「OJT」とは、日常業務を通して知識やスキルが身に付くよう指導する人材育成手法のことです。社会人になるとよく耳にする言葉の1つですが、「どういう意味?」「OFF-JTとの違いが分からない」「どのようなメリットがあるの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
本記事では、OJTの定義やOFF-JTとの違い、メリット・デメリット、実施する際のポイントについて解説します。OJTへの理解が深まることで、日々の業務に正しく取り入れることができるでしょう。
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1. OJTとは?
OJTとは、「On the Job Training (オンザジョブトレーニング)」の略語で、先輩社員が後輩社員の日常業務に付き添いながら教育を行う人材育成手法のこと。簡単に言うと、実務を通して知識やスキルを身につけさせる手法です。
労働政策研究・研修機構が公表している「日本のOJTとPIAAC調査」によると、OJTは下記のように定義されています。
OJTは職場で仕事をやりながら上司や先輩等の指導のもとで仕事を覚えていく訓練である。
同資料には、OJTは賃金や付加価値生産性を高める効果が認められていると記述されています。日本には戦後の高度経済成長期に取り入れられ、現在でも多くの企業が導入しています。
1.1.企業によって呼称が異なる場合も
日本でも「OJT」や「OJT研修」と呼ばれることが多いですが、企業によっては呼称が異なる場合もあります。例えば、「職場内訓練」「実地研修」などと言い換えることもあるでしょう。
また、教える側の人を「トレーナー」、教えてもらう側の人を「トレーニー」と呼ぶことが多いですが、こちらも「メンター/メンティー」などの名称が使われていることもあります。教える側を「ブラザー・シスター」と言ったり、日本語で「新人教育係」「育成担当者」などと言ったりすることもあります。
1.2.4段階のステップで指導するのが基本形
OJTで新人・後輩に仕事を教える際は、「やってみせる(Show)」「説明・解説する(Tell)」「やらせてみる(Do)」「確認・評価と追加指導をする(Check)」の4段階が基本形となります。
これは第一次世界大戦時のアメリカで軍人を育成するために生まれた「4段階職業指導法」と呼ばれるもので、この4ステップを繰り返すことで効率よくスキルが身につきます。
まずはその作業の全体的なイメージを掴むために先輩がやってみせる、言葉で解説することで細かい部分まで理解する、実際に作業をやってみることでコツを掴む、フィードバックによりさらにブラッシュアップしていく、という流れを覚えておきましょう。
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2. OJTを実施する目的
では、企業はどのような目的でOJTを実施するのでしょうか。ここでは、OJTを行う目的を3つに分けて解説します。
2.1.業務効率・生産性の向上
OJTでは、実務を通して身につけたノウハウや知識を後輩社員に引き継ぐことができるため、後輩社員の業務効率があがり生産性の向上につながります。
また、OJTを受ける側の能力向上はもちろん、指導する側にも自身の能力向上を図れるメリットがあります。OJTが効果的に実施されることで、指導力が評価され、周囲からの信頼を得ることもできるでしょう。
2.2. 定着率の向上
OJTでは、座学研修などと違い、一対一で指導を受けられるので、個人のペースに合わせた実務経験を積むことが可能です。
また、実務に携わる人から直接指導を受けられるので、実用性が高く有意義な育成時間となるでしょう。
新人・新入社員に対して、即戦力をつけさせることがOJTの狙いです。新人・新入社員が即戦力として活躍できるようになれば、モチベーションも高くなり、結果的に定着率のアップにもつながります。
2.3. 社内コミュニケーションの活性化
社員間のコミュニケーションを活性化させるために、OJTを実施する企業も多いです。新人や業務未経験者にとって新しい職場環境は、不安要素が強く、本来の能力を発揮しにくい環境と言えます。
しかし、OJTを実施すれば、一対一で実務を教えてもらえるので、些細な疑問や不安をその都度解消できます。担当の先輩社員を通して、会社の風土や人間関係についても学べるので、ほかの社員との交流にも役立つでしょう。
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3. OJTとOFF-JTの違い
OJTとよく似た言葉に「OFF-JT」があり、どちらも人材育成手法にあたりますが、育成形式としては逆の手法とも言えるものです。
「OFF-JT」はOFF the Job Trainingの略語で、一時的に実務の場を離れてセミナーや研修などで成長を促します。
OJTは、社内の実務を通してスキルや知識を習得するのに対し、OFF‐JTはセミナーや研修で実務に役立つ見識を深めることが大きな特徴です。また、OJTは社内の上司や先輩がトレーナーを担当しますが、OFF-JTでは外部講師を招いて講座を開催する傾向にあります。
OJTとOFF-JTをバランスよく組み合わせて実施すれば、より効率的な社員育成を実現できるでしょう。
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4. 実際にOJTやOFF-JTを実施した企業はどれくらい?
