「アルゴリズム」という言葉をよく耳にすることがあると思いますが、なんだかわからないが難しそう、と思っている方も多いのではないでしょうか。今回はそんなアルゴリズムを身近に感じていただいて活用してもらうために、日常生活の中のアルゴリズムの活用事例やビジネスで覚えておきたいアルゴリズムなどを紹介します。
【関連記事】「【NFTとは】暗号資産との違いや注目の理由、NFTのメリットや取引対象を解説」
1.アルゴリズムとは
アルゴリズムとは、作業の手順を実行する順に表したものです。作業手順書などに記載されている指示もアルゴリズムの一種です。料理のレシピもアルゴリズムの一種です。
アルゴリズムをコンピューターの言語に翻訳をするとプログラムとなり、コンピューターに実行させることができます。
2.アルゴリズムのメリット
作業手順をアルゴリズムやアルゴリズムを可視化したフローチャートで表してみることで、さまざまなメリットが得られます。
(アルゴリズムを可視化したのがフローチャート。フローチャートの中身は普通の日常語を使ってもかまわない。例えば、「新規会員の処理」などの業務をフローチャートで表しておくと、文章によるマニュアルよりもわかりやすく、ミスが起きる確率を下げることができる。また、ソフトウェア化もしやすい。※画像の引用元はこちら)
(1)作業の標準化ができる
アルゴリズムは、誰が読んでも、同じ作業手順になるように書く必要があります。それができていれば、誰でもその手順通りに作業をすれば、業務がこなせるようになります。
また、新人も作業の習得が格段に早くなります。作業をアルゴリズムで表現することで、作業の標準化が可能になり、業務の質も担保することができるようになります。
料理のレシピはまさにこの目的のために使われます。誰がつくっても、同じ味の料理ができるように、材料の量を記載し、料理の手順を記載します。
(2)問題のある作業を特定できる
作業をアルゴリズムで表現をしておくと、問題が発生した時に、どの作業に問題があるのかが特定しやすくなります。
例えば、料理のレシピで「玉ねぎをみじん切りにする」とだけ書かれていた場合、みじん切りをどのようにするかは各自に任されてしまいます。そのため、品質にばらつきが生じ、料理の味がつくる人による異なるという問題が発生します。
これを改善するには、「みじん切り」の具体的な作業手順もアルゴリズムとして記述します。「1.玉ねぎを半分に切る。2.半分に切った玉ねぎに2mm間隔で切れ目を入れる...」などとすることで、品質が安定するようになります。
(【画像出典】CouleurによるPixabayからの画像)
(3)アウトソーシングの計画が立てられる
作業をアルゴリズムで表現をしておくと、アウトシーシングできる作業が見えてきて、なおかつアウトソーシングした場合の影響なども考えられるようになります。
料理のレシピで言えば、「玉ねぎをみじん切りする」ではなく、「玉ねぎをミキサーにかける」にした方が優れているかもしれません。ただし、その場合、ミキサーを誰がどの時点で準備をするのか、使ったミキサーを誰がどの段階で洗浄するのかまでアルゴリズムに記述する必要があります。
(4)作業手順を改善していくことができる
作業をアルゴリズムで表現をしておくと、無駄な作業が見えてくるため、作業効率が改善できます。それは時には大胆な改革を伴うこともあります。例えば、「1から100までの数をすべて足した答えを求める」という課題があったとき、最も原始的なアルゴリズムは、「1と2を足して、その答えに3を足して...」というものです。
しかし、新たなアルゴリズムを考案し、「1と100を足して、2と99を足して...という手順を思いつくことができれば、101×50の計算のみで答えを求めることができます。アルゴリズムの形で表現することで、改善策を見つけやすくなるのです。
(5)DX(デジタルトランスフォーメーション)に結びつきやすい
基幹システム、業務システムなどはプログラミングをしてつくられたソフトウェアです。例えば、請求書を作成して発行するというシステムをつくるときは、請求書の発行業務の手順を並べ、アルゴリズムの形にします。
コンピューターのプログラミング言語は、アルゴリズムを逐語翻訳するように書いていくことができるため、あらかじめ作業手順がアルゴリズムの形になっているとプログラミングもしやすいのです。
