近年のビジネスシーンにおいて「コーチング」という言葉が注目されています。これまでのトップダウン型とは違い、相手の自発的な行動を促す手法として企業の人材育成などに活用するビジネスコーチングとして取り入れられています。
今回は、コーチングの基礎知識や得られる効果、具体的な進め方などについて解説していきます。
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目次
1.コーチングの意味や定義とは?
2.コーチングの由来と歴史
3.コーチングの目的・役割
4.コーチングと類似する手法、それぞれの違いとは
5.コーチングのメリット
6.コーチングのデメリット
7.コーチングの進め方
8.コーチングスキルの基本
9.コーチングが機能しないときの対処法
10.コーチングの資格を得る方法
11.まとめ
1.コーチングの意味や定義とは?
コーチングとは、コーチがクライアントの目標達成を支援し、より理想的な未来へ導くためのものです。
コーチは、相手の意思を「問いかけて聞く」コミュニケーションを中心に行うことで、信頼関係を築きつつ自己開示を後押しします。そして、自己開示を通して気付いた相手が心から望む結果を得られるよう、自発的な行動を促します。
コーチングにより、自分の本当の意思や目標達成に向けた具体的な課題、手法を知り、それを自らの力で乗り越え、今までの自分では実現し得なかった「望むべき未来」を形にすることが可能となります。
コーチングの活用は特定のシーンに限定されるものではないため、取引相手のみならず社員の教育に取り入れている企業も数多くあります。
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2.コーチングの由来と歴史
コーチングとは、馬車という意味を持つ「コーチ (Coach)」から派生した言葉です。
「人を目的の場所まで届ける」という馬車の役割から派生し、「人の目標達成を助ける」という意味で使われています。
出版物においては、1950年代にハーバード大学助教授だったマイルズ・ メイス氏の著書「The Growth and Development of Executives」(1959年) で、「マネジメントにおいてコーチングは重要なスキルである」と初めて記されました。
現在では、コーチングの手法や効果を解説したコーチング本が、数多く出版されています。
3.コーチングの目的・役割
コーチングの目的は、「現状」と、目指す「結果」の間に生じるギャップを解消することです。
コーチは相手を導く役割を担いますが、その過程で見えてくる外部的要因は、あくまでも情報にすぎません。相手が潜在的に持っている意識や感情を見抜き、その人にとって唯一無二の答えに導く過程がコーチングです。
また、コーチングにおいては一般論や多数派が正しいという概念はありません。
コーチングを通して、コーチングを受けた人が、今までにない気付きを得たり、自分自身の意思を再認識したりすることができます。コーチはそれらを踏まえながら、その人の現在地とゴールを一致させるためにさまざまなアプローチを試み、ギャップの解消を目指します。
目標達成に向かって進むべき方向性や必要な課題を的確に提示し、課題を乗り越えるために実現可能な方法で行動を支援するのがコーチングの役割です。
4.コーチングと類似する手法、それぞれの違いとは
コーチングの目的は、「現状」と、目指す「結果」の間に生じるギャップを解消することです。
4.1.ティーチング
ティーチングとはその名の通り、能力や経験のある指導者が技術や知識を「教える」ことで、対象となる人物の目標達成を支援するものです。主に親と子、教師と生徒、先輩と後輩、上司と部下などの関係性において成立する手法となり、私たちは多くの場面で双方の立場を経験しています。「問いかけて聞く」ということに重きを置くコーチングとは異なり、一方的に伝達する点が特徴といえます。
4.2.コンサルティング
コンサルティングとは、相手の抱える問題や課題に対して、その道のプロフェッショナルとして具体的な助言やアドバイスを行い、新しい知識や的確で効果的な解決策を提示します。コーチングに比べ、短期間に明確な成果が求められる傾向にあります。
4.3.カウンセリング