日本企業におけるOJTおよびOFF‐JTの実施状況をまとめました。どの年代もOJTよりOFF‐JTを導入している企業の方が多いようです。雇用形態や年度別にそれぞれの割合を見ていきましょう。
4.1. OJTの実施状況
下記の表では、厚生労働省の調査のデータをもとに、OJTを導入した企業の割合を雇用形態・年度別にまとめました。
正社員 | 正社員以外 | |
---|---|---|
令和5年 | 60.7% | 23.2% |
令和4年 | 60.2% | 23.8% |
令和3年 | 59.1% |
25.2% |
令和2年 | 56.9% |
22.3% |
令和元年 |
64.5% |
29.0% |
正社員に対してOJTを実施した企業は、令和5年度調査によると60.7%と、前年度の60.2%と比べてやや上昇していることが分かりました。
また、正社員以外に対してOJTを実施した企業は、23.2%と正社員に対する割合に比べて2分の1に満たない水準で推移していることが分かります。
4.2. OFF-JTの実施状況
次に、上記と同じ調査をもとに、OFF‐JTを導入した企業の割合を雇用形態・年度別にまとめました。
正社員 | 正社員以外 | |
---|---|---|
令和5年 | 71.4% | 28.3% |
令和4年 | 70.5% |
29.6% |
令和3年 | 69.1% |
29.8% |
令和2年 | 68.8% |
29.2% |
令和元年 |
75.1% |
39.5% |
正社員を対象としたOFF‐JTの実施率を見ると、令和2年で割合が下がっていましたが、それ以降の調査では、令和3年が69.1%、令和4年70.4%、令和5年71.4%と、右肩上がりに実施企業が増えていることが明らかとなりました。
続いて、正社員以外を対象としたOFF‐JTの実施率は比較的低く、令和2年度調査以降は28〜29%台を維持しています。
5. OJTのメリット
OJTを導入すれば、企業・指導者・指導を受ける側の3つの当事者それぞれに良いメリットが期待されます。ここでは、具体的にどのようなメリットがあるのかを4つに分けて紹介します。
5.1. 実際の業務の流れやスキルが学べる
OJTは、先輩社員が後輩に実務を通して得たスキルやノウハウを教えます。そのため後輩社員は、実践的なスキルや知識を習得でき、業務に活かすことが可能です。
また、すぐにフィードバックを受けられるため、指導された内容を反映させることで業務上のミスや無駄を最小限に抑えられるでしょう。
結果的に即戦力が身につくので、後輩社員は「自分が役に立っている」「会社に貢献できている」と実感し、高いモチベーションを保つことができます。
5.2. 疑問がすぐに解決できる
OJTは、マンツーマン指導を受けられるため、疑問や不安があればすぐに解決できます。
自分では理解しているつもりでも、実践できていない場合は、すぐに軌道修正してもらえます。成長度合いにあわせてリアルタイムで確認してもらえるので、安心してスキルや知識の習得を目指せるでしょう。
また指導者側は、個人の理解度に応じた臨機応変な対応が可能で、着実にスキルアップさせることができるのがメリットです。
5.3. 指導者側の成長にもつながる
OJTを通じて、部下や後輩に指導していくなかで、指導者側も業務への理解度を高めることができます。
「どのように伝えればいいのか」「この業務の本質って何?」というように指導者自身も試行錯誤するため、能力や知識の向上に役立つでしょう。
さらに部下・後輩が効率的に成長すれば、指導力も認められ、会社からの評価が高くなります。このようにOJTは双方向の教育機会を生むため、多くの企業に導入されています。
5.4. 育成コストが抑えられる
OJTは、社内で実施するため、外部の講師に依頼をしたり、セミナー会場を用意したりといった費用を抑えられます。
例えば、新人研修を外部の企業に委託した場合、わずかな時間でも数万円〜と大きな費用が発生してしまうでしょう。
ビジネスマナーやコミュニケーションなどの外部機関を利用した研修も重要ですが、実践的なスキルの習得に関してはOJTの導入がおすすめです。
業務に必要なスキルや知識は、日頃から業務に携わっている上司・先輩による指導の方が効率的かつ低コストで部下・後輩の成長を促すことができるでしょう。
6. OJTのデメリット
OJTはメリットばかりではなく、以下のようなデメリットも存在するので、実施する前に把握しておきましょう。
6.1. 総合的に学ぶことが難しい
OJTは基本的に上司と部下が一対一で行う育成手法のため、指導者の考え方や仕事観などが引き継がれ視野が狭まる可能性があります。
他の視点や情報も視野に入れながら総合的に学ぶためには、OJTとOFF-JTを組み合わせることが大切です。
また、長期にわたる場合は定期的にOJTを実施するペアを変更することで、広い視野を持ちながら仕事に向き合えるでしょう。
6.2. 教える人によって差が出ることがある
OJTは、指導者のスキルや能力次第で効果が大きく異なります。
