【テレワークしない会社、その理由】テレワークのメリットと課題を解説

ビジネススキル・マナー

新型コロナウイルスの感染拡大が深刻さを増す中、政府も企業に対してテレワークの積極的な実施を呼びかけていますが、テレワークを実施しない会社も多くあります。今回は、テレワークをしない会社がある理由について、テレワークのメリットと課題を見ながら考えていきます。

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1.テレワークとは

テレワークとは、tele(遠隔)とwork(仕事)という2つの言葉をつなげた造語で、会社以外の場所で通信機器などを活用して業務を遂行することです。

従業員が自宅から業務に参加するだけでなく、本社と支社を通信機器で接続して同じ業務を遂行したり、地価が安く、通勤距離が短くなるサテライトオフィスを設置したりして、本社とともに同じ業務を遂行することもテレワークです。

明確な定義があるわけではありませんが、海外ではリモートワークという言葉が使われることから、日本でもこの言葉を使う人も増えています。制度などの大枠を語るときはテレワーク、具体的な遠隔地での業務を行う行為のことはリモートワークと呼ぶ傾向があるようです。

平成29年5月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、テレワークは次のように定義されています。

「ICT を活用し、場所や時間を有効に活用て゛きる柔軟な働き方のこと」

また、テレワークには大別して2種類があるとされています。

(1)雇用型テレワーク

ICT を活用して、労働者か゛所属する事業場と異なる場所で、所属事業場で行うことが可能な業務を行うこと(例:在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスでの勤務)」

(2)自営型テレワーク

ICT を活用して、請負契約等に 基づき、遠隔で、個人事業者・小規模事業者等が業務を行うこと(例:SOH O、在宅ワーク、クラウドソーシング)」

2.テレワークの現状

テレワークは、2020年3月の新型コロナの感染拡大で、緊急導入をした企業も多く、さまざまな課題が浮かび上がりました。

東京商工会議所が、東京の企業に対して、テレワークの実施状況調査し、「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」を行い、その結果を公開しています。アンケートの実施時期は2020年9月から10月にかけてなので、初めての緊急事態宣言が解除になり、ある程度の落ち着きを示した時期です。

この時のテレワーク実施率は53.1%となりましたが、テレワークを実施した経験がある企業は75.2%で、全体の22.1%の企業が緊急事態宣言解除後にテレワークを取りやめていました。

従業員規模別に見ると、300人以上の事業所では実施率が69.2%と高くなっていて、授業員規模が小さくなるほど、実質率が低く、取りやめた率も高くなる傾向があります。

また、業種別では小売業、建設業の実施率が低く、特に建設業では取りやめた率が高くなっています。

つまり、緊急事態宣言の対策として、多くの企業がテレワーク制度を導入したものの、数々の課題が明らかになり、感染状況が緩和されると、テレワークをやめてしまった企業が一定数いることがわかります。

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(初めての緊急事態宣言の後、東京都の企業のテレワーク実施率は67.3%という高いものになった。「テレワークの実施状況に関するアンケート」(東京商工会議所)より引用)

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(従業員規模別、業種別に見たテレワーク実施率と取りやめた企業の率。建設業でテレワークを取りやめた率が高いことが目立つ。「テレワークの実施状況に関するアンケート」(東京商工会議所)より引用)

3.企業が感じるテレワーク実施の効果

東京商工会議所が中小企業を対象にした「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」(調査時期2021年5月)では、テレワークのメリットと課題についても尋ねています。

テレワークを実施している中小企業が、テレワークのメリットとしてあげた上位5つの回答は次のものです。

(1)働き方改革の進展

在宅テレワークでは、家の用事と業務を自分の采配で按分することができます。仕事中に家事を挟むことができるようになります。また、自分のタイミングで食事や休憩を取ることができ、集中しやすくなる効果もあります。

(2)特になし

この「特になし」という回答が第2位になっていることが、テレワークをやめてしまう原因になっています。前回調査では4位だったものが、今回は2位にまで増えました。

(3)業務プロセスの見直し

テレワークでは、紙書類と印鑑、ファクスは馴染まないため、電子書類やデータを電子メールやメッセンジャーでやりとりすることになります。それだけでも大きな改革になります。

(4)コスト削減

通勤をしなくなるのですから、従業員に支給する交通費がまるまる不要になります。従業員にとっても、移動をする時間が不要となり、仕事が早く進み、残業が少なくなります。

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(5)定型的業務の生産性向上

定型的業務の典型は、経理の給与支払い処理などです。社内では声をかけられ作業が中断することがありますが、それがなくなるため、作業が進みます。また、テレワークにすることで、提出書類の書式が統一されるため、作業効率があがります。

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(中小企業が感じているテレワークの実施効果。「特になし」という回答が2位に浮上してきている。「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」(東京商工会議所)より引用)

