アマゾンといえばロングテール戦略、という形でロングテールという用語を知った方も多いかと思います。今回は、ロングテールとは何か、さらにアマゾンをはじめとした成功例、マーケティングにおけるSEOへのロングテール戦略の応用方法などについて解説します。
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1.ロングテール戦略とは
ロングテール(long tail)戦略とは、売れ行きのいい人気商品だけに依存するのではなく、販売母数が少ないニッチな商品を多数取り扱うことで、売上や利益を伸ばす戦略のことです。
商品の販売数を売れ行き順に並べると、人気商品がヘッド(頭)に見えて、ニッチ商品が長いしっぽのように見えることから名付けられました。
アマゾンやネットフリックスのビジネスの強さを説明するために、ウェブマガジン「Wired」のクリス・アンダーソン編集長が使った言葉です。
ネットビジネスが生まれて、店舗の陳列スペース、倉庫の在庫スペースという物理的制約が少なくなったことにより生まれた戦略です。
(商品を売れ行き(縦軸)順に並べた時、よく売れる商品が動物の頭に見え、ニッチだけれども品数の多い商品が長い尾に見える。この長い尾の部分がロングテールと呼ばれる)
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2.ロングテールとパレートの法則の関係
ロングテールという考え方を理解するには、その前提としてパレートの法則を理解しておく必要があります。
2.1.パレートの法則とは
パレートの法則は、イタリアの経済学者、ビルフレッド・パレートが1880年代の個人所得の分布から導き出した法則です。
俗に2:8の法則などとも呼ばれるもので、上位20%の人が全体の所得の80%を独占しているというものです。
2.2.小売業でのパレートの法則
これは、小売業でも同じことが言えるケースが多く、売行き上位20%の商品が、売上の80%を占めているという現象がさまざまなところで見られます。
そのため、小売店では売上上位20%の商品だけを扱うのが効率的でした。倉庫の面積や店舗面積を抑えることができ、商品の取り扱いコスト、物流コストなども抑えることができ、利益率を高くすることができるからです。
店舗や倉庫、人員などのリソースが限られている小店舗では、パレートの法則を使って利益を最大化することが必須になります。
2.3.ロングテール戦略とは
一方で、アマゾンなどのECでは、このパレートの法則を守る必要は必ずしもありません。なぜなら、店舗スペースはウェブになるため事実上無限大であり、郊外のコストの低い地域に巨大な倉庫を用意することができるからです。
物理的制約が少なくなれば、パレートの法則によるヘッドの部分とロングテールの部分の面積はほぼ等しくなり、ロングテール商品の売上が期待できるようになるのです。
しかも、「あのECではどんなものでもそろう」というイメージが定着をすることで、ヘッド部分の売上も伸びるようになります。ロングテールに対応することで、全体の売上を大きくしていくことをねらうのがロングテール戦略です。
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3.ロングテール戦略のメリット
ロングテール戦略には次のようなメリットがあります。
3.1.売上が安定する
パレートの法則に従い、売行きのいい商品しか販売しない店舗は売上が安定しません。販売している商品の売れ行きが落ちることがあるからです。売上を安定させるには、常に商品の品揃えを考えていかなければなりません。
一方、ロングテール戦略では、売行きのいい商品の他に、ニッチな商品の売上も大きなものになります。
また、売行きのいい商品の売れ行きが落ちても、その商品がロングテール商品になるだけで、品揃えを考えることなく、安定した売上が期待できます。
3.2.幅広いニーズに対応できる
ロングテールに対応すると、そのジャンルの商品の多くを幅広く扱うことができます。
例えば、オンライン書店であれば、発行されている書籍のほとんどを扱うことになります。そのため、さまざまなニーズに応えることができるようになります。
多くの消費者に対応することが可能になり、多くの顧客を獲得することができるようになります。
3.3.不良在庫が少なくなる
不良在庫という概念をあまり気にしなくてすみます。
不良在庫とは、売れると思って大量に仕入れたものの売れなくなり店頭での販売を停止し、何らかの形で処分をしなければならなくなった在庫のことです。
