トラブル対応などの際に「エスカレーション」という用語を初めて聞いたという方もいると思います。今回は、エスカレーションとは何か、エスカレーションを機能させるために必要なこと、エスカレーションのフローの作成方法などについてご説明します。
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1.エスカレーションとは
エスカレーションとは、トラブルやインシデント(事故)が発生した際、現場スタッフでは解決や対応が困難な場合に、上位の職位にある上司や責任者に対応を委ねることや指示を仰ぐことです。現場スタッフに与えられた権限では、対応ができない場合に行われます。
エスカレーション(escalation)とは、段階的に上昇する、拡大するといった意味のほかに「上申する」という意味もあります。
エスカレーションを機能させることで、トラブルが致命的な規模に拡大する事が避けられるようになるため、リスクマネジメントの重要な要素のひとつになっています。
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2.なぜエスカレーションが重要なのか
消費者を顧客にする企業ではトラブル、製品やシステムを扱う企業ではインシデントは避けられないことが多いです。
このようなトラブル、インシデントの特徴は、時間が経てば経つほど、事象が拡大し、解決が難しくなるということです。
放置をすると、企業の存続に関わるトラブルに発展することもあり得ます。
つまり、トラブル、インシデントは、どんな小さなものでも、早期解決が鉄則です。
従来は、トラブルは現場で解決することが原則で、手に余る場合のみ上司に相談をするという手法をとっていた企業もありました。
しかし、社会が複雑になってくると、現場でトラブルのレベルを判断することに無理が出てきています。
「たいしたことではないと思って報告しなかったが、ここまでのことになるとは思わなかった」ということが起こるようになります。
そこで、どのようなトラブルであれば、上司に報告=エスカレーションをするかということをあらかじめ定義しておき、現場の判断ではなく、ルールに従って、対応すべき職位の人間が対応をし、最短時間で解決するというのがエスカレーションの考え方です。
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3.さまざまな現場でのエスカレーション
エスカレーションという言葉は、さまざまな現場で使われるようになっています。
3.1.コールセンターでのエスカレーション
エスカレーションという言葉が最初に使われるようになったのは、コールセンターだと言われています。一般にコールセンターのスタッフは、お客様の質問に回答をする、手続きの支援をするなどが業務で、それ以外の権限は与えられていません。
非常に特殊な内容の問い合わせ、何らかの約束を求められる、声を荒げられるなどのことがあった場合は、上司にエスカレーションし、対応を委ねるのが鉄則になっています。
また、質問内容が専門的である場合、専門の担当者に対応を引き継ぐこともエスカレーションの一種です。
3.2.システムエンジニアのエスカレーション
システムエンジニアは、システムを導入した企業に常駐をし、システム運用の業務を行う場合があります。
運用でインシデントが生じた時は、クライアントである導入企業に報告=エスカレーションをする必要があります。
システム運用上は大きなインシデントではなく、システムエンジニアだけで対応できるものであっても、クライアント企業から見ると、そのインシデントの影響で大きな差し障りが発生するということもあります。
そのため、エスカレーションすべきインシデントは、システムエンジニアが判断するのではなく、あらかじめクライアント企業と相談をした上で定義をしておく必要があります。
3.3.一般企業でのエスカレーション
一般企業でもトラブルが発生した場合はエスカレーションが重要になります。
古い体質の企業では、上司の評価が待遇などに大きく影響をするため、トラブルを報告せずに抱え込もうとする傾向がありました。
しかし、それがトラブルを致命的な規模まで拡大をさせてしまう原因になっていることが認識されるようになり、エスカレーションの定義をし、小さなトラブルでも早期に認識をし、解決するようになっています。
3.4.小売店でのエスカレーション
小売店では毎日お客様と対面するため、クレーム、トラブルは避けられません。しかも、人対人のトラブルであるので、早期対応ができないと、感情的になり解決が不可能な状態になることすらあります。
例えば、お客様から「店舗スタッフの態度が悪い」というクレームが出ることは避けられません。そのお客様は店舗にクレームを入れるだけでなく、本社や本部にもクレームを入れるかもしれません。
その時、本社の担当者が「そんなことがあったとは知りませんでした」という対応ではお客様は感情的になる場合があります。
一方、エスカレーションが行われていて、本社の担当者が「その件は把握をしております。解決に向けて動いています」と答えるだけで、お客様の感情はやわらげられ、解決の道筋が見えてきます。
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4.エスカレーションを機能させるには
エスカレーションを機能させるポイントは、現場、管理層のいずれもの判断負担を減らすことです。
マニュアルにそってエスカレーションが行われるというのが理想です。
4.1.エスカレーションした現場スタッフを叱責しない
エスカレーションが必要なトラブルの中には、現場スタッフのミスやスキル不足が原因になっていることもあります。
このようなトラブルを報告された上司は、スタッフを叱責したくなりますが、これは最悪の対応です。
4.1.1.解決を優先する
トラブルは早期解決が鉄則です。
スタッフを叱責している時間そのものが無駄であり、先に解決に動くべきです。
