「クリティカル(critical)」という言葉をビジネスの現場で聞く機会も多いかと思いますが、なんとなくの意味はわかるけれど......という方も多いかと思います。そこで今回は、クリティカルという用語のビジネスの現場での意味や使われ方、クリティカルパス、クリティカルシンキングなどについて詳しく見ていきます。
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1.クリティカルとは
クリティカル(critical)という言葉には「批判的な」と「危機的な」という主に2つの意味があります。
元々はラテン語で批判を表すクリティカ(critica)を語源とする言葉で、批評家(critic)も同じ語源です。
批判をされるような深刻な問題というところから「危機的な」「深刻な」という意味でも用いられるようになり、危機(crisis)という言葉も同じ語源から生まれています。
ビジネスの現場では、「深刻な問題」「危機的な問題」の意味で使われます。
ただし、問題の大きさや深さを表すというよりも、その問題が解決できないとプロジェクトが崩壊するというような問題の影響度の大きさを表すときに使われます。
表現は俗語的、漫画的なのでビジネスの現場で使うのは不適切ですが、「キモとなる問題」「秘孔を突かれた状態」という表現がニュアンス的には近くなります。
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2.クリティカルヒットとは
ビジネス用語ではありませんが、最も身近で、クリティカルの意味を正確に理解できるのが、RPGゲームなどで使われるクリティカルヒットです。致命的な攻撃、会心の一撃の意味です。
RPGゲームでは、モンスターを攻撃し、モンスターのHP(ヒットポイント)が0になるとモンスターを撃退できます。モンスターを何回か攻撃して、HPが5まで減ったところに、7の攻撃をするとHPが0になり撃退できますが、このような攻撃はクリティカルヒットとは呼びません。
HPがまだ多い状況の時に、さまざまな偶然が重なって、大量のHPを奪う攻撃となり、一気に撃退することが可能になるのがクリティカルヒットです。
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3.クリティカルな問題とは
ビジネスの現場では、「クリティカルな問題」「クリティカルな課題」という表現がよく使われます。
小売業で、原材料費が高騰し、値上げを考えなければならなくなった。これは深刻な問題ですが、クリティカルな問題だとはあまり呼ばれないことが多いです。
ところが、同じ小売業でも100円均一ショップを運営していて、原材料費が高騰し、100円では売っても赤字になってしまうという事態はクリティカルな問題といえそうです。「100円均一」という根本のコンセプトが維持できなくなるからです。
逆に言えば、クリティカルな問題を解決できれば、ビジネスがうまく回り出すという意味でもあり、すべてのリソースを結集して解決にあたるべき問題がクリティカルな問題です。
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4.クリティカルパスとは
クリティカルに関連するビジネス用語に「クリティカルパス」があります。
以下で詳しく説明します。
4.1.クリティカルパス法(CPM)とは
クリティカルパス(臨界経路)は、複雑なプロジェクトで作業に必要な期間を見積もるための手法です。1950年代にデュポン社が開発をしたもので、CPM(Critical Path Method)と呼ばれます。
実際の作業計画を立てるときに、各作業の必要時間が見積りができても、それをすべて足し合わせただけでは、全体のプロジェクト期間は計算できません。
なぜなら、実際には複数の作業を同時並行で行うことができ、一方ではある作業を終えないと次の作業ができないという時系列の関係があるからです。
例えば、家を建てる時、土地の整地をしなければ基礎工事に入ることはできません。
一方で、基礎工事をしている間にユニットバスを同時並行で製造するということはできます。
このような複雑な作業手順が必要なプロジェクトで、全体のプロジェクト必要日数を割り出すのがCPMです。
4.2.実際にクリティカルパスを求める
今、aからgまでの7つの作業が必要なプロジェクトがあり、必要な作業日数がわかっているとして、プロジェクト全体の日数を求めてみます。
(クリティカルパスの例(赤)。aからgまでの7つの作業をする必要がある場合、依存関係のグラフを描き、最長の経路がクリティカルパス=作業全体の必要日数となる)
この図から、2つのことがわかります。
1:aとbは同時並行で作業を進めていくことができる
2:cという作業はaが終わらないと始められない。多くの作業が前の作業が終わっていないと始められない
このようなプロジェクトでは、ゴールに向かう経路の内、最長のものがプロジェクト全体の作業日数になります。
この場合は、a-c-e-gという経路で、合計19日間となり、このプロジェクトは19日間あれば終えることができます。この最長経路がクリティカルパスで、臨界経路と呼ばれることもあります。
