け、新しい商品やサービスがどのように市場に受け入れられていくかを論じたマーケティング理論です。
『キャズム』(ジェフリー・ムーア)の中で提唱されました。
2.1.イノベーター
商品やサービスの先進性や新奇性に注目をする消費者です。
いわゆる「新もの好き」の人たちで、若年層であることが多く、新しい商品やサービスに最初に目を付ける人たちです。
イノベーターに対しては、先進性や新奇性を訴えることが効果があります。
2.2.アーリーアダプター
商品やサービスの機能や有用性にいち早く気がつく消費者です。
新しいものになんでも目を付けるというわけではなく、市場に普及する可能性の高い商品やサービスを見分ける目を持っています。
しばしば、インフルエンサーやKOL(Key Opinion Leader)として、消費者全体に対して大きな影響力を持っていることがあります。
アーリーアダプターには、機能や有用性、普及可能性を訴えることが効果があります。
2.3.アーリーマジョリティ
アーリーアダプターの発言や動向を見て、商品やサービスを購入する消費者です。
アーリーアダプターが反応をするかどうかが市場へ普及する鍵になるため、重要な消費者グループです。
流行やトレンドを訴えると効果があります。
2.4.レイトマジョリティ
周囲の動向を見て、購入するかどうかを決める慎重な消費者です。
コストパフォーマンスも気にします。「東証プライム企業のxx%が採用」「3人に1人が使っている」など、普及していることを訴えると効果があります。
2.5.ラガード
最も保守的な消費者で、新しいものに対する拒否反応があり、伝統を重視する人たちです。
商品やサービスの歴史の長さや伝統を継承していることを訴えることが効果があります。
(イノベーター理論は消費者を新しい商品やサービスに対する行動から、5つに分類する。アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に大きな断絶があり、キャズムと呼ばれる)
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3.キャズム理論とは
キャズム理論における「キャズム」とは、このイノベーター理論の中で、2つ目のアーリーアダプターと3つ目のアーリーマジョリティの間にある深い断絶のことです。
そのため、イノベーター理論の最初の2つの消費者を「初期市場」、残りの3つの消費者を「メインストリーム市場」と呼び、区別をすることがあります。
商品やサービスを普及させるには、このキャズムをどのように超えるかが重要な鍵になります。
多くの新しい商品やサービスがキャズムを超えることができず、初期市場のみの普及で終わってしまいがちです。
3.1.キャズムが生まれる理由
キャズム=断絶が起こる理由は、初期市場とメインストリーム市場で、商品やサービスに対する観点が大きく異なっているからです。
初期市場では、「それまで存在しなかった」という先進性、新奇性が大きな価値を持ちます。
多くの商品やサービスが初期市場を満足させることができ、「話題の○○」「流行している○○」として紹介をされることになります。
しかし、メインストリーム市場では、新しさよりも実用性が重視をされます。
求めることが異なる2つの市場が存在するため、1つの商品が2つの市場を満足させるということは簡単ではありません。
まずは初期市場を満足させなければ何も始まらないため、多くの商品やサービスが初期市場に過剰適応してしまいがちです。
そのため、初期市場の限定的な普及で消えていく商品やサービスが多くなります。
3.2.キャズムを超える戦略
キャズムを超えるには、商品やサービスの設計段階から初期市場とメインストリーム市場の両方を意識した企画にすることが重要です。
また、キャズムに差し掛かった時点で、マーケティング戦略を大きく転換することも必要になってきます。
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4.キャズム超えをするための戦略
キャズム理論を要約すれば、アーリーマジョリティにいかにうまくアプローチをするかにつきます。
そのために、さまざまな戦略が存在します。
4.1.初期市場だけでなく、メインストリーム市場を視野に入れた設計
新しい商品やサービスは、それまでになかった新奇性や先進性があるからこそ企画が成立をして開発フェーズに入ることができます。
企画、開発段階では、イノベーターやアーリーアダプターという初期市場の消費者の声を聞くことが多く、ややもすると設計や企画そのものが初期市場に過剰適応してしまいがちです。