トラブルが解決した後に、振り返りの中でスタッフの問題点を指摘すべきです。
4.1.2.感情的にならない
エスカレーションをしたスタッフを叱責する場合、上司も人間ですから感情的になることもあります。
しかし、感情的になっていいことはひとつもありません。
解決のための行動選択を誤る可能性も高く、なおかつ、スタッフとの関係を悪化させます。場合によってはパワーハラスメントにもなりかねません。
4.1.3.現場の気持ちを理解する
叱責されることがわかっていながら報告をしなければならないというのは、心理的にはつらいものです。
このようなことを続けていると、スタッフは、「今、報告するのではなく、自分で解決をしてから事後報告をしよう」と考えるようになっていきます。これは最悪の事態です。
スタッフはトラブルを抱え込み、トラブル規模が拡大し、手に負えなくなってからしかエスカレーションしてくれなくなります。
その時には上司にも手に負えない状態になっていることもあります。
さらに、最悪の状況である、トラブルの隠蔽にもつながりかねません。
4.2.エスカレーションフローを定義する
エスカレーションを機能させるには、エスカレーションフローをきちんと定義をしておくことが大切です。
エスカレーションフローとは、トラブルが発生した時にどのように行動すればいいかを示した業務マニュアルのひとつです。
ポイントは、判断を自動化させることです。現場や管理層がそのつど判断をするというのは負担になりますし、間違いも起こります。
さらに、自分の都合のいい方に判断をして、エスカレーションが機能をしなくなります。
そのため、きちんとしたエスカレーションフローを定義しておき、「このトラブルは誰と誰に報告をする」ということを決めておくことが何よりも大切です。
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5.エスカレーションのフローを決定する
エスカレーションフローに決まった形式はありませんが、次の5つのことを定義しておくのが一般的です。
なお、細かく定義しても、それですべてのエスカレーション事象が適切に処理できるわけではありません。
運用をしながら課題を発見したら、エスカレーションフローを修正できる仕組みも用意しておく必要があります。
5.1.エスカレーションの対象を決める
あらゆるトラブル、インシデントをエスカレーションの対象とするというのはやりすぎです。
例えば、飲食店で「フォークを床に落としたので、洗浄に回した」という事象まで対象にしてエスカレーションを義務付けたとしたら、業務負担が大きくなりすぎ、結果としてエスカレーションが滞ることになります。
一方、「お客様の目の届く範囲でフォークを床に落とした」は、対象にすべきかもしれません。このような議論をしっかりと詰め、具体的な対象を決めておく必要があります。
5.2.エスカレーション対象のレベル分けをする
すべてのトラブルを同じように扱うわけにはいきません。エスカレーション対象のレベル分けも定義をしておくべきです。そのレベルにより、具体的な対応を変えます。
例えば、最も軽いエスカレーション対象では、「日報に記載」「定期報告で上司に伝達」などとなります。
一方、重いエスカレーションでは、「即時上司に報告。上司は管理層、経営層にも伝達」などとなります。
たとえばオンライン通販のコールセンターであれば、「商品交換は現場対応。日報に記載」「返金希望は即時エスカレーション、センター責任者対応」「不具合による事故の訴えは即時エスカレーション、本社部長対応」などと定めておきます。
5.3.エスカレーションの伝達対象者を決める
エスカレーション対象の事象が発生した時、それぞれのレベルにより、誰に伝達をするかも定めておく必要があります。
現場責任者に報告をするのは当然ですが、そこからさらに上の管理層、経営層にも報告をする必要があるのかをレベルによって定義しておきます。
また、報告すべき対象は曖昧にせず、店長、エリア責任者、統括部長、統括役員など、具体的に定めておく必要があります。
5.4.連絡手段、タイミングを定義しておく
エスカレーションを行う場合、その連絡手段も定めておく必要があります。連絡手段を定義しておかないと、「電話で報告した/しない」などの混乱を招くことになります。
多くの場合、社内コミュニケーションツールを使って、緊急などのマークをつけて報告をするということになります。
また、レベルによって即時報告なのか、当日内に報告なのかなども定めておく必要があります。
5.5.社内でナレッジ共有する方法を決める
トラブルやインシデントが起こること自体は避けられません。
重要なのは、同じトラブルが起きる確率を下げる、他所で同様のトラブルが発生する確率を下げる努力をすることです。
そのためには、トラブルが解決した後に、トラブル事例と解決手法のナレッジを社内で共有する必要があります。
報告書を書くのは当然ですが、ただ保存しておくだけでは意味がありません。データベース化をしていつでも閲覧できるようにする、研修会などでケーススタディに活用するなど、活用方法も合わせて決めておきます。
また、現場スタッフがトラブルに遭遇した時、すぐに過去の類似事例とその解決法を参照できる仕組みも必要です。
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6.まとめ
エスカレーションとは、トラブルやインシデントが発生した時に、現場スタッフでは解決や対応が困難な場合に、上位の職位にある上司や責任者に対応を委ねることや指示を仰ぐことです。
エスカレーションをするかどうかは現場に判断させるのではなく、あらかじめエスカレーションフローを定めておき、自動的にエスカレーションが行われる環境をつくっておくことが大切です。
エスカレーションを機能させることで、トラブルが致命的な拡大をすることがなくなるため、リスクマネージメントの重要な要素のひとつになっています。