アンカリング効果とは、人が意思決定をする際に、最初に提示された情報や価値観に影響を受ける心理現象のことです。この記事では、アンカリング効果がビジネスや対人関係でどのように活用できるのかを、具体例を挙げてわかりやすく解説します。また、活用する上での注意点や、アンカリング効果を受けやすい人とそうでない人の違いについても紹介します。
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1.アンカリング効果とは?
アンカリング効果(Anchoring Effect)とは、最初に与えられた情報(アンカー)を基準に考えることで、その後に提示された別の数字への認識が異なるという現象であり、心理学における認知バイアスの一つです。
例えば、顧客に車を販売するとき、より高価な車を見せておくことで、販売したい価格帯の車を購入してもらえる可能性が高まります。
1.1.アンカリング効果の語源
アンカー(Anchor)は日本語で「錨(いかり)」という意味です。つまり、アンカリング(Anchoring)は船の錨を下げて船をつなぎとめることを指し、身動きが取れない状態のことを言います。
1.2.アンカーは数字が有効?
ある調査では、最初に提示する情報(アンカー)が数字だけではなく、意味情報が提示されたときにも、アンカリング効果が起こるかどうかを調べました。その結果、意味情報が提示されている場合は効果が弱く、アンカーが数字である場合に効果が強いことがわかりました。
1.3.フレーミング効果との違い
アンカリング効果と同様、受け手の判断や意思決定に影響を与える効果の一つに「フレーミング効果」があります。
フレーミング効果では、情報を提示する際の言葉や文脈によって、人々の意思決定や行動を左右します。
例えば、定価1万円の商品を1,000円で売る場合、「定価の10%」と表示するよりも、「定価の90%オフ」と表示した方が、よりお得な印象を与えられるでしょう。
このように、アンカリング効果が情報を提示する「順番」を操作するのに対して、フレーミング効果は情報を提示する「方法」を操作するという違いがあります。
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2. アンカリング効果の活用シーン
ここからは、アンカリング効果がどのように活用されているのかを、シーン別に具体例を挙げて解説します。ビジネスはもちろん、プライベートでも活用できるので、ぜひ参考にしてください。
2.1.マーケティングの場合
商品のプライスタグの表示の仕方に「通常価格より70%OFF」などの表示を見たことがあると思います。通常価格(アンカー)と、値下げ後の値段を比較すると、値下げされた商品がとてもお得に感じられるでしょう。
しかし、実際のところ、該当商品が通常価格ほどの価値があるかは分かりません。消費者としては、表示に騙されずに、商品を選択したいところです。
一方で、自分がマーケティングをする場に立つと、元値を提示することで、割引された商品を安く感じさせ、売り上げ増加に繋げられる可能性があります。
2.2.営業の場合
契約の際、顧客に見積書を提出する際にも、アンカリング効果を活用することができます。具体的には、見積書の中に値引き欄を設け、合計金額からの割引額を表示することでお得感を演出できます。
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2.3.小売店の場合
小売店においては、さまざまな商品を詰め合わせたセット商品を販売していることがあります。その際、Aセット(1万円)・Bセット(5千円)・Cセット(3千円)と価格に差をつけることで、BセットやCセットに割安感を与えられます。
もしも、3千円のCセット1つしか選択肢がなければ、比較対象がないため、お得感を感じることはできないでしょう。
つまり、高額なAセットは、BセットやCセットの売り上げを伸ばすためのアンカーとして機能していることになります。
2.4.株の売買の場合
株を売買するとき、多くの人は株価の動向を見てから購入するでしょう。例えば、「ここ〇カ月で△%上昇(下降)し続けている」という情報をもとに、売買する場合などがそれに当たります。また「この銘柄は上場〇カ月で△円上昇(下降)した」という判断を元に、その銘柄の将来性を見越して購入することもあります。
過去の情報は、その銘柄の今後を保証するものではありませんが、過去の情報をもとに「その銘柄が上昇(下落)し続ける」と考える傾向には、アンカリング効果が影響しているといえます。
また証券用語で、株価が下落した後も、まだ高いときの株価が忘れられず、戻りを期待して売る気にならない状態のことを「高値覚え」といい、逆に下落したときの印象が強いあまり、銘柄を買えない状態になることを「安値覚え」といいます。
2.5.日常生活の場合