ロングテールでは、すべての在庫商品をECで購入できる状態にしているため、いつかは売れる可能性があり、不良在庫という考え方が少なくなります。
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4.ロングテールのデメリット
ロングテール戦略はインターネット時代に強みを見せているものの、難しい点も多々あります。
4.1.すべての商品を在庫できるわけではない
ロングテールは、通常の小売店では在庫できないようなニッチな商品まで在庫にもち、販売ができるという強みがありますが、すべての商品を在庫できるわけではありません。
郊外のコストの安い場所に倉庫を建てると言っても、巨大なものとなるため、大きな初期投資が必要になります。
また、郊外といっても、土地価格の安さを求めて、顧客のいる都市からあまりに離れた場所に倉庫を置いてしまうと、配送物流のコストがかかるようになります。ロングテールにも、限界は必ずあります。
4.2.成果が出るまで時間がかかる
ロングテールは、消費者にそのよさが理解されるまで時間がかかるという問題があります。多くの消費者はヘッド部分の商品を購入することが多いため、通常の小売店とロングテール小売店との区別がつきにくいからです。
ニッチな商品を買い求める機会が生まれて、初めてロングテール小売店のよさを認識し、リピートしてもらえるようになります。ロングテールで消費者の心をつかむには長期の視点に立った運営が必要になります。
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5.ロングテール戦略で成功した実例
ロングテール戦略を使って成功した実例は、アマゾンとネットフリックスです。また、日本の東急ハンズもロングテールに近い戦略で成功した小売業です。
5.1.アマゾン
アマゾンがロングテール戦略で成功した最も有名な事例の一つといえます。
アマゾンはもともとオンライン書店から始まりました。書籍は、ベストセラーになるようなヘッド商品の売り上げも大きいですが、読者それぞれが好きな分野を持ち、売上としては大きくないものの必要とされる商品があります。
アマゾンは郊外に巨大倉庫を設置することで、幅広い書籍を在庫としてもち、ニッチな本でも見つかりやすく、書店取り寄せるよりも早く宅配してもらえることも多いという評判を得て成功しました。
5.2.ネットフリックス
ネットフリックスも映画、テレビ番組の配信でロングテール戦略を取り成功しました。
映像はデータであるため、保管のコストは限りなくゼロに近くなります。このことを活かして、マイナーな映画やテレビ番組まで取り扱いました。
配信数の限られている配信サービスよりもネットフリックスを選ぶ人が多数でてきたのです。
5.3.東急ハンズ
東急ハンズは店舗小売店ですが、ロングテールに近い戦略で成功をした生活雑貨チェーンです。
住まいと住生活、手づくり関連の製品の品揃えに力を入れ、「東急ハンズに行って見つからなかったらあきらめる」と言われることがあるほど、ロングテール戦略で成功しました。
一方、ユニークなバラエティーグッズ、文具、工具などの目利きにも力を入れ、東急ハンズならではのユニークなヒット商品も生み出しています。ロングテールで集客をし、ヘッド部分でヒット商品を生み出すという戦略で成功したチェーンです。
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6.ロングテールSEOとは
ロングテール戦略はさまざまな分野に応用することができますが、最も応用されている一つがマーケティングにおけるSEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)です。
6.1.ビッグ、ミドル以外のkwも狙う
ロングテールSEOとは、「ビッグ」「ミドル」「ロングテール」の3種類以上のキーワードで検索順位を上げることをねらうSEOのことです。
ウェブページのPV(ページビュー)を安定させたり、検索広告を出したりする時に重要な考え方になります。
6.2.検索意図をより明確化して対策
SEOでは、例えば「自転車」というよく知られたキーワード(ビッグキーワード)で検索順位をあげることが重要です。しかし、このようなビッグキーワードはライバルが多く、検索結果の上位にあげることは簡単ではありません。
また、自転車というビッグキーワードでは、たくさんのトラフィックが獲得できますが、その検索意図はまちまちです。
自転車を買いたい人、自転車レースが好きな人、放置自転車に悩んでいる人などさまざまな人がアクセスをしてくることになります。
