【エッセイ連載#3】この冬のボーナスはどこへ行く!|額賀澪の『転職する気はないけど求人情報を見るのが好き』

連載・インタビュー

小説家・額賀澪先生によるエッセイ連載『転職する気はないけど求人情報を見るのが好き』の第3回です!

12月といえば...冬のボーナス!楽しみな方も、そうでない方も、自分には関係ないよという方もいらっしゃるかと思いますが、「もしボーナスがあるとすれば、何に使おうかな...?」そんな思いを馳せながら、お読みいただければ幸いです。

ボーナスはどこへ行った......?

会社員を辞めてから、「ボーナス(賞与)」というものと無縁になった。
小説家はフリーランス(個人事業主)なので、会社に所属して給料を受け取っているわけではない。会社を辞めて専業作家になってかれこれ8年ほどになるが、当然ながら誰も私にボーナスは支給してくれない。

会社員をしていたのは20代の4年ほどなので、その間はボーナスをもらっていたはずなのだが、悲しいかな、ボーナスを楽しむほどの金額はもらえなかったので、あまり記憶がない。多分、もらったボーナスは全部貯蓄に回していたのだろう。

「もうすぐボーナスの季節だ! 何を買おうかな、旅行にでも行こうかな」
ボーナスがもらえる立場のうちに、そんなワクワクを味わっておけばよかったなと、今になって思っていたりする。

なぜ突然ボーナスについて思い返しているかというと、友人と早めの忘年会を行った際、まさにボーナスの話題が出たからである。

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「ボーナスをもらって転職だ!」は悪いことではない

友人は新卒から勤め続けた会社を辞めようとしていた。某転職エージェントを通して次の仕事も見つけており、年明けには新しい職場に移ることになっていた。
今の会社の上司にそのことを伝えると、「ボーナスもらって転職かよ」と、ちょっと嫌味を言われたという。

確かに、年に2回、夏季と冬季のボーナス直後の時期は転職が増えるらしい。
どうせ辞めるなら、ボーナスをもらってから。社会人なら当然の発想だが、上司からすれば「会社からボーナスが支給されたばかりなのになんて恩知らずなんだ」みたいに思えたのかもしれない。
ただ、ボーナスはその人の査定期間の労働や成果に応じて支給される賃金なわけで、別に会社がお年玉のように優しさで配っているわけではない。
もらえるものはもらって辞める。それは決して悪いことではないのだ。

「遠慮なくボーナスをもらって辞めちゃいなよ」
なんて話をして、友人は最終的に「辞めてやる辞めてやるぅ!」と元気にビールをがぶ飲みしていた。
今の会社でもらう最後のボーナスは、お母さんと草津に温泉旅行へ行くのに使うのだという。

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どうしても気になる「同世代はどれくらいもらっている?」

さて、その忘年会の帰り道に、このエッセイをスマホでポチポチと書いている。
土曜日の夜の山手線はなかなか混んでいる。私のように飲み会の帰りらしいほろ酔いの人の姿もちらほら見えた。幸い車輌の端っこの席に座れたので、家に着くまでに下書きくらいは書き終えられたらいいなと思う。

ボーナスで親と温泉旅行か~、いい使い方だな~。
などと思いながら調べてしまったのは、年齢別のボーナス平均支給額だった。
お金というのは、どうしたって「自分の同年代はどれくらいもらっているの?」とか「自分は平均より上なのか? 下なのか?」とか、そういうところが気になってしまうものだ(フリーランスの私には誰もボーナスをくれないのだが!)

私も友人も今年34歳になるのだが、いくつかのサイトを見て回ったところ、この年齢のボーナスの平均支給額は年間で78万円ほどらしい。夏季・冬季の2回に分けると、一度のボーナスの支給額はおよそ39万円ほどだ。
20代前半だと約18万円、20代後半で約32万円、30代後半になると約45万円。年功序列で給与が決まる企業がまだまだ多いから、ボーナスも年齢に応じて上がっていくことも多いようだ。

フリーランスとは要するに、一人で会社をやっているようなものなわけで、だからこそ私にボーナスをくれる人はいない。
でも、だからこそ、自分で自分にボーナスを支給してもいいのでは?
なんてことを、電車に揺られながら閃(ひらめ)いた。

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セルフ・ボーナスの使い道

いくら年末とはいえ自分で自分に39万円のお小遣いを出すのは大盤振る舞いが過ぎるが、ボーナスとはそもそも「基本給×○ヶ月+業績評価」で計算される場合が多いのだから、自分の今年の稼ぎと働きぶりを鑑みて、自分で自分にボーナスを出すのもアリかもしれない。
せめて、ずっとほしかったものの一つや二つ、買ってもいいか。

はてさて、何を買おうか。
考えながら電車を乗り換え、最寄り駅から自宅まで歩いている間に、「仕事場用の暖房器具を買おう」と決意した。この日の夜はめっぽう寒かったのだ。
子供の頃はそうでもなかったはずなのに、大人になるにつれて寒さに弱くなった。茨城にある実家に「寒いから」という理由でお正月に帰らなくなったほどだ。冬の北海道に行こうものなら凍え死んでしまうかもしれない。

そして私はもともと極度の冷え性でもある。どれくらいかというと、非常勤講師として勤務している大学の教え子が「先生の手、異常に冷たいから」と誕生日にカイロをプレゼントしてくれたり、飲み会で「先生の分の烏龍茶はホットだ! 間違えるな!」と注意してくれたりするくらいだ。

思い返せば会社員時代、冬のオフィスがなかなか寒くてしんどかった。
会社を辞めた今も、冬場はデスクで毛布にくるまって仕事をしている。水筒に大量の白湯を入れて飲み、どんなに忙しくても夜は湯船に浸かるように心がけて(たかが十数分でも毎日続けるとだいぶ違う)、寒さをしのいできた。

仕事用のデスクの下に置くパネルヒーターを何年も買おう買おうと思いながら日々が過ぎ(人間は足下、特に足首が温まると全身が温まるのだ)、毎年「もう春になるもんな......」と買いそびれていたことを、夜の寒さに震えながらしみじみと思い出した。
この冬のセルフ・ボーナスの使い道はコレだ、と決意した。

仕事部屋に置くパネルヒーターは「自分へのご褒美」ではなく「仕事場用の備品を買っただけ」なのではないか? と気づいたのは、数日後、某家電量販店でパネルヒーターをじっくり眺めているときだった。

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今後も月1回、更新予定です。次回の連載もお楽しみに!

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▼額賀澪先生のインタビュー記事も併せてご覧ください!

執筆:額賀澪(ぬかが・みお)

1990年、茨城県生まれ。日本大学芸術学部卒業。2015年、「ウインドノーツ」(刊行時に『屋上のウインドノーツ』と改題)で第22回松本清張賞、同年、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞する。
著書に、『沖晴くんの涙を殺して』『風に恋う』『できない男』『タスキメシ箱根』『タスキメシ』など多数。

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