OJTのトレーナーには若手3年目〜中堅社員が選ばれることが多いですが、指導者としての自覚を持って、試行錯誤しながら教えることができれば、指導を受けた部下や後輩は飛躍的に成長できるはずです。
しかし、意欲の低い社員が指導者になった場合、指導がおろそかになってしまうケースもあるでしょう。指導者自身が自らの業務を優先することで、新入社員が放置されてしまうといった場合もあります。
また、コミュニケーションを取るのが苦手な人や、自己流のやり方で教えてしまうような人は、OJTに向いていない人とも言えます。
OJTを実施する際には、指導者の人選を慎重に行うとともに、教育マニュアルを用意したり、育成成果の評価基準を明確にしたりと、適切に育成を図れるような環境を整えることが大切です。
6.3. 実施前の準備や体制を整える必要がある
基本的にOJTは、実施前に教育マニュアルの用意や育成成果の評価制度を整えておく必要があります。
無計画でスタートしてしまうと、新入社員が放置されてしまったり、指導者に大きな負担がかかってしまいかねません。OJTを効果的に実施するポイントを意識しながら、順序だてて進めることが大切です。
7. OJTを実施するためのポイント
OJTをより効果的に実施するために、5つのポイントを押さえておきましょう。
7.1. 目標・目的を明確化する
OJTは、目標や目的を明確化させたうえで取り組みましょう。OJTの三原則として「意図的」「計画的」「継続的」がありますが、目的を明確にしてトレーニングを行うことが「意図的」の実現につながります。
まずは、会社側がどのような意図でOJTに取り組むのかを社内全体で共有します。人材育成は会社にとって重要度が高いので、指導者任せにせずに社内全体でサポートする環境を構築することが大切です。
7.2. 育成計画を作成する
OJTの三原則の一つ「計画的」を実現するため、育成計画を作成して戦略的に進めましょう。育成計画がないと、教える人が何をどの程度まで教えれば良いのかわかりません。
育成計画は人事部やマネジャーで立案することが多いですが、トレーナーに任せてみることで視座が高まり、トレーナーとトレーニー双方の成長につながるでしょう。
また、あらかじめゴールを知ったうえで取り組むことができるので、最後までメリハリを持ってやり遂げられるでしょう。
7.3. トレーニングは段階を踏んで繰り返し行う
OJTの三原則は、トレーニングが「継続的」であることの重要性も示しています。実際の業務をこなせるようになるには、一度のレクチャーでは不十分です。フィードバックを交えて、繰り返しトレーニングすることで、確実なスキルアップにつながります。
OFF-JTはどちらかというと一度の研修で終わってしまう傾向がありますが、先輩が後輩に付き添って教えるOJTでは、繰り返しのトレーニングが比較的容易にできます。
何度も業務フローを繰り返しながら、徐々にレベルの高い業務も組み込むことで、疑問や不安を解消しやすいというOJTのメリットも最大限に発揮されます。
7.4. 業務内容・業務量を決める
OJTを実施する業務内容と業務量を決めておくことで、指導をする側と指導を受ける側は、負担なく取り組むことができます。
とくに指導者は、事前にどのように伝えるべきか、何を教えたらいいのかを考えてからOJTに入る必要があります。
また、業務配分が適切であるかを再考するようにしましょう。OJTに専念できるように業務量を減らしたり、難易度の高い業務を余裕のある社員に割り振るなどの工夫が必要です。
7.5. 環境・体制を整える
OJTは、マンツーマンで行う育成手法ですが、組織全体で協力し合う必要があります。指導者に一任する形でOJTを実施してしまうと、キャパオーバーになってしまう可能性もあります。
指導する側は、教育目標のすり合わせや、達成目安を作成、効果の計測、改善など、やることは多くあります。そのため、業務量を調整したり、一人だけに負担がかかるような事態にならないように体制を整えておきましょう。
また、質問がしやすい・話しかけやすい社内環境を作っておくことで、新入社員や未経験者が分からないこと、疑問に思ったことなどを聞きやすくなります。
7.6. 実施後はフィードバックを行う
OJTを実施した後には、必ずフィードバックを行いましょう。フィードバックを行い、振り返ることで学んだ知識や経験が定着しやすくなります。
振り返りの際に「効率的に進められた理由は?」「どうして失敗したの?」などと問いかけて、気づきを促すことが大切です。
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8. まとめ
OJTとは、実務を通して若手社員のスキルアップを図る人材育成手法のことです。OJTを導入することで部下や後輩を効率的に育成できるうえ、指導者の知識やスキルの向上にもつながります。
ほかにも社員間のコミュニケーションを円滑に図れたり、研修コストを削減できたりとメリットが多いので積極的に取り入れましょう。
実践する前には、OJTのデメリットや正しい取り組み方を押さえて、環境を整えることが大切です。
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