ヒューリスティック探索法、思考法とは? マーケティングへの応用法・事例も解説

ビジネススキル・マナー

より正解を求めて思考していく方法として「ヒューリスティック」という手法があります。今回は、ヒューリスティックの意味ヒューリスティック探索法と思考法マーケティングへの応用法・事例について解説します。

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1.ヒューリスティックとは

ヒューリスティック(Heuristic)とは、発見的手法のことです。

経験則や直感を活かして解答を導く手法です。

最初に正解を求めるのではなく、状況を改善することをやってみて、その結果からさらに改善を積み重ねていくという手法です。

論理的手法に比べて、解答の精度は落ちますが、短時間、低コストで正解に近い解答を得ることができやすいです。

古代ギリシアの科学者アルキメデスが、浮力に関する発見をした時に「エウレカ!」(発見した!)と叫んだ話は有名ですが、ヒューリスティックはこのエウレカと語源を同じにする言葉です。

主にコンピューター科学と心理学の分野で使われる学術用語ですが、近年ではマーケティングの分野でも使われるようになっています。

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2.ヒューリスティック探索法

コンピューターで解こうとすると膨大な時間がかかってしまう数学的な問題が知られています。有名なところでは、サラリーマンの巡回問題、荷物のパッキング問題などがあります。

ナビゲーションアプリのルート検索なども同様の問題です。交差点の数だけ分岐があるため、すべてのルートを検討して最短ルートを割り出そうとすると、膨大な計算時間がかかることになります。

このような時に使われるのがヒューリスティック探索法です。

簡単なルールを適用することで、最適解ではないものの、それに近い解を素早く求めるというものです。

有名なヒューリスティック探索法には次のようなものがあります。

2.1.貪欲法(Greedy Algorithm)

Greedyには貪欲という意味の他に、がめつい、強欲という意味もあります。目先の利益を最大化することに集中することで、結果的にうまくいかせるという方法です。

さまざまな重さの荷物が大量にあって、2台のトラックに分けて乗せることを考えます。2台のトラックに乗せる荷物の重さの合計をできるだけ同じにしたいと考えています。個数まで同じにする必要はありません。この問題を正確に解こうとすると意外にやっかいです。そこで、人間は多くの場合、この貪欲法に近い方法を取ります。

(1)まず1つの荷物を乗せる

(2)2台のトラックの荷物の重さの合計を比べる

(3)次の荷物を重さの合計が少ない方のトラックに乗せる。

これを繰り返していくだけですが、最終的な正解ではないかもしれませんが、まずまず正解に近い結果が得られます。このように実際に作業を進めながら、次の選択肢を考えていく方法がヒューリスティック探索法の特徴です。

2.2.山登り法(Hill Climb Algorithm)

貪欲法よりも少しシステム的になるのが山登り法です。山登り法では、まず適当に2台のトラックに荷物を積んでしまい、試行錯誤で改善をしていくというやり方です。

(1)それぞれのトラックから1つずつ荷物をランダムに選ぶ。

(2)その1対の荷物を交換したら、2台のトラックの荷物の重さの差が減るか増えるかを計算する。

(3)減る(正解に近づく)場合は、荷物を入れ替える。

これを繰り返していきます。山に登るように一歩一歩改善をしていく方法です。終わりがないので、例えば「2台のトラックの荷物の差が50kg以内」などのゴールを定めておき、それを達成するまで繰り返していきます。

このようにヒューリスティックは、計算で求めることが現実的ではない問題に直面した時に、正解に近い解を求める方法として有効です。

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3.ヒューリスティック思考法を使う場面

ヒューリスティック思考法は、論理的思考法だけでは求めることが難しい問題を解く場合の手法です。

ビジネスの世界では、多くの問題が計算や論理で解くことはできないことがあるため、ヒューリスティック法を取り入れた思考法が必要となります

ヒューリスティック思考法を使うべき時とは次のような場合です。

3.1.その問題を深く考える時間がない場合

ビジネスの現場では、締め切りがあり、しかもじゅうぶんな時間が与えられないことが多くなります。そのような場合でも、論理的思考により精度の高い正解を導き出すことが理想的ですが、いくら精度の高い解であっても、締め切りに間に合わなくなります。そのため、ヒューリスティック思考法を使って、期日までに一定の答えを出すことが求められます。

