【フットインザドアとは】簡単な依頼から始める交渉術の原理と活用法

【フットインザドアとは】簡単な依頼から始める交渉術の原理と活用法

この記事では、交渉や要求を通す場面において、有効な心理テクニックの一つである「フットインザドア」について解説していきます。

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1.フットインザドアの定義

フットインザドアはトップセールスマンも活用する心理テクニックであり、その活用場面は日常のちょっとした場面や恋愛など多岐に渡ります。以下で詳しく見ていきましょう。

1.1.フットインザドアとは?

フットインザドアとは、新規のセールスや他の人への依頼などの交渉や要求を通す場面において、本命の要求を通すために、簡単な要求からスタートし、段階的にその要求レベルを上げる方法のことを指します。

1.2.客先を回る営業マンがまずドアの内側へと足をいれる動作が由来

フットインザドアという言葉の由来は、訪問販売の際に「少しお話だけでも!」とドアの内側へと足を入れる営業マンの動作が由来となっています。

本命の要求(=自社の商品を買ってほしい!)の前に簡単な要求(ドアに足をかけたらあとはこちらのものという意味の英語、「put foot in the door」からドアの内側へと足を入れる動作を思い浮かべてみてください)から始めて段階的に実行していく、ということです。

1.3.一貫性の原理を活用

フットインザドアは心理学における一貫性の原理を活用したテクニックです。人間は無意識のうちに態度や行動に一貫性を持たせようとします(=一貫性の原理)。

これは人から何かを頼まれたときも同様で、まず小さな依頼に対応した場合、その後の大きな依頼も聞かないといけないという風に知らず知らずのうちに感じてしまうということですね。

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2.フットインザドアの実験

フットインザドアは、日本語で「段階的要請法」と呼ばれており、この言葉にその特性が端的に表されています。

この手段を初めて明らかにした論文が、1966年にスタンフォード大学のJonathan Freedman(ジョナサン・フリードマン)と、Scott Fraser(スコット・フレイザー)によって発表されました。

実験では、本命の要求として「一戸建ての住民の庭先に交通安全の立て看板を立てさせる」ことが、簡単な要求として「交通安全に関する7.5センチ四方のステッカーを窓や車に貼らせる」ことがそれぞれ設定されました。

いきなり本命の要求をした場合の応諾率が16.7%であったのに対し、簡単な要求をしてから本命の要求をした場合の応諾率は76.0%と有意に高い値を示しました。

この実験などにより、フットインザドアによって応諾率を高められることが分かります。

【参考】「2段階、3段階のフット・イン・ザ・ドア法とドア・イン・ザ・フェイス法の比較|東洋大学社会学部紀要」

3.活用時の注意点

ここからは活用時の注意点を3点ほど挙げていきます。

3.1.初めの要求を小さくしすぎない

最初の要求は最終的に相手に受け入れてほしい要求から逆算して設定しましょう。フットインザドアテクニックにおいては最初の要求は相手に受け入れられやすいものでなくてはなりません。

ですが、かといって最終的に受け入れてほしい要求からあまりにもかけ離れているようでは、その本命の要求を断られてしまう可能性が高くなってしまいます。

例えば本命の要求が「商品を1年間契約してほしい」だった場合、最初の要求が「商品を1日だけ契約してほしい」と小さいものにしてしまうと、要求の差異が大きすぎて上手くいかない可能性が高いでしょう。適切に要求を設定することが必要です。

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3.2.段階的に大きな依頼へ

前述の部分とも関連しますが、要求の差異が大きすぎると失敗してしまう可能性が高くなるため、徐々に要求を大きくしていくことがポイントです。

先ほどの事例で言えば、「商品を1日だけ契約してほしい」と最初の要求を小さくし過ぎてしまった場合、次の要求を「商品を1ヶ月実際に契約してほしい」とすることで本命の「商品を1年間契約してほしい」という要求に繋げることができます。

3.3.小さな依頼を受け入れてもらったとき報酬を与えない(アンダーマイニング効果に注意)

