ビジネスの現場で「シナジー」あるいは「シナジー効果」という用語を聞いたことがある方も多いと思います。今回は、シナジーの言葉の意味やシナジー効果の実例・メリット、シナジー効果を生み出す手法について説明します。
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1.シナジーとは
シナジー(Synergy)とは、相乗効果のことです。1+1=2ではなく、プラスαのプレミア効果が生まれることをねらうものです。
部署間の提携、企業間の事業提携、合併などはシナジー効果が得られることを目的として行われます。
Synergyの語源はギリシャ語のsunergosで、sun(一緒に)+ergos(機能する)という意味です。
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2.シナジー効果の実例
シナジー効果をねらったビジネス活動はいたるところで見ることができますが、鉄道会社が都心ターミナル駅に百貨店を経営し、沿線で住宅地開発をするというのがシナジー効果の典型例です。
鉄道の利便性を高めることで、百貨店は集客がしやすくなり、住宅地の価値も高まります。百貨店や住宅地の利用が進むと鉄道利用が増え、鉄道収入も上がっていきます。
このように、多角経営、事業統合、企業合併などで、互いの事業を高め合う構造がシナジー効果です。
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3.シナジーによるメリット
企業間、あるいは企業内においてシナジーはさまざまな面で効果が期待できますが、企業合併や企業統合、提携などで得られる主なシナジー効果は次の4つになります。
(1)コストの低減
事業、企業を統合することでさまざまなコストを低減させることができます。
仕入れを共通化することで仕入れコストを、物流を共通化することで物流コストを、事業管理を共通化することで事業管理コストを低減させることができます。
最もわかりやすく、効果が事前に予測しやすいシナジー効果です。
(2)市場の拡大
事業、企業を統合することで顧客層を拡大することができます。
例えば、ヤマダ電機と大塚家具の場合、「ヤマダデンキはよく利用するが、大塚家具で買い物をしたことはなかった」という層が、大塚家具の商品を購入することが期待できます。
逆のことも期待でき、それぞれの事業が市場を拡大することができるようになります。
(3)知識、ノウハウの共有
社内に蓄積されている人材、知識、ノウハウの幅が広がります。
例えば、EC(オンライン小売)企業とスマートフォン決済企業が提携、統合などをすると、知識とノウハウも共有されることになります。
EC企業がどのような顧客層がどのような商品を購入するかという分析データを決済企業に提供することで、決済企業はリボルビング払いや分割払いなどの新たなサービスを適切な顧客層に向けてプロモーションすることができるようになります。
また、決済企業が分析データをEC企業に提供することで、顧客がどのような消費行動をしているかがわかり、ECの適切な品揃えを考えることができます。
さらに、オフライン小売に進出するなど新規事業を始める場合にも、決済企業は消費力が強い顧客層が住んでいる地域分析などを提供し、出店計画の参考とすることができ、EC企業は商品の流通や店舗の運営ノウハウを提供することができます。
他の企業に比べて、すでに必要な知識、ノウハウ、人材が社内で調達できるようになり、新規事業に素早く着手できるようになります。
(4)経理シナジー
企業の統合などをすれば、コストが削減できることにより、余剰資金が増えます。
この余剰資金を投資したり、新規事業、設備投資などに活用したりすることができるようになります。
また、企業統合により、企業数が複数だった時よりも法人税が軽減されます。
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4.シナジー効果を生み出す手法
企業間、あるいは企業内でシナジー効果を生み出すには、一般的には次の4つの手法を取ります。
(1)業務提携
異なる商品やサービスを持つ企業が提携をしてシナジー効果をねらいます。互いの強みを活かし、互いの弱みを補い合うことができます。
例えば、軽自動車の製造経験のない自動車メーカーと、軽自動車専業メーカーが業務提携をすることで、自動車メーカーは自社のラインナップを強化することができ、軽自動車専業メーカーは販路を広げることができます。
(2)企業買収・合併
企業を統合することでシナジー効果をねらいます。
