転職活動において、大半のケースで面接が実施されています。しかし、面接に対して苦手意識を持っていたり、緊張して思うように話せなくなったりしてしまう人も多いのではないでしょうか。
「面接に自信を持って臨む最大のポイントは"声"」と話すのは、元NHKアナウンサーの墨屋那津子さんです。ご自身の経験から編み出された「スミヤメソッド」をもとに、「声の力で多くの人の人生を好転させてきました」(墨屋さん)。そこで今回は、キャリアカウンセラーとしても活躍する墨屋さんに、採用面接を有利に進めるための声のテクニックや、普段から実践できるトレーニング方法などをうかがいました。自分の声や話し方に自信が持てないとお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
【プロフィール】墨屋 那津子
アナウンサー(元NHK) / キャリアカウンセラー
声の力で人生を変えるサポートを行っている。NHK 『おはよう日本』『ニュースウオッチ9』 ニュースリーダー、NHKEテレ 『100分de名著』 語り手などで活躍。30年以上にわたる幅広い経験を通じて培った「声の キャリア」と「声の原則」を基盤に、声の出し方を変えることで誰でも瞬時に「伝わる話し方」 を実現する 「スミヤメソッド」を確立。「自分本来の声」を最大限に引き出し、声のカで多くの人の課題解決に貢献。人生を好転させるサポートをしている。
即効性が特徴で、「同じ話をしても印象が変わる」 「滑舌が劇的に改善」 「話し方に説得力 がついた」と評判を呼び、 口コミだけで2,000 人以上が受講。また、 カナダ・トロント大学と専修大学で実践的講義を行う。 企業のコミュニ ケーション顧問やセミナー講師も務める。 国内外のCEO、要人、アナウンサー、ナレーター、 会社員、学生など幅広い受講者の声を変えてきた実績がある。伝統工芸「真田紐」 の織元の家に生まれ、2男 1女の母でもある。著書に『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』(飛鳥新社)。
1.声に対する意識の変化が、人生を大きく変えるきっかけに
――墨屋さんは現在「声の力」を軸に、人々の人生をサポートしています。なぜ「声」が持つ力の大きさを、世の中に広めたいと考えるようになったのでしょうか?
自分自身の本来の「声」を手に入れることで、人生が変わるくらいの大きな経験をしたからです。私は新卒でNHKに入社し、アナウンサーの仕事に携わりました。そのような話をすると、周りの方々からは「昔からアナウンサーを志望していたのでは」「もともと声に自信があったんでしょ」と思われがちなのですが、実はまったく違ったのです。
私は5歳の頃に他の地方から関東地方に引っ越したのですが、言葉が通じず、声を出すのが怖くなりました。さらに、自分の声が好きではなくて、だんだんと自分の意見を飲み込んでしまう性格になってしまって。その当時はまさか、自分が将来声に関する仕事をするなんて思ってもいませんでした。
大きな転機となったのが、ある人の勧めで20歳のときに始めたボイストレーニングです。トレーニングを通じて自分本来の声を引き出してもらえたことで、NHKの番組MCに採用されたり、テレビCMや民放の旅番組への出演が決まったりするようになりました。私自身の中身や外見は変わっていないのに、声が変わるだけで自分の人生が大きく変わったことが驚きでした。
――なるほど。ボイストレーニングでは、どのような気づきや学びがあったのでしょうか?
トレーニングを受けるまでは「可愛くて、高くて、誰からも愛されるような声」が"いい声"なんだと思っていました。私の声は落ち着いて、低めで、イマドキではないと感じていた声だったため、余計にそのような思いが強かったのです。でも、トレーニングで教えられたのは、自分らしい「地声」を開発すること。そのために半年間をかけてひたすら呼吸の訓練をしました。そのままの自分らしい声が、実は一番自分にとってのブランディングになるのだと気づきましたね。
2.リラックスした自然な「地声」こそが最も信頼される声
――墨屋さんの著書『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』においても、「伝わる声=地声」「全員が世界一の"いい声"」とありますね。
そうですね。どんな声であったとしても、それが自然にリラックスして出てくる声であれば、その方にとってかけがえのない価値があるものだと考えています。
特に日本人女性は、他者と会話をする際に「よそいきの高い声」を選びがちな傾向があります。でも、わざわざ声を高くする必要はなく、国際的にはビジネスなどのフォーマルな場でも、 「地声」のほうが信頼されやすいと言われています。
――それは意外ですね!とはいえ、「地声」に自信が持てない方も多いのではないかと思います。自分の声に自信がない人には、どのような特徴がありますか?
