さまざまな分野で「スクリーニング」という用語を聞きますが、使われるシーン別に意味があります。今回は、スクリーニングとフィルタリングの違い、金融業界で知られる「情報の非対称性と逆選択」の問題、偽陽性のパラドクスについて解説します。
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1.スクリーニングとは
スクリーニング(Screening)とは、大量のものを検査して、条件に合うものを選び出す行為です。
選別、篩い分けなどの意味です。
スクリーンは、元々、薄い目隠しのための衝立てを指す言葉です。網戸なども風を通して虫を通さないスクリーンです。
そこから、篩いの意味や映画の上映スクリーンの意味が派生をしています。
アンケート調査などを実施する前に、回答者として年齢、職業、連絡先などの条件に合う人を選別するためにスクリーニングをすることが多いため、予備調査のニュアンスもあります。
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2.フィルタリングとの違い
スクリーニングは、「ふるい落とす」「選別する」「選抜する」「選考する」などの意味があります。
スクリーニングは、多数の対象の中から、必要なもの、適切なものを条件に従って選び出すことを言います。
一方、似た用語であるフィルタリングは、多数の対象の中から、不必要なもの、不適切なものを通さないというニュアンスがあります。
例えば、学校の授業教材として利用できるウェブを選ぶ時に、公的機関が運営しているなどの一定の条件にしたがって授業教材として適切なものを選ぶことなどがスクリーニングです。
一方、成人向けサイトなど不適切なウェブが教材の中に入らないように排除することなどがフィルタリングになります。
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3.各分野で使われるスクリーニング
スクリーニングは「選別する」「ふるい分ける」の意味ですが、各分野で特定の選別、選考を指します。
3.1.医療で使われるスクリーニング
医療では、検査対象の集団の中から疾患を持っている、感染をしている対象者を見つけることがスクリーニングと呼ばれます。
例えば、発熱外来を訪れた患者全員に対し、唾液や粘膜などの検体サンプルを採取し、一括して検査をすることで特定の感染症に罹っている患者を選別します。その感染症に対応した治療や隔離などの措置が素早く行えます。
また、特定の疾病にかかるリスクが高い人をスクリーニングして、予防のアドバイスをすることも行われています。一斉健康診断などもスクリーニング検査です。
3.2.株式投資
株式投資では、ポートフォリオを組むために、特定の性質を持った銘柄に投資をすることが必要になることがあります。
例えば、成長性は高いけど、下落するリスクも大きい銘柄に投資をしたい時は、その反対の性質を持つ変動の小さな銘柄に同時に投資をすることで、資産全体のリスクを減らすことができます。
このような時は、株式銘柄の全体から、条件に合う銘柄をスクリーングして投資をする銘柄を決め、ポートフォリオを組みます。
3.3.スマートフォンの通話スクリーニング
多くのスマートフォンでは、通話スクリーニング機能が搭載されています。電話がかかってきた時に、不必要な電話に対しては着信音を鳴らさずに留守番電話に転送をしたり、自動メッセージで応答したりする機能です。
多くのスマートフォンでは、連絡帳に登録した相手先からの着信にのみ着信音を鳴らすようにする設定ができます。
また、応答前に音声メッセージを流し、相手の用件を録音し、テキストで知らせるなどの高度な機能を備えているスマートフォンもあります。
3.4.採用活動でのスクリーニング
採用活動では、面接や入社試験を行う前に、企業の採用条件を満たしていない応募者がいないかどうかを確認するのが一般的で、このような工程がスクリーニングと呼ばれることがあります。
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4.情報の非対称性と逆選択
スクリーニングが必要な理由のひとつとして語られるのが、金融業界で知られる「情報の非対称性と逆選択」の問題です。
例えば、ある人が中古車を別の人に売る時に、中古車に潜在する問題を隠して高く売ろうとします。買う方は、その問題を知らないため、相場価格を提示してしまいがちです。