3.2.情報が多すぎて処理ができない場合

現実の多くの問題は複雑です。例えば、明日開催されるセミナーイベントの観客数を予想するだけでも、考慮しなければならない要素は無数にあります。天候、演者の知名度、開始時間、他の大規模イベントの状況などを考慮しなければなりません。初めてのイベントであれば、過去のデータを参考にすることもできません。このような場合にヒューリスティック思考法を使って、正確ではなくても正解に近い予測をする必要があります。

3.3.他の知識や情報がほとんどない場合

逆に、手掛かりになる情報がほとんどないというケースもあります。今までに存在しなかった画期的な商品を販売する時に、正確な売上予測を出すことは困難です。この場合は、類似する商品の実績データを参考にヒューリスティック思考法で、多少精度は粗くても正解に近い予測をしておく必要があります。

3.4.その問題がさほど重要ではない場合

ビジネスの現場で自分に関わってくる案件の数は膨大になります。そのすべてに時間をかけて取り組んでいては、身体が持たず、結局、どの案件も中途半端な仕事をすることになります。優先順位を決めて、重要なものにリソースを多く割り当てることをしなければなりません。

重要度が低い案件に関しては、精度の高い正解を求めようとせず、ヒューリスティック思考法で正解に近い答えを出し、リソースを節約する必要があります。

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4.マーケティングにヒューリスティックを応用する

人はどのような問題に対処する場合でも、論理的思考とヒューリスティック思考を組み合わせて使っています。どちらか一方だけに頼るのではなく、問題ごとに適切な組み合わせで思考することが大切になります。

ヒューリスティック思考法は、直感と経験則に頼る部分が大きいため、あまりにも重視しすぎると誤った解を導いてしまうことがあります。

一方で、誰もが自然にヒューリスティック思考法を使うことができるため、マーケティング施策を考える時にその人の特性を利用することが可能になります。

一般的に見られるヒューリスティック特性には次のようなものがあります。

4.1.代表性ヒューリスティック

対象物の見た目や特徴から、その中身までも判断してしまう傾向のことです。

警官のような制服を着ている人を見たら、それだけで警官か警備員だと思い込んでしまいます。しかし、本当にそうであるかどうかは、身分証などを確認しなければわかりません。人間には、見た目の特徴から思い込みをして、思考停止をしてしまう特性があります。

4.2.利用可能性ヒューリスティック

想起ヒューリスティックとも呼ばれます。自分が入手しやすい情報だけに頼って判断しがちである特性のことです。

例えば、SNSで「ここのラーメンは美味しい」という絶賛されている投稿をよく見かけると、それを信じ込んでしまうことです。他の情報と比較して、情報の正確さを高めるということをしなくなってしまいます。

4.3.アンカリングと調整ヒューリスティック

最初に入手した情報を基準にして、新しい情報を判断してしまう特性のことです。

ある商品の価格が1,000円だと割高に感じるのに、「定価1,500円のところ500円引きで提供」と言われると安く感じてしまいます。「定価1,500円」がアンカーとなって判断の基準となり、それから「実売価格1,000円」を判断するために安く感じてしまうのです。

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4.4.シミュレーションヒューリスティック

過去の経験から予断で判断をしてしまうことです。

例えば、しばしば遅刻する部下が、定時にやってこない場合、「また寝坊をしたのだろう」と考えてしまいがちです。ひょっとしたら、通勤途中に交通事故に遭っているかもしれません。

4.5.感情ヒューリスティック

自分の好きなものは高く評価し、好きではないものを低く評価してしまう特性です。

例えば、ある資格試験に落ちた経験から、その資格を「取得しても意味のない資格」だと決めつけてしまうような場合です。

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5.消費者にありがちな6つのバイアス

人間は理性的な側面がある一方、ヒューリスティック思考を持った感情的な側面もあります。

商品の魅力をうまく伝えるには、論理的思考により商品のメリットを伝えるだけでなく、ヒューリスティックな特性をうまくつかんで商品のよさを知ってもらうことも必要になります。

消費者は、一般的に次のようなバイアスを持っているとされます。

5.1.正常性バイアス

想定外の事態に直面しても、問題ない、正常な状態であると思い込んでしまうバイアスです。避難指示が出されても、たいしたことはないと思い込んで自宅にとどまってしまうなどの例が知られています。心を平静に保ちたいために、状況を過小評価して正常の範囲内だと思い込む心理です。

5.2.対応バイアス

外部的な要因を無視して、人間の内面がすべての結果を招いていると考えてしまうことです。

例えば、遅刻をした人に対して、その原因を「だらしがないからだ」と考えてしまう心理です。本当の原因は外部にあって、鉄道の遅延があったのかもしれません。それでも対応バイアスが強い場合は、「電車が遅れることを見越して、その分早めに家を出るべき」とさらに原因をその人の内面に求めようとしてしまいます。