アンカリング効果は、日常生活でも活用できるでしょう。例えば、寝坊して会議に遅刻したとき、「1時間30分後に到着する」と言っていたのに、30分前の1時間後に到着した場合、遅刻したにもかかわらず、少しポジティブな印象を持たれるかもしれません。
3.アンカリング効果のメリット・デメリット
多くのシーンで活用されているアンカリング効果ですが、メリットがある一方でいくつかのデメリットも存在します。より効果的に活用するために、メリットとデメリットを確認しておきましょう。
3.1.アンカリング効果のメリット
アンカリング効果のメリットは、「判断に影響を与えやすい」ことです。
例えば、こちら側から先に価格など数値を示す情報を提示することで相手側にその情報が印象に残り、判断基準として考え出す可能性があります。
上手くアンカリング効果を発揮できれば、商品の売り上げ向上や消費者からの期待値を高めることができます。
3.2.アンカリング効果のデメリット
アンカリング効果のデメリットは、「効果を発揮しにくいシーンがある」ことです。
例を挙げると、ペットボトル飲料やお菓子など商品価格の相場が消費者に行き渡っているような場面では、効果が発揮されにくいとされています。
しかし、アンカリング効果を何度も試すのは逆効果に繋がるため注意が必要です。
効果を発揮させるには、消費者に価格の相場が行き渡っていない商品は何かを意識することがポイントになるでしょう。
4.アンカリング効果を活用するときの注意点とは
「景品表示法」違反に該当しないように注意する必要があります。消費者庁からガイドラインが発表されていますので、それを確認し、不当な表示にならないよう配慮することが大切です。
また、相手が判断力に優れていたり、価格帯を十分に理解していたりすると、提示された金額によっては、販売側に対して悪い印象を持つ可能性があります。
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5.アンカリング効果の影響を受けやすい人、受けにくい人とは?
初期の研究では、ある分野で高い知識や経験を持つ人はアンカリング効果に強いことが示されていました。 しかし、その後の研究で、専門知識や経験があってもアンカリングの影響を受けやすいことが実証されています。
例えば、裁判でのアンカリング効果を調べた研究では、経験豊富な弁護士でもアンカリング効果の影響を受けることがわかりました。また、不動産業者を参加者にして住宅の資産価値を推定させる研究では、ヒントとして与えられた販売価格の情報が参加者の判断に影響を与え、アンカリング効果が認められました。
このように、専門知識があった場合でも、アンカリング効果は消失しないことが示されています。自分がその分野に長けている場合でも、アンカリングの影響を受ける可能性を念頭に置いておくと良いでしょう。
性格(BigFiveで測定されたもの)とアンカリング効果を調べた研究では、協調性や誠実性が高い人はアンカリング効果の影響を受けやすく、外向性が高い人は影響を受けにくくなるようです(Eroglu & Croxton, 2010)。
また、創造性や好奇心など新しい経験に対する開放性が高い人は、アンカリング効果の影響を受けやすいことも示されていますが(McElroy & Dowd, 2007)、これらの理由について、十分な説明はなされていません。
6.その他ビジネスで使える心理学
その他、ビジネスで活用できる心理学は、下記の記事でもご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
ハロー効果 | ミラーリング効果 | 単純接触効果 |
フットインザドア | アンカリング効果 | 返報性の原理 |
コールドリーディング | バンドワゴン効果 | ピグマリオン効果 |
メラビアンの法則 | アンダードッグ効果 | 心理的安全性 |
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7.まとめ
私たちは、多くの情報量を持たず、目の前で与えられた情報だけで判断してしまうときに、アンカリング効果の影響を受けやすくなります。
しかし、ある分野で知識や経験が豊富な人でも、その分野における判断で、アンカリング効果の影響を受けることがあります。商品の購入など、意思決定の際には、アンカリング効果に注意を払うことが大切です。
アンカリング効果を適度に活用することは売り上げ増加に繋がったり、顧客にお得感を感じてもらえたりするため有用だと言えるでしょう。しかし、過度な活用には、注意が必要です。商品の価格帯を理解している相手にネガティブな印象を与えてしまう可能性があります。
商品やサービスを必要以上によく見せようとするのではなく、消費者の立場にたって考えながら活用することが重要でしょう。
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