【リスキリングとは】リカレント教育との違いやメリット、事例も紹介

【リスキリングとは】リカレント教育との違いやメリット、事例も紹介

2022年10月、岸田文雄首相が「リスキリング支援」に今後5年間で1兆円の予算を投じると発表したことなどで注目を集めている「リスキリング」

今回は、リスキリングとは何かリカレント教育との違いリスキリングを実施するメリット事例や課題について解説します。

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はじめて転職する場合の7つのポイントを確認する。

1.リスキリングとは

リスキリングとはRe-skilling(再度スキルを身につける)の意味で、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(経済産業省)です。

現在では、DX(デジタルトランスフォーメーション)のように、企業が必要とする人材に求めるスキルが大きく変化をしています。

新しいスキルを持った人材を確保し、古いスキルしか持っていない人材を排除していくというのではなく、現在古いスキルしか持っていない人材に新しいスキルを獲得してもらい、変化に対応しようという考え方です。

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2回目以降の転職で気を付けるべきポイントを確認する。

2.リスキリングが注目されている理由

リスキリングは世界中で注目をされています。

2.1.ダボス会議の議題となる

2020年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、「リスリキング革命」が議題となりました。

第4次産業革命とも言われる技術的な変化に対応するために、2030年までに全世界で10億人に教育機会を与え、スキルを身につけ、職を提供するというものです。

2.2.リスキリングへの公的支援が5年間で1兆円

2022年10月の臨時国会で、岸田文雄総理は所信表明演説の中で次のように述べています。

「リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しへの支援策の整備や、年功制の職能給から、日本に合った職務給への移行など、企業間、産業間での労働移動円滑化に向けた指針を、2023年6月までに取りまとめます。

特に、個人のリスキリングに対する公的支援については、人への投資策を、「5年間で1兆円」のパッケージに拡充します」。

つまり、リスキリング支援に5年間で1兆円規模の公的支援が行われます。

これにより、企業内でのリスキリング策、リスキリングサービスを提供する企業が活発になることが期待されています。

2.3.経済産業省のリスキリング支援事業が動き始めている

政府の方針が定められただけでなく、経済産業省はすでに動き始めています。

リスキリング事業を実施する上で必要となる情報提供を広く求めました。

すでに経済産業省の事業が動き始めているため、企業は対応をすることが求められるようになっています。

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(経済産業省では、リスキリング支援事業の実施に向けて広く意見募集を始めている)

【画像出典】経済産業省「令和4年度「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の事務局事業実施に係る資料提供依頼・意見募集について」

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3.他の社会人教育との違い

社会人教育にはさまざまな考え方が過去存在し、実施されてきましたが、リスキリングはそれらとは異なる新しい視点があります。

3.1.「学び直し」との違い

社会人になっても、新しいスキルを常に学び続ける必要があり、誰でも既存のスキルをより確固たるものにするために「学び直し」をし、新たなスキルを「学び」続けています。

しかし、このような「学び直し」や「学び」は、主として、個人が、自分のキャリアを考えて独学をすることが中心になっています。

一方で、リスキリングは、企業や業界が、今後必要となるスキルを定義して、それを学んでもらい、今後ともに企業や業界で必要とされる人材になってもらうことを目指すものです。

3.2.リカレント教育との違い

リカレント教育は、企業と教育機関を行き来しながら、業務に必要なスキルを身につけていくものです。多くの場合、現場の業務を離れ、社会人大学などに通います。

リスキリングは、現場の業務を外れることなく、企業研修の枠組みの中で継続的に新しく必要とされるスキルを身につけていくものです。

3.3.アンラーニングとの違い

アンラーニングは学習棄却とも呼ばれ、すでに身につけているスキルを放棄するものです。

既存のスキルのうち、不要になったスキル、陳腐化したスキルを指摘し、認識しあうことで、新しいスキルを身につけることの必要性を認識することが主なねらいになっています。

一方、リスキリングでは、既存スキルの放棄にはあまり比重が置かれず、新しいスキルを身につけることが主眼となります。

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4.リスキリングのメリット

企業がリスキリングを推進することにはさまざまなメリットがあります。

4.1.社内業務に精通した人材に変化に対応してもらえる

現在、リスキリングの焦点となっているのは、IT、DX、AIなどに関連をしたスキルです。業務の本質は変わりませんが、業務の進め方は大きく変わることになります。

このような変化に対して、従来は、必要なスキルを持った人材を確保することで対応してきました。

しかし、そのような人材は、新しいスキルは持っているものの、業務知識の点ではじゅうぶんではないこともあります。

そこで、リスキリングは、業務知識を持っている既存の人材に対して、新たなスキルを身につけてもらいます。

業務知識を持った人が新しい業務に対応できることになり、非常に強い組織になることが可能です。

4.2.人材不足に対応できる

日本だけでなく、世界中で、今後必要とされるスキルを持った人材は不足をしており、企業の人材獲得コストも上昇を続けています。

外部から新しいスキルをコストをかけて確保しても、同時に陳腐化したスキルしかもたない人材を整理していく必要に迫られます。

リスキリングが進むと、既存人材を活用することができるようになり、このような事態が発生することが抑えられるようになります。

4.3.従業員のエンゲージメント向上につながる

新しいスキルを持っていないために、不要な人材となってしまうことは、従業員の視点から見ると「使い捨て」のような非情さを企業に対して感じることになってしまいます。

一方、リスキリングを積極的に行うことで、人材を活用しようとすることは、従業員の心理的安全の確保にもつながり、モチベーションを高めることにもつながります。

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5.リスキリングにデメリットはある!?