DXの目的は、日常業務をデジタル化し、自動化することにより作業効率をあげることですが、日常業務の手順を書き出してアルゴリズムの形にすることで、無駄な作業を発見できたり、改善したりすることができるというのも大きなメリットです。
(※アルゴリズムについて詳しく知りたい、そんな向上心を持つあなたは、キャリアアップへの志向が強い方なのではないでしょうか。さらなるキャリアアップを目指すなら、IT職種・業界を含め、職種・業界に特化したアドバイザーが無料で転職相談をしてくれる転職エージェント「マイナビエージェント」に相談するのをおすすめします。)
【関連記事】「日本企業が今、「DX」を進めなければいけないワケ」
3.日常生活の中にあるアルゴリズム
日常生活という身近なところにもアルゴリズムはたくさんあります。
(1)家電製品のマニュアル
家電製品を購入後、初めて使う時には電池を入れたり、電源スイッチを入れたり、場合によっては時刻合わせをする必要があります。このような手順は添付のマニュアルに記載されています。
やるべきことを順番に書いてあるだけですが、これも手順を説明したものであり、アルゴリズムの一種です。そのため、勝手に手順を省いたりすると、うまく家電製品を使えないこともあります。
(2)料理のレシピ
料理の作り方もアルゴリズムです。しかも、「ツノが立つまで卵白を泡立てる」など、一定の条件を満足しないと次の手順に進めないことがあります。これはアルゴリズムの用語では「条件ループ」(一定の条件を満たすまで繰り返す指示)と呼ばれ、高度なアルゴリズム要素のひとつです。
(3)買い物リスト
買い物リストに「卵、ニラ、豚肉、アイスクリーム」と4つが書かれていても、この順番でスーパーの商品棚を探す人はほとんどいません。スーパーの店内で歩く距離が最小になるように、手前の商品棚にあるものから購入をしていくことになります。
これはアルゴリズムの用語ではリスト型データ構造と呼ばれます。4つをすべて購入できるのであれば、どの順番で処理をしていってもいいのです。
また、「卵が150円以下であれば12個パックを、そうでなければ6個パックを」という指示があるかもしれません。これは「条件分岐」と呼ばれます。条件により、取るべき行動が異なってくるものです。
(4)筆算
小学校の時に、足し算の筆算を習いました。これもアルゴリズムです。桁数の多い足し算をするのは簡単ではありません。しかし、筆算で行うと、1桁の足し算に作業を分解することができ、作業負担が小さくなり、ミスが起こりづらくなります。これにより、誰でも足し算ができるというメリットが生じます。
二次方程式の解の公式なども、誰でも手順通りにやれば間違いなく二次方程式が解けるというアルゴリズムです。数学の公式はほぼすべてが、作業負担を減らし、ミスを起こりづらくするアルゴリズムです。
【関連記事】「【ハッシュタグとは】マーケティングでの活用法やメリット、分析ツールを紹介」
4.ビジネスをする上で覚えておきたいアルゴリズム
業種を問わず、あらゆるビジネスパーソンが覚えておく必要のあるアリゴリズムがあります。詳しい手順内容まで知る必要はありませんが、名前と概要程度は理解をしておかないと、商談などで困ることがあるかもしれません。
(1)機械学習アルゴリズム
機械学習とは機械が学習をする、つまり人工知能(AI)のことです。この機械学習アルゴリズムにはさまざまなものがありますが、その基本となるのが回帰アルゴリズムです。
売上や気温などのグラフをつくっていき、これからどう推移をするかを予測したいということがしばしばあります。このような予測をするのが回帰アルゴリズムです。
考え方は簡単で、過去の実績のグラフの直線を、そのまま伸ばせば将来の予測が行えるというものです。もちろん、こんな単純なやり方では予測が外れるばかりで実用性がないため、予測グラフの精度をあげるためのアルゴリズムがさまざま考案されています。
回帰とは「あるべき場所に戻る」という意味で、ばらつくデータから誤差などを取り除き、仮想の「あるべき場所に戻す」操作を行い、グラフの式をつくり、これを将来にまで延長することで予測を行います。
各データを回帰させることで、グラフの式がシンプルになり、予測がしやすくなります。この回帰アルゴリズムがさまざまな機械学習の出発点になっています。
