社会人のための「労働基準法」講座<br>~休日編~

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当たり前のことですが、人間を含む動物には、休息が必須です。働きアリとの呼び名のあるアリでさえ、すべてのアリが常に働き続けているわけではなく、1つのグループのうち2割は休息しているといわれています。実は、一生懸命働いているのは2割だけで、その2割が疲れてくるとほかのアリたちが重い腰を上げて働き始めるのだそうです。

誰かが疲れたらほかの誰かが支える体制は組織にとって大切なもので、労働者に休息を与えることは企業にとっても価値のあることです。社会人のための「労働基準法」講座の2回めのテーマは「休暇」です。

週休1日って違法じゃないの?

皆さんは、週に何日休日があるでしょうか?一般的な会社であれば週休2日が多いかと思いますが、建設業などでは週休1日の会社も珍しくありません。労働基準法上は、少なくとも週1で休みを与えなければならない(労働基準法35条1項 法定休日と呼ばれます)とされているだけなので、週休1日の会社もそれだけで法律に反するわけではありません。

また、4週間のうちで4日以上の休みがあれば、その4週間のどこかのタイミングで7日以上休みがなかったとしても法律には反しません(同条2項)。もっとも、連載第1回(https://mynavi-agent.jp/dainishinsotsu/canvas/2019/02/post-115.html)でご説明したように基本的に労働時間は「1日8時間 週40時間」と定められているので、毎日8時間以上1週間連続して、労働者を働かせることはできず、1日8時間労働で週休2日制を採用している会社が多いのです。

「週休2日制」と聞くと、毎週2日は休みがあるように思いますよね。しかし、実際には何を週休2日制と呼ぶかは会社ごとによって異なり、一般的には1カ月の間に2日休みのある週が少なくとも一度はあり、それ以外の週は1日以上休みがある状況をいいます。毎週2日の休みがあることを「完全週休2日制」といって区別しているので、就職活動などのときには入社後思惑が外れてしまわないようにあらかじめ確認しておきたいところです。

実はいろいろある! 法定休暇・特別休暇

休暇には、法令によって会社が労働者に与えることが義務付けられている休暇(法定休暇)と会社が独自に決める休暇(特別休暇)があります。

労働基準法上認められている法定休暇としては、年次有給休暇、生理休暇、産前産後休暇、裁判員休暇があります。また、育児・介護休業法上認められている法定休暇としては、育児休業、介護休業、介護休暇、子どもの看護休暇があります。どのような会社であっても、労働者がこれらの休暇を求めたら会社は休暇を与えなければなりません。

もっとも、年次有給休暇以外は、法律上給与を支払う義務はなく、無給としている会社が多い傾向にあります。

一般的な特別休暇としては慶弔休暇、バースデー休暇、一斉休暇などがあります。会社は誰を対象にどのような休暇を与えるのかを自由に決めることができるので、最近では「非喫煙休暇」や「失恋休暇」などのユニークな休暇制度を取り入れている会社も増えていますね。法定休暇とは違って、特別休暇を有給とする会社は比較的多いようです。

労働者のリフレッシュを図る「年次有給休暇」

労働者のモチベーションを向上させ、心身ともにリフレッシュさせる年次有給休暇。年次有給休暇の権利は、6ヶ月以上かつ所定労働日の8割以上勤務した労働者に必ず発生するもので(労働基準法39条1項~3項)、原則として、会社は本人が希望した日に年次有給休暇を付与しなければいけません(労働基準法39条5項 時季指定権と呼ばれます)。これは、正社員に限らず、パートやアルバイトでも上記の条件を満たせば有給が付与されます。

もっとも、付与される日数は、正社員かどうか、また週にどのくらい勤務するかによって変わってきます。正社員であれば、6か月経過した時点で10日、1年6カ月経過した時点で11日、2年6カ月経過した時点で14日、それ以降1年経過するごとに2日間ずつ多くなっていきます。途中で契約内容が変わっても継続して勤務していれば勤続年数は連続しているものとみなされますが、いったん退職すれば勤続年数はリセットされますので注意しましょう。

2019年4月施行!有給休暇取得の義務化

皆さんは1年間でどのくらい有給を取得しているでしょうか。有給があるとはいえ、上司・同僚の目が気になってなかなか休みづらいという声も聞こえます。実際、厚生労働省の調査によると、日本での有給の取得率は50%を下回っています。有給には時効がありますので、消化できないままに有給がなくなってしまった経験がある方も少なくないでしょう。しかし、それでは労働者のリフレッシュが図れません。

そこで2019年4月から、10日間以上有給を付与される労働者に対して、年5日の有給を取得させることを会社の義務とするよう法律が改正されました。半年以上勤務した正社員は8割以上出勤していれば対象となりますし、週3、4日以上勤務するパートやアルバイトでも勤務年数によって対象になることがあります。

もし会社が労働者に年5日の有給休暇を取得させなければ30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条)。

もちろん、これまでどおり労働者は「○月×日に休みたい」と具体的な月日を指定して有給を取得することができます。もし労働者が自発的に有給を取得しない場合には、会社が労働者の希望を聴取して、有給を取得する時期を指定します(改正後の労働基準法施行規則24条の6において、会社は、時季指定にあたって、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するように努めなければならないとされています)。

あるいは、労使協定を締結している会社であれば、計画年休として会社の決めた時期に有給を取得させることができます。労働者自らの請求・取得、会社による時期指定、計画年休のいずれかの方法によって年5日以上有給を取得させればよいので、たとえば8月に夏休みとして5日間の計画年休を確保すれば、会社は労働者に有給を取得する時期の希望を聴かなくてもよいことになります。

個人的には労働者に有給を取得する時期を決める自由があってこそリフレッシュできると思っているので、会社が一人一人から有給取得希望時期を聴取してチームごとの有給休暇取得計画表を作成する方法も良いのでは、と考えています。年5日以上有給を取得させる義務が会社にある以上、労働者は有給の取得を躊躇う必要はありません。

有給休暇取得義務化と情報共有を並行させて

厚生労働省において、有給休暇の取得率の高い会社にヒアリングしたところ、定期的にミーティングを行い、労働者の業務の進行状況を職場で共有していることがわかりました。自分が抜ければ仕事が回らないと思うと、なかなか休みをとることができません。個人ではなくチームで情報共有しながら業務に携わることでより働きやすい環境が実現するはずです。

今回の改正を契機として、普段から業務に関する情報を共有して、誰かが休みたくなったらほかの誰かが支える勤務環境が実現することを願います。

プロフィール

弁護士法人 アディーレ法律事務所
山下 汐里(やました しおり)

弁護士(東京弁護士会所属)。立命館大学法学部卒。
趣味が高じ、オリジナルシナリオを執筆する程の演劇好き。そうした創作活動に親しんだことから、難しい法律問題を、分かりやすくかみ砕いて説明する事が得意。
本来、身近な存在であるはずの法律が「理解するのが難しい」という理由で倦厭されがちな社会を変えたいという思いで、弁護士として日々奮闘している。

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