4.3.クリティカルパスを求めることのメリット
クリティカルパスを求めることにはさまざまなメリットがあります。
(i)プロジェクト全体の必要日数を求めることができる。
(ii)クリティカルな作業を抽出することができる:クリティカルパスに関連した作業に遅れが出ると、プロジェクト全体が遅れることになります。例えば、aの作業に1日遅れが出ると、プロジェクト全体が1日遅れが出ることになります。クリティカルな作業にリソースを集中することで、納期を守ことができます。
(iii)クリティカルではない作業を抽出することができる:クリティカルパスに関わらない作業は遅延が出ても吸収ができます。例えば、bの作業が数日遅れても全体のプロジェクト日数には影響しません。なぜなら、次のeの作業はaとcの合計9日間の作業が終わらないと始めることができないからです。bの作業は最悪4日間遅れても全体には影響しません。
このようなクリティカルではない作業の開始日を調整することで、必要なレンタル機材や人員の配置を効率的にすることも可能になり、全体のコスト削減も可能になってきます。
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5.クリティカルシンキングとは
ロジカルシンキングという言葉はよく知られていますが、最近注目をされているのがクリティカルシンキングです。
クリティカルシンキングは批判的思考と訳されますが、議論をする時に相手の揚げ足取りをすることではありません。
ロジカルシンキングが、ファクトやデータという前提条件を元に、論理的に結論を見出すのに対し、論拠を批判的に疑い結論を導いていく手法のことです。ロジカルシンキングと対になる思考法です。
5.1.ロジカルシンキングの考え方
ロジカルシンキングでは、哲学者トゥールミンが示した俗に三角ロジック(トゥールミンモデル)と呼ばれるフレームワークで論理を組み立てていきます。
(ロジカルシンキングでは、「事実」を「論拠」に基づいて解釈し、「主張」を導き出す。クリティカルシンキングでは、この論拠が正しいかどうかを検証する)
例えば、「明日は真夏日になるので、ビールの販売数が伸びる」という結論は、「明日は真夏日だという予報を気象庁が発表している」という事実をもとに、「真夏日にはビールの売上が伸びる」という論拠を使って、結論を出しています。これはロジカルシンキングです。
5.2.クリティカルシンキングの考え方
しかし、クリティカルシンキングでは、論拠を疑って検証を行います。
「真夏日にはビールの売上が伸びる」は本当なのか、検証することを求めます。
統計情報を分析してみると、例えばですが、ビールが売れるのは「真夏日」ではなく「熱帯夜の日」だったということが判明するかもしれません。
私たちはロジカルシンキングをしているつもりでも、その論拠を疑うことなく受け入れてしまっていることが少なくありません。
そうなると、論理的に正しい結論を導いたとしても、論拠が誤っている、ずれているということがあったら、結論も誤ったものになってしまいます。
クリティカルシンキングでは、論拠を批判的に見ることで、新たな発見をしたり、結論の誤りを正したりすることができるようになります。
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6.クリティカルマスとは
マーケティングの世界で、クリティカルマスという言葉が使われることがあります。
商品の普及は、イノベーター理論によると、新製品に対する感度の高いイノベーター、アーリーアダプターと広がっていき、その次のアーリーマジョリティーに普及をし出したあたりから、普及率が急速に上がっていきます。
このように、普及率が急に跳ね上がる消費者群をクリティカルマスと呼ぶことがあります。
例えば、携帯音楽プレイヤーiPodは、当初はアップルファンというイノベーターに普及をし、次に音楽好きなアーリーアダプターに普及をしました。
その後、日本では小さく、価格が安く、カラー展開をしたiPod mini/iPod nanoが、音楽プレイヤーの枠を超えて、ハイセンスなガジェットのひとつとして見られるようになり、一気に普及率が高くなりました。
この時のクリティカルマスは若い女性層だったと見られています。アップルはサイズを小さくする、価格を安くする、カラー展開をする、ハイセンスなCMを打つという手法で、クリティカルマスである若年女性層に的確にアピールをしました。
どのような消費者群がクリティカルマスになるのかは商品によって異なります。
しかし、大きく普及させるには、クリティカルマスがどのような消費者群なのであるのかを分析して、その層に的確にアプローチしていくことが重要だとされています。
7.まとめ
クリティカルという言葉には「批判的な」と「危機的な」という2つの意味があります。
ビジネスの現場では「クリティカルな問題」「クリティカルパス」「クリティカルシンキング」「クリティカルマス」などの言葉で使われます。その概念の中で、構造を支えている重要な部分のことを指します。
「クリティカルな問題」とは、深刻な問題、重大な問題というだけでなく、その問題が解決できなければビジネスそのものが崩壊しかねない、ビジネスの構造が大きく変わってしまうという状況を指します。