【メンターとは】メンター制度のメリット・デメリット、実施手順を解説

ビジネススキル・マナー

入社した会社が「メンター制度」を導入している、という方もいらっしゃると思います。本記事では、メンターとは何かメンター制度のメリット・デメリット制度導入にあたっての実施手順などについて解説します。

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1.メンターとは

メンター(Mentor)とは、指導者、助言者のことです。

ビジネスの場では、自身が業務やキャリアの手本となって、新入社員や若手社員に助言、指導をし、個人の成長や精神的なサポートをする人のことを指します。

メンター制度を導入している企業の多くは、部署の異なる先輩社員と若手社員をペアにし、先輩社員がメンター、若手社員がメンティーとなり、人材育成に活かしています。

日本では、厚生労働省が「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアルを公開して以降、メンター制度の導入を具体的に考える企業が増えています。

メンターとは、ホメロスの「オデュッセイア」に登場する賢者「メントール」の名前から由来をしています。

米国のテック企業で、メンター制度が導入され、人材育成に効果をあげていることから、日本の企業でも導入する例が相次いでいます。

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2.メンターと他の人材育成度との違い

メンターと似た人材育成度は数多くあります。

これまで行われてきた人材育成度とメンター制度はどう違うのでしょうか。

2.1.OJT制度との違い

これまでの日本企業では、OJT(On-the-Job Training)で若手社員を育成するのが一般的でした。実際に仕事をしながら、仕事の仕方を学んでいくというものです。

OJTでは、決まった人が指導者になるのではなく、同じ部署の先輩社員や上司が適宜指導をします。

メンターと比べて、さまざまな人が断片的に指導をすることが多いため、体系的に学ぶことができない、同じ部署の先輩が指導者となるため、若手社員が気を使って疑問や悩みを相談しづらいという問題がありました。

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2.2.エルダー制度との違い

OJTをより活用するために、エルダー制度を導入している企業もあります。

エルダーとは「お兄さん、お姉さん」の意味で、同じ部署の先輩社員が指導者となり、若手社員を育成する仕組みです。

指導者が決まることで、若手社員は体系的に学ぶことができ、相談もしやすくなり、社員の世代を超えたコミュニケーションも活性化します。

しかし、同じ部署の先輩であることから、若手社員が気を使って、本音の相談はしづらいという問題がありました。

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2.3.コーチング制度

異なる部署あるいは外部の専門家が、特定の技能について、若手社員を育成する仕組みです。

営業活動の基本やプログラミング、社内コミュニケーションなどの専門家が、その専門的な技術についてコーチを行います。

しかし、コーチが教えるのは専門技術であって、若手社員のメンタル面までは関与しないことが少なくありません。

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2.4.ティーチング制度

学校のように、若手社員を集めて、特定の技能を教える研修制度のひとつです。

業務システムの使用法やExcelの基本的な使い方、外国語など業務に必要なスキルを教えます。社内の専門知識がある人が講師になることもあれば、外部から専門講師を招聘することもあります。

しかし、コーチングと同じで、教えるのは専門技術であり、若手社員のメンタル面までは関与しないことが多いです。

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2.5.メンターとは

このような人材育成制度と比べて、メンター制度では異なる部署の先輩社員がメンターとなり、若手社員を育成します。部署が異なるので、技術を教えることよりも、メンタル面での悩みを一緒に考え、人間的な成長を促すのが目的です。

異なる部署の先輩社員であるために、人間関係を気遣うことなく、さまざまな相談をすることができます。

また、同じ部署の上司や先輩という関係ではないので、失敗をしても人事評価とは無関係であることが多く、不満に感じていることなども気軽に相談できる存在です。

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3.メンター制度導入の効果

メンター制度を導入すると、企業にはどのような効果がもたらされるでしょうか。

主に4つの効果が期待できます。

3.1.若手社員の離職防止

最も大きな効果は、若手社員の離職率を下げられることです。この課題を解決するために、メンター制度を導入している企業が多いです。

若手社員は、さまざまな希望を持って入社をしてきますが、往々にして、その希望は裏切られることがあります。理想と現実は常に乖離をしていることが多いからです。

そこで現実を学び、自分の理想にどう近づけるかを考えるかで、人間的成長が得られますが、転職をすることで解決をしようと考える人が少なくありません。

その原因となっているのが、入社したばかりの状況では心理的安全性が確保できないことが多いことです。先輩や上司に本音での悩みの相談ができず、自分の中で悩みを膨らませ、転職という道を選ぶのです。

