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DAY 2019.02.27 キャリア

社会人のための「労働基準法」講座
~賃金・残業代編~

皆さんは何のために仕事をしていますか。お金、社会貢献、やりがい、スキルアップなど仕事に求める優先順位はさまざまですが、給料面を一切考慮せずに働ける人は少ないでしょう。給料は嫌な仕事でも頑張ろうと思えるモチベーションの源であり、自分の仕事が誰かの役に立っていると認識させてくれる物差しだと思うのです。社会人のための「労働基準法」講座3回目は、賃金・残業代にスポットを当ててご説明します。

正規・非正規の格差是正"同一労働同一賃金"

古くから年功序列制度の根付く日本では、同じ仕事をしていても年齢や勤続年数によって給料が異なることが珍しくありません。そうなると、パソコンの前でぼーっとしているだけの古株社員が一生懸命働く新入社員よりもずっと多く給料を受け取っている事態も起こりえますが、それでは新入社員の不満は溜まる一方です。また、同じようなことは正規・非正規(派遣、パート、アルバイト等)の間でも起きており、より事態は深刻です。

そのような状況を踏まえて「職業経験・能力が等しい中同じ仕事をしているのだから同じだけ給料が欲しい!」というある意味当然の要求を叶えようとしたのが "同一労働同一賃金"改革です(ただし、今回の改革の対象は正規・非正規の間における不合理な待遇差の解消で、正規社員同士の格差解消のための新制度はありません)。今回の計画では、基本給やボーナス、各種手当に限らず、福利厚生においても、正規・非正規間で不合理な格差を設けてはならないとされています。

  • 〇 基本給

    役職・責任が異なるなど正規・非正規間で基本給に違いを設けることに合理的な理由があれば、基本給の支給額が異なっていても問題ありません。ただし、正規と非正規で"将来期待される役割が異なる"などの抽象的な理由で基本給に差を設けることはできません。

  • 〇 ボーナス

    ボーナスを支給する場合には、正規・非正規を問わず、会社の業績への貢献度に応じてボーナスを支給する必要があります。

  • 〇 各種手当

    通勤手当、食事手当、出張手当、皆勤手当、深夜・休日労働手当を支給する場合には、正規か非正規かで差を設けることはできません。一方、同一の仕事を担当していても、責任の範囲が異なれば、正規と非正規で異なる金額の役職手当を支給することは許容されています。

  • 〇 福利厚生

    福利厚生施設の利用や慶弔休暇などの福利厚生についても、原則として正規・非正規の別に関係なく同一の利用・付与を認めなければなりません。

中小企業で残業代が増える?

働き方改革が実行されるよりも前から改正が予定されていたこともあります。たとえば、中小企業における残業代の割増率に関する猶予措置は、2023年4月以降廃止されます。今まで、中小企業では、その月の残業時間が60時間を超えた場合であっても、通常の給料の1.25倍の残業代を支払えば足りるとされていたところ、2023年4月以降1.5倍の残業代を支払うことになります。大企業では既に適用されていますが、資金力に乏しい中小企業への適用は猶予されていたためです。

これによって、企業側は人件費がかさむ可能性もあります。もっとも、労働者1人1人の業務量を適正なものとし残業時間を減らしていけば、猶予措置の廃止による影響は少なくなるでしょう。

過労死促成法案?警戒すべき高度プロフェッショナル制度

今回の働き方改革では、残業時間の上限設定など労働者がより働きやすくなるための改正が行われますが、要注意なのが「高度プロフェッショナル制度(正式名称:特定高度専門業務・成果型労働制、略称:高プロ)」です。

高プロとは、職種及び年収に関する一定の要件を満たす人について労働時間に関する規制を外す制度です。創造的な能力を発揮しながら効率的に働く環境を整備することが高プロの目的ですが、休憩も残業代の支給もないので労働者が会社の食い物にされてしまうおそれがあります。極端な話、1日12時間、休憩を与えず残業代なしで働かせたとしても、何ら法律に反していないことになるのです。

高プロの対象になる可能性があるのは、①金融商品の開発業務、②金融商品のディーリング業務、③アナリストの業務、④コンサルタントの業務、⑤研究開発業務のいずれかに従事する年収1075万円以上の人です。①~⑤に該当する業務の中でも適用される業務と適用されない業務があります。加えて、高プロが適用されるためには、書面で職務範囲が明確に定められていること、本人の同意があることが必要なので勝手に適用されることはありません。もっとも、労働者が高プロに同意するときに拒否する自由がないとすれば、これは危険な制度です。

高プロを導入する会社には健康確保措置として、①終業から始業までの一定休息時間の確保、②労働時間の上限設定、③年に1回以上の2週間連続の休日取得、④臨時の健康診断の実施、これら①~④から1つを選択して採用することが求められますが、殆どが④を選択することが予想され、①や②による長時間労働の弊害発生に対する歯止めも期待できません。

日本人に合った働き方改革を!

今回の記事でご紹介した改正の中で私が個人的に最も関心を持つのは、高プロです。確かに成果さえ出せばどこで仕事をしても良いとの条件であれば高プロは特に問題ないかもしれませんが、定時に出社して会社で勤務することが求められる日本で高プロを実施すると実質的には長時間のサービス残業を強いられるのと変わらない結果になる可能性は高いと思います。ましてや日本人は勤勉を美徳と考える傾向にあるのですから。「働いたらお金をもらう」のは当たり前なので、高プロ制定を含めた働き方改革で労働者が搾取されてしまわないことを願います。

プロフィール

弁護士法人 アディーレ法律事務所
山下 汐里(やました しおり)

弁護士(東京弁護士会所属)。立命館大学法学部卒。
趣味が高じ、オリジナルシナリオを執筆する程の演劇好き。そうした創作活動に親しんだことから、難しい法律問題を、分かりやすくかみ砕いて説明する事が得意。
本来、身近な存在であるはずの法律が「理解するのが難しい」という理由で倦厭されがちな社会を変えたいという思いで、弁護士として日々奮闘している。

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