もし、ランディングページが自転車の修理キットを販売するページであるなら、「自転車 修理 セルフ」などの3種類以上のキーワードでの検索順位をあげる方が効率的です。このキーワードで検索する人は、ビッグキーワードに比べて少なくなりますが、検索意図がランディンページの目的に適っているため、高いコンバージョン率が期待できるのです。
数は少なくても、購入率が高いため、ビッグキーワードだけに頼る集客よりも低コストで高い効果を上げることが可能になります。
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7.ロングテールSEOのメリット
ロングテールSEOを実行するのは簡単ではありませんが、さまざまなメリットが存在します。
7.1.低コストで高いコンバージョン率を得ることができる
ロングテールSEOをうまく実施できると、低コストで大きな効果をあげることもできます。
自転車のセルフ修理工具を販売しているサイトを運営していて、そこに検索エンジンから集客をするため、SEOをしているとします。この時、「自転車」というビッグキーワードだけ、あるいは「自転車 修理」というミドルキーワードまでを想定したSEOを行うと、ライバルが無数にあるため、さまざまな工夫をしなければ検索上位に入ることはできません。つまり、コストがかかるということです。
一方、「自転車 修理 セルフ 初心者」というロングテールキーワードまでを想定したSEOを行うと、このキーワードで検索上位に入る可能性が高まります。
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7.2.検索意図が読み取れる
「自転車 修理」というミドルキーワードまでのSEOでは、自転車の修理店を探している人まで集客をしてしまうことになります。期待とは異なるお客さんまで集客をしてしまうことが避けられません。
しかし、「自転車 修理 セルフ 初心者」というロングテールキーワードまでのSEOを実施しておくと、ほぼ期待どおりのお客さんがランディングページを訪れてくれることになります。
7.3.コンバージョン率が高くなる
ロングテールSEOで集客をすると、検索意図とランディングページの内容が一致をしやすくなることが多いため、高いコンバージョン率が得られやすくなります。ビッグキーワードだけの集客では大量のトラフィックを集めることができますが、コンバージョン率は低くなります。
ロングテールキーワードによる集客では少量のトラフィックしか集めることができませんが、コンバージョン率は高くなる傾向にあります。
「トラフィック量×コンバージョン率」で実際の顧客数が決まりますので、それぞれのコストを勘案し、1人の顧客を獲得するのにどれくらいのコストがかかっているかを考えて、ロングテールSEOを設計していきます。
SEO技術が高度になればなるほど、ビッグキーワードによる集客コストは高くなっていくため、ロングテールSEOのメリットが高まっていきます。
7.4.音声入力や対話型AIと相性がいい
ロングテールSEOは、音声入力や対話型AIと相性がよく、将来、主流のSEO技術になる可能性があります。
音声アシスタントや対話型AIでは、何かを調べる時に単語を並べるのではなく、文章で検索をすることが多くなります。
例えば、「自転車の修理を自分でしたい」などです。ここからAIが「自転車 修理 セルフ」という単語を抽出し、検索しています。
これはロングテールキーワードと同様のものと考えることができますので、将来、音声入力や対話型AIからの検索が広まるとともに、ロングテールSEOが有利になっていきます。
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8.まとめ
ロングテール(long tail)とは、売れ行きのいい人気商品だけに依存するのではなく、販売数が少ないニッチな商品を多数取り扱うことで、売上や利益を伸ばす小売戦略のことです。
店舗小売では、パレートの法則に従って、売行きの高い商品だけを置くことにより利益率を高める工夫をしていましたが、ECなどのネットサービスでは、展示スペース、倉庫などの物理的な制約が少なくなるため、ロングテール商品まで扱うことができます。
これにより、ロングテール部分の売上が加わることになります。ロングテールの考え方は、SEOなどの他の分野にも応用されています。
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