メンター制度を導入することで、若手社員のメンタル面まで踏み込んで、相談相手になり、一緒に解決していくことができるようになります。

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3.2.自発的に行動する人材の育成

メンターは、若手社員の相談には乗りますが、異なる部署の先輩であるために、具体的な業務を指示したり命令したりすることはありません。

そのため、メンターができるのは一緒に考え、アドバイスをするということに限られます。最終的には若手社員が自分で解決法を見出し、実行していかなければなりません。これにより、自発的に行動する姿勢が身についていきます。

3.3.価値観や働き方の多様化に対応できる

価値観や理想的な働き方は常に変化をし続けていますが、コロナ禍以降、大きく変化をしています。リモートワークも今ではごく当たり前のことになりました。

しかし、集団の中にいると、その集団の常識が染み込んでしまい、新鮮な目をもつ若手社員には非常識に映ることもあります。メンター制度は、若手社員を育成するだけでなく、このようなメンターを担当する先輩社員が、新しい価値観や理想的な働き方に気づく機会にもなっています。

3.4.社員同士のコミュニケーションの活発化

人間はどうしても同世代の方がコミュニケーションをとりやすいものです。先輩社員、上司に対しては、敬語を使い、本音を見せるのは怖いものです。

しかし、メンター制度でメンターとなる先輩社員と本音のコミュニケーションができるようになると、自然に、同じ部署の先輩社員や上司に対しても本音のコミュニケーションができるようになり、社内のコミュニケーションが活発になることが期待できます。

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4.メンター制度のメリット

メンター制度には、メンタリング行うメンター(先輩社員)、メンタリングを受けるメンティー(若手社員)の双方にメリットがあります。

4.1.メンティー側のメリット

4.1.1.心理的安全性を確保できる

メンタリングを受ける若手社員=メンティー側のメリットは、この心理的安全性の確保が大きいです。心理的安全性とは、何かを提案したり、疑問に思ったことを口にしても、批判をされたり叱責されないという安心感です。

「こんなことを今さら聞いたら、叱責されるのではないか」という不安から、疑問をそのままにし、大きなミスにつながることもあります。そのような失敗をすることで、仕事に対する意欲が失われ、職場を疎ましく思い、転職を考えるようになるということは少なくありません。

メンターになら、安心して何でも相談できるという環境があるだけで、新しい職場に感じるストレスは大きく軽減されます。

4.2.メンター側のメリット

4.2.1.自分のキャリアの再確認ができる

メンター側にも大きなメリットがあります。メンティーの大きな悩みは、その企業の中でキャリアデザインをどう描いていくかということです。その疑問に、自分の経験からアドバイスをするのがメンターの大きな役割のひとつになります。

メンターも自分のキャリアの軌跡を振り返ることになり、自分自身のキャリアデザインを考え直すきっかけになります。

4.2.2.メンターも成長できる

メンターとメンティーの人間的な相性は必ずしもいいとは限りません。考え方が大きく異なり、会話の糸口すらないということもありえます。

しかし、そういうメンティーに対しても、悩みを聞き取り、一緒に考え、解決をする作業をすることで、メンター自身も人間的に成長ができることが期待できます。将来、管理職になった時に非常に役に立つ経験をすることができます。

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5.メンター制度のデメリット

メンター制度はメリットだけでなくデメリットもあります。

そのようなデメリットをあらかじめ把握しておき、常に課題意識を持って取り組むことが大切です。

5.1.メンティー側のデメリット

5.1.1.メンターとの相性が悪くストレスになる可能性

メンターとメンティーは人間と人間であり、メンタル面についても話し合いをするため、相性という問題が避けて通れません。

メンティー側から「メンターを変えてほしい」と言い出すのも勇気が要ります。メンターとの相性が悪い場合、定期的な面談はかえってストレスの元になってしまいます。

5.1.2メンターによって成果に差が出る

メンター制度の成果は、人間的な相性の問題もありますが、メンターのスキル力、コミュニケーション力によっても左右されます。

メンターに適性のある人は成果を出しやすく、メンティーから見ると「あの人にメンターをやってもらえていたら」という不満を持ちやすくなります。

5.1.3.メンターを替えてもらうことが難しい

メンターとメンティーは、一度ペアリングされてしまうと、なかなか変えるわけにはいきません。特に、メンティーの側から「変えてほしい」とは言いづらいものです。

会社から、協調性がない、課題解決力がないというネガティブな評価を受けるのではないか、交代をしてもらった元メンターとの人間関係が悪化をしてしまうのではないかと不安になるからです。

そのようなことが起きないように、定期的にペアリングを見直すなどの制度をあらかじめ用意しておくことが大切です。

5.2.メンター側のデメリット

5.2.1.業務負担が大きくなる

メンター制度は、メンターとメンティーの定期的な面談が基本になりますが、ただ話をするだけでなく、記録を残し、メンター同士でノウハウを共有する研修なども必要になります。

