社会人になると、営業やプレゼンなどで初対面の人を前に話す機会が増えますが、第一印象がいいに越したことがありません。ただ、第一印象をよくしようとする際、外見ばかりに気がいって、自分の声への意識が疎かになっていませんか。『声を変えるだけで仕事がうまくいく』(マイナビ新書)の著者で3万人の指導、250社で企業研修実績を行ってきたボイストレーナーの秋竹朋子先生さんに声の重要性や「いい声」を出すコツについて伺う連載の第2回。今回は第一印象がグッとよくなる声のテクニックを教えていただきました。
知っておきたい声の仕組み
第一印象は外見だけではありません。前回紹介したように、声の質や話し方は、第一印象の4割を占める重要な要素です。何も声優ばりにいい声を出そうとする必要はありません。相手に聞き取りやすく、相手の聴覚にしっかり届く声を出そうと心がけるだけで、相手への印象は格段に良くなります。
前回も触れましたが、そのために不可欠なのが腹式呼吸です。そして腹式呼吸をするために知っておきたいのが、声が出る仕組みです。みなさんは自分の声がどうやってつくられるのか考えたことがありますか。声が出るときに自分の体の中で起こっていることをしっかり理解しておきましょう。
(1)肺から出た空気(呼気)が、横隔膜の収縮でコントロールされ、上部に送られる(呼吸)
(2)器官を通った呼気が声帯にぶつかり、そこを振動させて声のもとになる音をつくる(発声)
(3)音になった空気が、鼻腔、口腔などの空洞で響く(共鳴)
(4)舌や唇を使って、音が言葉になる(発音)
イメージはできましたか。大事なのは、私たちは息を吐きながら声をつくっているということ。「吐いた息に声の成分をのせている」。この意識を持つだけでも声は変わってくるはずです。
テクニック1 腹式呼吸
声に「原材料」があるとしたら、吐く息です。その息が不足したり、不安定になってしまったりすると、いい声は出ません。だからこそ大事なのがお腹で息をたっぷり出し入れでき、吐く息を勢いよく出す腹式呼吸なのです。私たちはこの腹式呼吸と胸式呼吸をミックスさせて話しています。呼吸の浅い胸式呼吸では、呼気量が少なく、吐く息にスピードが出ません。声は通りにくく、息のコントロールができないことで、滑舌も悪くなってしまうのです。
腹式呼吸のトレーニング方法はたくさんありますが、ここではそのコツを一発でつかめる方法を紹介しておきましょう。
(1)右手をお腹の上、左手は口の前に置きます。手のひらは口に向けておきます。
(2)寒い冬の日をイメージして、凍えてしまった手を暖めるような気持ちで、手のひらに息を「ふーっ」と吹きかけます。
たっぷり息を吐いた後、その反動でお腹に空気が入っていく感じがつかめましたか。胸式呼吸を腹式呼吸に変えるだけで、声の印象は80%良くなります。
テクニック2 第2音を高めに
初対面の場で初めて口にする言葉といえば、あいさつです。「あいさつひとつで、人柄や人間性が見える」という社長もいますから、相手の心をつかむさわやかな挨拶をしたいものです。腹式呼吸ができるようになったら、次は「第2音を高めに言う」を心がけてみましょう。
実にシンプルな方法です。「いらっしゃいませ」であれば、第2音目の「ら」をいつもより高く発声するだけです。「ありがとうございました」なら「り」、「おはようございます」なら「は」になります。たったこれだけのことですが、ここを高めに言うことで、明るく感じのいいあいさつになります。
テクニック3 語尾に小さい「つ」
「おつかれさまです」なら「おつかれさまですっ」、「ありがとうございます」なら「ありがとうございますっ」と、さいごに小さい「つ」を区分け、さっくり切る感じで言うテクニックもあります。実際に声に出して言ってみましょう。てきぱきとした印象になりませんか。元気で明るいイメージを演出したいときにぜひ試してください。
テクニック4 にっこり口角とぱっちり目
声の印象を明るくしたいなら、話は簡単。にっこり自然な笑顔で話せばいいのです。頬の肉を持ち上げ、ふんわりとした笑顔をつくるようにすると、それだけでピアノの鍵盤の音で1~2音ほど高い声になります。
上まぶたを上げていつもよりバッチリと目を開けるようにするのも効果があります。こちらも頬の肉が上がり、高い声が出やすくなります。
暗い表情は「ダメを引き寄せる表情」ですから、くれぐれも避けましょう。声がこもり、頼りないイメージになってしまいます。その場の雰囲気も暗くなってしまい、何もいいことはありません。
テクニック5 単語の頭で息を吐く
あいさつに続くのが自己紹介。「株式会社マイナビの秋竹朋子です。よろしくお願いします」といった感じでしょうか。時間にしたら5秒ほどの長さですが、あいさつとこの自己紹介で第一印象は大体決まるといっても過言ではないかもしれません。だからこそ、ここで噛んでしまったり、はっきり聞こえなかったりすると、聞いている側も「この人、大丈夫?」と心配になり、用心深くなってしまうのです。
自己紹介をする上での対策として覚えてほしいのが「単語の頭で息を吐く」です。長い文を一気に言おうとするから難しいのです。単語あるいは文節で区切り、それぞれのパートで息を吐くようにします。さきほどの一文であれば「かぶしきがいしゃ マイナビの あきたけ ともこです。よろしく おねがいします」となりますね。
日本語はひとつの単語が2~6音でできていることが多いのですが、その頭で息を吐くことで、息のコントロールがしやすくなり、噛みにくくなります。短く区切ることで、単語の頭で強い息が自然に出るようになり、腹式呼吸の通りやすい声になるという効果もあります。
今回は第一印象が良くなる5つのテクニックを紹介しました。せっかくなのでぜひ自分の声のビフォーアフターを録音して確認してみましょう。自分の声を客観的に聞くことは声を良くするためにはとても大事なことです。実際、トップセールスを誇る営業マンや一流と呼ばれる経営者に聞くと、必ずといっていいほど、自分のスピーチや話を録音し、改善点を検証した経験があるそうです。
プロフィール
秋竹朋子
日本初「ビジネスマンのためのボイストレーニングスクール」(株)エデュビジョン【ビジヴォ】代表。
東京音大ピアノ演奏家コース卒。聖徳大学大学院 音楽研究科卒業。ウィーン国際音楽コンクール及び国内の受賞歴多数。ビジヴォの代表として「声」「話し 方」に問題を抱えるビジネスパーソンの指導を実施。音楽家ならではの聴力と技術を駆使した、日本初 「超絶対音感」によるボイストレーニングが話題を呼び、ビジネス各紙からの取材、TV番組にも多数出演。東京スクールを拠点に北海道~沖縄まで、全国各地への企業研修を行い、これまで3万人以上250社の企業研修を実施。個人のクライアントも上場企業の経営者、芸能人、著名人を多数持つ。2011年~2012年 経済産業省のグローバル人材派遣として「ビジネスボイス」が選ばれフィリピンに赴任、日本にとどまらずアジアにて「声」の指導をして活躍中。著書『「話し方」に自信がもてる1分間声トレ』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの発声法』(日本実業出版)、『秋竹朋子の 声トレ!!』『秋竹朋子の即効! モテ歌レッスン』など。