フットインザドアを活用するときには、アンダーマイニング効果に注意が必要です。アンダーマイニング効果とは自分からやりたいと考える「内発的動機づけ」によって行われた行為に対して、他者から与えられる報酬や評価が原因となる「外発的動機づけ」を行うことで内発的動機づけの効果が小さくなってしまう現象のことを指します。

先ほどの例でいえば、「商品を1日だけ契約してほしい」という部分が「商品を無料で使ってほしい」に代わった場合、元々はその商品に興味があり、購入意欲があったのにもかかわらず、無料という特典を与えることで、自発的にその商品を使っている、という意識が薄れていってしまうことです。これにより本命の要求「商品の1年間の契約」にたどり着けない可能性が出てきてしまいます。

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4.フットインザドアの活用事例

ここからはフットインザドアの活用事例をみていきましょう。

4.1.お試し期間

「この商品をまずは使っていただいた上で検討ください」は定番的なセールス文句のひとつですが、いきなり長期間の契約となるのではなく、試しに使ってみてから正式な契約を促すことで、正式契約の確率がアップします。

4.2.メルマガ登録

メルマガの登録を促す場合によくとられる手法もフットインザドアを活用しているといえるでしょう。最初はメルマガの内容に関するサンプルや試し読みを読者に提供し、その後正式な登録フォームへ誘導する、自然な流れで登録を促すことが可能です。

4.3.試供品

化粧品などでよくある試供品もフットインザドアの活用事例となります。試供品を手にとってみて試しに使ってみてから、購入を勧められると購入率が上がります。

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5.テクニックの実践方法 営業/恋愛

ここからはフットインザドアの実践方法についてみていきます。

5.1.飛び込み営業

最終的な目的が「商品を契約してもらう」だとします。いきなり商品のセールスをしていては唐突感から断られてしまう可能性が高いでしょう。名刺の手交など金銭的な支出が発生しない行為から実行し、商品の説明やお試しでの利用を段階的に促すことで、最終的に商品契約に至ることができます。

5.2.恋愛(デートのお誘い)

恋愛においてもフットインザドアを活用できます。気になる人に対して、いきなりデートに誘っても断られてしまう可能性が高いものですが、小さな依頼(例えば相手が持っている本を貸してもらうなど)をした後に、「この本すごく面白かった!ありがとう。御礼に食事でもどう?」と本命のお願いをすることでOKしてもらえる可能性を上げます。

先に小さな依頼について承諾してもらうことで、デートについても承諾しやすくなるというわけですね。

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6.ドアインザフェイスとの違い

6.1.ドアインザフェイスの意味

フットインザドアと似た言葉でドアインザフェイスがあります。この言葉は「shut the door in the face(門前払いする)」という言葉が由来となっており、まず過大な要求を行い、相手に断られた後に本命の要求をすることで、本命の要求に従わせる手法です。

6.2.大きな要求→譲歩して小さな依頼(返報性の原理)

ドアインザフェイスは「返報性の原理」を活用しています。返報性の原理とは人間は相手から受けた施しに対して、「お返し」をしたいと感じる心理のことで、ここでは「断ってしまって申し訳ない」という気持ちを本命の要求の承諾に繋げています。

6.3.目上の人にはフットインザドアを利用

ドアインザフェイスとフットインザドアの使い分けですが、相手によって使い分けるとよいでしょう。

上司などの目上の人相手に過大な要求をしては、信頼失墜に繋がりかねませんし、部下に対して返報性の原理は働きづらいものです。

目上の人には段階的に要求を上げていくフットインザドアテクニックを活用するのがよいでしょう。

7.まとめ

小さな提案から大きな提案につなげるフットインザドア。譲歩を利用した交渉テクニック、ドアインザフェイス、

案件の内容や交渉相手により、適格に使い分けると人と交渉をしたり、自分の要求を通すのが苦手だと思っていた人は、このフットインザドアとドアインザフェイスを意識して臨んでみるといいでしょう。

原稿:酒井富士子
編集プロダクション・株式会社回遊舎 代表取締役。日経ホーム出版社(現日経BP社)にて「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長を歴任。リクルートの「赤すぐ」副編集長を経て、2003年から現職。暮らしに役立つ最新情報を解説する。

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