5.3.内集団バイアス

同じ集団内の人に過剰な安心感や好印象を持つ心理傾向のことです。

初めて会った人でも、同じ街の出身であるというだけで過剰に信頼してしまうことなどです。

5.4.確証バイアス

自分に都合のいい情報だけを判断材料にしてしまう心理傾向のことです。

例えば、ある政党の熱心な支持者の中には、別の政党の政策の悪い面ばかりが見え、別の政党に対して批判的になります。

5.5.ステレオタイプ

既成概念や固定観念をそのまま受け入れてしまうことです。

例えば、「年功序列は悪い」というような固定観念を受け入れてしまった人は、ベテラン社員に対して批判的な見方をしてしまうことがあります。

5.6.アインシュテルング効果

自分の経験や思い込みに固執をしてしまい、新しい考え方を受け入れることができなくなってしまう心理傾向のことです。

アインシュテリング効果は、程度の差はあるものの、ほぼすべての人に存在する心理傾向だと言われています。

「自分にはそんな心理的傾向はない」と言い切れる人は、それこそアインシュテルング効果に陥っていることになります。常に、自分の考え方は正しいのかと点検する気持ちを持つことが大切です。

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6.マーケティングにヒューリスティックを応用する具体例

消費者が持っているヒューリスティックな思考法、心理傾向をマーケティングに応用することが可能です。

具体的な例としては次のようなものがあります。

6.1.イメージ戦略

企業イメージを繰り返し訴えることで、消費者に印象付ける手法は、昔から、そして今でも有効な手法です。いい商品イメージを持ってもらうことに成功をすれば、代表性ヒューリスティックによって他の製品までいいイメージを抱いてもらえるようになります。

テレビCMで商品名を連呼するという手法は従来ほど有効ではなくなっているものの、露出を高めることは重要です。

また、SNSの普及により、SNSの情報を信用する利用可能性ヒューリスティックを活用して、各SNSでの露出を高めることも重要になってきています。

6.2.期間限定の値引き

通常価格を高めに設定し、さまざまなチャネルを通じて割引販売をする手法は今でも高い効果が得られます。

通常価格でアンカリング効果を期待し、調整ヒューリスティックを活用します。ただし、通常価格を表示するには、景品表示法により「相当期間にわたってその価格で販売された実績がなければならない」という規制があるので、そこに注意をする必要があります。

また、時間軸を使って「今だけセール中」、「あなたにだけの特別価格」などの手法も有効です。

6.3.グレード分け戦略

グレード分けは、松竹梅戦略とも言われる古典的なマーケティング手法です。

5,000円の商品を売りたい時、簡易版にした3,000円の商品、豪華版にした1,0000円の商品も用意します。すると、中グレードの5,000円の商品がよく売れるようになるというものです。

10,000円の商品がアンカーとなり、調整ヒューリスティックが働き、5,000円の商品を安いと感じてもらえます。同時に「最低価格の商品は質が悪い、満足度が低い」という代表性ヒューリスティックにより、5,000円の商品は質が高く、満足度が高いと感じてもらえるからです。

6.4.インフルエンサーの活用

広告宣伝をする時に、著名な芸能人やインフルエンサーを起用するというのも古典的手法ながら効果があります。

「有名な人が薦めているのだから間違いない」という代表性ヒューリスティックが働くからです。また、その芸能人やインフルエンサーのファンにとっては、感情ヒューリスティックによってその商品が高く評価されて販売数が伸びます。

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6.5.高価格戦略

価格1万円で1,000個の販売を目指すよりも、価格を10万円にして100個の販売を目指した方が達成しやすい場合があります。「高価なものは品質が高いはずだ」という代表性ヒューリスティックが働くからです。

ただし、どのような商品でも有効というわけにはいかず、宝飾品や趣味の商品など、価格よりも商品の魅力が評価の対象になる分野で特に有効です。ハイブランドと呼ばれる商品の多くが、この高価格戦略を採用しています。

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7.まとめ

ヒューリスティック(Heuristic)とは、発見的手法のことです。経験則や直感を活かして解答を導く手法です。

元々はコンピューター科学でのアルゴリズムや心理学での人間の特性を説明するための専門用語でしたが、今ではマーケティングの世界でもよく使われるようになっています。

人間心理のさまざまなバイアスに着目をして、マーケティング戦略を立案するようになっています。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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