キャズムに直面した時になって初めて、商品やサービスの価値が小さいことに気がつくということもあります。
このようなことにならないように、最初の企画、開発段階からメインストリーム市場を視野に入れた設計にしておくことが重要です。
4.2.KOL、KOCを活用したバイラルマーケティング
KOLとはKey Opinion Leaderのことで影響力のある人=アーリーアダプターに属する消費者です。
SNSなどでも注目をされ、新しい商品やサービスの認知を広げてくれるインフルエンサーです。
一方、KOCとはKey Opinion Consumerのことで、限定的な範囲で影響力を持つ消費者のことです。
アーリーマジョリティに属する人で、SNSやECのレビューに熱心に使用感などを書き込んでくれる人たちです。
このようなキャズムを挟んだ影響力のある消費者であるKOL、KOCを活用すると、キャズムをうまく超えることが可能になってきます。
KOLに対してはコラボ案件などを依頼し、KOCに対しては商品やサービスの情報提供をして、SNSなどの発信を促していきます。
4.3.ニッチな市場に特化をする
あえてニッチな市場に特化をし、その小さな市場でキャズム超えをしておき、それから一気に大きな市場にシフトをするという戦略もあります。
家庭用のアイディア日用品などでは、このパターンでのヒット商品が多くなっています。
例えば、パスタを調理するのに、水を入れてフタをして電子レンジでチンするだけで茹で上がる容器があります。
当初は時短、鍋不要などがウリで、単身者の間で広がりました(イノベーター)。それが共働きの夫婦の間にも広がっていきます(アーリーアダプター)。
ところが、鍋で茹でるよりも失敗がなく、しかも評価は人それぞれですが、より美味しく仕上げられるということから一般家庭にも広がっていきました(アーリーマジョリティ)。
この「時短」という先進性と「おいしい」という実用性で、小さなニッチ市場でキャズム超えをしてから、マスメディアなどでも取り上げられるようになり、「簡単にできるパスタの新しい調理法」として大きな市場に水平展開をしていきました。
小さなニッチ市場では、消費者とのコミュニケーション密度も高くなるため、キャズム超えがしやすくなります。先に小さな市場を制して、大きな一般市場に展開をするという戦略では、キャズム超えがしやすくなります。
新しいデジタル製品、流行服飾品、O2O(Online to Offline)サービスなどの分野では、同様の戦略で成功している実例が豊富にあります。
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5.キャズム超えをするために注意すべきこと
キャズム超えをするには、常に次のことに注意をしておく必要があります。
5.1.自社の商品、サービスのポジションを常に把握する
自社の商品、サービスが現在どの層に普及をしているのか、イノベーター理論のどこに位置をするのか常に把握しなければなりません。
ポジションによってマーケティング戦略を変えていかなければならないのですから、ここをおろそかにするとミスマッチを起こしてしまいます。
このポジション把握をする手法は、設計段階から考えておく必要があります。
5.2.マーケティング戦略を変化させていく
イノベーター段階では先進性、アーリーマジョリティ段階では実用性を訴えるなど、アピールする内容も異なってきますが、それを伝える手法も変えていく必要があります。
例えば、イノベーターに対しては体験会、アーリーマジョリティに対してはSNS、レイトマジョリティに対してはマスメディアなどです。
5.3.商品やサービスの改善
キャズム理論を突き詰めれば、各段階の消費者の満足度を高めていくということになります。
そのため、商品やサービスを市場投入後に改善をしていくことが必要です。アーリーマジョリティに対しては、機能を省いた廉価版を追加販売するなどということもよく行われます。
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6.まとめ
キャズムとは、消費者をイノベーター理論で分類した時に、初期市場とメインストリーム市場の間の深い溝、断絶のことです。
初期市場とメインストリーム市場では、商品やサービスに対して求めることが異なるため、ここをうまく超えることができるかどうかで、市場に普及するかどうかが決まります。
このキャズムをうまく超えて普及段階に入ることを、俗に「キャズム超え」などと言うこともあります。