「インセンティブ」とは、従業員のモチベーションを高め、業績向上を促すために提供される報酬や特典のことです。ビジネスにおいては目標達成や成果に応じて与えられることが多く、金銭的な報酬に加えてキャリアアップの機会や福利厚生、表彰といった非金銭的な特典も含まれます。本記事ではインセンティブの基本的な意味や、導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
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1 インセンティブとは
インセンティブ(incentive)は直訳すると「動機、刺激」という意味ですが、経済学では「特定の行動を取るよう促す誘因や報酬」という意味で使用されます。ここでは、ビジネスにおけるインセンティブとは何なのかを簡単に解説します。
1.1 ビジネスにおけるインセンティブの意味
ビジネスでのインセンティブとは、主に「従業員の意欲的な行動を促進するための報酬」を指します。例えば、売上目標を達成した際のボーナスや、特定の業務を遂行した場合の昇給などが挙げられます。
また、金銭的なものだけでなく、表彰、特別休暇、福利厚生の拡充、やりがいのある部署への異動といった非金銭的な報酬もビジネスにおけるインセンティブです。
1.2 企業がインセンティブ制度を導入する目的
インセンティブ制度導入の主な目的は、従業員のモチベーションを高め、業績向上を図ることです。また、人材不足が叫ばれる中、通常の給与にプラスアルファの報酬を提供することで、優秀な人材の確保や従業員の定着率向上を期待する企業もあります。
つまり、インセンティブ制度は従業員の満足度をアップさせるものであり、企業の持続的な成長と競争力強化に役立てられています。
2 インセンティブと類似用語との違い
インセンティブとよく似た言葉に、歩合やボーナスなどがあります。混同しないために、それぞれの意味を確認しておきましょう。
2.1 歩合との違い
歩合とは、従業員が達成した売上に基づいて支払われる報酬のことです。主に営業職や販売職で採用されており、例えば「売上の〇%」「1件成約につき〇円」など、個人の成果が直接的に報酬へ反映されます。
一方、インセンティブは目標達成を促進するため提供される報酬であり、支給基準が「目標の達成」である点が歩合とは異なります。ただし、「固定給+歩合制」という場合はインセンティブと同じ意味を持つこともあります。
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2.2 ボーナス(賞与)との違い
ボーナス(賞与)は、一般的に企業の業績に応じて支払われる報酬です。通常、業績によって金額は変動し、勤務態度や成績による評価が加味される場合もあります。
一方、インセンティブは企業の業績とは関係なく、従業員個人、または所属する部署などが目標を達成した際に発生します。報酬が金銭だけとは限らない点も、ボーナス(賞与)とは異なる点です。
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2.3 手当との違い
手当とは、従業員の労働状況に応じて支給される追加の賃金です。例として、残業手当、通勤手当、役職手当、危険手当などが挙げられ、一定の基準に基づいて定期的に支給されるものが多いです。
手当には労働状況に対応した補償の意味合いがあり、従業員の成果に対する報酬であるインセンティブとは性質が大きく異なります。
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2.4 報奨金との違い
報奨金は、特定の成果や功績に対して与えられる金銭的な報酬であり、インセンティブと同じ意味で使用されます。ただし、インセンティブは金銭的な報酬だけではないことから、報奨金はインセンティブの一部と捉えることができます。
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3 インセンティブの種類と具体例
「目標達成などの成果に対する報酬」であるインセンティブには、さまざまな種類があります。ここでは、具体的なインセンティブの中身について見ていきましょう。
3.1 金銭的インセンティブ
金銭的インセンティブでは、その名のとおりインセンティブとして金銭を支給します。金額の基準は企業によって異なりますが、以下のような例が挙げられます。
- 月間売上目標500万円以上を達成した場合に、売上の5%を支給する
- 1日の生産量を100個から120個に増やした従業員に対し、1ヶ月あたり2万円を支給する
- 顧客満足度調査で90%以上の評価を獲得したチームに、総額10万円を支給する
また、商品券や旅行券、施設利用料の会社負担といった物質的インセンティブを提供する企業もあります。
3.2 評価的インセンティブ
目標を達成した従業員に対し、評価という形でインセンティブを提供します。評価的インセンティブは、従業員の自己肯定感や企業への忠誠心を高める効果があります。代表的な例は以下のとおりです。
- 年間優秀社員として表彰し、社員の前で表彰状やトロフィーを授与する