実際に私がこれまで接してきた方々で、自分の声に自信がある方はほとんどいらっしゃいませんでした。声に自信がない方は、本人の意識に関わらず、声が小さく聞こえます。遠慮がちに声を出すため、特に最初の音が小さいのです。また、音が不安定で聞き取りづらかったり、早口で話しきって早く終わらせようとしたりする場合もあります。他にも、話しながら体が動いてしまうなど、落ち着きがない様子の方もいらっしゃいますね。
いずれも、自分では認識しにくく、相手に言い直しを求められてようやく気づいたりすることが多いものです。その結果、さらに自分に自信がなくなり、人前で頭が真っ白になってしまったり、話すことに苦手意識を持ってしまったりするケースが多々あります。そのような際、多くの方が「自分は話が苦手だ」「相手に伝わるように話せない」と考えるようになりがちですが、誰も「声のせい」とは気づいていません。だからこそ、「声」の力を底上げするテクニックを身につけるだけで、自信がつくようになることが多いのです。
――「声の力を底上げするテクニック」は、まさに本書で触れられている「スミヤメソッド」に通じますね。
はい。いずれのメソッドも難しいことではなく、いわば原理原則です。私も本書を著すうえで、お子さまでもすぐに実践できる内容を目指しました。腹式呼吸、舌の位置、口の開け方といった難しい言葉や概念的な理論を使わず、誰もが分かりやすく楽しく実践できる方法を示しています。どのように音を出せば、相手が心地よいと感じるか。これは、どの時代にも、どの国にも共通する要素だからです。
実は、本書に書かれているメソッドはプロの話し手の方々が普段から実践している事柄です。NHKアナウンサーで同期の有働由美子さんも、本書を読んで「私が日ごろ無意識に行っていたことを分析してもらった気がする」と感想を寄せてくれました。スミヤメソッドを実践していただければ、すぐに自分の「いい声」が聞けるようになるので、自信が持てるようになるはずです。
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3.「言葉」や「見た目」は差がつきにくいからこそ「声」で勝負する
――転職活動などにおける面接において、「声の力」が相手に与える影響を教えていただけますか?
「合否を左右する」と言っても過言ではないでしょう。人の印象は主に3つで決まると言われます。「言葉」と「見た目」、そして「声」です。このなかで、多くの人が完ぺきに仕上げようとするのは「言葉」と「見た目」ですね。両者を磨くコツは、就職・転職サイトや学校などでも教えてもらう機会が多いのですが、一方で、「声」を良くするためのノウハウを教えてもらった経験を持つ人は少ないのではないでしょうか。裏を返せば、他者と差がつきにくい「言葉」や「見た目」で勝負するよりも、「声」で違いを出すほうが効果的です。
私は現在実業家、キャリアカウンセラーとして、採用面接にもかかわる機会がありますが、第一声がはっきりしている人ほど、やはり印象に残ります。採用面接では「この人と一緒に仕事をしたいか」「この人なら信頼できるか」を見られますから、声の力で信頼を獲得することが重要です。
――なるほど。「声」で勝負する大切さがよく分かりました。一方で、初対面の相手との面接は緊張してしまうものです。面接で「声」を工夫して緊張をやわらげるコツはありますか?
あります。面接会場のドアを開ける前に、息を吐ききることです。例えば、「墨屋那津子は絶対受かる」と、息を吐ききるまで何回も口に出すのです。声に出せない場合は、心の中で繰り返してみてください。息を吐ききったうえで大きく息を吸うといい空気が入ってきて、呼吸が深くなります。
よく「深呼吸をしましょう」と言われますが、多くの方がやっている深呼吸は意外と浅いんですよね。"ドキドキ"は呼吸が浅いがゆえに生じるものであり、脳ではなく、体から起こります。ですから、呼吸が深くなることで、自然と"ドキドキ"がおさまってくるはずです。
――深呼吸では不十分だったとは、目から鱗(うろこ)です!面接会場に入室後は、どのような「声」を意識するとよいでしょうか?
まず、面接に臨む心がまえとして「普段の自分が出せたら120点」だと思っていただけるとよいでしょう。普段の自分より上を目指せば目指すほど、粗(あら)が出てしまいがちです。「いつもの自分らしくあろう」と思うことでハードルが下がり、精神的にも落ち着きます。落ち着くことで体が揺れず、響くいい声になる効果もあります。
そのうえで、不安で自信がない状況でも、落ち着いた印象を相手に与えるためには「遠くに声を飛ばす」ことを意識してみてください。面接官の後方に2人くらい人がいると想定し、その2人に向かって通常の2〜3倍の音量で話すといいですね。
【関連記事】「【短所一覧・言い換え例】面接の印象がアップする短所・弱みの伝え方」
4.「前置きメソッド」を心がけるだけで説得力が高まる
――自己PRを行う際のポイントを教えていただけますか?
「前置きメソッド」をお勧めします。今から何を言うか、言葉の前のほうに重要な要素を示す方法です。例えば「リーダーシップが私の長所です」ではなく、「私の長所は、リーダーシップです」と話します。また、「墨屋那津子と申します。よろしくお願いいたします」ではなく「私の名前は、墨屋那津子と申します。よろしくお願いいたします」のように、言葉の配置転換をするだけで、説得力が大きく変わります。
――たしかに、重要な言葉を先に話すことで聞き手の心がまえができますね。一方で、想定していない質問をされた場合、前置きメソッドはどう活用できますか?