このように売り手と買い手の間で情報格差が生まれている状況が「情報の非対称性」です。
この情報の非対称性を放置すると、市場が歪んでいきます。
悪意のある売り手は実際の価値よりも高く売れるため、この市場に積極的に参加をしようとします。
しかし、問題を隠さない誠実な売り手は相場価格が安すぎると感じて別に市場に逃げていきます。
結局、この市場は売り手が望んでいない、問題を隠す悪意のある売り手ばかりになってしまいます。これが「逆選択」と呼ばれます。
このような問題を予防するのがスクリーニングです。
例えば中古車を売買する時に、売買価格に影響しそうな要素はすべて調べるというやり方です。
これで売り手は問題を隠すことが難しくなり、市場を正常化することができます。
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5.偽陽性のパラドクス(第一種の過誤と第二種の過誤)
スクリーニング検査は、大量の対象から必要なものを一気に選ぶことができますが、医療などの分野ではむやみに検査対象を広げることはできません。
陽性でもないのに、陽性と誤って判定してしまう偽陽性の問題が生じるからです。
どのような検査でも100%陽性と陰性を見分けられるということはあり得ません。どうやっても、少数の誤判定は出てしまいます。
しかし、検査精度が90%という高いものであっても、医療検査では、むやみに検査対象を広げると、得られた結果がまったく役に立たないということが起こります。これが偽陽性のパラドクスです。
今、ある感染症のスクリーニング検査をするとします。この感染症の感染率は10万人に8人=0.008%だとします。
この検査の精度が90%だとします。すると、本当は感染しているのに、それを見逃して陰性だと判定してしまう誤りが10%起きることになります(第一種の過誤)。
一方、逆に本当は感染していないのに誤って陽性だと判定してしまう偽陽性の誤りが0.1%だとします(第二種の過誤)。
(精度の高い検査であっても、一定割合でご判定は生じてしまう。これが偽陽性のパラドクスを生む)
この2つの過誤はトレードオフの関係(どちらかを下げると、もう片方があがってしまう)にあるため、パラドクスが生まれます。
10万人にこのスクリーニング検査をすると、結果は次のようになります。
(1)感染していて陽性だと判断された人
・10万人×0.008%×90%=7.2人
(2)感染をしているのに陰性だと誤って判断されてしまった人
・10万人×0.008%×10%=0.8人
(3)感染していないのに陽性だと誤って判断された偽陽性の人
・10万人×(100%-0.008%)×0.1%=99.992人
(4)感染してなく陰性だと判断された人
・10万人×(100%-0.008%)×99.9%=99892.008人
では、検査で陽性とされた人のうち、本当に陽性である人の割合はどのくらいになるでしょうか。
・7.2÷(7.2+99.992)=6.7%
となってしまいます。
(むやみに検査をしてしまうと、陽性と判定された人の93.3%の人はほんとうは感染していないというおかしな状況が生まれる)
つまり、検査で陽性と判断された人のうち、ほとんどの人(93.3%)は本当は感染していないという結果になってしまいます。検査の精度が90%もあるのに、検査結果はほとんど役に立たないことになってしまいます。
このようなことが起きる原因は、感染率が非常に低く、なおかつ大量の人を検査したからです。
そのため、精度が高いからといって、むやみに大量の人にスクリーニング検査をすることはできません。感染症の場合であれば、あらかじめ質問表などで発熱などの症状があることを確認し、感染の可能性が高い人に限って検査をすべきなのです。
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6.まとめ
スクリーニングとは、大量のものを検査して、条件に合うものを選び出す行為です。選別、ふるい分けなどの意味です。
アンケート調査などを実施する前に、回答者として年齢、職業、連絡先などの条件に合う人を選別するためにスクリーニングをすることが多いため、予備調査のニュアンスもあります。また、情報の非対称性を解消するためにも利用されます。
一方で、偽陽性のパラドクスなどの問題もあるため、スクリーニングを含めた調査を行うときには、事前にしっかりとした調査計画を立てることが求められます。