- 上の役職に昇進させたり、より責任感を伴う仕事を任せたりする
- 朝礼で働きぶりや成果を褒める
3.3 人的インセンティブ
良好でストレスのない人間関係や労働環境を提供するのが人的インセンティブです。社会生活において、職場の環境は毎日のモチベーションを左右する大きな要素と言えます。具体的には、以下のようなことが挙げられます。
- 自由に意見を言い合える場を設ける
- チームメンバーで交流会を開く
- 異動や海外赴任の選択権を与える
3.4 理念的インセンティブ
企業の掲げる理念が従業員の目指す方向性とマッチしていると、従業員の働く意欲が刺激されてモチベーションの向上につながります。つまり、企業理念そのものがインセンティブになる可能性があるのです。例えば、次のような状況が挙げられます。
- 企業のSDGsに対する取り組みに従業員が誇りを持っている
- 業界のトップを目指すという企業理念が従業員のモチベーションになっている
3.5 自己実現的インセンティブ
個人の成長や自己達成感を促進するために提供される報酬です。具体的には、従業員が自分の能力を最大限に発揮し、成長したり夢を叶えたりできるような環境を提供します。例として、以下のようなことが挙げられます。
- 仕事の裁量権を与える
- キャリアアップにつながる業務を任せる
- 研修会や勉強会を開催する
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4 インセンティブ制度のメリット
注目を集めるインセンティブ制度ですが、実際どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、インセンティブ制度の主なメリットを3つ紹介します。
4.1 従業員のモチベーション向上につながる
勤続年数に応じた昇給や昇進が一般的な年功序列と違い、インセンティブ制度では成果に対して正当な報酬が得られます。このため、従業員は自己のパフォーマンスを発揮しやすくなり、モチベーションが向上します。
目標に対する具体的な報酬があることで従業員は満足感を感じ、「もっと上を目指したい」という気持ちにつながるでしょう。インセンティブ制度は個々のモチベーションを高め、より活気のある職場環境を生み出す手段となります。
4.2 企業の業績アップが期待できる
もしインセンティブがなければ、いくら頑張っても自分に大きなメリットはないため、努力する気持ちが失われてしまう可能性があります。一方、インセンティブがあると従業員一人ひとりが成果を出そうと努力するため、企業全体の生産性向上が見込めます。
また、チームでの目標達成に対する報酬がある場合、お互いに協力し合う意識が高まって一体感が生まれ、チーム全体のパフォーマンスも向上するでしょう。
4.3 従業員の離職率が低下する可能性がある
インセンティブは、従業員の満足度を高める効果も期待できます。成果に応じた報酬を得ることで、「自分は会社に認められている」という気持ちが芽生え、会社への愛着や忠誠心がアップします。
さらに、インセンティブ制度を通じて職場のコミュニケーションが促進され、人間関係が改善することもあります。結果として離職率が低下し、企業は優秀な人材を確保し続けられる可能性が高まります。
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5 インセンティブのデメリット
インセンティブには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。ここでは、インセンティブの主なデメリットを3つ紹介します。
5.1 短期的な成果に偏る恐れがある
インセンティブという目の前の報酬を優先するあまり、長期的な目標が軽視されてしまう可能性があります。例えば、今月の目標を何とか達成しようと「強引な手法で販売する」「質の悪い製品を生産する」といったことが考えられます。
こういった短期的な利益の追求は、企業全体の長期的な成長に悪影響を及ぼすだけでなく、大きな損失につながる可能性もあるため注意が必要です。
5.2 従業員同士の協力関係が失われることもある
例えば、売上を達成した者にだけインセンティブが与えられる場合、従業員は自分だけの利益を追求しやすくなります。その結果、「チームメンバーを蹴落としてでもインセンティブを得たい」と考える人が増えるかもしれません。
本来はチームで協力し合うべき仕事でも、個人の利益を優先して単独行動に走るケースが考えられます。そうなれば、職場の雰囲気は悪くなり、企業全体の利益は悪化してしまうでしょう。
5.3 収入が不安定になる可能性がある
金銭的インセンティブは、多くの場合その時々の成果によって支給される金額が変わります。例えば、売上の10%をインセンティブとして受け取れる場合、売上が300万円あれば30万円受け取れますが、50万円であれば5万円しかもらえません。
このように、成果によって大きな差が出てしまうため、インセンティブに依存している従業員は収入が不安定になる可能性があります。
6 インセンティブ制度が向いている職種・業界