想定していない質問が来た場合は、黙ってしまうのではなく、まずは「はい」と受け取ることが大切です。「はい、今の質問は●●ですね」と質問を繰り返してみたり、「はい、難しい質問ですが少し考えさせてください」などの前置きをしたりしたうえで、頭の中を整理してから話しはじめるとよいでしょう。
そもそも面接は、その会社にどんなメリットを与えてくれる人物かを見極めるための場です。その会社に貢献したい気持ちがあれば、想定外の質問をされた場合にも、自分の強みを用いてどう役に立ちたいかという結論のもと話を展開できるのではないかと思います。
――面接で早口にならないための対策として、お勧めの方法はありますか?
早口になってしまう理由を考えてみるといいですね。大きく2つあると思いますが、1つは「言いたいことが絞れていない」ケースです。その場合は、伝えたい内容を整理し、話の要点を絞っておく必要があります。
もう1つが自信がなくて「頭の中のものを早く出してしまいたい」と焦っているケースです。そう思ってしまう気持ちも分かりますが、拾うほうは大変ですよね(笑)。そのようにならないためにも、まずは、自分の発した声を聞き手の気持ちになって自分の耳で聴くことをお勧めします。自分で言った言葉を耳で確認しながら話すイメージですね。そうすると、ゆっくり話せるようになります。
【関連記事】「【長所一覧・例文付き】自分の長所を見つける方法や強みをアピールする方法」
【関連記事】「最終面接(役員面接)で聞かれることとは?10の質問回答例を紹介」
5.未来を切り拓く人たちに「声の力」を伝えたい
――昨今はオンライン面接も主流になりましたが、対面でない分、その場の空気感を感じられず苦手意識を感じる人も多いのではないかと思います。
個人的に、オンライン面接こそ有利だと感じています。なぜなら、自分に自信を持たせるためのツールをいろいろ活用できるから。例えば、"あんちょこ"を作って自分のPC画面に表示させたり、PCの横や後ろに付箋を貼ったりすることもできます。短文で構わないので、自分の伝えたいことを「心のお守り」として用意しておくといいですね。その際はぜひ「前置きメソッド」を活用してください。
また、オンライン面接は全身が映らないため、上半身が勝負となり、体を動かさないことが大切です。特にここぞという場面や、自分の話に注目してもらいたい場面では、余計な非言語情報を与えないように意識してください。
なお、言語は「音」だけで相手に情報を伝える高度な技術です。オンラインは互いの空気感が伝わらないため、なおさら声の比重が高まると言えるでしょう。声の大きさについては、普段家族や友だちとおしゃべりをするくらいの音量で構いません。逆に、対面の面接のように声を張ってしまうと不自然ですね。ナチュラルさを心がけ、ゆったりとした気持ちで話すようにしましょう。
さらに、面接の前に、信頼できる人を相手に一度シミュレーションをしてみてください。相手に自分の声がどの程度の大きさで届くのか、事前にチェックしておくだけでも当日自信を持って臨めるようになるでしょう。
――面接に備え、日常生活で取り組める「声」のトレーニング方法を教えてください。
まずは「呼吸」を伸ばすことを意識してみるといいですね。一般的に、私たちは1秒ごとの区切りで話をします。例えば「ハワイの 青い海が 美しい」という文章を大勢の人に伝えるように読んでくださいと伝えると、「ハワイの」「青い海が」「美しい」というように、文節で区切って読みがちです。
一方で、アナウンサーは5~7秒を一息に話します。「ハワイの青い海が美しい」と一息に読んだほうが、相手には「意味のまとまり」が一1つのかたまりとなって伝わりやすいのです。1秒ではなく2秒を心がけるだけでも構いません。長い呼吸で一気に話したほうがエレガントに聞こえますし、説得力のある話し方になります。
(『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』より)
なお、なかなか息が続かない人には「ストローぶくぶくトレーニング」をお勧めしています。コップやペットボトルに深さ1センチ程度の水を入れ、ストローを差します。そして、5秒間をかけて息をたっぷり吸い込み、ストローを通して水にできるだけ長く息を吐き続けるトレーニングです。息の強さを一定に保つことがポイントですね。毎日少しずつ秒数をのばしていくことで、だんだんと声に力強さが生まれ、話が相手に伝わりやすくなります。
――数々の実践的なアドバイスをありがとうございます!最後に、墨屋さんの今後の目標を教えてください。
人生を変えるコミュニケーションに必要な「声の力」を、特に子どもたちや学生のみなさん、就職や転職に悩んでいる方々など、これからの人生を切り拓こうと感じている方々に伝える活動をしていきたいですね。まずは「スミヤメソッド」をまとめた『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』が、商談やプレゼン、採用面接などを成功させる「話し方」の教科書になれば嬉しいなと考えています。
(取材・執筆:金子 茉由/VALUE WORKS)
【書籍】あなたの話が「伝わらない」のは声のせい
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従来の声本・話し方本に多かった「抑揚をつける」「くっきりはっきり」「声を作る」といった「偽の自分」を演じる必要は一切なし。声の出し方を少し変えるだけのボイトレで、見違えるようにビジネスもプライベートもうまくいきます。
(飛鳥新社書籍紹介より引用)
飛鳥新社刊
著者:墨屋 那津子
発行年月:2025年1月
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