カウンセリングとは、その人の悩みや不安などネガティブな感情に寄り添い原因の解消を後押しする手法で、心身の回復に重きが置かれています。コーチングのように答えを教えることはせず、答えにつながる要素や自分自身がすでに持っている答えに気付いてもらうことが目的です。
5.コーチングのメリット
コーチングは、内面にアプローチし答えを引き出すことで目標達成に導きます。それにより、以下のようなメリットがもたらされます。
● 自覚していなかった感情や思考に気付き、未来の選択肢が増える
● 課題と向き合い乗り越えるまでのプロセスが学べる
● ありのままの自分を受け入れられるようになる
● 目標達成の成功体験により自信が得られる
6.コーチングのデメリット
一方で、コーチングには以下のようなデメリットも想定されます。
● コーチのスキルや、コーチとの相性により得られる効果に差が出る
● 自分と向き合うことで、コーチングを受けた側が辛くなる可能性がある
● 自主性がなければ目標達成が遠のく
● 長期的視点に基づく手法のため、問題の根本的な解決に即効性はない
クライアントが置かれている状況によっては、必ずしもコーチングが適しているとは限らないことを覚えておきましょう。
7.コーチングの進め方
コーチングの進め方にはさまざまな方法があります。今回はその中でも基本的な流れを紹介していきます。
7.1.現状と課題の確認
まずはクライアントの現状を整理します。そこから相手にとって問題となっている事柄を明確にします。この際に重要なのは、客観的事実と自分自身の思い込みによって作り出された事実を正確に分けることです。
また、コーチングは数ヵ月間に渡り継続的に行われるものであり、コーチとクライアントの信頼関係構築を意識したコミュニケーションが重要です。信頼関係の程度によってコーチングの目的が達成できるかどうかが決まると言っても良いでしょう。
7.2.目的(ゴール)の決定
コーチングを行う目的(ゴール)を決めます。そのためには、相手がどのような状態になることを望んでいるのか具体化する必要があります。今後の課題をよりクリアにするためにも、できる限り明確に言語化していくことが重要です。
さらに、なぜゴールを目指すのか、またゴールに到達した際に手にするメリットまで掘り下げておくと、今後の自発性を促すことにもつながります。併せて、ゴールに向かうにあたって発生する障害やリスクについても把握しておくことが必要です。
7.3.課題や目標達成に必要なリソースの明確化
現状から具体化したゴールに到達する間に、どのような過程でどのようなギャップが生じるのかを想定します。そして、ギャップ解消のためにはどのような行動が必要なのか、ギャップ解消に効果的な人や環境、物、知識などのリソースを明確化します。リソースは、他人や環境から与えられるものに限らず、すでに自分が持っているものも含まれます。
7.4.ロードマップの作成
ここまでが明確化されたら、ロードマップを作成します。ギャップ解消のために考えられる行動のアイディアや選択肢を思いつく限りリストアップし、その中から実行可能なものをクライアントが選択します。
強制するのではなく、いつまでにどのような行動をしてどのような結果を手に入れるのかを自分自身にコミットさせることが重要です。ここで自発的な行動を促すことで、ゴールに到達できる可能性が高まります。
8.コーチングスキルの基本
コーチングのセッションでは、対象を深く理解するためのスキルが求められます。コーチングの基礎となる3つのスキルについて見ていきましょう。
8.1.傾聴
傾聴は、相手と真摯に向き合いじっくりと話を聴くスキルです。決して相手を否定したり決めつけたりせず、理解と共感を示しながら、話が尽きるまで聴きます。
自分の言葉で感情や思考を話し、その話をコーチが傾聴することで、今までにない気付きを得られる可能性があります。そのためにも、コーチは安心感を与えられるような雰囲気作りをする必要があります。
8.2.質問
コーチングでの質問は、相手の気付きを引き出すために行います。質問者であるコーチの興味関心や情報収集目的によるものではなく、あくまでも相手側の内面にある本音や課題を引き出し、本人に認識してもらうためのものです。
質問の際には、威圧感を与えないために「なぜ(Why)」ではなく「何を(What)」を使うようにします。
【質問例】
・何があなたにそのような選択をさせたと思う?
・ダメだと思った理由は何だと思う?
・自分では何が問題だと感じている?