インセンティブ制度が向いている職種としては、「売上や生産量など具体的な数値で成果を評価できる職種」「同業他社との競争が激しい職種」「個人のスキルが業績へ直接的に影響する職種」といった特徴が挙げられます。
具体的に、インセンティブ制度が向いている主な職種や業界は以下のとおりです。
- 営業職
- 製造業
- 金融業
- 保険業
- 不動産業
- IT業界
- タクシードライバー
- アパレル販売員
- コールセンタースタッフ
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7 インセンティブ制度の導入方法
実際にインセンティブ制度を導入するには、詳細な計画に加えて従業員との調整が必要です。ここでは、インセンティブ制度を導入するための5ステップを紹介します。
7.1 目的と目標を明確にする
まず、インセンティブ制度を導入する目的を明確にします。例えば、売上向上や社員のモチベーション向上、離職率の低下など、具体的な目標を設定することが大切です。また、その目標を達成するためには、どのような目標やアクションが必要かを洗い出します。
7.2 インセンティブの種類を選定する
現金や商品券といった金銭的インセンティブか、昇進や表彰といった非金銭的インセンティブかを選びます。また、目標に応じて、個人の成果に基づくインセンティブか、それともチーム単位で与えるインセンティブかを決めます。
一時的な効果とならないよう、短期・長期両方に効果があるインセンティブを選択しましょう。
7.3 評価基準を設定する
インセンティブを支給するための評価基準を設定します。売上、顧客満足度、プロジェクト完了など、従業員の成果やパフォーマンスをどのように測定するかを決定し、公平な測定基準を設けます。従業員の納得を得るためには、この基準が透明であることが重要です。
7.4 従業員への説明を行う
インセンティブ制度を導入する前に、従業員に対して制度の目的や評価基準、報酬内容をしっかりと説明します。従業員が制度を理解し、何を期待されているかが明確にならなければ、せっかく制度を導入しても効果は得られません。
従業員から質問や懸念の声が上がった場合は丁寧に対応し、全員の納得を得てから制度を導入する必要があります。
7.5 導入後はモニタリングとフィードバックを実施する
インセンティブ制度を導入した後は、定期的にその効果をモニタリングします。「目標が達成されているか」「従業員がどのように制度を受け止めているか」などを確認し、必要に応じて制度を改善します。フィードバックを取り入れながら柔軟に対応し、効果的な制度運営を目指します。
8 インセンティブ制度を導入する際の注意点
インセンティブ制度を導入するにあたっては、いくつかの注意点があります。誤った認識で制度を利用すると、従業員と企業の双方に悪影響が出るため、導入前に注意点を確認しておきましょう。
8.1 透明性と公平性を確保する
インセンティブ制度を導入する際は、まずルールや条件を全ての従業員が把握できるようにする透明性の確保が重要です。「どのような成果を出せばインセンティブがもらえるのか」といったルールを明確にすることで、従業員は目標に向けて努力しやすくなります。
また、全ての従業員が同じ条件であることも大切です。皆が平等にチャンスを与えられることで協力関係が生まれ、チームの雰囲気も良くなります。
8.2 従業員への過度なプレッシャーを避ける
インセンティブによってモチベーションが高まるのは良いことですが、中には「どうしても達成しなければならない」というプレッシャーを感じて、心身共に疲れ切ってしまう方もいます。
特に、目標が高く設定され過ぎると、達成できないことを恐れて焦ったり、無理をして働くことになったりして、健康に悪影響を及ぼす恐れもあります。そのため、インセンティブ制度を導入する際は、適切な目標設定やサポートを行い、従業員が無理なく達成できる環境を整えなければなりません。
8.3 短期と長期のバランスを考慮する
短期的なインセンティブは、すぐに従業員のモチベーションを高めたい場面で効果的です。しかし、短期的な成果だけを重視すると、質の低い商品を売ったり、顧客との関係を無視したりして、結果的に企業の評判や信頼性を低下させてしまう可能性があります。
そのため、インセンティブ制度は短期的な成果と同時に、長期的な目標を設定することが重要です。短期と長期のバランスを考慮することで、従業員に適切なインセンティブを与えながら、企業全体の発展も期待できるようになります。
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9 まとめ
インセンティブとは、従業員の意欲や成果を促すために提供される報酬や動機づけのことを指します。インセンティブ制度を通じて従業員のモチベーションを高めることで、企業全体の業績アップや競争力強化が期待できます。
実際のインセンティブは、現金や表彰、昇進などさまざまな形で提供されます。インセンティブによる長期的な効果を維持するには、短期的な目線に偏らない適切な制度を導入することが大切です。
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