4.企業が感じるテレワーク実施の課題

テレワークを実施している企業が、テレワークのデメリットとしてあげた上位5つの回答は次のものです。

(1)情報セキュリティ

情報セキュリティ対策をしたテレワークを行うには、信頼できるクラウドシステムなどの導入が必要になります。このようなシステムを導入しない場合は、電子メールやビデオ会議システム、メッセンジャーなどのサービスを個別に寄せ集めて使うことになり、実際の現場ではUSBストレージや個人用のストレージにコピーが作られることになり、情報セキュリティは崩壊します。

緊急事態宣言により、緊急にテレワークを導入した場合は、この寄せ集めテレワークにならざるを得ません。しかし、その状態は情報セキュリティ面では高いリスクを抱えていることになり、この懸念からテレワークを中止する企業があるのだと思われます。

(2)社内コミュニケーション

出社型の働き方では、ちょっとした雑談、立ち話、場合によっては顔色までが重要なコミュニケーションになっていました。大したことではないけどちょっと教えてもらう、理解はしているけど不安なのでちょっと確認するといったことがテレワークではしづらくなります。

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(3)PCや通信環境の整備状況

在宅テレワークで利用するPCやスマートフォンの機器は、業務ツールなので、企業側が用意をして支給をするのが基本です。個人の機器を利用する場合は、セキュリティ面を整備しないと、情報漏洩などの事故につながりやすくなります。しかし、機器を用意するにはコストがかかる上に、管理業務が発生します。

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(4)労務管理・マネジメント

テレワークでは、出退勤管理が難しくなります。自宅でも定時出社、定時退社の時間に合わせて仕事をしてもらうのでは、テレワークのメリットがじゅうぶんに活かせません。業務を中断して家事をするなど、時間の裁量権を与えることが、働きやすい環境づくりに役立ちます。そのためには、成果による人事評価基準を導入することになりますが、今度は無制限に働いてしまうという隠れ残業が発生します。基幹システムにログインをしているログを集計するなどして、実質的な労働時間を集計し、一定限度を超えた従業員には上司が連絡を取るなどの対応が必要になります。

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(5)ペーパーレス

テレワークを想定していなかった企業では紙書類と印鑑、ファクスが未だに使われています。それは、同じ部課の従業員が集まって業務をするスタイルでは、最も合理的なツールだからです。テレワークを始めても、一気に紙書類を電子書類に切り替えることは簡単ではありません。切り替えにはある程度の時間がかかります。

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(中小企業が感じているテレワーク実施の課題。情報セキュリティが最も大きな課題だった。「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」(東京商工会議所)より引用)

5.テレワーク導入が人事採用に影響する時代に

就活生や転職希望者が企業を選ぶとき、テレワーク制度が導入されているかどうかが大きな判断基準になってきています。なぜなら、テレワークが導入されているということは「働き方改革が進んでいる」証拠であり、「業務フローが合理化されている」証拠であり、「人事評価基準が成果主義に基づいた合理的、客観的な基準になっている」証拠だからです。

例えば、先進的な企業では、すでにワーケーションの制度を積極的に取り入れています。飛び石連休がある時に、連休をつなげて、旅行先に向かい、間の平日はホテルなどでリモートをワークをするというものです。テレワークが導入されている企業では、従業員がオフィス、自宅、それ以外の場所のどこにいても同じように業務が進められます。従業員は長期の旅行や帰省をすることができるようになります。従業員が自由に働けるということは、生産性の向上と業務の質を上げることにつながります。

もちろん、小売店や飲食店などの現場がある業務、現物を自分の目で確かめなけれならない業務ではテレワーク導入は難しいですが、そのような仕事を希望する人はテレワークをしようとは考えていません。「テレワークができる職種なのに、導入されていない」状態が問題になります。

企業側ではテレワークをきっかけに、働き方改革、業務フロー、人事評価制度を変えていき、働きやすい会社にしようという挑戦を始めています。一方で、テレワークの課題に直面し、テレワークに消極的になってしまった企業は、就活生から転職希望者から「働き方」「業務フロー」「人事評価制度」が古い企業だと見なされ、敬遠されるようになります。

テレワークは、働き方の制度のひとつという枠組みを超えて、企業の長期戦略に影響をするようになっています。

6.まとめ

テレワークとはICT機器を使って、オフィス以外の場所で業務をすることです。日本では新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの企業がテレワーク制度を緊急導入しましたが、準備不足もあり、多くの課題に直面をし、テレワークをやめてしまった企業も一定数あります。「働き方」「業務フロー」「人事評価制度」の改革をする必要があるからです。

しかし、逆にテレワークを導入している企業は、この「働き方」「業務フロー」「人事評価制度」の改革が進んでいるということでもあり、テレワーク非導入企業は今後人事採用で大きな困難に直面することになります。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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