8.3.フィードバック
コーチングにおけるフィードバックは一般的な評価とは意味合いが異なり、コーチ自身の感想をそのまま伝えることを意味しています。コーチングを受けた相手は、客観的視点を得られることで新たな課題に気付くことができます。コーチ側の意見を押し付けるのではなく、あくまでもアイ(I)メッセージ「私は●●のように思う」というような形で伝えるようにしましょう。
9.コーチングが機能しないときの対処法
「効果が実感できない」という場合は、以下の理由が考えられます。
●コーチングに適した仕事内容ではない
●コーチのスキルが足りない
コーチングがうまく機能していないと感じる場合は、まずこれらに当てはまっていないかをチェックしましょう。
「コーチングよりティーチングが適した仕事ではないか」「コーチのスキルは仕事内容に合っているか」といった点を見直して、できるだけ早く改善することが重要です。
10.コーチングの資格を得る方法
コーチングの資格を得るには、さまざまな方法があります。どのようなものがあるのか、それぞれの特徴を見ていきましょう。
10.1.国際コーチング連盟(ICF)
国際コーチング連盟(ICF)は、2019年9月時点で世界138カ国、30,000万人以上の会員が所属 している世界最大の非営利団体です。認定資格は以下の3種類が用意されています。ただし、これらは国際コーチング連盟(ICF)がプログラムを提供しているものではなく、他団体のプログラムを独自の育成基準で評価する形となっています。下に進むにつれて求められるコーチング経験が増え、トレーニング期間も長くなります。
・アソシエイト・サーティファイド・コーチ(ACC)
・プロフェショナル・サーティファイド・コーチ(PCC)
・マスター認定コーチ(MCC)
なお、これらの認定資格を受検するためには、あらかじめコーチ・トレーニング・プログラム(ACTP)を修了する必要があります。
10.2.一般財団法人生涯学習開発財団
一般財団法人生涯学習開発財団認定コーチ資格は、1998年にスタートした日本で最初の「コーチ認定制度」です。これまで延べ9800人(2023年1月現在)が認定コーチ資格を取得しています。コーチングの市場を日本に作ってきた、日本におけるコーチングのスタンダードとなる資格です。
認定コーチ資格は、以下の3種類 が用意されています。それぞれの認定資格には2年間の有効期限が定められています。
・認定コーチ(初級者)
・認定プロフェッショナルコーチ(中級者)
・認定マスターコーチ(上級者)
これらの認定コーチ資格の取得には「コーチ・エィ アカデミア」でのプログラム修了が必須です。
10.3.一般社団法人日本コーチ連盟(JCF)
一般社団法人日本コーチ連盟は、コーチングの研究と普及を目的として2002年に発足しました。公開講座や検定試験の実施、コーチング技能養成学校の運営を行っています。
認定資格は、以下3種類 です。
・日本コーチ連盟認定コーチング・ファシリテータ
・日本コーチ連盟認定コーチ
・日本コーチ連盟認定プロフェッショナル・コーチ
まずは初級にあたる「日本コーチ連盟認定コーチング・ファシリテータ」の取得を目指します。定められた養成プログラムを修了すれば受験資格が得られます。
10.4.CPCC
CPCC(Certified Professional Co-Active Coach)はCTIジャパンが認定するコーチング資格です。コーチングの世界標準として認められているもので、前述した国際コーチ連盟(ICF)に世界で初めて認定を受けています。
認定資格は、5つのコースで構成される「コアコース」と「上級コース」があり、上級コースに進むためにはコアコースの修了が必須です。
■コアコース
・基礎コース(Fundamentals)
・フルフィルメント・コース(Fulfillment)
・バランス・コース(Balance)
・プロセス・コース(Process)
・シナジー・コース(Synargy)
■上級コース
上級コースまで修了後、さらに筆記・口頭試験に合格すると、晴れてCPCCの取得となります。
11.まとめ
コーチングは、相手の考えや感情を否定したり強制したりせず、ありのままの自分を生かしながらより良い人生の実現を目指す手法です。自分自身が受けるのはもちろん、コーチングスキルの習得はキャリアや環境に左右されない武器となります。
いきなり始める勇気がないという方は、まずコーチングの体験セッションなどを活用し、コーチングの空気感を味わってみてはいかがでしょうか。そうした経験が、双方から見た自分の特性をつかむきっかけとなり、あなた自身の成長にもつながるかもしれません。