会社員が働いていて最も楽しみなことのひとつがボーナス。まとまったお金が振り込まれていて嬉しいなとは思うものの、なにが引かれているのかよくわからない。そもそもどういう仕組みでボーナスの支給額を計算しているのか知らない。という方も実は多いのではないでしょうか。
今回はボーナスから差し引かれる社会保険料の仕組みについて見ていきましょう。
【関連記事】「ボーナス・賞与とは?もらえる時期・平均額・手取りの計算方法を紹介」
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1. ボーナス(賞与)にはどんな種類がある?
まず、ボーナスの支給額はどのように決まっているのか見ていきましょう。
ボーナスの決まり方は会社によって変わり、主に三つの種類があります。
1-1基本給連動方式
月給○カ月分というようなやり方でボーナスの支給額を決定する方式です。
従業員側からすると、ボーナスの金額の予想が立てやすく、ライフプランが立てやすいというメリットがあります。ある程度決まった額のボーナスが定期的にもらえるので安心です。一方で、頑張って働いて業績を上げても、その頑張りがボーナス額に反映されにくいという面で不満に思う人もいます。
企業側からすると、従業員個人を詳細に人事評価する必要なくボーナスを支給できるので、査定や計算が楽というメリットがあります。しかし、業績が下がっていても決まったボーナスを支払う必要があるというデメリットがあります。
1-2業績連動方式
会社員個人の業績に連動して支給額を決定する方式です。
従業員側からすると、業績を上げればボーナスも上がるため、モチベーションが上がりやすいというメリットがあります。
企業側からすると、業績を上げていない従業員のボーナスを低くすることもできるので、全従業員に支払う総ボーナス支給額を基本給連動方式よりも抑えられる可能性があります。下記引用調査によれば、この業績連動方式でボーナス支給額を決める企業が半数を超えています。
一方で、従業員の自己評価とボーナス支給額の差が大きい場合は不満が出やすいという面もあります。企業側には丁寧な人事評価や、従業員に対する評価基準の説明などが求められるといえるでしょう。
1-3決算賞与
夏、冬などに支給されるボーナス(賞与)とは別に決算期にあわせて支給されるボーナスを決算賞与といいます。
決算賞与はその名の通り、決算にあわせて出る賞与です。ボーナス支給が雇用条件で明記されていた場合、業績が悪かった時でもある程度のボーナスが出ることが一般的ですが、決算賞与の場合は決算が悪かった場合は出ないことも多いです。また、決算賞与は夏、冬などのボーナスに比べて支給額が少ない場合も多いです。会社の業績が良かったときにもらえる、臨時的なボーナスというふうに考えておくとよいでしょう。
企業側からすると、決算の時期にあわせてボーナスを出すと法人税を抑えられるというメリットがあります。決算、つまり会社の業績がよければ、賞与が出るという方式は会社の業績アップと従業員個人のモチベーションアップが繋がっているという面で双方にメリットがあります。また、従業員個人が会社全体のことを考えるきっかけにもなります。
ちなみに、ボーナス(賞与)は月給などの固定給とちがい、法律により必ず支給しなくてはならないという定めはありません。どの程度の金額を支給するか、どの方式で支給額を算出するか、支給時期、決算賞与の有無など、企業側に決定権があります。雇用条件にボーナスの支給が明記されていた場合にボーナスを支給しないのは違法ですが、雇用条件で定めがない場合は企業がボーナスを支払わなくても法律違反にはなりません。働く側も、自身の雇用条件については意識してきちんと確認しましょう。
【関連記事】「ボーナスがない会社は何割?賞与なしの会社で働くメリットや注意点」
1-4 業績連動方式を採用している企業が55.2%
週間経団連タイムスの2022年6月2日号によると、2021年時点で業績連動方式を採用している企業が55.2%となっています。
企業から回答を集計した業績連動方式の基準となる指標は「営業利益」(60.2%)、「経常利益」(34.3%)、「生産高、売上高」(24.9%)の順となっています。
また、配分比率は考課査定分、定額分、定率分などがあります。考課査定分の比率が上がる非管理職では「考課査定分」(39.4)、「定額分」(30.2)、「定率分」(27.7)、管理職では「考課査定分」(51.1)、「定額分」(28.2)、「定率分」(17.5)となっています。管理職ほど考課査定分によってボーナスの額が左右することが分かります。
【関連記事】「夏・冬のボーナス支給はいつ? 会社員と公務員の支給日・平均額、引かれる額の計算方法」
【関連記事】「夏と冬のボーナスはどっちが多い?それぞれの平均支給額を紹介!」
2. ボーナス(賞与)から引かれる社会保険料(従業員負担分)の種類は?