例えば、ECが海外に進出する時に、海外でゼロからECを構築するのではなく、既存の地元ECを買収して看板をつけ替えます。これにより、現地国の商習慣に合った運営ができるようになります。
また、他国の商品を販売することで、現地国のライバルEC企業にはない強みをつくることができます。
同じ業種の企業と統合する「水平統合」、あるサービスの上流から下流までの提供体制をとるための「垂直統合」、異業種参入をねらう「コングゴマリット統合」、新たな商品と市場を獲得するための「周辺統合」などの手法があります。
(3)多角化
自社の経営資源を新たな事業に適用する方法です。
進出する事業を想定して、必要な経営資源が得られるように提携、統合をして、シナジー効果をねらいます。
既存市場に新たな製品を提供する「水平型」、サービスの上流から下流までをカバーするための「垂直型」、新商品をまったく新しい市場に提供する「集中型」、まったくの新規分野に挑戦する「集成型」などがあります。
(4)グループ経営
その企業が目指すミッションに従い、必要な企業を統合するなどして、グループとして事業を進める手法です。
グループ内でさまざまなシナジー効果が生み出されます。
例えば、「都市生活者の生活を豊かなものにする」というミッションを掲げ、EC、決済、金融、旅行、保険といった企業を買収し、グループに取り込み、複数のサービスを消費者に提供します。
消費者から見ると、その企業グループのサービスを使う限り、ポイント還元などで安価で良質なサービスが受けられるようになり、LTV(ライフタイムバリュー、生涯価値=生涯消費額)が大きくなります。
グループ企業として長期にわたって安定した売上を上げられるようになります。
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5.シナジー効果と企業成長戦略の関係
このシナジー効果という言葉を広めたのは、米国の経営学者、イゴール・アンゾフ氏です。
(1)イゴール・アンゾフ氏が注目をした課題
アンゾフ氏は、米国空軍が設立したシンクタンク「ランド研究所」の研究者で、その後、ロッキード社に入社し、企業の多角化戦略について研究をします。
その当時の多くの米国企業の成長戦略が買収でした。次々と企業を買収し、企業規模を大きくしていくというやり方でした。確かに売上高は増えますし、利益額も増えます。しかし、単なる足し算になっていて、1+1=2にしかならないことにアンゾフ氏は課題を感じました。
そこで、企業にとって最も大切なのは、企業の成長戦略であり、その成長戦略に従って組織を構築すべきだとして、有名な「アンゾフのマトリクス」を発表しました。
(2)「アンゾフのマトリクス」とは!?
「アンゾフのマトリクス」は、縦軸を(既存市場、新規市場)、横軸を(既存製品、新規製品)として、4つの象限でそれぞれどのような企業戦略をとるべきかを示したものです。
例えば、新規市場に既存サービスを提供する場合は、市場開拓戦略を取るべきで、組織もこの市場開拓戦略を取ることが可能なものに組み替えていくことが必要だとしました。
この組織改革には部署の統廃合、外部企業との提携、統合なども必要になります。組織を取るべき戦略に合わせて改革をしていくことで、さまざまな局面でシナジー効果が生み出され、企業が成長をしていくという考え方です。
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6.ケミストリー効果との違い
シナジー効果に近い言葉でケミストリー効果という言葉もあります。化学反応という意味です。どちらも1+1=2以上をねらうものですが、ニュアンスに少し違いがあります。
ケミストリー効果は、2つ以上のものが出会うことにより、予想しなかった好ましい効果が起こることを示します。
ケミストリー効果が起きることを期待して、事業統合、企業統合などをしますが、具体的にどのようなケミストリー効果が起きるまでは予測できない、という感覚がある言葉です。
その代わり、効果は大きく、イノベーションに直結をします。
一方、シナジー効果は、あらかじめ具体的に予想ができることが多く、その効果をねらって事業統合、企業統合を行います。
最も優れた戦略は、シナジー効果が着実に得られるように統合を進め、さらにケミストリー効果が起きる環境を用意するというやり方です。
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7.まとめ
シナジーとは、相乗効果のことです。1+1=2ではなく、プラスαのプレミア効果が生まれることをねらうものです。
企業は成長をするために、シナジー効果をねらって、さまざまな組織改革を行なっています。