メンターは通常業務をしながら、決して小さくない負担のメンター業務をすることになり、負担は確実に増えます。

5.2.2.業務上の評価につながりにくい

自分が担当したメンティーが活躍をするようになっても、それはメンティー自身の努力の結果であり、メンターの貢献度は小さなものです。

一方、メンティーが問題を起こすと、メンターがなぜ予兆情報を見逃したのかと指摘をされることになります。しかも、メンターは人材育成が業務ではなく、自分の本来業務があります。

メンター業務は、その本来業務の評価にはなかなかつながらないことが多いです。そのためにモチベーションがあがらないという課題があります。

5.2.3.リモートワークではメンタリングが難しい

メンター制度は、昭和の時代の飲みニケーションに似ているところもあり、雑談をする中でメンティーの課題を引き出していくことが求められます。

そのため、対面の面談でないと難しい面があります。ビデオ通話でも面談は可能ですが、どこまで深く課題に迫れるかという点では課題があります。

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6.メンターがやってはいけないこと、5か条

メンターは指導教官ではありません。経験を積んだ相談者です。そのため、メンターにはやっていけないことがあります。

6.1.相談内容を他人に話さない

メンティーから相談された内容は、絶対他人には話してはなりません。守秘義務があります。相談内容にはきわめてプライバシーに属する内容も含まれるからです。

もし、メンターが他人に内容を漏らしていたことを知ると、メンティーは心を開いてくれなくなります。

6.2.命令や説教、叱責をしてはならない

メンティーが多少非常識な考え方を持っていたとしても、先輩社員としてそれに対して説教や叱責をしてはなりません。メンティーは心を閉ざしてしまいます。

例えば「朝起きるのが苦手で遅刻をしがち」という社会人として問題のある内容を相談されても、叱責をするのではなく、「自分も新人の頃は朝がつらかった」という経験を話し、それをどう克服していったのかを話していくのがメンターの役割です。

6.3.職務上の上下関係を意識させてはならない

メンターは経験のある先輩社員がなりますから、組織の中での上下関係はあります。しかし、メンターは異なる部署の社員であることがポイントです。

そのため、業務上の指示をする必要がなく、また指示をする権限もありません。それゆえ、自由な立場で話し合うことができるのです。そこに上下関係を持ち込むと、メンター制度のメリットを失うことになってしまいます。

6.4.評価と関連づけない

メンティーの側には「こんなことを相談したら、自分の評価が下がるのではないか」「重要な仕事を任せてもらえなくなるのではないか」という不安を持っています。この不安を取り除かないと、面談をしても、当たり障りのない内容になってしまい、メンター制度の意味がなくなってしまいます。

面談の内容は他人には漏らさない、社内での評価に関連づけないということを強調し、実際にもそのように扱う必要があります。

6.5.無理に成果を求めない

手間暇をかけるのですから、なんらかの形のある成果を求めたくなります。しかし、人間の成長は人それぞれで、メンターのスキルも人それぞれで、すべてにおいて必ず成果が出るというものではありません。

具体的な成果がなくても、メンティーにとっては「社内に相談できる人がいる」だけで、心理的安全は確保されます。成果が上がるのに越したことはありませんが、無理に成果を求めると、メンター制度のそもそもの目的を見失ってしまうことになります。

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7.メンター制度の導入の手順

メンター制度を導入していく手順や制度の内容は、企業文化によって大きく異なります。

制度を設計するには「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」(厚生労働省委託事業)が参考になります。

このマニュアルでは、次のような手順を紹介し、ワークシートの見本なども掲載しています。これを自社の企業文化、環境に合わせてアレンジしていくことをお勧めします。

7.1.運用ルールの決定

メンター制度を実施する上での運用ルールを定めます。

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【画像出典】厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」

7.2.メンター・メンティーの選定

若手社員をメンティーとし、そのメンタリングを行うメンターを選定し、マッチングしてペアをつくります。

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【画像出典】厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」

7.3.事前研修の実施

メンターもいきなりメンタリングを行うことはできないので、メンターに対して事前研修を行います。

また、メンティー側も戸惑うことがあるため、事前研修を行います。

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【画像出典】厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」

7.4.メンタリングの実施

テーマを設定して、面談を行い、その結果をワークシートにまとめます。

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【画像出典】厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」

7.5.振り返り

メンタリングを実施したら、その評価を行い、改善をしていきます。

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【画像出典】厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」

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8.まとめ

メンターとは、指導者、助言者の意味で、自身が仕事やキャリアの手本となって、新入社員や若手社員に助言、指導をし、個人の成長や精神的なサポートをする人のことを指します。

メンター制度を導入している企業の多くは、部署の異なる先輩社員と若手社員をペアにし、先輩社員がメンター、若手社員がメンティーとなり、人材育成に活かしています。


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原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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