ボーナスからは社会保険料が引かれます。引かれる社会保険料の種類と、計算方法を見ていきましょう。
2-1 健康保険料とその計算方法
健康保険料=標準賞与額×健康保険料率×1/2
2-2 厚生年金保険料とその計算方法
厚生年金保険料=標準賞与額×厚生年金保険料率(18.3%)×1/2
2-3 介護保険料とその計算方法
介護保険料=標準賞与額×介護保険料率×1/2
2-4 雇用保険料とその計算方法
雇用保険料=賞与総支給額×雇用保険料(0.6%または0.7%)
・標準賞与額とは、賞与の総額から1,000円未満を切り捨てた額です。
・健康保険料率と介護保険料率は加入している健康保険組合(協会)によって異なります。
・介護保険料は40歳以上64歳までの介護保険第2号被保険者になると徴収されます。
・雇用保険料率は農林水産・清酒製造の事業及び建設の事業については0.7%になります。
・健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料は労使折半なので1/2をかけます。
2-5 社会保険料はいくら控除される?
それでは、ボーナスから社会保険料がいくら控除されるか、つまりいくら引かれるかを見ていきましょう。
モデルは30代で、まだ介護保険の徴収が始まっていない。健康保険料率は10%という条件で計算しました。(東京在住で協会けんぽに加入していた場合、令和5年度(3月分から)の保険料率は10.0%でした。令和6年度の保険料率は9.98%です。)
【30万円の例】
健康保険料 1万5000円
厚生年金保険料 2万7450円
雇用保険料 1800円
これらを足した4万4250円が控除される社会保険料です。
【50万円の例】
健康保険料 2万5000円
厚生年金保険料 4万5750円
雇用保険料 3000円
これらを足した7万3750円が控除される社会保険料です。
【100万円の例】
健康保険料 5万円
厚生年金保険料 9万1500円
雇用保険料 6000円
これらを足した14万7500円が控除される社会保険料です。
ここから更に所得税が引かれます。所得税の計算方法は
所得税=(賞与総支給額-社会保険料)×所得税率
です。所得税は扶養人数によって変わります。扶養人数が多くなるほど所得税率が低くなります。
【関連記事】「ボーナスの平均額は?年齢・業種・規模別に紹介!手取り額の計算方法も」
【関連記事】「【ベースアップ(ベア)とは】定期昇給との違いや実施企業が減少している理由」
3.2003年からボーナスの社会保険料がルール変更。その理由は?
前章ではボーナスからいろいろな社会保険料が引かれていることを確認しました。でも、これってなんだか納得できない気持ちにもなりますよね。月の固定給からも社会保険料は払っているのに、どうしてボーナスからも社会保険料を引かれなくてはならないのか...という気持ちになったことはありませんか。これには理由があります。
もともと、ボーナスからの控除は特別保険料という名目で1%、そして労使折半でした。労使折半とは企業と従業員が半分ずつ負担することです。月給から引かれる社会保険料も労使折半です。1%というのは月給から引かれる社会保険料率よりも低い率です。
ということは、企業が従業員に支払う月給を低く抑えて、ボーナスを高く設定した場合、従業員に支払う年収は同じでも社会保険料を低くすることができてしまいます。労使折半の社会保険料をなるべく払いたくない企業は、これを行うことが少なくありませんでした。
この不公平を正すため、2003年からはボーナスからも月給と同じ率の社会保険料を引く現在の制度に変わりました。
【関連記事】「社会保険とは?公的医療保険と公的年金について詳しく解説!【社会人のためのお金の勉強】」
【関連記事】「給料から引かれる税金とは?所得税と住民税について詳しく解説!【社会人のためのお金の勉強】」
4.ボーナスから社会保険料を引かれないことがある?
ボーナスから社会保険料が引かれない場合もあります。退職する場合と、産休・育休に入る場合です。詳しく見てみましょう。
4-1 退職する場合
ボーナスをもらった月に退職した場合、ボーナスには社会保険料はかかりません。
ここで気をつけなくてはならないのは、月の末日に退職した場合です。社会保険の資格喪失日は次の日になるので、ここで月が変わってしまいます。すると、自分がボーナスをもらった月にも社会保険料がかかってしまいます。ボーナスをもらった月に退職する場合でも、月の末日に退職した場合だけは、ボーナスにも社会保険料がかかると覚えておきましょう。
【関連記事】「退職予定でもボーナスはもらえる?損しないタイミングと注意点を解説」
4-2 産前産後や育児休業中の場合
産前・産後休業、育児休業中は社会保険料が免除されます。よってボーナスから引かれる社会保険料も免除されます。
また、免除期間は産休が終わった翌日の前月分までと定められています。実出産日により産後休業期間は変化しますので、それによって社会保険料の免除期間が異なる場合もあります。
育休の場合は、賞与をもらった月の末日を含んだ連続した1か月を超える育児休業等を取得した場合に社会保険料が免除されます。
【関連記事】「育休中でもボーナスはもらえる?減額されるケースや控除についても解説」
5. ボーナスから社会保険料を引かれていいことある?