リスキリングを行うことの企業側のデメリットとして考えられるのは人材流出です。新しいスキルを身につけた人材が他社や他業界に流出してしまうことが起こりえます。

しかし、これはリスキリングを推進しない理由にはなりません。なぜなら、リスキリングを行わないとすると、不要なスキルをもった大量の人材を抱え込むことになり、企業の成長を大きく妨げることになるからです。

また、リスキリングによる人材流出という現象は、新しいスキルを身につけさせたからではなく、そもそもその企業で働かない・働けない何らかの理由があり、リスキリングが転職のきっかけになったにすぎません。

企業側で人材流出をもし心配するのであれば、企業文化、報酬体系など企業としての魅力を高めるべきです。

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6.リスキリングの事例

リスキリングは、すでに多くの企業で進められています。

6.1.AT&T

米国の情報通信企業「AT&T」は、2008年の時点ですでに問題意識を持っていました。それは25万人の従業員のうち、将来の事業に必要なスキルを持っている人材は半数程度であり、10万人程度が10年後に不要となるスキルしか持っていないということでした。

そこで、2013年から「ワークフォース2020」という活動を始め、2020年までに10万人のリスキリングを行いました。現在、社内技術職の80%が社内異動により補充され、リスキリングを受けた従業員は受けていない従業員と比較して、1.1倍の高い評価を受け、1.7倍の昇進をしています。

また、離職率は1.6倍低いという結果になりました。

6.2.Amazon(アマゾン)

米国のAmazon(アマゾン)は、2025年までに10万人の授業員をリスキリングすることを公表しています。主に、非技術系人材を技術職に移行すること、一般の技術職をAIなどの高度スキル人材に移行することを目標としています。

6.3.日立製作所

国内グループ企業の全社員約16万人を対象にDX基礎教育を実施することを公表しています。

6.4.富士通

「ITカンパニーからDXカンパニーへ」の考え方に基づき、リスキリングを含めた人材確保特戦略に5年間で5,000億円から6,000億円規模の投資をすることを公表しています。

7.リスキリングを実施するための課題

リスキリングは考え方としてはシンプルであるものの、実施をするにはさまざまな課題があり、これをクリアしていく必要があります。

7.1.スキルの可視化をする

現在の日本企業の課題がDXであるために、多くのリスキリングの内容がITやDX、AIといったものに集中しがちです。

しかし、「こういう時代だから、従業員にITの研修を行う」という発想では、大きな成果はあげられません。

まず、5年後、10年後、企業がどのような姿になっており、そこではどのようなスキルが求められるのかを描き出す必要があります。

このような可視化を行なった上で現在足りないスキルを点検し、それを補うのがリスキリングです。

ですから、リスキリングの内容は企業によって異なりますし、時代によっても変わってきます。

常にこの必要スキルの可視化を行い、不足するものを授業員に身につけさせていくという持続可能な仕組みをつくっていくことが必要です。

「流行っているようなので、全従業員にパソコン研修をさせて、それっきり」というのはリスキリングとは言えません。

7.2.社内でコンテンツを構築する必要がある

このような社員教育に関わることを実行する場合、ありがちなのが、既存のトレーニング企業に委託をしたり、既存のeラーニングの受講を義務付けたりするというようなことになりがちです。これらを活用しただけでは、効果が高くならない可能性があります。

あるいは逆に、コンテンツを社内でつくろうとして過剰な労力をかけてしまうこともあります。

外部に頼るか、内部でつくるかの二択ではなく、まず必要なスキルをきちんと定義をして、それに必要な外部教材を活用し、ない部分については内部で制作する必要があります。

コンテンツは外部に頼ってもかまいませんが、カリキュラムは内部でじっくりとつくる必要があります。

7.3.リスキリング後のキャリアパスを提示する

リスキリングを全従業員に提供をしても、消極的な人は必ず出てきます。

例えば、定年まであと3年という従業員にとっては、リスキリングの必要性をあまり感じないということもあるかもしれません。

また、既存のスキルに価値を感じ、そこを極めたいと考える人もいます。無理に全従業員に強制をすると効果の薄いものになってしまう可能性もあります。

リスキリングによって新しいスキルを身につけると、企業の中でどのような業務ができるようになるのか、企業がどのような姿を目指しているのかを明示し、従業員が自発的にリスキリングに向かうようになるのが理想です。

8.まとめ

リスキリングとは、新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する・してもらうことです。

新しく必要とされるスキルを持つ人材を外から獲得するのではなく、既存の人材に必要なスキルを身につけてもらいます。

これにより、既存の業務知識に精通した人材を有効活用し、新たな時代に対応することができるようになります。

現在は、IT、DX、AIなどが新たに必要とされるスキルとされますが、必要なスキルは時代により刻々と変化をします。

企業が必要とするスキルを可視化し、常に新しいスキルを身につけてもらうリスキリングの仕組みを構築しておくことが求められています。

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