(【画像出典】Gerd AltmannによるPixabayからの画像)
(2)暗号化アルゴリズム
ネット社会である現在では、情報漏洩を防ぐ暗号化アルゴリズムが重要になっています。私たちがネット通販(EC)で買い物をする時は、クレジットカード情報だけでなく、あらゆる通信が暗号化をされ、第三者に盗まれないように保護されています。
このような暗号化アルゴリズムは、素数の掛け算を基本にしています。7×13を計算するのはさほど難しくありませんが、「91を2つの素数の積で表せ」と言われると、少してこずることになります。この落差は桁数の大きな素数になればなるほど大きくなります。
そこで、大きな素数の積を使って暗号化をしておけば、それを盗聴したい人は2つの素数に分解するという負担の大きな計算をしなければならないため、暗号を解読するのにスーパーコンピューターを使っても何百年、何千年もかかるということで、情報を守っています。
ただし、量子コンピューターの登場で、このような面倒な計算も一瞬でできてしまう可能性が出てきているため、より強力な暗号化アルゴリズムが必要とされるようになり、暗号化アルゴリズムの研究が注目されています。
(3)遺伝的アルゴリズム
現代のコンピューターは非常に優秀ですが、それでも計算量が膨大になるため苦手としている課題もたくさんあります。
例えば、カーナビのルート探索なども本格的に行うと非常に時間のかかる計算になります。道は無数にあり、そのすべてを順列組み合わせで時間や距離を比較すると、候補が膨大になりすぎて計算に時間がかかるのです。
そのため、一般的なカーナビでは、出発地と目的地付近を結ぶ高速道路やバイパス国道という幹線道路を探し、その幹線道路に接続する道を探索するという便法をとっています。
それでも実用上は問題がないのですが、このような複雑な問題を真正面から解く場合は、遺伝的アルゴリズムが使われます。利用する道をすべて並べて遺伝子のようにしたデータ構造をたくさんつくっておき、生物と同じように交配をさせ、遺伝子を混ぜ合わせます。
そして、時間、距離など必要とされる条件により、優れた遺伝子は生き残り、劣っている遺伝子は死滅をし、さらに次の交配を行い、遺伝子が混ぜ合わされた子どもをつくっていくということを繰り返します。
ウイルスの進化が高速であるように、遺伝的アルゴリズムでも優秀な遺伝子を持った世代が高速で登場してきます。正確な最適解は求められないものの、ほぼ正解に近い解を高速で見つけることができるアルゴリズムとしてさまざまな分野から注目されています。
5.ヒューリスティックとの違い
アルゴリズムを調べると「ヒューリスティック」という言葉が出てくることが多いので、気になる方も多いのではないでしょうか。
アルゴリズムとの違いなどを解説します。
(1)ヒューリスティックとは
「ヒューリスティック」とは、アルゴリズムと同様に「何か決める時に使う考え方」の心理学用語の1つです。
ヒューリスティックは「自分の経験則や勘に基づいて答えを導き出す発見的問題解決手法」を指しています。
(2)ヒューリスティックとアルゴリズムとの違い
先述した通り、ヒューリスティックは「自分の経験則や勘に基づいて答えを導き出す発見的問題解決手法」を指しているため、アルゴリズムの「定式化された手順で答えを出す問題解決法」という意味とは異なる考え方です。
例えば、お昼ごはんを食べる店を考える際に、「人が並んでいるお店だから人気店だろう」と考えた場合は、ヒューリスティックを使用しており、「自分なりの判断基準(料理の味、価格、口コミなど)から導き出そう」と考えた場合は、アルゴリズムを使用していることになります。
このように、ヒューリスティックの特徴は「迅速だが、粗い回答を出す」ことで、アルゴリズムの特徴は「時間は掛かっても、確実に答えを導き出せる」ことです。
そのため、アルゴリズムとヒューリスティックはしっかりと使い分けることで、お互いを補完できる存在だと言えます。
6.まとめ
アルゴリズムとは、作業の手順を実行する順に表したものです。アルゴリズムをコンピューターの言語に翻訳をするとプログラムとなり、コンピューターに実行させることができます。
コンピューターとなじみがよく、作業手順をアルゴリズムで表現することは、DXへの近道となるだけでなく、作業手順そのものを標準化、改善していくことができます。