ボーナスから社会保険料が引かれる仕組みとその理由について見てきました。現在ではボーナスも月給と同じ率で社会保険料が引かれています。それにも関わらず、「ボーナスが増えるよりも、ボーナスをもらわずに月給が増えた方が手取りは増える。」なんていうことを聞いたことはありませんか?
実はこれはある条件を満たす人にとっては本当なんです。どういう仕組みなのか見てみましょう。
5-1 月給が高い、ボーナスが高い。手取りに差はある?
先ほど見たように、ボーナスも月給と同様に社会保険料が引かれています。ですので、基本的には月給が高くてボーナスが安くても、月給が安くてボーナスが高くても、年収が同じなら社会保険料はほぼ同じになります。しかし、年収が高い人の場合はこの限りではありません。
月給から社会保険料を引く際は「標準報酬月額」というものを基準に社会保険料を計算します。標準報酬月額は7月1日に4〜6月支払い分の月給の平均を計算して決定されます。この標準報酬月額を基準にして、何円から何円までは社会保険料はいくらになると決められています。
令和6年度に東京在住で協会けんぽ加入だった場合を例に見ていきます。
例えば、標準報酬月額が20万円だった場合の健康保険料は1万9960円(折半額9980円)と定められています。この区切りを等級と呼びます。等級は健康保険料は50個の等級、厚生年金保険料は32個の等級に区切られています。
健康保険料の最大等級の50等級は、標準報酬月額が139万と設定されています。この時の健康保険料は13万8772円(折半額69361円)です。これ以上は設定されていないので、月給の金額が140万円の人も200万円の人も標準報酬月額(健康保険料)は変わらないということになります。
厚生年金保険料でも一定以上の月給からは保険料が変わらなくなるラインがあります。これが32等級で、標準報酬月額65万円だと全員、厚生年金保険料は11万8950円(折半額5万9475円)です。よって、月給の金額が65万円の人も100万円の人も標準報酬月額は同じであり支払う厚生年金保険料は同じです。
これがある一定水準以上に月給が高いほど、給与に対する社会保険料負担割合が減っていくため、手取りの上昇幅が増えるように感じる理由です。月給が上がっても社会保険料は上がらなくなるラインが存在することがその理由でした。
ただし、社会保険料負担が減る分、源泉所得税が増えますので単純に手取り増感覚が出るということでもありません。
【関連記事】「手取りとは? 年々減っている!? 計算方法や年代別平均額を紹介!」
5-2 ボーナスが高いほうが将来の厚生年金額は減る可能性がある
ボーナス(賞与)にも保険料の上限設定があります。健康保険料の場合は1年間(4月起算)で573万円上限、厚生年金保険料の場合は月で150万円上限です。(同月に2回賞与が出ることなどもあるため)。
よって、特に厚生年金保険料で考えると、1回あたりの賞与金額を150万円超えの高額に設定することで、厚生年金保険料を回避することが可能になります。
1回の賞与額が300万円だった場合、健康保険料は300万円に対して発生しますが、厚生年金保険料は150万円までしか発生しないので、会社も従業員も厚生年金保険料負担を回避することが可能です。
ただし、支払う厚生年金保険料が低いということは、将来受給する厚生年金が減るということと同意ですので、その点には注意が必要です。厚生年金保険料をたくさん支払って将来の年金額(老齢厚生年金等報酬比例部分)を少しでも増やしておきたいと考えるか、将来の年金額は少なくなってもいいので、現在の厚生年金保険料負担を減らしておきたいと考えるかの違いになります。
この賞与保険料(厚生年金)の考え方は、高額給与をもらう社員や役員においては大事です。
例えば、毎月100万円の月給をもらっていて賞与なしの社員(年収1200万円)がいたとすると、毎月の保険料上限にひっかかるので、厚生年金保険料は毎月65万円までの金額にしか支払えません。ですが、毎月の月給を60万円に落として、残りの40万円×12カ月=480万円を賞与3回(1回180万円)にした場合は、毎月の厚生年金保険料額は同じ上限額ですが、賞与3回分(150万円上限)の厚生年金保険料を支払うことが可能になり、将来受け取る老齢厚生年金報酬比例部分が増えることになります。
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6. まとめ
ボーナスについて、働く側が疑問点を持ちやすい部分を見ていきました。会社で働いていても、とくに会社からは説明されず、誰からも教えてもらえずに月給やボーナスをもらっているという人も多いと思います。なんかいろいろ引かれすぎ!と思っている人も多いのではないでしょうか。
複雑な計算方式や制度が導入された背景など、普段はあまり意識しないことですが、自身が払っているお金ですし、なにがどのような理由で引かれているのかを知っておくことは大切です。また、自身のボーナスの支給方式などの雇用条件はしっかりと理解しておいた方がいいでしょう。ボーナスだけに限らず、雇用条件は自身でよく理解し、不明点がある場合は会社に確認しましょう。
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